瀬川正仁『若者たち』

若者たち-夜間定時制高校から視えるニッポン若者たち-夜間定時制高校から視えるニッポン
(2009/06/05)
瀬川正仁

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 瀬川正仁著『若者たち――夜間定時制高校から視えるニッポン』(バジリコ/1680円)読了。

 テレビ・ドキュメンタリーや報道番組を多く手がけてきた映像ジャーナリストの著者が、9ヶ月間にわたって2つの夜間定時制高校に通いつめ、生徒たちや教師、父兄たちに取材したノンフィクションである。

 味も素っ気もないタイトルはいただけないが、内容は素晴らしい。濃密で読みごたえのある良質なノンフィクションであった。

 夜間定時制の取材を始めてまず感じたのは、まるで野戦病院のような場所だということだった。夜間定時制高校は、学校という戦場で、あるいは家庭で、傷ついてきた若者たちが運び込まれてくる野戦病院である、そう思った。



 著者がそう書くとおり、本書で光を当てて描かれる約20人の生徒たちは、それぞれ深く傷ついた心をもっている。性的虐待やレイプ、イジメの被害者であったり、援助交際をくり返したり、リストカットの常習者であったり……。
 いっぽう、恐喝する側、暴力をふるう側の生徒も登場するが、彼らの暴力の背景にもまた、親などに深く傷つけられた体験がある。

 いわゆるケータイ小説はほとんどの場合絵空事だが、本書には、ケータイ小説に登場するような壮絶な青春を送る生身の若者たちが多数登場するのだ。彼らが語るエピソードのすさまじさに、読者は終始圧倒される。

 登場する生徒たちが、著者には心の傷をさらけ出して語っていることに驚かされる。著者が取材者としてきわめて優秀である証であろう。そして、彼らが心の傷について語る、血を流すような言葉の一つひとつが、深く胸を打つ。

 たとえば、生後間もなく親に捨てられ、乳児院に入れられたという少女が語る、こんな言葉――。

「本当のお母さんに会えたら、何をしてほしい?」
 私は彼女に尋ねた。
「名前を呼んでほしいんだ。『ヒカリ』って」
 彼女は間髪を入れずに答えた。
「それだけ?」
「ええ。それだけで充分よ」



 また、子どものころに母親の男友達から性的虐待を受け、母親からは暴力をふるわれ、イジメやレイプの被害者でもある少女との、こんなやりとり――。

「死にたいと思ったことはなかった?」
 私は思わず、ケイコに聞いてしまった。
 ケイコはちょっと考えてから、しっかりした声でこう答えた。
「死ぬ? 違うね。消えてなくなりたい。生まれてこなければよかった。そんな感じかな」
 それからケイコは挑発的にこちらを見た。



 日本の若者たちが抱えたさまざまな問題が凝縮された、夜間高校という場所。そこをフィルターとして教育問題を語った本だが、傷ついた若者たちの心に分け入ったルポルタージュとしても秀逸だ。



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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