高瀬淳一『武器としての〈言葉政治〉』

武器としての「言葉政治」―不利益分配時代の政治手法 (講談社選書メチエ)武器としての「言葉政治」―不利益分配時代の政治手法 (講談社選書メチエ)
(2005/10)
高瀬 淳一

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 高瀬淳一著『武器としての〈言葉政治〉――不利益分配時代の政治手法』(講談社選書メチエ/1575円)読了。

 先日読んだ『不利益分配社会』が面白かったので、同じ著者の旧著を読んでみた。
 副題からわかるとおり、本書と『不利益分配社会』では扱うテーマが重なっている。ただ、本書は「不利益分配社会」そのものより、その社会にふさわしい政治手法である〈言葉政治〉のほうにウエートを置いているのだ。

 というわけで本書でも、『不利益分配社会』同様、小泉純一郎の政治手法の分析にかなりの紙数が割かれている。『不利益分配社会』を先に読んだ私は、そのへんはナナメに読み飛ばす(著者の主張は当然同じなのだから)。

 本書の3分の2ほどを占める「第一部」で、著者は戦後の歴代首相(吉田茂から小泉まで)の〈言葉政治〉能力を「査定」している。

 ここでいう〈言葉政治〉能力とは、たんに演説がうまいとか、話す内容が論理的だということではない。言葉の力を、国民の意識を変え、自身の政治目的達成の武器とする能力のことだ。

 歴代首相のうち、著者が〈言葉政治〉能力を高く評価するのは、小泉純一郎と中曽根康弘の2人である。
 というと、小泉と中曽根がキライな人は読む気を失うかもしれないが、著者にはとくに思想的な偏りはないので、政治に関心の高い人には食わず嫌いせずに読むことをオススメする。

 とくに面白いのは、著者が細川護煕と橋本龍太郎の〈言葉政治〉能力に辛い評価をつけ、“小泉と比較して2人はどこがダメだったのか?”を分析していくくだり。

 一般に、細川と橋龍は小泉に近いイメージでとらえられているだろう。細川は小泉的なパフォーマンス政治のハシリといえるし、橋龍は首相時代、小泉同様に“痛みを伴う構造改革”の必要性を強く訴えた。また、2人とも見た目のカッコよさに恵まれ、一時期までは国民的人気を博した。

 だが著者は、細川と橋龍には〈言葉政治〉能力が決定的に欠けていた、と結論づける。2人とも、国民を鼓舞する強い言葉を発しなかった、と……。

 首相時代の橋龍の演説を分析して、著者は次のように言う。

 橋本の演説は、突きつめると自分の目標の提示と自分が全力を尽くすとの宣言に終わっている。そこには、小泉のような聴衆を巻き込もうという呼びかけは見られない。



 〈言葉政治〉に無理解な人は、世論の支持など、かっこいい政治家がもっともな理屈を語れば簡単に得られると思っている。たしかに、顔と頭のよさは、ないよりあったほうがよい。だが、橋本を見てわかるように、この二つだけでは国民の心を政治的に引きつけるには不充分である。正確にいえば、風貌と知性と政策立案能力と党内基盤のすべてが揃っても、橋本にはまだ足りないものがあった。国民を鼓舞する言葉である。



 また、細川については、見栄えのする「パフォーマンス」(記者会見のときにペンで記者を指すような)だけがあって、「言葉による自己アピール」は乏しく、〈言葉政治〉能力は意外に低かった、と分析。そのうえで、次のように言う。

 政治的パフォーマンスについては誤解も多い。パフォーマンスさえうまければ政治リーダーとして有能であるというのも錯覚であるし、パフォーマンスに走る政治家はしょせん中身がないと決めつけるのも極論である。
 細川のケースから考えると、政治的パフォーマンスは、〈言葉政治〉の一環である場合にのみ、本当の有効性を発揮するといってよい。言葉で表現すべき政治的メッセージの一部がパフォーマンスによって代替されている場合はよいが、伝えるべきメッセージをもたないパフォーマンスはたんなる自己陶酔にすぎないからである。



 不利益分配時代の政治リーダー(とくに首相)のあるべき姿について説得的な議論を展開し、示唆に富む好著。

 東大教授の田中明彦は、2000年に本書の類書ともいうべき『ワード・ポリティクス』を上梓し、「ワード・ポリティクス」という造語に「言力政治」という訳をあてた。
 外交における言葉の重要性をおもに論じた『ワード・ポリティクス』に比べ、本書は首相の能力という身近なテーマを扱っているだけに、いっそうわかりやすく面白い。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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