『シッコ』

シッコ [DVD]シッコ [DVD]
(2008/04/04)
マイケル・ムーア

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 ケーブルテレビで録画しておいた『シッコ(SiCKO)』を観た。マイケル・ムーアが米国の医療制度の矛盾を暴いたドキュメンタリー(2007年作品)。

 「国民健康保険制度のない唯一の先進国」である米国で、国民がいかに医療の貧困に苦しめられているかが、矢継ぎ早に登場する驚愕の実例から描かれていく。

 おもに俎上に載るのは、保険にさえ入れない貧困層ではなく、“保険に入っているのに、民間保険会社の利益至上主義から十分な医療が受けられなかった”人々の例。
 仕事中に指を2本切断してしまった労働者が、手術代が足りなかったがために1本しかつけてもらえなかったケースなど、登場する事例はどれもすさまじい。

 医療保険制度というお堅い題材を扱いながら、随所に笑いをちりばめたエンタテインメントに仕上げるあたりは、さすがマイケル・ムーア。
 
 ただ、本作はこれまでのムーア作品の中でもいちばんプロパガンダ色があからさまで、観ていてちょっと鼻白んでしまう。
 米国の医療と対比する形で、カナダ、イギリス、キューバの公的医療制度が紹介されるのだが、その描き方はひどく偏っている。米国の最も悲惨な例を選りすぐって紹介し、一方ではカナダなどの医療制度のよい面だけを紹介する、というやり方をしているとしか思えないのだ。それではジャーナリズムではなく、やはりプロパガンダであろう。
 
 とくにプロパガンダ色が顕著なのは、「9・11」の救助作業に当たって粉塵を吸ったせいで呼吸器障害を起こした米国市民を、キューバに連れて行き無料で手厚い治療を受けさせる(米国政府は公的援助を拒否)シークェンス。ここを観ると、かつて北朝鮮が「地上の楽園」と呼ばれた時代を思い出さずにはおれない。

 もっとも、私は「ドキュメンタリーは中立公正でなければならない」とは思わないけれど、これはあまりに偏向があからさますぎ。

 ドキュメンタリー作家としての森達也とマイケル・ムーアを比較したとき、2人は一見似ているようでいて、じつはスタンスが真逆だ。森が一貫して単純な善悪二元論を峻拒するのに対し、ムーアはむしろ二元論に進んで身を任せる。「米国政府は悪だ。ブッシュは悪だ。大企業は悪だ。一般市民はつねに善良無垢なる被害者だ」と……。
 私は、森達也の“現実の切り取り方”のほうが好きだ。マイケル・ムーアの切り取り方は一面的で陳腐。

 ただ、この映画を観て私も、「米国資本の医療保険には入るまい」と心に誓ったけど(笑)。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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