大前研一『「知の衰退」からいかに脱出するか?』

「知の衰退」からいかに脱出するか?「知の衰退」からいかに脱出するか?
(2009/01/23)
大前研一

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 大前研一著『「知の衰退」からいかに脱出するか?/そうだ! 僕はユニークな生き方をしよう!!』(光文社/1680円)読了。

 日本人の知的衰退を憂う著作は山ほど出ているわけだが、本書はその大前版。
 知的衰退を実感した出来事として、自分の本が以前ほど売れなくなったことを挙げているのはいかにも大前らしい。
 いわく、“自分は1980年代に『新・国富論』や『平成維新』といったミリオンセラーを出したが、いまあのような本を出してもそんなに売れないだろう。政策提言集のようなお堅い本は、いまやすっかり売れなくなったからだ”(趣意)。
 そして、藤原正彦の大ベストセラー『国家の品格』を、“内容は「思考停止のすすめ」「鎖国のすすめ」「スモールハッピネスのすすめ」でしかない”とこきおろしている。

 「オレ様の本がミリオンセラーにならず、『国家の品格』があんなに売れるとは、日本人の知的衰退は深刻だ」……と、さすがにそこまでは書いていないが、行間にそんな含みが感じられる書きぶりなのである。

 そして、大前は近年日本に起きた出来事の中に、日本人の知的衰退を読み取っていく。昨年の金融危機以後の「日本株一人負け」現象、ゼロ金利に甘んじて日本の銀行に預金しつづけていることなど……。いまや日本は「低IQ社会」に堕し、「一億総経済オンチ」状況に陥っている、と大前は言う。

 後半は、“どうすれば我々一人ひとりが「知の衰退」から脱出できるか?”という提言が中心。

 440ページの厚い本であり、内容も税制改革、教育改革の提言から世界のビジネス状況概観まで、盛りだくさん。卓見や有益な情報もちりばめられており、読んで損はない。
 とくに、食品偽装問題や年金問題などに関する独自の見解は、「大前流メディア・リテラシー講座」という趣もあり、傾聴に値する。

 また、第5章に大前流「情報活用術」が簡潔に述べられており、わずか5ページほどながらも有益だ。
 そのポイントは、“情報はただ集めるだけでは無意味で、自分で加工するプロセスこそ重要である”というもの。そのため、大前は教え子たちに、週一回3時間ほどかけてネットサーフィンさせ、得た情報を要約して自分の考えを述べるレポートを書くことを義務づけているのだとか。

 ただ、大前本ではいつものことだが、思いこみだけで書かれたトンデモ話も散見されるので、注意が必要だ。

 たとえば、“日本人が自分の頭で考えないようになった最大の原因は偏差値教育だ”という極論が、堂々と展開されていたりする。
 もっと噴飯ものなのは、『少年ジャンプ』まで槍玉にあげていること。

 『少年ジャンプ』で描かれるのは、編集方針でもある「努力・友情・勝利」という3つの要素が入った物語である。(中略)
 しかし、その物語というのは、“近所で評判のラーメン屋の看板娘と仲良くなれたらラッキー"というような世界だ。勝利は社会的な勝利ではなく、極めて身近な狭い世界でのハッピネスなのである。(中略)
 『少年ジャンプ』の編集方針は、商業誌という観点から評すれば素晴らしいものだ。しかしながら、そのおかげで当時の子供たち(いまの中核世代)がどういう思考回路を持つようになってしまったかを考えると、私は暗澹たる気持ちになる。粘り強さというものがなく、小さいことで簡単に満足してしまう。まさに、スモールハッピネス人間を大量につくってしまったのである。
 たとえば子供のころから『三国志』などを読んで育てば、戦略論や組織論といったものを考えるきっかけとなったかもしれない。



 いまの中核世代(の男たち)がダメなのは、子どものころに読んだ『少年ジャンプ』のせいなのだそうだ(笑)。ツッコミどころありすぎだが、大前はどうやら本気で書いているらしい。

 もう一つヒドイのは、第10章「21世紀の教養」で、“古典的教養無用論”をブチ上げているところ。

 私が世界のリーダーたちと会食してわかったのは、その席ではもう文学の話も音楽の話も出ないということだ。(中略)
 世界のリーダーたちが古典的教養から遠ざかるようになったのは、知識としての教養が意味を持たなくなったからである。



 大前はそう言い、環境問題や社会貢献に対する見識をもち、サイバー社会の最先端に通暁していることこそがこれからの「教養」なのだという(なぜなら、“「世界のリーダーたち」と会うと、きまってその手のことが話題にのぼるから”だそうだ)。

 大前にとって教養とは、“役に立つから身につけるもの”でしかないらしい。しかも、その「役に立つ」とは、エリートたちとメシを食うときの話材になる、という程度のことでしかないのだ。
 日本のオピニオン・リーダーの1人・大前がそんな考えなのだから、なるほど、我が国の「知の衰退」はまことに深刻である。ここはぜひ、本書でケンカを売られた藤原正彦に大反論してほしいところだ。

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なかなか面白いブログで最後まで読ませて頂きました。
  • 2012-07-11│19:20 |
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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