浜野喬士『エコ・テロリズム』

エコ・テロリズム―過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ (新書y)エコ・テロリズム―過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ (新書y)
(2009/03/06)
浜野 喬士

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 浜野喬士著『エコ・テロリズム/過激化する環境運動とアメリカの内なるテロ』(洋泉社新書y/798円)読了。

 書店で本書を見たとき、一瞬『エロ・テロリズム』に見えてしまった(笑)。それじゃあインリン・オブ・ジョイトイである。


愛のエロテロリズム愛のエロテロリズム
(2008/06)
インリンオブジョイトイ

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 著者は1977年生まれと若く、いまはまだ早稲田の大学院生(博士後期課程在籍)。
 というと、「博士論文そのまんまみたいな、生硬で青臭い本なのでは?」と心配する向きもあろうが、読んでみるとまったくそんなことはない。デビュー作とは思えないほど文章がこなれていて、論文にもかかわらず一般書として通用する平明かつ明晰な内容となっている。今後、どんどん著書を出していけるだけの力量の持ち主だと思う。

 「エコ・テロリズム」とは、「放火や爆弾、器物損壊といった暴力行為を伴う過激な環境保護・動物愛護(解放)運動を指す概念」である。

 こうした暴力事件は欧米においては近年続発しており、大きな社会問題となっている。大学の研究所やリゾート施設に対する放火、動物実験関連企業のスタッフに対する襲撃事件などはもはや何ら珍しいものではない。



 我が国でも、米国に本部を置く環境保護団体(ただし、FBIはテロ団体と認識)「シー・シェパード」による日本の調査捕鯨船襲撃事件が大々的に報道されたことで、「エコ・テロリズム」への関心が一気に高まった。

 本書は、エコ・テロリズムについての的確な概説書である。シー・シェパードを筆頭とする過激な環境保護・動物愛護運動について、その歴史が前史も含めて手際よくたどられている。
 とともに、後半では、エコ・テロリズムの思想史的背景について踏み込んで考察している。著者の専門はドイツ近現代哲学、とくにカントだそうだから、むしろ後半部分にこそ著者の真骨頂がある。

 シー・シェパードの度はずれた暴力性は、他のラディカル環境団体と比べても突出している。しかし重要なのは、この暴力性を道徳的に非難するより、その「内在論理」を見極めることである。



 エコ・テロリズムの「内在論理」とは何か? 著者はそれを、「『アメリカ』という問題」の中に見出す。

 アメリカ史の中で、自由と権利の拡大は「しばしば法の枠を踏み越え、場合によっては暴力さえ伴った」。「法の遵守ではなく、法の踏みこえこそが、アメリカ史を画するいくつかの重要局面において、決定的な役割を果たしてきた」のだ。

 こうした歴史を背景に、ラディカル環境保護・動物解放運動のメンバーは次のように考える。「自然の権利」や「動物の権利」といった概念が、現在という時点においていかに訝しく思われようとも、それは問題とならない。なぜならかつて「黒人の権利」、「女性の権利」もそうした疑念に晒されていたのだから。また「自然の権利」や「動物の権利」を確立しようとする運動が、非合法な要素を含もうとも、これまた問題とならない。なぜなら一九世紀のアメリカにおいて逃亡した南部の奴隷を匿って北部へ逃すことも、奴隷所有者の財産権侵害という非合法行為だったのだから。



 ……と、このように、「エコ・テロリズム」論がやがてアメリカ論として展開されていくあたり、すこぶるスリリングである。

 冒頭の「はじめに」が、たいへん素晴らしい。本書全体のエッセンスが見事に凝縮されており、独立した価値をもつ論説になっている。9ページほどの短いものなので、一冊通読するヒマがない人は「はじめに」だけでも読むとよい。

 ところで、本書で初めて知ったのだけれど、プリテンダーズのクリッシー・ハインドは「エコ・テロリスト」の1人なのだね。「ニューヨークの『GAP』の店舗で、レザー商品を売り物にならないようメチャメチャにし、逮捕された」こともあるとか。ちょっとビックリ。てゆーか、私ゃドン引きです。


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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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