川本三郎・鈴木邦男『本と映画と「70年」を語ろう』

本と映画と「70年」を語ろう (朝日新書 110)本と映画と「70年」を語ろう (朝日新書 110)
(2008/05/13)
川本 三郎鈴木 邦男

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 川本三郎・鈴木邦男著『本と映画と「70年」を語ろう』(朝日新書/777円)読了。

 新右翼の論客と、心情的にはまぎれもない左翼である川本三郎の対談集。一見「水と油」に見える組み合わせだが、意外にも鈴木は昔から川本のファンなのだという。
 いや、鈴木が書いた本書の「はじめに」を読むと、ファンなどというレベルを超えた強い思い入れを、川本に対して抱いているようだ。

 

 川本さんは「もう一人の自分だ」と思っている。そうなりたいと思いながら、なれなかった自分だ。川本さんには迷惑だろうが、勝手にそう思っている。年はほとんど同じだし、あの激動の「政治の季節」を体験し、新聞社に入り、政治的事件でクビになった経歴は全く同じだ。そして評論活動をしている。もっとも今は天と地の開きだ。
 川本さんは映画・文芸評論家として第一人者だし、もう、「あの事件」を覚えている人も少ない。僕のほうは昔の〈政治活動〉を引きずったままだ。



 川本が朝日新聞社をクビ(懲戒免職)になった「あの事件」とは、1971年に自衛隊朝霞駐屯地で自衛官が刺殺された「赤衛隊事件」のこと。
 当時『朝日ジャーナル』の若手記者だった川本は、指名手配中の犯人をひそかに取材。その過程で犯人にシンパシーを抱くに至る。そして、ジャーナリストとしての一線を超え、犯人から事件の証拠品を渡されて焼却するなどし、証拠湮滅の罪に問われ逮捕。懲役10ヶ月、執行猶予2年の有罪判決を受けた。
 その経緯は、川本の著作『マイ・バック・ページ ある60年代の物語』(1988年/河出書房新社)で詳細に振り返られている。

 『マイ・バック・ページ』は忘れがたい名著である。私は、川本さんの数多い著書の中であの本がいちばん好きだ。それどころか、これまでに読んだすべての本の中で五指に入るくらい、深い感銘を受けた。

 書名のとおり、1970年周辺の出来事がおもに語られる本書は、いわば“対談版の『マイ・バック・ページ』”である。「赤衛隊事件」についても、1章を割いて語られている。
 また、本や映画を手がかりとして語られる70年前後の「政治の季節」についても、右翼と左翼という2つの視点から振り返ることでより立体的な像が結ばれる感じで、なかなか興味深い内容となっている。左翼同士、右翼同士の対談ではこうはいかず、もっとフラットな内容になっただろう。

 対談の中で語られているところによると、『マイ・バック・ページ』の映画化が現在進行中なのだという。山下敦弘監督の『リンダリンダリンダ』や『天然コケッコー』で知られる根岸洋之がプロデュースを手がけるのだとか。これは期待! 監督はやはり山下敦弘だろうか。私は絶対観る。(→※後注・映画『マイ・バック・ページ』のレビューはこちら

 それにしても、“朝日を懲戒免職された経緯”が大きな位置を占める本書が、朝日新書の一冊として刊行されたというのは、考えてみればすごいことだ。鈴木も書いているとおり、「朝日は懐が深い」。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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