松田洋子『赤い文化住宅の初子』

赤い文化住宅の初子 (F×COMICS)赤い文化住宅の初子 (F×COMICS)
(2003/06)
松田 洋子

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 松田洋子の『赤い文化住宅の初子』(太田出版/1000円)を読んだ。タナダユキ監督の映画版がたいへんよかったので、原作を読んでみたのだ。

■関連エントリ→ 映画版『赤い文化住宅の初子』レビュー

 映画版は、原作に忠実に作られていた。原作は100ページに満たない中編で、描かれたエピソードのほぼすべてが映画にも盛り込まれているのである。

 松田洋子といえば『SPA!』に連載された『秘密の花園結社リスペクター』くらいしか知らなかったが、こういうリリカルで切ない(それでいて毒気も秘めた)作品も描ける人だったのだなあ。

 主人公の薄幸少女・初子と、ボーイフレンド・三島くんのあたたかいふれあいが、とてもよい。
 また、初子の兄も映画版ではただのダメ男に見えたが、この原作では乱暴な言葉遣いの底に妹を思うやさしさがほの見えるように描かれている。繊細な心のひだまで表現されているのだ。この点は原作の勝ち。

 併録作の「PAINT IT BLUE」は、地方都市のつぶれそうな町工場の跡取り息子を主人公にした軽快な青春マンガ。こちらも意外な拾いもの。
 こういう世界をいきいきと描けるマンガ家は土田世紀くらいかと思っていた。その“後継者”が女性の中にいたとは驚きだ。

 この本に収録された2作に共通の印象だが、脇役として随所に登場する中年オヤジたちのリアリティがものすごい。なんかこう、画面から加齢臭がモワっと立ちのぼってくる気がするほど(笑)。

 昔、大友克洋の『童夢』について、「老人の顔の描写がすごい。こんなふうに老人を描けるマンガ家は、これまでいなかった」 という言葉で絶賛した人がいた。松田洋子のすごさも、脇役の中年描写にこそあらわれていると思う。美少女や美少年を描けるマンガ家なら腐るほどいるが、これほどリアルに中年オヤジを描ける女流マンガ家はほかにいない。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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