山田あかね『まじめなわたしの不まじめな愛情』

まじめなわたしの不まじめな愛情まじめなわたしの不まじめな愛情
(2008/08/26)
山田 あかね

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 山田あかね著『まじめなわたしの不まじめな愛情』(徳間書店/1575円)読了。

 私が最近気に入っている新進女流作家の、長編第4作。30代末・バツイチ同士の男女を主人公にした、苦くて痛い恋愛小説である。

 女はフリーライター。男は大手広告代理店のCMディレクターだが、仕事上の挫折がきっかけで薬物中毒に陥っている。
 男を薬物中毒から救いたいという気持ちから始まった2人の同棲生活は、ほどなく共依存の泥沼に陥っていく。互いを高め合う恋愛ならぬ、「低め合う」恋愛。ドロドロの関係を容赦なく描きながらも、重苦しさはあまりなく、読み出したら止まらないエンタテインメントになっている。

 第1作『ベイビーシャワー』や第2作『すべては海になる』でもそうだったが、山田あかねの小説は、恋愛小説でありながら、恋愛というものを少しも美しく描かない。
 “恋愛なんて、しないに越したことはない熱病のようなもの。それでも、私たちは恋愛せずにはおれない困った生きものなのだ”
 ……とでも言いたげに、恋愛が描かれている。恋の甘さ・楽しさよりも、苦しさ・どうしようもなさに力点が置かれているのだ。

 そして、恋愛における打算や駆け引きの描写が、ものすごくリアル。だからこそ、恋愛のおぞましさまでも活写してしまう。フツーの恋愛小説がアナログテレビだとしたら、山田あかねの小説はデジタルハイビジョンのように、ヒロインの小じわの一本一本、毛穴の汚れまで鮮明に映し出す――そんな趣があるのだ。

 かつて、丸山健二は次のように書いた。

 

 三十歳を過ぎてしまうと、如何なる男女の交際もすでに恋愛などと呼べる代物ではないのです。どんなに言葉で飾ってみても、薄汚い、おぞましい関係なのです。(中略)
 いい年をした大人の男がそうまでしてその男女関係を美化せずにはいられないのか、ということまで書き、そうでもしなければならないほど己れの人生が惨めなものである、ということまでずばりと書いてこそ本当の恋愛小説なのです(『まだ見ぬ書き手へ』)



 山田あかねの小説は、丸山健二のそれとは対極にあるといってよいほど異なっているが、それでも、ここには丸山の言う「本当の恋愛小説」がある。
 恋愛というものにまだ夢を抱いている若者には理解できない、大人の恋愛小説だ。

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コメント

Re: 山田あかね『まじめなわたしの不まじめな愛情』
山田あかね様

うわー、ご本人降臨!
エラソーなことをいろいろ書いて、汗顔の至りです。

『まじめなわたしの不まじめな愛情』と『すべては海になる』はまことに素晴らしく、掛け値なしの傑作だと思いました。ぜひまたこのような苦くて痛い「大人の恋愛小説」を書いてください。

私、一度ファンになるとしつこいですから(笑)、これからもずっと応援しております。
  • 2008-12-15│02:53 |
  • 前原 URL│
  • [edit]
Re: 山田あかね『まじめなわたしの不まじめな愛情』
あ、ありがとうございます。
自著を全部読んでくださって、その上、過分におほめいただき、とてもうれしく思っております。
丸山健二さんの「まだ見ぬ書き手へ」は私も好きです。
しかし、そんなことが書いてあったとは、忘れておりました。

今後も書き続けていきたいと思っておりますので、
どうぞよろしくお願いいたします。

とてもとても励みになりました。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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