生田武志『ルポ最底辺』

2008年11月22日 10:31

ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)
(2007/08)
生田 武志

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 生田武志著『ルポ最底辺/不安定就労と野宿』(ちくま新書/777円)読了。

 大阪・釜ヶ崎を中心に、日雇い労働運動と野宿者支援活動を20年来つづけてきた著者による、「究極の貧困問題」――野宿者(ホームレス)問題のルポルタージュ。
 通りいっぺんの取材ではなく、問題の最前線に長年身を置いて書かれたものだけに、重みと深みがすごい。著者は、自らも日雇い肉体労働で生計を立てながら野宿者支援をつづけてきたのだ。

 ネットカフェ難民や若年層ワーキングプアについても少し言及があるが、中心となるのは高齢の野宿者の素顔である。

 衝撃的な内容で、打ちのめされた。著者の筆致にサヨ臭はなく、むしろ文学的香気すら漂う。というか、この本自体すでに「文学」だと思う。

 まず、野宿者たちが置かれた現実の過酷さに驚く。
 たとえば、主として少年グループによる野宿者襲撃の頻発。死に至る襲撃事件はときおりニュースになるが、著者によれば報道されるのは氷山の一角でしかなく、「襲撃は日本全国で日常的に起こり続けている」のだという。

 

 ぼく自身、(野宿者支援の)夜回りで何百という襲撃の話を聞き続けてきた。その内容は、殴る蹴る、エアガンで撃たれる、ダンボールハウスに放火される、消火器を噴霧状態で投げ込まれる、花火を打ち込まれるなど様々だ。ぼくが今まで聞いたなかで一番エグい話は、「寝ているとき、眼球を突然ナイフでグサッと刺された」というものだった。



 しかも、そうした襲撃は学校が夏休みや冬休みに入ったとたん「一気に増える」のだとか。ぞっとする話だ。

 また、著者の実感によれば、ここ数年、若者と女性のホームレスが明らかに増加傾向にあるという。“男性日雇い労働者が高齢や病気で働けなくなり、ホームレスになる”という従来のパターンにあてはまらない事例が増え、問題は多様化したのだ。

 

 女性野宿者の多くは「家族のトラブル、特に夫の暴力」と「不安定で低収入な就労」によって野宿に至っている。(中略)女性野宿者の男性と明らかに異なる特徴のひとつは、彼女たちの多くが「元の生活」に戻ることを強く拒否するということである。



 男性ホームレスの多くが元の仕事・住まいに戻りたがるのに対し、多くの女性ホームレスにとって、苛酷な野宿生活でさえ元の生活よりはマシなのだ。

 ホームレスを食い物にするさまざまな「裏ビジネス」の実態にも、慄然とさせられる。
 「戸籍売買」や「偽装結婚」については聞いたことがあったが、生活保護のピンハネが大規模なビジネスになっているという話には驚いた。「ボランティア」や「支援団体」を名乗る「業者」が、「『アパートに入って生活保護を受けられるよ』と野宿者をスカウト」し、「アパートに集めた元野宿者から月々に受給する生活費をピンハネし、本人には月に1万円程度の『お小遣い』しか渡さないようにする」のだという。

 

 元野宿者としては、野宿していたところを、まがりなりにも「部屋に住めるようにしてくれた」という恩を感じているので文句が言えない。文句を言ったら、追い出されてまた野宿になるのではないかという恐怖がある。そもそも、「業者」が元野宿者に恫喝をかけていたりする。そうして生活保護費が、本人が逃げ出すかあるいは死ぬまでピンハネされ続ける。


  
 ホームレスを見る目が一変する本でもある。たとえば、次のような記述がある。

 

 こうして、ダンボールやアルミ缶を1日に「大体、10時間ぐらい」集めて1000円程度の収入を得る。これは、時給でいうと100円ぐらいである。「足を棒にして」の大変な労働なのに、時給が100円。そうやって稼いだ金で、安い食堂で食べたり路上や公園で自炊して生活している。多くの人が野宿者についてイメージする「仕事をするのがイヤ」どころか、とんでもない低賃金重労働だ。ふつう、誰でもこんな割に合わない仕事は好き好んでしない。では、なぜそうするかというと、ひとえに「他に仕事がない」からである。



 著者の筆致は押しつけがましくないやさしさに満ち、ホームレスの人々の素顔がじつにあたたかく描き出されている。

 なお、著者は「群像新人文学賞」評論部門優秀賞を受賞(2000年)した経歴の持ち主。
 であれば、20年以上見つめつづけてきたホームレスの人々の姿を、ぜひ小説の形で表現してほしい(短編連作がよいと思う)。それは、“21世紀の『蟹工船』”ともいうべき作品になるのではないか。
 もっとも、目端が利く編集者がとっくに著者にオファーしているかもしれないが……。
 


コメント

  1. しらら | URL | aBJ6lnwA

    つっこさんから

    はじめまして。天野月子検索でやってきました。
    つっこさん好きになった途端引退…orz

    と、BLOGトップにきたら、「ルポ最底辺」!
    これは課題図書として先日読みまして、私も驚愕しました。
    まったく知らなかったホームレスの実態、に近づいた気がして。
    マイナーな本で共感するのって嬉しいですね 笑

    それでは…
    また来ます♪

  2. 前原 | URL | -

    Re: 生田武志『ルポ最底辺』

    しらら様

    高校の授業の「課題図書」で本書のような本を読ませるのですか? ちょっとビックリ。
    でも、社会を広く見る目を養うにはたいへんよい本ですね。

    わりと近いタイプの本として、『使い捨て店長』(当ブログにレビューあり)とかも読むとよいかも、です。

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