2008年11月20日 12:45
![]() | 赤い文化住宅の初子 (2008/01/25) 佐野和真東亜優 商品詳細を見る |
『赤い文化住宅の初子』をケーブルテレビで観た。
松田洋子の同名マンガを、『タカダワタル的』や『百万円と苦虫女』で注目の女流監督・タナダユキが映画化した作品(脚本もタナダ自身)。
一言で言ってしまえば、名作『自虐の詩』(業田良家)から幸江さんの少女時代の話だけを抜き出し、笑いの要素を抑え、もっとリリカルかつシリアスにしたような物語である。
私は原作未読だが、松田洋子はまちがいなく『自虐の詩』を意識している。ヒロインの薄幸少女・初子がラーメン屋でバイトする(中学生なのに)シーンなど、『自虐の詩』を意識したとおぼしき部分が随所にあるし。
で、『自虐の詩』の好きな私は、この映画もたいへん気に入ったのであった。
父は幼いころに蒸発し、母は父が残した借金返済のために働きすぎて過労死。兄と2人でオンボロ文化住宅(要はアパートのこと)で暮らす中学3年生の初子は、貧困ゆえに高校進学さえできそうにない。自分を好いてくれる同級生の秀才・三島くんと一緒に東高に進みたいが、兄は「ワシも高校中退なんじゃけえ。就職しろ」という。
元ヤンの兄はいつも不機嫌で頼りなく、担任の女教師(坂井真紀が好演)はまるでやる気がなく、バイト先のラーメン店の店主(ムーンライダーズの鈴木慶一!)は「時給600円言うんは高校生以上のことじゃけ」とバイト代すらピンハネするセコくてイヤなオヤジ。
周囲の人間の悪意と身勝手に囲まれて、初子は一人、制服で身を鎧うように日々を過ごしている。いつか三島くんと結婚して家庭を築けたら、という夢だけが一筋の希望だが、それは夢に終わりそうな気がしてならない。
……と、そんなふうにアウトラインだけをなぞると、古臭くてジメジメしたお涙ちょうだいの物語を想像されるかもしれない。しかし、実際に観てみれば、むしろ突き放したようなドライなタッチの映画であり、皮肉なユーモアも随所にちりばめられている。
タナダユキは、抑制の効いた淡々とした描写で、初子の心に寄り添っていく。その淡々さかげんが、むしろ哀切さを増幅する。
母が遺した『赤毛のアン』の本が、全編にわたり重要な小道具として使われ、絶妙の効果を上げている。
初子は、みなに愛され元気いっぱいの孤児・アンの姿を見て、こんなのは嘘っぱちだ、と思う。『赤毛のアン』の物語はすべて、「孤児院のベッドで、猩紅熱で死にかけとるアンが見よった幻じゃあないか」と……。
広島弁(福山弁?)のセリフも味わい深い。


イラスト/ジョージマ・ヒトシ




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