矢野顕子『akiko』

akikoakiko
(2008/10/22)
矢野顕子

商品詳細を見る


 矢野顕子のニュー・アルバム『akiko』(ヤマハミュージックコミュニケーションズ/3150円)を、サンプル盤を送ってもらってヘビロ中。
 10月22日発売。前作『はじめてのやのあきこ』はセルフカヴァー集だったから、オリジナル・アルバムとしては『ホントのきもち』以来4年ぶりの新作である。

 米音楽界の重鎮T・ボーン・バーネットをプロデュースに迎え、自らのファーストネームをタイトルに冠したこの作品は、リトル・フィートの面々と互角に渡り合ったデビュー作『ジャパニーズ・ガール』(1976年)の21世紀版と言えそうだ。つまり、原点回帰を期した一作と見た。
 
 一聴した印象は、「地味なアルバムだなあ」というもの。
 前作『ホントのきもち』が、くるりと共演したロケンローな曲があったり、レイ・ハラカミと共演したエレクトロニカがあったりして、ある意味派手なアルバムだったから、よけいにそう思う。
 
 まず、楽器編成が地味だ。キーボードは生ピアノのみだし、ピアノ/ギター/ドラムスのトリオ編成で演奏される曲が大半(一曲だけヴァイオリンが入っている)。ベース・ギターすらほとんど使われていないのだ。
 プレス・リリースによれば、T・ボーン・バーネットが「矢野のピアノの左手のフレージングを高く評価していて、基本のベースラインを矢野に委ねる方法を選んだ」のだという。

 音数も少なくて、すき間が多い。曲も全体に静かで地味。シングルカットできそうな曲は皆無(もともとシングルヒットなんてあまり眼中にない人だけど)。
 これは、矢野顕子の30年のキャリアで最も地味なアルバムだろう。つまり、ピアノ弾き語り三部作よりもさらに地味なのだ。

 しかし、地味だからつまらないかというと、そんなことはない。聴きこめば聴き込むほど、一音一音に込められた深いニュアンスに唸らされる。いぶし銀の輝きを放つアルバムで、秋の夜長にしっくりと合う。ピアニストとしての矢野顕子の力量も、十全に発揮されている。

 サウンドには、アメリカン・ルーツ・ミュージックからの影響が色濃い。『ホントのきもち』にも渋いブルース・ナンバーが一曲あったけれど、今回は全編が古き佳きアメリカの香り。
 『ジャパニーズ・ガール』(のA面)の魅力がアメリカ的な音と日本的感性の融合にあったのに対し、今作は矢野の側から進んでアメリカ的な音に溶け込んでいる感じ。それでいて、アメリカン・ルーツ・ミュージックのたんなる模倣ではけっしてなく、あくまで「矢野顕子の音楽」になっている。

 とくに、冒頭4曲――「When I Die」「Evacuation Plan」「The Long Time Now」「Song For The Sun」――のシークェンスは、非の打ち所のない仕上がり。私はここばかりくり返し聴いている。

 ギターのマーク・リーボウ(以前はマーク・「リボット」という表記が一般的だった。元ラウンジ・リザーズ)が、八面六臂の大活躍。ジャジーで渋い演奏からフリーキーな速弾きまで、曲に合わせて色合いの違うプレイを披露して見事。

 アルバム後半では、ツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」とドアーズの「まぼろしの世界」という2つのロック・クラシックをカヴァーしている。
 「まぼろしの世界」はジャジーでアーシーな仕上がり。「胸いっぱいの愛を」は、終盤にマークがラウンジ・リザーズばりのギターを弾きまくるところが面白い。

関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

ブクログ・MY本棚

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
39位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
27位
アクセスランキングを見る>>