ステッグマイヤー名倉『ナグラる』

ナグラるナグラる
(2008/09)
ステッグマイヤー名倉

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 超人気ウェブ日記「プチ日記」のステッグマイヤー名倉さんより、初の単著『ナグラる』(スカイキュープ/800円+税)を献呈いただいた。
 つねづね「プチ日記」を愛読している1人としては、「ワーイ!」という感じである。届いたその日にさっそく読了。たいへん面白かった。

 「プチ日記」の人気のほどを示す数字として、たとえば「はてなアンテナ」の被アンテナ数を見てみれば、今日現在で2084(!)。
 ちなみに当ブログの被アンテナ数は、今日現在で25。「プチ日記」は当ブログの80倍以上もの定期的読者を得ているわけだ。
 当然、アクセス数もハンパない。「プチ日記」はかたくなにブログ化しないままだから厳密には「ブロガー」ではないが、人気からいったらヘタなアルファブロガー顔負けなのである。

 この『ナグラる』は、「プチ日記」の過去ログから厳選した「ベスト・オブ・プチ日記」にあたる部分が全体の約半分。あとは、約4分の1が長めの書き下ろしコラム、もう4分の1が「Go Smoking」に連載中の喫煙ネタ・コラムからのセレクト――という構成になっている。

 猫も杓子も活字を大きくする傾向にある昨今の出版界にあって、本書は文庫本並みの小さな活字でぎっしりとコラムがつまっている。それでいて、デザインは窮屈な感じではない。これで800円は安い(新刊でも帯がついていないのだが、たぶんそれも価格を抑える工夫の一環だろう)。

 「『プチ日記』は過去ログもネットで読めるし、買わなくてもいいや」などとケチくさいことは言わず、愛読者なら買うべき。てゆーか、愛読者なら買って損はない一冊といえる。
 
 「プチ日記」について、多くの読者は「自虐系お笑いウェブ日記」として認識していることだろう。私も以前、「ヘタレを芸にまで高めた日記」と評したことがある。

 本書の半ばを占める「プチ日記」からのセレクト部分は、当然、笑いに的を絞ったものになっている。
 ほかにも面白い文章がたくさんあった気がするが、10年にわたって書きためられた膨大な日記から厳選したものなのだから、多少の“抜け落ち感”は仕方あるまい。
 好きなアーティストのベスト・アルバムに必ず感じる、「なんであの曲が入っていないんだ!」という不満と同じで、こういう本には全読者が満足するセレクトなどあり得ないのだ。

 どの日記もウェブで一度は読んでいるはずだが(私は途中からの読者だけれど、過去ログもさかのぼって全部読んだ)、再読しても十分に面白い。
 私がとくに好きなのは、下ネタがバシッと決まったときの日記。「プチ日記」の下ネタは、作者の知性と品のよさに裏打ちされているので、読んでいて不快ではないのだ。

 では、「プチ日記」セレクションの前後に置かれた、書き下ろしと喫煙ネタ・コラムの章についてはどうか? これは、評価が分かれるところだろう。というのも、「プチ日記」とはちがって、意外なほど真面目な内容のコラムが多いからだ。

 書き下ろしコラム4本のうち2本は、「死生観のこと」「心の問題のこと」と題されている。ううむ、真面目だ。しかも、思いきり「自分語り」。
 もちろん、「プチ日記」だって「自分語り」なわけだが、あちらは「自分を笑い飛ばす」のが基本スタンス。それに対し、書き下ろしコラムのほうは自らの弱さをさらけ出すような内容で、かなりシリアスだ。

 喫煙ネタ・コラムは、笑いとアイロニーのオブラートに包まれてはいるものの、喫煙者の1人として昨今の「禁煙ファシズム」に物申すスタンスが根底にある(小谷野敦に読ませたい)。
 しかも、中にはかなりシリアスなコラムもある。なにしろ、本文の最後の一文は次のようなものなのだ。

 ニーチェに「なぜ生きるかを知っている者は、どのように生きることにも耐える」という言葉があるけれど、我々多くの凡人はただ快楽原則のために生きているのだから。



 「プチ日記」の作者の本が、ニーチェの引用でしめくくられるとは思わなかった。

 「プチ日記」ファンの中には、この2つの章を読んで「名倉に期待しているのは笑いなんだから、シリアスな文章なんていらない」と思う向きもあろう。しかし、私は2章ともたいへん面白く読んだ。名倉氏の心理学の素養(氏は心理学系大学院博士課程満期中退)が活かされた部分もあったりして、風変わりな文明論・社会批評・人生論としても「読ませる」内容なのである。

 ただ、かすかな違和感を覚えたところがある。それは、著者が自らについて、プロのライターや作家ではないことを過剰に謙遜している点だ。たとえば、「あとがき」には次のような一節がある。

 (この本は)つまるところ特筆すべき知識も能力もない一個人の身辺雑記にすぎず、プロ作家の高邁な文章と比べれば遠く及ばないのは火を見るよりも明らかである。



 そんなに卑下することはないのになー、と思う。「プロ作家」とかプロのライターの文章力や知識なんて、そう大したものではないからである。
 私はむしろ、「プチ日記」やいまはなき「スレッジハンマーウェブ」を読むにつけ、「作家やライターではない一般人がこんなに面白い文章をタダでバンバン公開するとは、ウェブ畏るべし。これからの時代、コラムニストやエッセイストはもう食っていけないのではないか」と思ってきたものだ。

 私の脳内分類では、名倉氏は「面白い文章を書くプロ」たち――たとえば、小田嶋隆、穂村弘、岸本佐知子、中田潤、呉智英、ゲッツ板谷など――と同列の存在であって、けっして「プロ作家」より一段下などではない。もっと自信をもってよい。

 まあ、その「自信なさげな風情」もまた、氏の愉しいキャラの一端をなしているのだろうが……。
 
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コメント

名倉さん

こちらこそ、献呈ありがとうございました。
アマゾンのランキングを見るに、順調に売れているようで、何よりです。

>おそらく、かなり「手かげん」して書いてくださったものと思いますが、

いえいえ、正直な感想です。書き下ろしも面白くて深い内容でした。

第2弾、第3弾が刊行されることを願っています。
  • 2008-09-24│03:52 |
  • 前原 URL│
  • [edit]
ありがとうございます!
こんなにもご丁寧に拙著を紹介してくださり、本当にありがとうございます。感謝です!!

書き下ろしのほうは、ほんと臆面もなく「自分語り」をしてしまい、恥ずかしくて未だに自分で読み返せません。笑。

こんなにもよくご紹介いただいて、もうなんと言っていいやら…。おそらく、かなり「手かげん」して書いてくださったものと思いますが、いやはやありがとうございます。

ご指摘の自己卑下については、「あらかじめ逃げを打っておく」という姑息なところがあった気がします。もっと正々堂々と正面から書けるよう、励んでいきたいと思います。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
吉祥寺さん

この本もすごく面白いですよ。
「プチ日記」の愛読者なら「買い」です。

>あれが関西クオリティでしょうか。

そうそう、それもけっして大阪ではなく、やっぱり「京都テイスト」という感じですね、「プチ日記」は。
  • 2008-09-23│15:53 |
  • 前原 URL│
  • [edit]
プチ日記おもしろいですよねぇ。
私も以前、こちらでのリンクを拝見し、読み始めて即、自分のブログにもリンクしました。
普通のサラリーマンの方なんでしたっけ。
特別何か狙っている感じでもなく、普通にナチュラルにおもしろ話が転がっているようなところ、あれが関西クオリティでしょうか。
  • 2008-09-22│20:38 |
  • 吉祥寺拓也 URL│
  • [edit]

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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