デイヴィッド・ストローン『地球最後のオイルショック』

地球最後のオイルショック (新潮選書)地球最後のオイルショック (新潮選書)
(2008/05)
デイヴィッド・ストローン

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 デイヴィッド・ストローン著、高遠裕子訳『地球最後のオイルショック』(新潮選書/1575円)読了。

 『毎日新聞』の書評欄で、養老孟司が「現代人必読の書」と紹介していたので買ってみた本。
 ううむ、これはたしかに衝撃的な内容だ。『不都合な真実』よりも恐ろしい事実が、淡々とした冷静な筆致で書かれている。

 現在進行中の石油価格高騰のホントの理由も、米国が無理やり理由をこじつけてイラクに侵攻したホントの理由も、この本でわかる。久々に、読後に「世界の見方が変わる」感覚を味わった。

 本のカバーに書かれた紹介文を引用する。

 マイカーを手放し、ジェット機に乗れない日を、想像できますか?
 2010年代、世界の石油は枯渇に向かいはじめ、もう二度と増産はできない。ピーク・アウトを越して何の対策も講じなければ、その衝撃はサブプライム問題の比ではない。世界中で株価は暴落し、物価は高騰し、失業者は激増、アメリカ型経済モデルは崩壊するだろう。豊富な資料と、世界の石油関係者170名あまりの取材をもとに書いた衝撃のレポート。



 「近い将来石油は枯渇する」という話なら1970年代にさんざん言われていたことだが、本書が予測する危機は石油がゼロになることではなく、「ピーク・オイル」を迎えることだ。

 「ピーク・オイル」とは、原油生産がピークを過ぎて減少に向かい、伸びつづける需要に追いつかなくなること。しかもそれは、埋蔵量がまだ半分残っている段階で訪れるという。

 石油は地中湖のような形で埋蔵されているのではなく、地下深い連結した岩の穴(孔隙)の間に閉じ込められている。油田が見つかった当初は自然の巨大な圧力によって原油は自噴してくるが、油層の圧力はしだいに弱まっていく。そして、ある時点からはまったく自噴しなくなってしまう。
 以後は、人工的に圧力を維持するしかない。少し離れた場所に別の井戸を掘って水や天然ガスを注入するなどして、原油を押し上げるのである。
 埋蔵量が減るほど圧力も減衰し、採掘コストは増え、生産量は落ちる。したがって、石油会社は採算割れした時点で油田を放棄せざるを得なくなるのだ。

 ……それが一つの油田における「ピーク・オイル」だが、やがて世界全体の「ピーク・オイル」が訪れる。世界の原油生産がピークを迎えると、以後は年率3%で生産量は減少していくと予想されている。だが、中国の急発展などもあり、世界の石油消費量は年々増えつづけているのだ。

 では、世界の「ピーク・オイル」はいつ訪れるのか? 論者によって開きはあるものの、おおむね2010年代には訪れると予測されている。もちろん、石油会社や産油国はそのことを認めようとしないのだが……。

 「ピーク・オイル」を迎え、原油価格がいまよりもさらに高騰をつづければ、「石油文明」といってもよいほど石油に依存している現代文明の根幹が大きく揺らぐ。
 英BBCのジャーナリストである著者は、2年間に及ぶ綿密な取材によって、「ピーク・オイル」(著者はそれを「ラスト・オイルショック」と表現する) が不可避であり、ごく近い将来に訪れることを論証してみせる。そして、それが現代文明にどれほどの破壊的影響をもたらすかを、豊富な論拠に基づいてつまびらかに予測する。また、各国政府や私たち一人ひとりがその日に備えてできることは何かについても、模索していく。

 もちろん、著者の主張がすべて正しいとはかぎらない。が、本書を読むかぎり、信憑性は相当に高い。これはアヤシゲな予言のたぐいではなく、第一級の調査報道である。と同時に、文明のありよう、経済のありようについての再考を読者に迫る、質の高い文明論でもある。

 「ラスト・オイルショック」が訪れたとき、人類は否応なしに石油依存との訣別を迫られる。それは長い目で見れば地球環境のために望ましい転換なのだが、温暖化の危機が即座に回避されるわけではない。太陽光発電や風力発電などではすぐに石油に取って代わることはできないし、石油不足を補うため天然ガスや石炭への依存を強めれば、石油以上に温暖化が加速されるからだ。

 著者が英国人なのでイギリスについての記述が多いが、自前の油田などなく、食糧自給率も低い日本にとって、「ラスト・オイルショック」の影響はより甚大なものになるだろう。

 マイカーがゼイタク品になり、自転車通勤があたりまえになる世界。遠い国から安価に食物を輸入できなくなり、近場でとれるものを「地産地消」して生きるしかなくなる世界。本や雑誌、CDやDVDがゼイタク品になる世界(私のようなフリーライターが生きていく余地は果たしてあるだろうか?)……。

 「ラスト・オイルショック」後の世界を想像すると不安になるが、一方では、自分の中にどこかワクワクするような気持ちがあることを否定できない。
 近い将来の温暖化危機をいくら強調されても本気になれなかった我々人類は、「ラスト・オイルショック」が眼前に訪れたとき、初めて本気で文明の方向転換に取り組めるのではないか。それが人類に激烈な「痛み」をもたらすとしても、その危機を乗り越えたときこそ、21世紀にふさわしい新たな文明が始まるのではないか。……そんな期待も感じるのである。 
 
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コメント

吉祥寺さん

コワイ内容ですけど、ユーモアさえにじませた淡々とした筆致で、面白く読める本ですよ。それに、著者は悲惨な未来を予見しつつも意外に楽観的です。私はもう2回読みました。

「米国は間違いなくイランにも攻め込む」という予言があったり、これからの世界情勢を考えるための必読書だと思いました。

私も、家族の分の野菜くらい自分で畑で作ろうかとか、田舎暮らしをマジで検討しようとか、いろいろ考えてしまいました(笑)。
  • 2008-07-28│18:12 |
  • 前原 URL│
  • [edit]
これ、最初ご紹介されていた時は読もうと思っていたのですが、補足のご説明が加筆されたものを読むと、怖すぎて読めなくなりました。マジで怖い。
最近食糧自給率に関する仕事して、それについてもビビッてたのですが。
村上龍の「愛と幻想のファシズム」も最近再読してたりして、結構このご時世に近くなってて怖いんですよねぇ。

東京犬さんのご実家系は、栃木と静岡でしたっけか。農業できるスペースとかありますか? 私は山口か千葉ですけれども、まじめに、どこで農作物作ろうか、考え始めましたですよ。
  • 2008-07-28│15:45 |
  • 吉祥寺拓也 URL│
  • [edit]

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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