川越修ほか『分別される生命』 |
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2008-07-19 Sat 10:20
川越修・鈴木晃仁編著『分別される生命――20世紀社会の医療戦略』(法政大学出版局/3675円)読了。 同志社大学と慶應義塾大学において計14回開かれた、〈生命の比較社会史〉研究会の報告・討議に基づいた論文集。研究会に参加した医学史・医療社会史・近現代史などの研究者が、各専門分野からの論文を寄せている。 医療と国家の関係が、いま大きな曲がり角に立っている観がある。そのことを象徴するのが、日本の医療制度改革をめぐる国民的議論であろう。医学の進歩と医療制度の充実によって平均寿命が伸びると、高齢化の進展によって医療費は増大し、国家財政を圧迫する――それは、我が国のみならず先進国が共通して抱え込んだジレンマである。 本書は、医療制度改革をめぐる議論と直接の関係はないものの、時宜にかなった内容といえる。「医療の制度化」をめぐる比較社会史の書であるからだ。 収められた論文は多彩だ。たとえば、明治期の日本に「看護婦」(現・看護師)が登場した歴史的過程を跡づけた論文があるかと思えば、20世紀初頭のドイツにおける「更年期」という概念をめぐる言説を検証した論文もある。 ほかに俎上に載るのは、代替医療と通常医療の関係、精神疾患をめぐる扱いの変容など……。そうした多彩な論文を刺しつらぬく“串”となるのが、「医療の制度化」をその淵源までさかのぼって検証するという共通の視点だ。 国家を担い手に、国民全体を対象とする医療保険が制度化されたのは20世紀初頭からである。20世紀は「医療の制度化」の世紀であり、言いかえれば医療の病院化(病人が病院へと回収されるプロセス)の世紀でもあった。 本書の各論文は、医療の制度化・病院化の過程を、日独英の比較のもとにさまざまな角度から検証したものだ。その検証作業を通じて、「現在の私たちの生命をめぐる状況を20世紀社会の歴史の文脈に位置づける」(序章)ことが、本書の眼目である。 たとえば、近代日本における「病床」概念の変遷を跡づけた論文がある。 その中で、論者は現在の日本の病床政策(病床から治療機能以外の要素を排除しようとする方向性をもつ)への違和感を表明する。日本の「病床」は、歴史的に見て治療以外の機能を豊かにもつものであり、それが日本の医療の特長の一つでもあったからだ。 各論文は直接的な政策提言を含むものではないが、医療制度の現在と未来を考えるにあたってすこぶる示唆に富む書である。 |
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