『ぐるりのこと。』 |
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2008-06-28 Sat 11:57
渋谷のシネマライズで『ぐるりのこと。』を観た。
公式サイト→ http://www.gururinokoto.jp/ いまや夏川結衣、南果歩、麻生久美子を抜いて「日本一の薄幸顔美人」の座に輝いた(私の中で)木村多江の映画初主演作。 彼女が演じるのは、赤ん坊を喪った悲しみからうつ病になってしまう妻。ううむ、一世一代のハマリ役ですな。 絶対観たいと思って前売り券を買っておいた映画。期待を上回る素晴らしい作品だった。 木村多江は小さな出版社の編集者で、夫のリリー・フランキーは法廷画家。編集の現場とか法廷の雰囲気とかが、すこぶるリアル。登場するマスコミ人すべてに血が通っている感じ。「あー、いるいる、こういう人」とうなずく場面が山ほどあるのだ。 1990年代初頭から2000年代初頭までの、10年間にわたる夫婦愛のドラマ。その背後に、夫が法廷画家として描く重大事件の被告たちの姿を通して、日本の10年間が浮き彫りにされていく。 夫婦愛のドラマといっても少しもベタベタしていないし、クサくない。淡いユーモアをちりばめて、重い題材を軽やかに描いている。重さと軽さの配合具合が絶妙。 木村多江ももちろんよかったが、それ以上に目を瞠ったのはリリー・フランキーの演技力。主演男優賞ものの名演である。 序盤とクライマックスに、かなりの長廻しで夫婦のやりとりを撮った場面が出てくる。その2つのシーンが映画全体のキモといってもよいのだが、そこでの彼の間の取り方など、もう絶品。 いやー、びっくりした。「作家の片手間仕事」の域をはるかに超えている。リリー・フランキーは画才も文才もあるうえに演技もうまいとは……。「多才」とはこういう人のためにある言葉だなあ。 ------------------------------------------- 「この映画の空気感、何かに似てるなあ」と考えていて、ふと思い当たった。高村光太郎の詩「梅酒」だ。
いうまでもなく、『智恵子抄』の中の一編。集中最も名高い「レモン哀歌」や、「東京に空が無い」の一節で知られる「あどけない話」より、私はこの詩がいちばん好きだ。 『ぐるりのこと。』は、心の病の世界から蘇生する“もう1人の智恵子”の物語なのかもしれない。夫婦が2人とも美大卒で、妻がふたたび絵筆をもつことによって癒されていくという設定も、監督が『智恵子抄』を意識していたがゆえではないか(光太郎は彫刻家でもあり、智恵子は画家だった。為念)。 「狂瀾怒濤の世界の叫」にあたるのは、映画の中で裁かれる狂った殺人者たちの姿。だが、その「狂瀾怒濤」も、夫婦の静かな絆を「犯しがたい」のだ。 |
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