アーチー・ブラウン『ゴルバチョフ・ファクター』

ゴルバチョフファクターゴルバチョフファクター
(2008/03/25)
アーチー・ブラウン

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 アーチー・ブラウン著『ゴルバチョフ・ファクター』(藤原書店/7140円)読了。

 英国におけるロシア研究の重鎮(オックスフォード大学名誉教授)が、“ゴルバチョフが現代史に果たした役割”を明確に位置づけた大作である。原著刊行(1996年)以来の10余年で名著としての評価が定まったもので、満を持して邦訳が登場した。

 700ページを超える弁当箱のような分厚さで、近寄りがたい雰囲気を漂わせる本だ。しかし、読んでみれば難解なところはまったくなく、一気読みしてしまうほど面白い。
 7000円を超える価格も、内容の濃さを考えればけっして高くはない。ロシアという国について、ゴルバチョフという人物について興味をもつ向きには、たまらなく面白い本だ。

 ソ連の最高指導者として大改革「ペレストロイカ」を推進し、「新思考外交」で冷戦を終結に導いたゴルバチョフの名が、現代史に大書されるべきであることは論を俟たない。
 だが、その功績に対する評価は、じつは研究者によって大きく異なる。たとえば、“ソ連を根本的に改革したのは、むしろエリツィンだ”と主張する者も多いのだ。

 本書はそうした評価の揺れもふまえ、「ゴルバチョフ時代」に起きたソ連と世界の激変に、ゴルバチョフ個人というファクター(要因)がどの程度の重みをもっていたのかを改めて検証したものである。

 著者はゴルバチョフ本人を含む関係者多数に直接話を聞いており、そこから得た事実が本書の基礎となっている。ゆえに、過度の論文臭はなく平明だし、主張がつねに事実に裏付けられていて説得的だ。

 巻末の解説によれば、欧米のロシア研究者は“ゴルバチョフ派”と“エリツィン派”に二分され、著者は前者の旗頭と目されているという。
 とはいえ、著者の検証姿勢は公正で、手放しの礼讃には陥っていない。著者はゴルバチョフがソ連の経済改革と「民族問題」の処理において「重大な過ちを犯した」とし、それぞれの「過ち」について詳論している。そのように批判すべき点は批判したうえで、著者はゴルバチョフの行動を歴史の中に位置づけていく。そして、次のように結論づけるのだ。

 ゴルバチョフは、ロシア史上もっとも偉大な改革者の一人であり、20世紀後半の世界史に最大の影響を与えた人物である。



 本書を通読すれば、大半の読者はそうした評価に首肯するに違いない。抑圧的な体制のなか、抵抗勢力に囲まれつつ、ゴルバチョフが“世界の方向転換”を成し遂げた7年間の闘いのプロセスが、ていねいに跡づけられているからだ。

 本書は、ゴルバチョフ論の決定版であると同時に、ゴルバチョフの優れた評伝でもあり、ブレジネフ以後のソ連の権力闘争を鮮烈に描いた現代ロシア政治史でもある。重層的な価値をもつ、密度の濃い大著だ。
 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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