『丘を越えて』

 
こころの王国―菊池寛と文藝春秋の誕生 (文春文庫 い 17-15)こころの王国―菊池寛と文藝春秋の誕生 (文春文庫 い 17-15)
(2008/01/10)
猪瀬 直樹

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 有楽町の東映試写室で『丘を越えて』の試写を観た。猪瀬直樹の『こころの王国』の映画化。作家にして文藝春秋創業者である菊池寛の人間像を、架空の社長秘書の視点から描いたものである。監督は高橋伴明。5月17日公開。

 公式サイト→ http://www.okaokoete.com/

 試写を観るのを楽しみにしていた映画。『ジョゼと虎と魚たち』で素晴らしい演技を見せた池脇千鶴がヒロインだし、菊池寛を描いた映画という点でも大いに期待していた。

 芥川、三島、漱石、太宰などという人たちがいかにも映画や小説になりそうであるのに対し、菊池寛という人はどちらかといえば映画化に不向きだ(ありていに言って醜男だし)。
 しかし、菊池の多面的で複雑な人間像はすこぶる興味深く、いまあえて彼の映画を作るセンスはなかなかのものだと思う。

 で、実際に観てみた感想としては……。
 まず、「女優・池脇千鶴の魅力を堪能するための映画」として観た場合、100点満点で80点くらいはつけられる。『ジョゼと虎と魚たち』には及ばないが、昭和初期の「モダンガール」をじつにチャーミングに演じている。池脇ファンは必見である。

 だが、「菊池寛を描いた映画」として観た場合、かなり物足りない。
 菊池の多面的な人間像のうち、一面しか描かれていない印象を受けた。この映画の中の菊池寛は、「涙もろく、間の抜けたところのある気のいいおじさん」でしかない。人間像が単純化されすぎているのだ。実際の菊池寛は、よい意味でも悪い意味でも、もっといろんな顔をもっていたはずだ。

 たとえば、菊池は事業家/編集者として卓抜なセンスの持ち主であったが、その面があまり描けていないと思う。
 菊池のセンスと先見の明を雄弁に物語るのは芥川賞・直木賞を創設してイベントとして成功させたことなので、その舞台裏も描いてほしかった(本作の時代背景は昭和5~6年なので、両賞創設の前で終わってしまう)。

 それに、せっかく菊池寛が主人公なのだから、彼の周囲にいた綺羅星のごとき作家たちもバンバン登場させてほしかった。
 この映画に出てくるほかの作家は、わずかに直木三十五のみ。しかもワンシーンだけで、演ずるのは原作者の猪瀬直樹だというありさま。この点にもガッカリ(伝説の文壇バー「ルパン」で酒を飲むシーンは出てくるのだが)

 てゆーか、本作の主人公は菊池寛ではなく、彼の秘書・細川葉子なのだな。
 猪瀬の一連のシリーズの映画化としては、太宰治を描いた『ピカレスク/人間失格』のほうがよかった。

 ……と、ケチをつけてしまったが、全体に悪くない映画だ。菊池寛役の西田敏行は熱演しているし、昭和初期の風俗をていねいに再現したディテールが愉しい。
 なにより、池脇千鶴がカワイイから多少の瑕疵は許す!
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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