『ノーカントリー』

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー マ 27-1)血と暴力の国 (扶桑社ミステリー マ 27-1)
(2007/08/28)
コーマック・マッカーシー

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 ↑これは原作本

 『ノーカントリー』を、立川シネマシティで観た。言わずと知れた、本年度アカデミー作品賞・監督賞ほか4部門受賞作。

 公式サイト→ http://www.nocountry.jp/

 福田和也が、『週刊新潮』の連載「闘う時評」で本作を酷評していた。福田が言うほど悪い作品ではないと思うが、アカデミー賞を取るほどのもんかな、と私も思った。
 少なくとも、配給会社の宣伝文句に言うような「コーエン兄弟の最高傑作」ではないと思う(ちなみに、福田はその時評で、コーエン兄弟の最高傑作として『赤ちゃん泥棒』を挙げていた。『赤ちゃん泥棒』が大好きな私は、その点にだけ同意)。

 ただ、無表情のまま次々と人を殺していく「シガー」(ハビエル・バルデム)の人物造型は最高。映画史に残る「新しい殺人鬼像」(というのもヘンな言い方だが)を打ち立てたと思う。

 シガーが人を殺す場面、銃(※)を撃つ場面の迫力が圧倒的。「ここで撃つだろうな」と予想したあとで撃ってすら、なお衝撃を覚えるほどだ。私は、映画の中の銃声で何度も「ビクッ!」となった。

※「家畜銃」というのだろうか。酸素ボンベにつながれ、空気圧で鉄棒を打ち出す銃。本来は牛の屠殺用だとか。

 シガーが現れるだけで画面に緊張がみなぎり、 サスペンス(シガーの前の人物が殺されるか否か)が生まれる。いやはや、ものすごいキャラクターである。アカデミー助演男優賞受賞も納得。

 ただ、かりにシガーの存在を差し引いた場合、この映画に何が残るかというと、何もないように思う。作品のテーマ性を背負っているのはトミー・リー・ジョーンズ演ずる老保安官だろうが、はっきりいって、彼がいなくてもこの作品は十分成立するのである。
 辛気臭いテーマ性など脇に置いて、シガーの極悪非道な活躍ぶりをホラー・アクションのように描ききってほしかった。そしてカタルシスも用意してほしかった。この作品に限っては、中途半端な「文学性」が余計な夾雑物になってしまっている。

 コーエン兄弟の作品のうちでは、『ブラッドシンプル』『ファーゴ』『ミラーズ・クロッシング』などと同系列のノワール/クライム・サスペンス作品。
 しかし、この作品は『ブラッドシンプル』ほどスタイリッシュではなく、『ファーゴ』のような救いもなく、『ミラーズ・クロッシング』などに見られる乾いたユーモアもほとんどない。

 救いがなく、ユーモアに乏しく、洒落っ気もない……というとすごくつまらなく思えるだろうが、けっしてつまらなくはない。
 ただ、荒涼とした感触の無愛想な映画なので、かなり観客を選ぶ。コーエン兄弟の作品を全部観ているようなマニアが観れば面白いが、そうではない人が「アカデミー賞をとった作品だから面白いだろう」と思って観ると、詐欺に遭ったような気分になるに違いない。

 とくに、映画的カタルシスをあえて排除したラストの素っ気なさは格別。謎やもやもやがスッキリと解決されるふつうの終わり方を期待した観客は、「ええっ?  これで終わり?」とポカン顔で席を立つことになるだろう。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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