沙村広明『ブラッドハーレーの馬車』

ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)
(2007/12/18)
沙村 広明

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 沙村広明の『ブラッドハーレーの馬車』(太田出版/700円)を読んだ。
 『無限の住人』の沙村が、『マンガ・エロティクスF』に連載していた話題作。

 舞台は、英国をモデルにしたとおぼしき架空の国。時代は、おそらく20世紀初頭。
 国内第4位の資産家で貴族院議員でもあったブラッドハーレー公爵は、「ブラッドハーレー聖公女歌劇団」を経営していた。その劇団では、毎年4人程度が新人女優として舞台に立つ。彼女たちは元孤児。全国の孤児院から選り抜かれた美少女が、ブラッドハーレー家の養女に迎えられ、女優として育てられるのだった。

 孤児院の少女たちはみな、ブラッドハーレー家の養女に選ばれ、馬車で迎えにこられることを夢見た。
 だが、ブラッドハーレー家にもらわれていく孤児たちは、舞台に立つ新人よりもはるかに多かった。舞台に上れなかった少女たちには、過酷な運命が待ちかまえていたのだった……。 

 あとがきには次のようにある。

 

 編集長に「赤毛のアンみたいな漫画にします!」と宣言して始めたこの漫画。お読みになりました通り宣言は1ミリも守られませんでした。
 というか実のところ、最初は「エロい漫画にしよう」と心掛けたつもりが途中からどんどんエロシーンがなくなっていき、最終的には何がしたかったのか自分でも、もはやわからなくなってしまいました。



 『赤毛のアン』の世界を丸ごと暗転させ、暴力とエロスで塗りつぶしたような危険な作品。
 読み手を厳しく選ぶし、「これ、好きだよ」と声高に言いにくいマンガでもある。だが、作画のクオリティーは恐るべき高さだし、ストーリーにも煽情的なだけではない深みがある。全体の主調をなしているのはむしろ哀切さだ。

 何がしたかったのかわからなくなった、というあとがきの言葉を真に受けてはならない。絶対にそんなはずはない、考え抜かれた構成をもつ作品なのである。
 ストレートな残酷描写は1話と2話のみにとどめ、残りの6話は残酷な運命を暗示するのみ、という構成が心にくい。また、残酷とはいっても、山本英夫の『殺し屋1』などに比べればはるかに抑制が効いた描き方である。

 三島由紀夫が深沢七郎の『楢山節考』を評した言葉を借りれば、「不快な傑作」。
 澁澤龍彦がいま生きていてこのマンガを読んだとしたら、絶賛したに違いない。そう思わせる凄絶な美しさを、この作品はそなえている。


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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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