小谷野敦『評論家入門』

評論家入門―清貧でもいいから物書きになりたい人に (平凡社新書)評論家入門―清貧でもいいから物書きになりたい人に (平凡社新書)
(2004/11)
小谷野 敦

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 小谷野敦著『評論家入門』(平凡社新書/798円)読了。

 「ライター入門」や「小説家入門」のたぐいは山ほどあるのに、ありそうでなかったのが「評論家入門」だ。本書のあとがきで小谷野も「本書を引き受けたのは、こういう題名の本がほかにないからである」と書いている。

 「清貧でもいいから物書きになりたい人に」という副題のとおり、評論家がいかに儲からず、労苦が報われることが少ない仕事であるかに、かなり紙数が割かれている。そのうえで、評論家として生きていくための基本的な事柄に、ひととおり触れられている。

 評論と論文(学術論文)との違いが、一章を割いて説明される。そのことが示すとおり、かなりアカデミズム寄りの内容である。
 まあ、著者自身が学者なのだから当然といえば当然だ。たとえば、『批評の事情』を書いたライターの永江朗が評論家入門を書いたとしたら、根本的に違う内容になったことだろう。

 とはいえ、本書は、広い意味での「物書き」を目指す人なら一読の価値がある。小谷野自身が売れっ子になるまでの雌伏期についても赤裸々に書かれているし、金銭面も含めた物書きのギョーカイ事情が豊富な事例とともに興味深く紹介されているからだ。

 とくに、これからプロの物書きになろうとしている人が抱きがちな「幻想」を、自らの経験に照らして突き崩してくれる点が有益である。
 「幻想」とは、「著作を一冊出せばバラ色の未来が開ける」というたぐい。具体的には、「著書がベストセラーになって原稿依頼・取材依頼が殺到するはずだ」とか、「雑誌に署名原稿を書いたら、具眼の編集者からの執筆依頼が押し寄せるはずだ」とか……。

 ほかならぬ私自身、かつてはそんな「幻想」を抱いていた。
 また、そういう「幻想」を抱いたままヘタに小説新人賞など取ってしまうと、有頂天になって勤めをやめたもののその後の執筆依頼は絶無だったりして、泣きを見る羽目になる。

 「幻想」といっても、世の中には実際に一冊目の著書で大成功してしまう書き手もいるから、まったく無根拠な幻想ではない。だが、本書に書かれているとおり、そんなことは起こるほうが奇跡的なのであって、起こらなくてあたりまえなのである。

 たんに読み物として読んでも、かなり面白い。小谷野の『バカのための読書術』や『もてない男』を楽しく読んだ人なら、評論家志望者ならずとも、本書も楽しめるはずだ。
 
 小谷野は、じつは読者を楽しませるサービス精神に富んだ人だと思う。
 たとえば、本書の第4章は丸ごと柄谷行人の『日本近代文学の起源』の批判的再読に充てられているのだが、そんなカタい内容の章でさえ、笑えるくだりがいくつもある。次のように――。
 

 柄谷の講演を聴いて、私は「暗い林家三平」だと思ったくらいで、何やらとぼけた味わいがある



 ましてや、自らの“論争史”を振り返ったくだり(第6章「論争の愉しみと苦しみ」)や、著名評論家を容赦なくランクづけしたくだり(第3章「評論をどう読むか」)は爆笑ものである。

 なお、最終章は、「ここまでは『評論』について書いてきたが、そんなガシガシ勉強したり論争で神経をすり減らしたりするのはイヤだ、けれど何か書きたいと思う人には、エッセイを勧めたい」と、「エッセイストのすすめ」が書かれている。その中の笑えるくだりを引こう。

 

 特に注意して欲しいのは、自分のマヌケぶりを書いてエッセイストになりたい、と考えている女性が最近多いようだが、仮に著者インタビューなどが雑誌に出て、美人であると、読者の共感を失うという厳然たる事実である。むろん、美人だから男の間に密かに人気が出るということもあるが、これはコアながら少数でしかないので、大きな稼ぎにはつながらない。






 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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