メアリー・カルドー『グローバル市民社会論』



 メアリー・カルドー著、山本武彦ほか訳『グローバル市民社会論/戦争へのひとつの回答』(法政大学出版局/2800円)読了。

 近年、グローバリゼーションの進展によって各国の市民社会が相互に結ばれ、国境を越えた「グローバル市民社会」が成立をみた。本書は、グローバル市民社会とはいかなるもので、それが今後の世界にいかなる役割を果たすのかを深く考察した論文集だ。

 著者は、ロンドン大学政治経済学院「グローバル・ガバナンス研究所」の所長。「ヨーロッパ核軍縮運動(END)」の創設に参画するなど、自らも市民社会運動に携わってきた。多年にわたる実践・研究をふまえた立論は、緻密かつ説得的である。

 著者はまず、「市民社会」という概念の変遷史を丹念にたどる。
 そして次に、「1989年革命」(東欧諸国の共産主義政権の連続的崩壊・民主化)の意義を、一章を割いてとらえ直す。一連の革命において、東欧各国の「市民社会アクターは国境を越えた連合を形成し、国家のみならず国際制度に働きかけ」た。ゆえに、「グローバル市民社会」の概念は1989年革命の中で誕生した、と著者は言うのだ。

 つづく2つの章では、1990年代以降、「グローバル市民社会」の台頭によって政治や国家のありようが劇的に変化したことが、さまざまな角度から論じられる。

 第4章では、NGOや国際市民ネットワークなど、市民社会のアクター(ここでは「行為主体」の意)ごとに政治のグローバル化の様相が素描される。

 第5章では逆に、国家の変容に光が当てられる。国家を超えたグローバル・ガバナンスの枠組みが発展することで、今後、国家は「単独主義的な戦争遂行国家から、多国間主義に基調をおく立法国家へと変貌」していく、と著者は論ずる。本書の副題「戦争へのひとつの回答」は、グローバル市民社会の台頭によって「国家やブロックのあいだの戦争を超克する歴史的な可能性」が示されたことを意味するのだ。

 著者は本書で、グローバリゼーションのポジティヴな側面に重きを置いて論を進めている。
 もちろん、グローバリゼーションにはよい面ばかりがあるわけではない。それは国境を越えた市民の連帯を後押ししたが、一方では「新たな暴力の形態もまた国境を越えて蔓延し、その結果、戦争や無法状態を領域内に封じ込めることはもはや不可能となった」のだ。国家の枠を超えたテロリストたちの結びつきは、負の側面の最たるものである。

 著者も、そうした負の面から目をそむけているわけではない。「9・11」テロ後の世界状況をふまえた最終章では、グローバル市民社会の前に立ちはだかる難問について論じているのだ。
 著者の眼には21世紀の世界が、グローバリゼーションの正負両面のせめぎ合いの場として映っているのだろう。

 市民の力で暴力の連鎖を抑止する方途を探った、「世界平和のいま」を考えるヒントに満ちた好著。
 ただし、訳が硬いのか原文が硬いのか、文章は生硬でかなり読みにくい。2度読んでやっと意味がつかめる、という感じ。 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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