高山文彦『エレクトラ』


エレクトラ―中上健次の生涯エレクトラ―中上健次の生涯
(2007/11)
高山 文彦

商品詳細を見る

 
 高山文彦著『エレクトラ――中上健次の生涯』(文藝春秋/2500円)読了。
 
 中上健次の生涯を、彼が作家として世に出るまでの雌伏の日々――著者は「神話時代」と表現する――に重点を置いて描いた長編評伝である。「岬」による芥川賞受賞がクライマックスに据えられていて、そこから死去までの16年間については、最後の2章で駆け足でたどっている。

 力作である。著者はノンフィクションの枠を超えそうなほどに踏み込んで、若き中上の心の内までを描いていく。評伝というより、良質の小説のようだ。

 デビュー当時の中上の「伴走者」となった2人の編集者に、とくに光が当てられている。そのうちの1人・鈴木孝一(当時『文藝』編集者)との、互いの生身を激しくぶつけ合うような真剣勝負の関係に胸打たれた。
 文学に人生を賭けた、若き作家と若き編集者。その「関係」が始まり、終わるまでの経緯は、あたかも一編のラブストーリーのようだ。

 鈴木は、デビュー前の中上の作品をボツにして、こう言ったという。

 

「梅干をしゃぶると、最後は硬い種の殻に当たる。あなたの小説はその硬い殻には当たっているけど、まだそこまでなんだよ。殻をかち割ると、なかから真っ白い核が出てくるだろう。その核が見えないんだ。小説を書く人間なら、殻まではだれだって書くことができる。殻を突き破るかどうかが、本物の作家になるかどうかの境目なんだから、割ってくれなきゃ困るんだ。おれはあなたが殻を割る瞬間をずっと待ってるんだよ」



 「エレクトラ」とは、若き日の中上が渾身の力を込めて書きながら、鈴木があえてボツにしたことで世に出なかった小説のタイトル。のちに中上宅が火事になったときに原稿も焼失し、文字どおり「幻の作品」となる。

 中上は小説家になるべく生まれついた人間だった。しかし、彼が原石から宝石に変わるまでには、いくつかの宿命的な出会いを経なければならなかった。本書はその「出会い」の一つひとつをつぶさに描いて、強烈な印象を残す。
関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

里親募集中

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
26位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
20位
アクセスランキングを見る>>