『子猫の涙』

  『子猫の涙』を観た。来年1月公開の邦画。
  1968年のメキシコ五輪で銅メダルを獲得した伝説のボクサー、森岡栄治の生涯を描いた作品だ。

 公式サイト→ http://www.koneko-namida.com/

 タイトルの印象から、「人畜無害な感じのお涙ちょうだい映画なのかなあ」というイメージを抱いていた(「文化庁支援作品」なんて冠もついているし)。その印象はよいほうに外れた。

 これは、お涙ちょうだい映画でもなければ偉人伝でもない。
 なにしろ、森岡はケンカっ早くて女好き。妻子がありながら美人と見れば即ナンパする「エロオヤジ」であり、網膜剥離のため引退したあとは長い間定職にも就かなかった「ダメオヤジ」なのだ。それでもなお愛すべき人物である森岡を、この映画は長女の視点からあたたかく描き出す。

 監督・脚本の森岡利行は、森岡栄治の甥にあたるのだそうだ。そのことも、この映画のあたたかい雰囲気の源の一つなのだろう。

 ちりばめられたユーモアは名作『どついたるねん』を彷彿とさせ(赤井英和も刑事役で出演)、昭和の風俗がていねいに描かれている点は『ALWAYS 三丁目の夕日』を思わせる。何より、「人情映画」として出色である。

 主演の武田真治がすごくがんばっている。体つきも動きも、ちゃんとボクサーに見えるのだ。これは、彼の代表作になるだろう。
 
 2人目の妻を演じる広末涼子もいいけれど、長女・治子役の藤本七海の好演がひときわ光っている。「アイドルリカちゃんコンテスト」なるものでグランプリを得て芸能界入りした子なのだそうで、ほんとうにお人形みたいな美少女。大きな瞳が愛くるしく、全国のロリオタ諸氏のハートを鷲づかみするにちがいない。

 治子は、父譲りのボクシング技術でいじめっ子男子をKOしてしまうような勝ち気な少女。ダメオヤジに何かと苦労させられながらも、明るくたくましく成長していく。この映画は、森岡の伝記であると同時に、一人の少女の成長物語でもあるのだ。

 すごく図式的に説明してしまうと、『どついたるねん』と『じゃりン子チエ』を足して2で割って、『ALWAYS 三丁目の夕日』の昭和レトロ風味もくわえてみました、という感じの映画なのである。

 心に残るいいシーン、いいセリフも多い。そのうちの一つを引こう。「お父ちゃんの人生、負けてばっかりや」とボヤく治子に、祖父が返すセリフである。

 

「人生の勝ち負けは他人が決めるもんとちゃう。自分で決めるもんや。自分が負けてへん思たら、負けてへんのや」



 これは、この映画をつらぬくテーマを象徴するセリフでもある。

 それにしても、このタイトルはよくないなあ。
 子猫は序盤にちょっと出てくるだけだし、このタイトルでは映画の中身が少しも伝わらない。
 「子猫と涙がくっつけばもう最強! これで女性客が増えるはずだ」という妙な皮算用でつけたのではなかろうか。

 もっとも、映画の原作となった舞台劇のタイトルが『路地裏の優しい猫』なのだそうで、それをふまえたものなのだけれど……。 
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コメント

ぼのさん

人生の勝ち負けということを、「他人と自分を比べる」ことでしか判定できないヤカラがたくさんいるわけですね。

「年収3000万あるからオレは勝ち組だ」と思ったところで、周囲の友人が全員年収1億以上だったら勝利感は皆無なわけで(笑)。他人との比較でしか幸福を測れないのは愚かなことです。

揺るがない「自分の幸せ」の基準をもつことこそたいせつでしょう(ああ、我ながらクサイこと言ってる)。
  • 2007-12-08│11:40 |
  • 前原 URL│
  • [edit]
自分で決めるもの
武田真治クンの演技は
大島渚監督の『ご法度』での演技が
えらいヨカッタので注目してるひとです。

「人生の勝ち負けは他人が決めるもんとちゃう。自分で決めるもんや。自分が負けてへん思たら、負けてへんのや」

ほんとに、その通りです!

雑誌で、あなたは、負け組?勝ち組?とか
書いてると腹が立ちますね(笑)

なんでオマエラの貧相なモノサシで
他人サマの人生はかってんだよ!!って
思います(笑)

でも、そんな記事が結構人気あるんでしょうね?
今の購読者の心の弱い点?を
ついてるような戦略(笑)を感じます

ヒネクレすぎですかね?
  • 2007-12-07│20:21 |
  • ぼの URL│
  • [edit]

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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