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フリーライター前原政之の、感想日記(本・映画・音楽・マンガetc.)+日常雑記

『いのちの食べかた』

 『いのちの食べかた』を観た。11月公開予定の、ドイツ/オーストリア合作のドキュメンタリー映画だ。

 公式サイト→ http://www.espace-sarou.co.jp/inochi/

 「いのちの食べかた」といえば、森達也の本にそんなのがあったなあ、と思ったら、この映画のプレスシート(※)にも森さんがエッセイと推薦の辞を寄せていた。

※試写会などでプレス(マスコミ関係者)向けに配布される冊子のこと。映画館で売られるパンフ並みに豪華なものも少なくない。

 森さんの本が食肉市場(屠場)のルポであったのに対し、この映画は肉・魚・野菜・果物の生産・加工現場をまんべんなく描いている。まさに「いのちの食べかた」――「いのち」が食べ物へと変わるプロセスを追った映画なのだ。ちなみに原題は、「OUR DAILY BREAD」(我らが日々の糧)。

 たくさんの豚がオートメーションで次々と解体されていく過程、牛を屠殺して血を抜き皮を剥ぐ過程など、ショッキングなシーンがいくつかある。

 ただし、「ほら、人間は動物たちにこんなに残酷なことをしているんですよ。みなさん、ベジタリアンになりましょう!」と訴えるような映画ではない。
 むしろ、作品が一面的な政治的主張に陥ることを、監督は注意深く避けている。淡々と事実のみを提示していくのだ。

 難を言えば、あまりにも淡々としすぎている。
 なにしろ、ナレーションも字幕による説明も、登場する人々(加工現場などで働く人々)の言葉もいっさいない映画なのだ。おまけに音楽さえない。
 そういう手法をとることがよかったのかどうか、私には疑問。説明皆無であることで無色透明な印象にはなったものの、わかりにくい映画になったことは否めない。
 
 プレスシートには、日本の農業・畜産関係者に取材して、この映画の各場面の意味についてくわしく解説したコーナーがある(このプレスシートはなかなかの労作)。それを読んでやっと「あそこはそういう場面だったのか」と意味がわかったところが少なくない。映画を観ただけで意味が十分伝わらないというのは、やはり作品としての欠点なのではないか。

 とはいえ、一見の価値はある作品だ。
 日本語の「いただきます」には、いうまでもなく、「(動・植物の)命をいただきます」という気持ちがこめられている。そのことを、改めて深く意識させられる映画である。

 よくも悪くも、マイケル・ムーアの諸作のようなサービス満点のドキュメンタリーの対極にある作品。地味で無愛想で、静謐な印象のドキュメンタリーなのだ。

 特筆すべきは、映像の美しさ。この映画は米「ヴァラエティ」誌に「フェルメールの絵を思わせる美しさ」と評されたそうだが、たしかに、シンメトリックな構図にこだわるなど、ドキュメンタリーらしからぬ優れた美的センスにつらぬかれているのだ。
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