マンガ喫茶で、真鍋昌平の『闇金ウシジマくん』既刊1~8巻を一気読みする。
このマンガの評判はあちこちで耳にしていたのだが、なんとなく食わず嫌いしていたのだった。
タイトルどおり、違法な闇金融の世界を描いたマンガである。
舞台となる「カウカウファイナンス」は、「トイチ」どころか「トゴ」、つまり「10日で5割」という超・高金利の闇金。当然、サラ金等ではもう金が借りられないワケアリの連中ばかりが客としてやってくる。
同じく闇金の世界を舞台にした先行の類似作『ナニワ金融道』『ミナミの帝王』や、“隣接分野”を描いた『新宿スワン』よりも、さらにドライでダークな物語。『ナニワ金融道』などにはまだあった「救い」が、ここにはまったくない。
客たちを「奴隷くん」と呼ぶ主人公の丑嶋社長(といってもまだ20代前半)には、義理人情とか弱者への思いやりなどという一般世間の価値観は微塵もない。
彼は、たとえばこんなセリフを吐く。
「人並み以下のクセに人並みに暮らしてる、身の程知らずのクズどもに終止符を打つのが……俺達闇金の仕事だ!!」
つねに己のルールと価値観に従って行動するその姿は、どこか「ゴルゴ13」を思わせる。ダーティ・ヒーローである。
パチンコ依存症の主婦、ブランド品を買い漁って多額の借金を抱えるOL、なんの努力もしないくせにプライドばかり高いフリーターなど、どこにでもいる「ダメ人間」たちが、「カウカウファイナンス」の客となったことからズルズルとこの世の地獄に堕ちていく……。その姿が、恐ろしくリアルだ。
「幸福な家庭は互いに似通っているが、不幸な家庭はどれもその不幸のさまが違っている」という、『アンナ・カレーニナ』の有名な一節をふと思い出した。この作品に登場する客たちはまさに、それぞれの愚かしさによって“十人十色の地獄”を味わうのである。
ただし、読んでいる間、闇金の客たちを見下げるのではなく、むしろ彼らに感情移入してしまう。見えない暗流に押し流されるように、破滅への坂を転げ落ちていく焦燥と悲しみ。その一端を、読者もまた共有する。物語がそのように作られているからである。
作者の視点は、客たちの愚かしさを嘲笑する視点ではない。もっと突き放したクールな視点だ。“消費社会の底の澱み”の観察記録でもつけるように、乾いたユーモアさえ漂わせながら、淡々と地獄絵図が描かれていく。
既刊を一気読みしたらブルーな気分になってしまった(笑)。しかし、まぎれもない傑作。
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