短編マンガ・ベスト25



 「日本のロック・アルバム・ベスト25」「日本映画ベスト25」につづいて、「日本の短編マンガ・ベスト25」を選んでみた。
 どうしても、「小説に置き換えられそうなマンガ=文学臭の強いマンガ」に偏ってしまう。
 順不同。各編についてのコメントはぼちぼち書き加えていきます。

ちばてつや「蛍三七子」
 奔放な不良少女・三七子と旅の若者の恋を抒情的に描いた、「珠玉」という言葉がぴったりの傑作短編。マンガ史に残る名キスシーンがある。蛍が乱舞するラストシーンも見事。

高橋葉介「腹話術」
 『夢幻紳士』の高橋葉介が最初期に生み出した傑作短編シリーズ『ヨウスケの奇妙な世界』の一編。絵柄といいストーリーといい、高橋はデビュー当時から「誰の真似でもない独自の世界」を確立していた。とくに、この「腹話術」は名作。

吉田秋生「解放の呪文」
 ウインブルドン決勝戦での兄弟対決をドラマティックに描いた、スポーツ・マンガの傑作。テニスに微塵も興味のない私のような人間が読んでも感動できるのはスゴイ。

星野之宣「残像」
 卓抜なアイデアと絶妙の構成。星野の数あるSF短編のうちでも最高傑作だと思う。

山岸凉子「天人唐草」
 一人の女性の狂気に至る過程を克明に描いた、「精神分析ホラー」ともいうべき傑作。

大島弓子「秋日子かく語りき」
 大島作品の中に、「死者の蘇り」を描いたファンタジー短編が二つある。一つは映画化もされた「四月怪談」で、もう一つがこの「秋日子かく語りき」である。
 「四月怪談」では、事故死した少女が霊界でのさまざまな曲折を経て生き返るまでが描かれ、この「秋日子かく語りき」は、事故死した中年女性が、天使からの猶予を得て一週間だけ生き返るいきさつを描いている。2編に通底するのは、「この世は生きるに値する」という力強いメッセージである。

佐藤史生「金星樹」
 SFのセンス・オブ・ワンダーと少女マンガの面白さが理想のバランスで同居した傑作短編。なんというアイデア、なんと哀切なラストシーン。

諸星大二郎「生命の樹」

狩撫麻礼・かわぐちかいじ「蜜の味」(『ハード&ルーズ』より)
楠勝平「おせん」

高野文子「玄関」(『絶対安全剃刀』所収)
 高野文子の短編といえば、同じく『絶対安全剃刀』所収の「田辺のつる」が世評高いが、私はこの「玄関」を偏愛。小学生時代の夏休みのムードを、これほど鮮やかに写し取ったマンガはほかにない。

永井豪「ススムちゃん大ショック」
 ある日突然、日本中の親たちがいっせいに我が子を殺し始める……そんなストーリーをもつこの短編を、子どものころに読んで衝撃を受けた人は多いだろう。私もその一人。「トラウマ・マンガ」の一つである。児童虐待が頻発するいまの時代を予見したともいえる作品。

萩尾望都「半神」
 シャム双生児の姉妹を主人公にした、哀切にして深みのある短編。わずか16ページの作品なのに読後感はずしりと重く、いろいろなことを考えさせられる。
「愛よりももっと深く愛していたよおまえを/憎しみもかなわぬほどに憎んでいたよおまえを」というラストのモノローグが深く心に残る。

宮谷一彦「ラストステージ」
 二人のジャズ・ミュージシャンの人生が交差する一点を描いた、青春マンガ/音楽マンガの傑作。ページから音が聞こえてくるような迫真の描写が素晴らしい。

平田弘史「介錯」
関川夏央・谷口ジロー「海景酒店」

一ノ関圭「らんぷの下」
 たった3冊の作品集を残して筆を折った一ノ関圭。圧倒的な画力(芸大油絵科卒)と、幕末から明治の美術界に材を得た個性的な作品群でいまも根強いファンを持つ彼女の、デビュー作にして代表作。

すぎむらしんいち「スノウブラインド」
 「映画的」と評されることの多いすぎむら作品だが、この短編も優れて映画的である。暴力的でエロティックなのに、すこぶるスタイリッシュで、乾いたユーモアが漂う。そして、抜群の画面構成。
 雪景色が血に染まるあたりの描写は、すぎむらが愛するコーエン兄弟の名作『ファーゴ』へのオマージュかな……と思ったら、じつは「スノウブラインド」のほうが先に発表されていた。

近藤ようこ「薄荷煙草」
 近藤ようこの短編はその多くが水準以上の佳編だが、抜きん出た一編の傑作を選ぶのは難しい。それでもあえて一つ選ぶなら、この「薄荷煙草」。美術教師とその恋人と、教え子の女子高生――その奇妙な三角関係を、ドラマティックに描いて秀逸。

つげ義春「やなぎや主人」

藤子・F・不二雄「ミノタウロスの皿」
 『ドラえもん』などの児童マンガのかたわら、藤子がコツコツと描きつづけた大人向けSF短編群は、高水準の傑作揃いである。とくにこの「ミノウロスの皿」は、「カンビュセスの籤」などとともに、藤子のSFを代表する傑作。

大友克洋「家族」
勝又進「雁供養」
手塚治虫「巴の面」(『ザ・クレーター』より)

永島慎二「陽だまり」(『漫画家残酷物語』より)
 『漫画家残酷物語』は全28編からなる短編連作だが、この「陽だまり」は最終話にあたる。ジャズ喫茶にたむろする「1960年代・新宿」の若者たちの青春を、鮮やかな一閃で切り取った傑作。夏目房之介さんや川本三郎さんも、『漫画家残酷物語』中のお気に入り作品に挙げていた。
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コメント

吉祥寺さん

楠勝平は、病気のため30歳の若さで夭折したマンガ家です。

ずっと心臓病を患っていて、死と隣り合わせの生を生きた彼のマンガは、まさに命を削って描いたような迫力と「世界を愛おしむ」哀切さに満ちていて、すごくよいです。作品集はずっと入手困難でしたが、最近『彩雪に舞う…』という決定版作品集が刊行されました。とってもよいですよ。

ご参考まで。↓
http://godzillu.daa.jp/syouhei/
  • 2007-08-04│02:20 |
  • 前原 URL│
  • [edit]
相変わらずマニアックな、しかもいかにも東京犬さんらしいチョイスで読んでてとても楽しいです。
こういうチョイスって楽しいですよね。
私もやりたくなりました。
楠勝平って方だけ知りませんでした。
  • 2007-08-03│11:01 |
  • 吉祥寺拓也 URL│
  • [edit]

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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