内田樹『下流志向』

2007年07月05日 20:53



 内田樹著『下流志向』(講談社/1400円)読了。
 
 言わずと知れた、本年上半期を代表するベストセラーの一つ。
 評判どおり、面白い本だった。講演をベースにしたものだが、講演本にありがちな薄っぺらさがなく、示唆に富んでいる。読みながらたくさん傍線を引いた。ここ数年の内田さんは著作を量産されているのに、このクオリティーを保っているのはスゴイ。

 子ども・若者の学力低下と、ニートの増加――いまの日本が抱える2つの社会問題の深層を考察したものである。
 山田昌弘の『希望格差社会』や諏訪哲二の『オレ様化する子どもたち』など、2つの問題を取り上げた先行の類書をふまえつつ、きわめて独創的な洞察をくり広げている。

 内田さんは、「学ばない子どもたち」と「働かない若者たち」の急増は同根だという。まあ、ここまでは誰もが考えること。しかし、その先が目からウロコだ。
 
 たとえば学力低下について、それは子どもたちの怠惰の結果ではなく「努力の成果」であると、内田さんは言う。「学びから逃走することから自己有能感や達成感を得ている」子どもが増えているのだ、と。
 
 また、次のようにも言う。
 生まれて初めての社会経験が労働ではなく買い物だったいまの子どもたちは、「何よりもまず消費主体として自己確立する」。ゆえに彼らは「消費者マインドで学校教育に対峙して」おり、「教育サービスの買い手」として学校側に接するのだ、と。

 教壇に立つ教師を眺める子どもの目線は、「で、キミは何を売る気なのかね? 気に入ったら買わないでもないよ」というものなのだという。
 だからこそ、「価値や有用性が理解できない商品」(勉強することが何の役に立つかわからない事柄)は「買う価値がない」と判断し、「不快という貨幣」(=授業を黙って聞くという苦痛に耐えること)を支払わない。

 うーむ、そう言われると、学級崩壊という不可解な現象も腑に落ちる気がするではないか。

 ……そのように、「学習と労働について、これまでとは違う考え方をする新しいタイプの日本人」の行動原則を鮮やかに読み解いた本。
 ベストセラーになったことで食わず嫌いしている人も多いだろうが、学力低下やニートの問題に関心がある人なら一読の価値あり。


コメント

  1. ミメイ | URL | CRSHTEAU

    はじめまして
    検索しているうちにこちらにたどり着きました。

    少し前の記事へのコメントで失礼します。

    私もようやく「下流志向」読み終わりました。
    内田先生の本は初めて読んだのですが
    なるほど〜と考えさせられる1冊でした。
    特に「おおっ」と思ったのは「師弟関係」についての
    記述です。
    これは「先生はえらい」の方にまとまっているのかな?
    前原さんの記事を読んで
    私も読みたくなりました。

  2. 前原 | URL | -

    ミメイさん

    はじめまして。
    私も、「下流志向」の師弟論を面白く読みました。
    「スター・ウォーズ」を師弟論として観る、という切り口は内田さんならではですね。

    >これは「先生はえらい」の方にまとまっているのかな?

    「先生はえらい」が、師弟論としてはいちばんまとまっています。ただ、近著「狼少年のパラドクス」にも、師弟に関する記述がかなりあります。

    3冊とも、当然のことながら大枠の主張は同じですけどね。

  3. ミメイ | URL | CRSHTEAU

    ありがとうございました

    前原さん、ありがとうございました。
    「先生はえらい」「狼少年のパラドクス」
    読んでみようと思います。
    実は今日「子供は判ってくれない」と
    「東京ファイティングキッズ」を借りてきました。
    内田先生の本、たくさんあるので大変〜〜

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