『ツォツィ』

「ツォツィ」オリジナル・サウンドトラック 「ツォツィ」オリジナル・サウンドトラック
サントラ (2007/04/11)
ビクターエンタテインメント


 昨日は、京橋のメディアボックス試写室で『ツォツィ』の試写を観た。4月14日公開の南アフリカ映画(英国と合作)。アフリカ映画として史上初めて「アカデミー外国語映画賞」(2006年)に輝いた作品。

 「ツォツイ」とは南アフリカのスラングで、「不良」「ギャングスタ」の意。
 舞台は南アフリカの首都ヨハネスブルク。アパルトヘイト廃止から10年を経てもなお、黒人と白人との間に絶望的な経済格差があるなか、スラム街に生まれ育ち、あらゆる犯罪に手を染める黒人少年ギャングたちの姿が描かれる。

 主人公は、たった4人の小さなギャング・グループを率いる19歳の「ツォツィ」。本名は誰にも明かさず、ただ「ツォツイ」とだけ呼ばれているのだ。

 ツォツイはある日、南アにも少しずつ増えてきた裕福な黒人層を標的にする。BMWから降りた黒人女性に拳銃を突きつけ、車を奪うのだ。だが、車の後部座席には生後数ヶ月の赤ん坊がいた。仕方なく、赤ん坊を自分の住むバラックに連れ帰るツォツィ。

 この赤ん坊が、冷酷非情に悪事を重ねてきたツォツィの心に、大きな波紋を投げかけていく。心の鎧の奥底に隠されたなけなしの「人間らしさ」を、呼び覚ます触媒となるのだ。

 この展開を、「クサイ」と思う向きもあろう。だが、私はそうは思わなかった。

 私は以前、東京家庭裁判所が行っている非行少年の更生プログラムを取材したことがある。それは、非行少年・少女を家裁から老人ホームや乳児院(女子の場合)にボランティアに行かせるというプログラムだ。
 プログラムに参加した少年少女の多くが、見違えるように心の落ち着きを取り戻すという。老人ホームでお年寄りに心から感謝されること、乳児院で赤ん坊の世話をすること――それは彼らにとって、生まれて初めて味わう、心を揺さぶる感動体験なのである。

 この映画を観て、そんなことを思い出した。これはフィクションではあるが、野獣のような少年が赤ん坊の世話を通じて人間らしさを取り戻すことは、十分にあり得るのだ。

 近所に住む赤ん坊を抱いた若い女性に拳銃を突きつけ、家に押し入って“自分の赤ん坊”に乳をやれと脅すツォツィ。彼は、暴力を通じてしか人とコミュニケーションできないのだ。

 だが、その女性・ミリアムが乳をやる姿を見るうち、ツォツィの胸に、忘れかけていた母親の記憶が蘇る……よいシーンである。ミリアムを演じるテリー・ペートは、さながら「褐色の聖母」だ。スラム街に暮らしながらも気高く美しい。

 『罪と罰』のラスコーリニコフがソーニャとの出会いによって魂を救われたように、ツォツィは赤ん坊とミリアムとの出会いを契機に少しずつ人間らしさを取り戻していく。
 スラム街の過酷な現実を容赦なく描きながらも、その中に一条の希望を見出すまでを描く感動作。“南ア版『シティ・オブ・ゴッド』”という趣もあるが、こちらのほうがずっと「救い」がある。
 
 演出も洗練されており、ハリウッド産の映画と比べてもまったく遜色ない。「クワイト」と呼ばれる南ア風ヒップホップが使われた音楽も素晴らしい。
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コメント

ぼのさん

よかったですよ。
95分の短い映画なのですが、よけいな贅肉を削ぎ落とした感じのシンプルなストーリーで、見応えは十分でした。ドキュメンタリー・タッチで、派手さはないですけどね。
  • 2007-03-21│11:41 |
  • 前原 URL│
  • [edit]
いいですね
映画館では観られないかもしれませんが、
いい感じの映画ですね。

ジェット・リーの『ダニー・ザ・ドッグ』がただ敵を倒すこと
だけを教えられた犬みたにに育った青年が
盲目のピアニストと出会うことによって
人間らしさを取り戻すというストーリーだったんですが
”人間ドラマ”なのか”アクション映画”なのか
わからなくて、ガッカリした記憶がありますね(笑)

やはり、”伝えたいこと”はひとつにしぼった方が
いいですね。
  • 2007-03-21│03:28 |
  • ぼの URL│
  • [edit]

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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