『墨攻』

The Making of 墨攻 The Making of 墨攻
アンディ・ラウ (2007/01/19)
レントラックジャパン

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 渋谷の東芝エンタテインメント試写室で、『墨攻(ぼっこう)』の試写を観る。

 酒見賢一の同名小説と、森秀樹によるそのマンガ版の映画化である(直接の原作はマンガ版のほう)。中国・日本・香港・韓国の合作による超大作だ。2月公開予定。

 公式サイト→ http://www.bokkou.jp/

 春秋戦国時代の中国に、「非攻(専守防衛)」の思想を掲げた「墨家」があった。儒家と並ぶ勢力を誇りながら、秦代に忽然と姿を消した謎めいた教派である。
 墨家は戦闘のプロ集団でもあったが、その戦闘技術は大国のエゴから小国を守るためにのみ使われた。いまも残る「墨守」という熟語(※)は、墨家の防衛戦に由来する。

※「堅く守る」の意。ただし、「旧説を墨守する」というふうに、あまりよい意味には使われない

 この映画は、「革離」という一人の墨者が、大国の侵略から小国の城を守り抜く闘いを描いた歴史アクションだ。
 絶対的に不利な状況のなか、知略を尽くして大国の猛攻をしのぎ抜く革離。私欲を捨て、弱者を守るために命を賭けるその姿は、ヒーロー像として申し分ない。戦闘シーンの迫力も特筆すべきものだが、その背後の人間ドラマも優れている。
 全編につらぬかれた熱いヒューマニズムが、物語を力強く牽引していく。「全盛期の黒澤明が中国を舞台に史劇を作ったら、こんな映画になったのではないか」とさえ思わせる。

 というより、脚本とプロデュースも兼ねる監督のジェイコブ・チャンには、「自分にとっての『七人の侍』を撮りたい」という意図があったのではないだろうか?

 『七人の侍』は、いうまでもなく、略奪集団と化した野武士の群れから村人を守ろうとする侍たちの闘いを描いたものである。いっぽう、この『墨攻』は、まともな軍隊さえ持たない小国の民を、優れた軍師であり戦士でもある革離が組織して鍛えあげ、大国の侵略を撃退しようとするもの。物語の構造がよく似ている。革離は一人で「七人の侍」の役割を果たすわけだ。

 私は、原作であるマンガ版の『墨攻』も、そのまた原作の小説も読んだ。それぞれ、独自の面白さと価値をもつものである。この映画版は、基本設定こそ原作と同じだが、かなり大幅な改変がなされている。たとえば、映画のヒロインで、革離に想いを寄せる美しい女剣士・逸悦は、オリジナル・キャラだ。

 そもそも、原作では革離も巷将軍(革離と闘う趙国の将軍)も、異相・短躯のブサイク・キャラなのであって、2人を美形キャラ(アンディ・ラウとアン・ソンギ)に変えたこと自体、映画版の大きな特長である。
 
 原作のエッセンスを巧みに活かしつつ、“古代中国版『七人の侍』”ともいうべき勇壮華麗な史劇を作りあげたことは、ひとえにジェイコブ・チャンの手柄であろう。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

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