『敬愛なるベートーヴェン』

敬愛なるベートーヴェン [DVD]敬愛なるベートーヴェン [DVD]
(2007/11/07)
エド・ハリス.ダイアン・クルーガー.マシュー・グッド.フィリーダ・ロウ.ニコラス・ジョーンズ.ラルフ・ラ

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 六本木ヒルズの中にあるシネコン「TOHOシネマズ」で、『敬愛なるベートーヴェン』を観た。同所で開催中の「東京国際映画祭」の一本。一般公開は12月9日。

 公式サイト→ http://www.daiku-movie.com/

 コピスト(写譜師=作曲家が走り書きした楽譜を清書したり、パート譜を起こしたりする)として「第九」完成前後のベートーヴェンを支えた女性の目を通して、彼の晩年を描いた音楽映画である。

 というと、『不滅の恋/ベートーヴェン』(1994)を思い出す向きも多いだろう。たしかに、あの映画との共通点は少なくない。たとえば、両作品とも第九初演の場面がクライマックスをなしている。

 だが、本作のヒロイン、アンナ・ホルツは、いわゆる「不滅の恋人」(ベートーヴェンの遺品の中にあった宛名のない恋文の相手。その正体をめぐって長い間議論と研究がつづけられてきた)としては描かれていない。アンナは複数の実在女性を混ぜ合わせた架空の人物であり、この映画自体が史実を土台にしたフィクションなのだ。

 自らも作曲家を目指すアンナは、ベートーヴェンを作曲家として深く敬愛するが、一線を超えて「恋人」にはならない。ただし、アンナとベートーヴェンの間には、師弟愛を超えて男女の愛にまで踏み込みそうな瞬間が何度もあり、その感情の揺れ動きがじつにスリリングである。

 『不滅の恋』やミロシュ・フォアマンの名作『アマデウス』は、ミステリー的な要素もあるなど、たんなる音楽映画には終わらないエンタテインメントとしての広がりを持っていた。
 その2作に比べると、『敬愛なるベートーヴェン』は正攻法の音楽映画である。たとえば、「第九」初演の場面は延々12分もかけてじっくりと描かれている。

 音楽に比重がかかっている分、波瀾万丈のストーリーやどんでん返しはなく、地味といえば地味だ。
 だが、それでも十分面白い。光と影のコントラストを自在に駆使した映像は重厚で美しいし、粗暴で下品な激情家として描かれたベートーヴェン像(演じるのはエド・ハリス)は強烈な印象を残す。『アマデウス』がモーツァルト像を革新したように、従来の「謹厳実直な楽聖」としてのベートーヴェン像をくつがえす映画である。

 アンナ役のダイアン・クルーガーも、素晴らしく魅力的だ。理知的で、凛として、清楚。それでいて、女優としての「華」に満ちている。

 ところで、この邦題は日本語として不自然ではないだろうか? 「敬愛する」や「親愛なる」ならともかく、「敬愛なる」って言うか? いや、間違っていると言い切る自信もないのだけれど…(ちなみに原題は、「Copying Beethoven」というそっけないもの)。

 難癖ついでに言うと、この映画には納得いかない点がいくつかあった。
 たとえば、重い難聴であるベートーヴェンが、アンナが小声で話す言葉をすんなり理解する場面が多くて、首をかしげた。「唇を読んでいた」という意味なら、そう示唆するシーンがあってしかるべきだろう。

 あと、ラストがあまりに唐突でヘンテコな終わり方で、画竜点睛を欠く印象。もうちょっとラストシーンらしい終わり方を工夫できなかったものか。

 …と、重箱の隅をつつくようなことを書いてしまったが、全体的には見ごたえある力作である。音響のよい映画館の大スクリーンで観るべき映画。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。55歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴32年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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