高木壮太『新 荒唐無稽音楽事典』



 一年ぶりくらいに風邪を引いて、昨日一日ボーっと寝て過ごす。
 年明けからずっと忙しかったので、“体内サーモスタット”が働いたのであろう。
 「ルル」を飲んで一日布団の中にいたら、熱も下がり、今朝にはかなりスッキリしていた。


 昨日寝ていた間に、平山夢明著『いま、殺(や)りにゆきます RE-DUX(リダックス)』(光文社文庫/555円)と、高木壮太著『新 荒唐無稽音楽事典』(平凡社/1404円)を読了。

 『いま、殺りにゆきます』は、平山夢明の旧作。ストーカーなどに襲われた、おもに女性たちの恐怖体験を描いた短編を31編集めたものである。
  「恐怖実話集」と銘打たれているが、「どこまで実話なのかね?」と眉ツバで読みたくなる話ばかり。

 面白いものもあるが、全体にワンパターン(狂気の男が女性の部屋に侵入する話が多い)で、イマイチ。平山夢明は、『ダイナー』以降の近作のほうが優れていると思う。

 『新 荒唐無稽音楽事典』は、先週出たばかりの本。アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』の流れを汲む「パロディ事典」である。
 音楽にまつわるあらゆる単語・アーティスト名などの「事典」の体裁を取りながら、その内容はブラックユーモアとアイロニーに満ちており、一つとして真面目な定義や解説はない。

 著者の高木壮太自身がミュージシャンであり、ロックを中心に、あらゆるジャンルの音楽に造詣が深い。その造詣が、どの項目にもにじみ出ている。
 当然、本書を面白がるには、読者にもある程度の音楽知識が要求される。とはいえ、楽典的素養が必要というわけではない。ロックやジャズなどをかなりの年数聴き込んできた人なら、十分笑える本だ。

 たとえば、ジェフ・ベックについての項目は、次のような内容になっている。

 トーキング・モジュレーターの使いすぎで脳が壊れたために、一つのバンドで2枚以上アルバムが出せなくなった英国を代表するギター・ヒーロー。



 この記述で笑うためには、ジェフ・ベックのバンド遍歴や、トーキング・モジュレーター(いまは「トークボックス」という)の何たるかを知らなければならない。このように、一つひとつの項目で読者の音楽知識が試される、ハイブロウな笑いの書なのである。

 また、笑いにくるまれてはいるが、「一つの音楽批評として卓見だ」と感じさせる項目も多い。
 たとえば、「ブルーズロック」という項目は、次のようになっている。

 長髪の白人の若者が、黒人ブルーズのフィーリングを上手く表現できないので癇癪をおこし、髪を伸ばしてサイケデリックな服を着てやけくそになって大音量でブルーズをカバーした。そうしたら、それがなかなか良かった。何事も結果オーライである。



 高木壮太は「ツイッター界の鬼才」などと呼ばれている。たしかに、彼のツイッターは面白いと私も思う。
 「ツイッターから登場した文筆家」として、男は高木壮太、女は深爪が双璧であろう。

■関連エントリ→ 深爪『深爪式』

 なお、本書が『新 荒唐無稽音楽事典』というタイトルになっているのは、「焚書舎」なる版元から2014年に刊行された『荒唐無稽音楽事典』を、加筆修正したリニューアル版だから。
 音楽でいえば、インディーズで出した初期アルバムを、メジャーレーベルからリイシューするようなものである。

 じつは、私は旧版の『荒唐無稽音楽事典』を買おうと思っていたのだが、「ディスクユニオン」で現物を見たら、文庫本よりさらに小さいサイズでペラペラの「小冊子」的体裁で、「こんなチャチな本に1000円も出す価値はないなァ」と思い、購入を見合わせた経緯がある。

 今回の新版は、さすがに名門・平凡社の本だけあって、装丁やレイアウトなども立派なものだ。旧版を買わなくてよかった。
 
  
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リンダ・グラットンほか『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』



 一昨日から昨日にかけて、取材で岩手へ――。

 一関まで新幹線で行き、そこからカメラマン氏運転のレンタカーで、大槌町→宮古市→「『あまちゃん』の里」久慈市→野田村と移動。
 最後は二戸から新幹線で帰京。北海道の次に広い岩手県の、ほぼ端から端まで走破したことになる。今回も東日本大震災の関連取材である。


 行き帰りの新幹線で、リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)――100年時代の人生戦略』(東洋経済新報社/1944円)を読了。書評用読書。

 100歳まで生きることは、いまはまだ稀な長寿だが、半世紀後にはあたりまえになる。
 本書で知って驚いたのだが、国連推計によれば、日本の100歳以上人口は2050年までに100万人を突破すると考えられているという。
 とくに、日本は平均寿命の伸びが顕著になると考えられており、「2007年に生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想されている」そうだ。

 

 いまこの文章を読んでいる50歳未満の日本人は、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすつもりでいたほうがよい(「日本語版への序文」より)



 もうすぐ到来する「人生100年時代」には、働き方など、ライフスタイルのあらゆる面に激変が起きる。
 たとえば、“60代でリタイアする時代”は終わり、人は80代まで現役で働くのが普通になるという。
 そのような激変にどう備えたらよいのかを、さまざまな角度から提言したのが本書である。

 少子高齢化のトップランナーたる日本のことに、著者たちは随所で言及している。世界のどこよりも、日本でまず読まれるべき書だ。

 本書はジャンル的にはビジネス書ということになるだろうが、粗製濫造されがちな日本のビジネス書の薄っぺらさと比べ、ケタ違いの濃密さを持つ良書である。

 
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『Electric Blues』



 昨日は、知人のお見舞い→取材→打ち合わせと、半日外に出ていた。


 『Electric Blues』を輸入盤で購入し、ヘビロ中。

 マディ・ウォーターズ、B.B.キング、エルモア・ジェームス、アルバート・キングなど、大御所ブルースマンの名演ばかりを集めたコンピレーション・アルバムである。
 収められているのは、すべて1950年代の録音。タイトルのとおり、エレクトリック・ギターが使われたブルース・クラシックスばかりを集めている。
 
 1930年代のブルースとか、あまりディープすぎるものは苦手な私だが、このコンピに入った曲はどれもすんなり受け入れられた。1970年代あたりのロックを聴くのと、あまり変わらない感覚で聴ける。

 1000円を切る安さ(私が買った時点)なのに、2枚組にビッシリと全50曲が詰め込まれている。非常にコスパの高い、上出来のコンピである。

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平山夢明『ヤギより上、猿より下』



 平山夢明著『ヤギより上、猿より下』(文藝春秋/1000円)読了。

 相変わらず、誰にも真似のできない独創的な小説世界が展開される最新作品集。

 一昨年に出た短編集『デブを捨てに』につづく〈イエロートラッシュ〉シリーズ第二弾、なのだそうで、アメリカン・ペーパーバックを模した製本も『デブを捨てに』と同一になっている。

 内容は、『デブを捨てに』に比べると少し勢いが落ちた気もするが、それでも十分楽しめた。

 凄絶な家庭内暴力を描きながらも、読後感は爽快ですらある「パンちゃんとサンダル」は、かつての傑作短編「或る愛情の死」(短編集『或るろくでなしの死』所収)を彷彿とさせる。書き方を少しチューニングすれば純文学になりそうな話なのに、それが「平山印」のブラック・ホラーに仕上がっている点が似ているのだ。

 「陽気な蠅は二度、蛆を踏む」もよい。殺し屋を主人公にした、「ちょっと見はハードボイルド・アクション」な話でありながら、いびつなユーモアと読後の寂寥感がやっぱり「平山印」な短編だ。

 表題作の「ヤギより上、猿より下」は、収録作4編中いちばん長い、唯一の中編。
 読んでタイトルの意味を知ったとき、読者はみな、「こんな話をよく思いつくもんだよなァ」と驚き、半ば呆れるに違いない。なんというか、「想像力のタガが外れている」感じなのだ。
 小説家が「想像力の商売」である以上、むろんそれは讃辞だが。
 
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伊賀泰代『生産性』



 昨日は、取材で仙台と多賀城市へ――。
 朝5時前に家を出て、夜に帰宅するという強行軍。さすがに疲れて、夕食をとってすぐにバタンキュー(死語)で爆睡。

 来月11日で東日本大震災から丸6年になることから、今月、来月と震災関連取材がつづく。


 行き帰りの新幹線で、伊賀泰代著『生産性――マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの』(ダイヤモンド社/1728円)を読了。
 著者の伊賀泰代とは、社会派ブロガー・ちきりんの「中の人」である。
 ちきりんは昨今、ツイッター上などでやや迷走ぎみであり、私も彼女のブログを読まなくなった。が、それはそれとして、本書は大変面白かった。

 著者は、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社で、コンサルタント→人材育成マネージャーとして計17年間働いた経歴を持つ。その経験をふまえ、マッキンゼー流の生産性の上げ方を明かした本だ。

 いわゆる「トヨタ生産方式」が象徴するように、日本は、製造業においてだけは圧倒的に高い生産性を誇る。
 ところが、サービス業など、製造業以外の企業は、世界的に見ても生産性が低い。本書はその理由を、さまざまな角度から解き明かしていく本でもある。

(つづきます)

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田中圭一『うつヌケ』



 今日は午前中から、女性登山家・田部井淳子さんのご長男である田部井進也さんを取材。
 田部井淳子さんは昨年の初頭にインタビューしたことがあり、そのときにはお元気だったので、昨年10月に亡くなられたときにはとても驚いた。
 
 お母さんを取材して一年後に息子さんを取材する(しかも別メディアで)というのも、なんだか不思議なご縁である。
 今回の取材は、ちょっと気が早いのだけれど、「母の日」に合わせた記事のためのもの。「人生を楽しむ達人」でもあったお母さんの思い出を、さまざま伺った。


 田中圭一の話題作『うつヌケ――うつトンネルを抜けた人たち』(KADOKAWA/1000円)を、Kindle電子書籍で読んだ。

 自らもうつ病脱出体験を持つマンガ家・田中圭一が、うつ病からの脱出に成功した人たちを取材し、マンガの形でその体験をまとめたドキュメンタリーコミック。

 いつもはお下品なパロディ・マンガを描いている田中圭一が、今回は下品抜きでマジメに描いている。「きれいなジャイアン」ならぬ「きれいな田中圭一」なのだ。
 ただし、随所にちりばめられた“小技”的な笑いには、ギャグマンガ家としての経験が活かされている。

 発売1ヶ月で4刷となり、5万部を突破したそうで、慶賀に堪えない。
 じっさい、読んでみると「これなら売れるだろうな」という印象を受ける。
 私はうつ病になった経験がないが、おそらく本書は、いま現在うつに苦しんでいる人が「うつヌケ」するためのきっかけになり得ると思う。十分に実用的なのだ。

 田中圭一自身のうつ脱出体験も3話にわたってマンガ化されているが、自分にとって有益だった方法や本を絶対視していない点も好ましい。

 うつ病を扱ったマンガといえば、大ベストセラーになりドラマ化・映画化もされた『ツレがうつになりまして。』(細川貂々)がある。
 「ツレうつ」が作者自身の体験のみであったのに対し、本作はいろんな人のいろんな「うつヌケ」体験が描かれているから、いっそう「あの手この手でうつに立ち向かおう」と読者に思わせ、汎用性が高い。

 我が国でもうつ病患者が増加の一途をたどり、すでに患者数が100万人を超えているといわれるなか、社会的意義も高い一冊だ。

■関連エントリ
細川貂々『ツレがうつになりまして。』
細川貂々『ツレと私のふたりぐらしマニュアル』
田中圭一『神罰』

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川口千里『CIDER ~Hard&Sweet~』



 川口千里の新作『CIDER ~Hard&Sweet~』(キングレコード/3240円)を聴いた。
 「世界が注目する女子大生ドラマー」の、満を持してのメジャーデビュー作である。

 「スムース・ジャズを中心に数多くの実績をもつプロデューサー、フィリップ・セスをサウンド・プロデューサーに迎え、ロサンゼルスにてレコーディングした渾身作!」という惹句を見て、一抹の不安を感じた。
 スムース・ジャズの好きな人には悪いが、私にとってスムース・ジャズは「毒にも薬にもならない、つまらない音楽の代名詞」なのである。「音楽は毒か薬にならなければつまらない」と思っているので、 「あんまりスムース・ジャズ寄りにならないでほしいなァ」と思いつつ聴いた。

 なるほどたしかに、千里ちゃんのソロアルバム3作のうち、いちばんジャズ・ロック色が薄く、「普通のフュージョン」色が濃いアルバムになっている。

 ジャズ・ロック好きな私としては、もっとハード一辺倒のアルバムにしてほしかったが、これはこれで悪くない。
 「もろスムース・ジャズ」という感じの甘ったるい曲はほとんどなく、曲によってはかなりハード。タイトルのとおり、ハードかつスイートなアルバムなのだ。

 千里ちゃんのドラミングも、タイトで手数が多くて心地よい。「とにかく彼女のドラムスを聴きたい」という狙いで購入した場合、その期待を裏切られることはないと思う。


↑オープニング曲「FLUX CAPACITOR」のMV。この曲はちょっとパット・メセニー・グループ的かな。千里ちゃんは、ドラムスを叩いているときの楽しそうな表情がカワイイ。

 前2作が第2期リターン・トゥ・フォーエヴァー的だとしたら、今作はチック・コリア・エレクトリック・バンドに近い、という感じ。ドラムスはちょっとデイヴ・ウェックルを彷彿とさせるし……。RTFのような重戦車的リズムではなく、もっと軽快できらびやかでスピーディーなのだ。

 悪くはないけど、私はやっぱりファーストソロ『A LA MODE』やKIYO*SENのハード路線のほうが好きだな。

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池上彰・竹内政明『書く力』



 昨日の新幹線で読んだ2冊目が、池上彰・竹内政明著『書く力――私たちはこうして文章を磨いた』(朝日新書/648円)。Kindle電子書籍で購入。

 竹内政明は『読売新聞』論説委員で、読売の一面コラム「編集手帳」を2001年から担当している人。読売きっての名文家である(朝日新書なのに読売の人を選んでいるのが面白い)。
 一方の池上彰にはあまり名文家という印象はないが、平明で読みやすい、いい文章の書き手だと思う。
 その2人が対談形式で編んだ文章読本である。

 とくに参考になるのは、竹内が書いた「編集手帳」を例として挙げ、「なぜそのような文章にしたのか?」という舞台裏を語らせた部分(たくさんある)。
 文章を輝かせる「部品」(引用句など)の見つけ方・使い方、読者を唸らせる構成の仕方など、上手なコラムの書き方が具体的によくわかる。

 2人とも、奇をてらったことは言っておらず、むしろ「基本のき」、文章術の王道という感じのオーソドックスなアドバイスが多い。そして、そのアドバイスがとても心にしみる。
 たとえば――。

 どうすれば、よい短文が書けるようになるか。
 「削る練習」しかない。毎日、文章を書いては削り、書いては削りを繰り返しているうちに、だんだん「余計な贅肉」が見えてくるはずです。(竹内の発言)



 さらさらとラクをして原稿を書いているようでは、いつまでたっても上達しない。すでに作られた自分の道具箱の中から、選択するという苦労もせずに、言葉を選んで「はい、一丁あがり!」としていても、文章はうまくならない。苦しいかもしれないけど、「よりよい表現はないか」頭を絞ったり、工夫したりしているうちに、少しずつ進歩していくものなんですよね。(池上の発言)



 肝に銘じたい。
 今後、文章につまったときなど、折に触れて読み返す本になりそうだ。

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『日本で一番悪い奴ら』



 『日本で一番悪い奴ら』を、DVDで観た。
 北海道警の警部が逮捕された「稲葉事件」をモデルにした実録犯罪映画である。




 監督の白石和彌は、前作に当たる『凶悪』もとてもよかったが、これもなかなかの力作。

 悪徳刑事を主人公にした映画というと、日本映画の場合、湿っぽくて暗い作品になりがちである(工藤栄一の『野獣刑事』とか。まあ、アレはメチャメチャ暗いけど傑作なのだが)。
 対照的に、本作は乾いたタッチで、随所に笑いがある。ブラック・コメディといってもよいくらいだ。

 主演の綾野剛も、二枚目イメージを振り払って大変な熱演。とくに、ラストに向かってだんだんボロボロになっていくあたりの迫力は素晴らしい。
 
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宮子あずさ『訪問看護師が見つめた人間が老いて死ぬということ』



 昨日は、取材で京都へ(日帰り)――。

 行き帰りの新幹線で、2冊本が読めた。
 そのうちの1冊が、宮子あずさ著『訪問看護師が見つめた人間が老いて死ぬということ』(海竜社/1404円)。取材の資料として読んだもの。

 著者は、たくさんの著書をものしているベテラン看護師。現在は精神科の訪問看護師として働いているそうで、本書はその経験から生まれたエピソードを綴ったもの。

 訪問看護という仕事のイメージが、よい意味で一変する内容だ。
 病棟勤務の看護師とは違う苦労とやりがいを赤裸々に明かして、読者の目を釘付けにする迫力がある。

 高齢化による医療費の増大を抑えるため、入院患者をなるべく減らしていこうとする世の趨勢によって、増加傾向にある訪問看護師という職業――。その内実を伝えて、社会的意義も高い本だ。 

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吉田豪『続 聞き出す力』



 吉田豪著『続 聞き出す力』(日本文芸社/864円)読了。
 
 『週刊漫画ゴラク』連載コラムの書籍化第2弾。

 第1弾同様、いちおう「聞き出す力」を高めるための実用書の体裁になっているが、たんにインタビューの舞台裏エピソード集として読んだほうが面白い。

 「べつに……」事件直前の沢尻エリカや、岡本夏生にインタビューしたときの話などは、抜群に面白いと同時に、同業者としては背筋も凍る恐怖エピソードである。

 大幅に遅刻してきた彼女は、「すいません」も「おはようございます」もなく無言でスタジオに登場。
 そこで彼女がまずやったのはスタジオのBGMを大音量のブラックミュージックにしたことであり、その後はひたすら不機嫌そうな顔でポーズを変えることもなく写真を撮られ続けることだった。その結果「沢尻さんは前に撮影してるからなんとかなりますよ」と言っていたカメラマンも緊張でガチガチになる始末。



 ううむ……。その場の張り詰めた空気を想像するだけでコワイ。

 また、「インタビューにおけるアクシデントで困るのが、取材が終わってから何も録れてないことに気付くパターンである」などという話も身につまされる。
 私は過去30年のライター経験で3回ほど、そういう経験がある。そのつど真っ青になったが、記憶だけでなんとか原稿を書いた。なので、いまは取材時にボイスレコーダーを必ず2台同時に回すし、取材前日には電池残量などをチェックする。
 吉田豪の場合、北斗晶、鉄アレイ(ハードコア・パンクバンド)、佐藤秀峰(マンガ家)のインタビューに際して録音失敗トラブルに遭遇したという。

 「身につまされ」度が高いのは私がライターであるからで、前著を面白いと感じた人なら、今回も楽しく読めるだろう。

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『スター・トレック BEYOND』



 『スター・トレック BEYOND』を映像配信で観た。



 『スター・トレック』シリーズについてほとんど何も知らない私だが、それでもけっこう楽しめた。

 アクションと人間ドラマ、シリアスとユーモアのバランスがよく、緩急のメリハリが利いていて、最初から最後まで飽きさせない。

 宇宙船などのメカの造型はキッチュでカッコいいし、主舞台の一つ「ヨークタウン」(巨大な宇宙ステーションがそのまま未来都市になっている)のランドスケープデザインは美しく、視覚的にも退屈しない。



 エンタメとしての質が高い作品だと思う。

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秋山千佳『ルポ 保健室』



 月~金と5日連続の取材を終えて、ホッと一息。

 昨日までの4日間は、永田町に通って日替わりで国会議員を取材していた。昨日は国会会期中の衆議院本館にも入れた。「気分はもう政治記者」である(笑)。


 秋山千佳著『ルポ 保健室――子どもの貧困・虐待・性のリアル』(朝日新書/842円)読了。
 元『朝日新聞』社会部記者で、2013年からはフリーのノンフィクションライターである著者が、朝日時代からつづけてきた取材をまとめた本。

 各地の学校(おもに公立中学)の保健室に通いつめ、養護教諭と保健室にやってくる子どもたちを密着取材したルポだ。
 家庭の貧困や保護者からの虐待など、さまざまな困難を抱えた子どもたちが、オアシスのように感じて通ってくる保健室。そこでくり広げられる、養護教諭と子どもたちのふれあいが、ていねいに描き出されている。

 いくら家庭的な温かみにあふれているようでも、やはりここは、子どもの生きづらさと闘う最前線なのだ。



 ――という一節が印象的だ。
 学校にも家庭にも居場所がなく、自ら命を絶つことを選びかねない子どもたち。彼らにとって、優れた養護教諭は最後の命綱になり得るのだ。
 深く傷つき、心を閉ざしていた子どもたちが、養護教諭の粘り強く献身的な「寄り添い」によって蘇生していくプロセスが胸を打つ。

 秀逸なルポ。全国の養護教諭はとくに必読だと思う。
 
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中野潤『創価学会・公明党の研究』



 中野潤著『創価学会・公明党の研究――自公連立政権の内在論理』(岩波書店/1944円)読了。

 創価学会を「選挙」という一点に絞って、公明党を「創価学会による支援」という一点に絞って描いたノンフィクションである。
 著者が岩波の『世界』に寄せてきたレポートがベースになっているが、基本的には書き下ろしだ。

 取材も丹念でよく調べてあり、なかなかの労作だと思った。
 著者の名は『世界』と本書以外では見覚えがないが、大新聞の政治記者の変名なのかもしれない。

 本書の半年前に刊行された同傾向の本、『公明党――創価学会と50年の軌跡』(薬師寺克行)は、中立を装った偏向が目立つ本だった。それに対して、本書はニュートラルな立ち位置で、「ためにする批判」や悪意は感じられない。

 ただ、読みながらずっと違和感を覚えつづける本ではあった。
 「事実でないことが書かれているわけではない(と思う)けど、うーん……、こういうことじゃないんだよなァ」という感じの違和感である。
 たとえば、次のような一節――。

 単純化して言えば、個々の学会員にとって、選挙でどれだけ票を出せるかが、いわばその人の信心が試される「勤務評定」となっており、それゆえ選挙になるとみな必死にならざるを得ない。



 「勤務評定」って(笑)。
 この一節に象徴されるように、著者は創価学会の公明党支援も、公明党のあらゆる政治活動も、損得勘定・メリット/デメリットの範疇でしか捉えていない。
 「見返りがあるから頑張る」だけではなく、宗教者ゆえの無償の情熱というものがある。むしろ、それこそが創価学会・公明党の選挙に関する「内在論理」の核なのだが、著者にはそのことが見えていないと思う。

 同様の偏見は、島田裕巳の創価学会本にもよく見られる。
 たとえば島田は、『民族化する創価学会』の中で次のように書いた。

 東京大学に合格したにもかかわらず、創価大学への進学を選ぶ者もいるほどで、そこには、組織でのし上がるためには、東京大学よりも、組織の内部で高い価値が与えられている創価大学へ進学したほうが、はるかに有利だという判断がある。



 これは要するに、“「東大卒になる」という大きなメリットをあえて捨てるからには、もっと大きなメリットがあるに違いない。それは、「組織でのし上がる」ためには創価大卒のほうが「はるかに有利」だということなのだろう”……という邪推である。

 損得ずくでしか物事を考えられないという点で、島田も本書の著者も、同じ色眼鏡で学会・公明党を見ているのだ。 
 
 巻末の「主要参考文献」に私の著書も挙げられていて、いささか複雑な気分になった。

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菅原洋平『すぐやる!』



 ジョン・ウエットン逝去――。
 昨年来、キース・エマーソン、グレッグ・レイクと、プログレ・レジェンドの訃報がつづくなあ。

 ジョン・ウエットンといえば、ロックファン一般には「エイジアのフロントマン」というイメージだろうし、プログレファンという狭い領域でいうと「第二期キング・クリムゾンの顔」というイメージだろう。
 が、私にとっては何よりも、「UKの中心者」としてのイメージのほうが大きい。私自身がロックを聴き始めた時期が、ちょうどUKの活動期に重なるからだ。

 ジョン・ウエットンはもちろん名ベーシストだが、やはりヴォーカリストとしての印象のほうが強い。彼の声自体がすごく好きだった。
 「キミタチ、サイコダヨ!(君たち、最高だよ)」――UKの日本公演を収めたライヴ盤『ナイト・アフター・ナイト』での、ジョンのたどたどしい日本語のMCを思い出す。

 ジョンのヴォーカルが冴え渡る、私のお気に入り曲を貼っておく。R.I.P.









 昨日は取材で永田町の衆院第二議員会館へ。で、今日は参院議員会館へ。

 今週は、月曜から金曜までずっと取材がつづく。
 まあ、たまにはそういうこともある。我々フリーランサーにとって、「仕事がないつらさ」に比べれば、「忙しいつらさ」など、つらさの範疇にも入らない。

 行き帰りの電車で、菅原洋平著『すぐやる!――「行動力」を高める“科学的な"方法』(文響社/1490円)を読了。
 リハビリテーション専門の作業療法士である著者が、仕事上の経験をふまえ、「後回しにせずにすぐやる力」を高める方法を開陳した本。

 類書は心理学者や脳科学者によるものが多いなか、作業療法士の目線から見た「行動力を高める方法」が説かれている点がユニークだ。
 本の企画としてはよいと思うが、内容はどうということのないものだった。

 この手の本のマイベストワンは(何度も書いているが)、先延ばしの研究をライフワークとしてきたカナダの心理学者、ピアーズ・スティールが書いた『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』である。同書を超える本はいまだにないし、本書など足元にも及ばない。

 本書は、脳科学の専門用語を随所にちりばめて信憑性を高めようとしているが、著者は脳科学の研究者でもないし、「どこまでホントなのかね?」と話半分で読んだ(偏見と言われれば偏見だが)。
 
 まあ、著者の書いている「コツ」の中に、納得のいくものもある。
 たとえば、「使ったものは元に戻す」とか、テレビなどのリモコンの定位置を決めておき、そこにいつも置いておくということが、「すぐやる力」を高めるために意外に重要だ、ということ。

 これは要するに、ルーティンでない行動は、ささいなこと(リモコンがどこに行ったか探すなど)でも脳に負担をかけるから、日常生活をできるだけルーティン化しておき、なすべき行動に振り向ける余力をキープしておけ、ということだろう。

 凡事徹底、ささいなことの積み重ねが大きなことを成し遂げるために大切だ、というのはそのとおりだ。
 でも、それは類書(たとえば、脳神経外科医・築山節氏の著書など)にもよく出てくる話で、著者の独創というわけではない。

 本書はよく売れているようだが(「8万部突破」という電車内広告を見た)、「後回しにせずにすぐやる力」を高める方法を知りたい向きには、『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』のほうを断然オススメする。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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