

坂爪真吾著『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書/886円)読了。
著者は東大で上野千鶴子に師事し、現在は
「一般社団法人ホワイトハンズ」の代表を務める人物。
「ホワイトハンズ」は、「新しい『性の公共』をつくる」をミッションに掲げ、「障害者の性」の問題の解決などに取り組んでいる。
本書もホワイトハンズの活動から生まれたもの。風変わりな性風俗の現場への取材などを通して、困難な立場に置かれた女性たちの社会的包摂の問題が考察されている。
読む前に想像していたよりもはるかに真面目な本で、内容も秀逸だった。
著者も「はじめに」で指摘しているとおり、風俗ライターやジャーナリストがこの手の本を書くと、どぎつい話、悲惨な話ばかりを強調した煽情的ルポに終わってしまいがちだ。
一方、現場を知らない社会学者などがこの手の本を書いた場合、「性産業への規制強化や撲滅といったステレオタイプの批判を繰り返し訴えるだけで、実効性のある解決策を出すことは全くできなかった」(「はじめに」)。
本書は、両者の欠点を克服した内容になっている。
著者は性風俗の当事者たちと向き合いながらも、「現場」で起きていることをいたずらに美化したり、逆に悲惨さをことさら強調したりはしない。ニュートラルな視点を保っているのだ。
そしてそのうえで、ソーシャルワークの専門家としての知識・スキル・人脈を総動員し、問題解決の方途を真摯に模索している。
その「解決」とは、ソーシャルワーカーの側から女性たちにアウトリーチすることによって、彼女らが性風俗の世界に身を置いたまま、生活改善していくことを目指すもの(もちろん、その結果として性風俗から引退することはある)。
著者は性風俗を頭から否定したりはしない。ある種の女性たちのセーフティネットとして、社会福祉を補完する役割を果たしている意義を認めているのだ。
本書に登場する性風俗は、母乳・妊婦専門店や激安デリヘル、熟女専門店などであり、そこには「女性の貧困」の問題が色濃く映し出されている。つまりこれは、「性風俗の現場」をフィルターとして貧困問題を考える書でもあるのだ。
さりとて、けっして堅苦しい本ではない。たんに下世話な興味から「風俗ルポ」として読んでも、そこそこ楽しめるように工夫されている。
たとえば、母乳・妊婦専門店について紹介した章などは、知られざる世界を垣間見る面白さに満ちている。次のような記述に、私は思わず笑ってしまった。
男性客の中で、妊婦ママとも母乳ママとも遊べる「両刀使い」は、全体の二割ほど。妊婦マニアと母乳マニアの客層は、意外にも重ならないようだ。
タバコを吸っている女性の母乳と吸っていない女性の母乳の味の違いは、分かる男性客には分かるらしい。
ううむ……。ディープな世界ですなァ。
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