古川武士『30日で人生を変える「続ける」習慣』



 古川武士著『30日で人生を変える「続ける」習慣』(日本実業出版社)を読了。
 Kindle日替わりセールでほぼ1000円割り引きの激安価格(499円)だったので、買ってみたもの。

 著者は「習慣化コンサルタント」という肩書を持ち、「習慣化コンサルティング 株式会社」という会社の社長でもある。本書のほかにも、似たようなタイトルの著書をたくさん出している。

 「よい習慣を身につけ、悪い習慣をやめる方法」というのは私にとっても強い関心のあるテーマで、類書もあれこれ読んできた。

■関連エントリ
野口吉昭『コンサルタントの習慣術』
スーザン&ラリー・ターケル『「自分の壁」を破るいちばん簡単な方法』
レオ・バボータ『減らす技術』

 それらと比べても、本書はなかなかよい。
 主張のエビデンス――学術的裏付けが希薄で、そこは難点だが、習慣化のメソッドという点では非常に明快で、読者が生活に取り入れやすい内容になっている。

 きわめてリーダブルで、たちまち読めてしまう点もよい(これほどわかりやすい本にもかかわらず、『マンガでわかる「続ける」習慣』というコミック版まで刊行されていることにビックリ)。

 学術的裏付けについては他の類書に譲るとして、「よい習慣をつける方法を手っ取り早く知りたい」という人は、本書を読んだらよいと思う。

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梶原一騎・原田久仁信『男の星座』


 
 梶原一騎・原田久仁信(くにちか)の『男の星座』が、Kindle電子書籍で全9巻630円という破格値でセールされていたので、ポチった。

 暴力事件と大病でマンガ界から消えていた梶原一騎が、復活作にして「引退記念作品」として、『漫画ゴラク』に連載した作品。連載中に梶原は50歳の若さで世を去り、未完に終わった。

 私は『漫画ゴラク』の連載をリアルタイムで読んでいたが、コミックスでまとめて読んだのは今回が初めて。
 じつに面白いマンガだと、改めて思った。読み始めると最後まで一気読みせずにいられない。

 『男の星座』は、「一騎人生劇場」と銘打たれた自伝マンガである。無頼の青春と、物書きとしての駆け出し時代の思い出が、赤裸々に描かれている。
 力道山、大山倍達、ルー・テーズ、岸恵子、柳川次郎(柳川組組長)ら、綺羅星のごとき面々との出会いから生まれた秘話が、次から次へと登場する。

 主人公・梶一太(梶原の分身)のあけすけな上昇志向など、全体に昭和の香りが濃厚な泥臭い作品。しかし、その泥臭ささえも、むしろ本作の強烈な魅力になっている。

 “25年に及んだ劇画原作者人生を、秘話も含めてすべて描き尽くす”と宣言して始まった作品だが、原作者としてスタートラインについたところまでを描いて中断してしまった。絶筆となった最後の回は、『少年マガジン』の編集長が「プロレスマンガの原作」を依頼にくる場面で終わっているのだ。

 ああ、これから『巨人の星』や『あしたのジョー』の舞台裏が、梶原自身の手で明かされるところだったのに……。また、晩年の梶原が見舞われたスキャンダルの真相も、やがては自らの手で明かされるはずだったのに……。あまりにも惜しい未完作品である。

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『デッドプール』



 立川シネマシティで『デッドプール』を観た。
 公開から1ヶ月近く経つし、平日の昼間だから、さすがにすいていた。
 平日昼間にふと思い立って映画を観に行ったりできるのが、フリーランスの醍醐味である(それくらいしか醍醐味がない)。



 シネマシティご自慢の「極上爆音上映」を初体験。

 ベテラン音響家による綿密な調整を施して今作にふさわしく大音量で上映します。
 ドームやアリーナ用の高性能サブウーファーから放たれる重低音により、爆発音や轟音などは音波で身体が震えるほどの「体感」を味わっていただけます。
 ただヴォリュームを上げるだけでなく、それでいてやかましくない、クリアな台詞と音楽を両立させるのが「極上爆音上映」。
 キレキレでゴゴゴゴなサウンドがデップーのキュートさを際立たせます!(立川シネマシティの公式サイトより)



 ……ということで、たしかに爆音なのに少しも耳障りではなかった。時々グロいけど痛快なアクションシーンの数々を、爆音で堪能。ストレス解消になった。

 映画自体もたいへん面白かった。
 「R15+」指定だけあって、下ネタ満載、ヤバめのシーンも満載。それでいて、悪ノリだけの映画ではなく、切ないラブストーリーでもある。
 観たあとに何も残らない100%の娯楽映画ではあるが、料金分はきっちり楽しませてもらった。

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欅坂46「サイレントマジョリティー」



 AKBなんたらとかの一連のアイドルグループに微塵も興味がない私だが、YouTubeでたまたま観た欅坂46の「サイレントマジョリティー」にはすっかりノックアウトされてしまい、くり返し再生している。

 「まさかこの手の曲に感動してしまうなんて……」と自分でも戸惑っているのだが、要するに私はこの曲にロック魂を感じたのだ。サウンドのフォーマットはアイドルポップであっても、ヘタなロックバンドが歌う予定調和の曲より、この曲のほうが100倍もロックだ。


君は君らしくやりたいことをやるだけさ
One of themに成り下がるな
ここにいる人の数だけ道はある
自分の夢の方に歩けばいい
見栄やプライドの鎖に繋がれたような
つまらない大人は置いて行け
さあ未来は君たちのためにある
NO!と言いなよ!
サイレントマジョリティー

誰かの後
ついて行けば
傷つかないけど
その群れが
総意だと
ひとまとめにされる



 ……という歌詞に私は胸打たれたのだが、作詞の秋元康がこの歌詞を書いた経緯は、たぶんロックスピリットとはかけ離れたものだろう。
 「CDの発売後に18歳選挙権も施行されるし、SEALDsとかの若者の政治行動が注目されてるし、タイムリーっすよね!」みたいなマーケティングに基づいて、時流におもねる形でそれっぽい歌詞を(たぶんサラサラっと)書いただけだと思う。

 そうであったとしても、結果として生まれた「サイレントマジョリティー」という曲とPVは、作曲・アレンジ・振り付け・歌唱・PV演出の奇跡のようなケミストリーによって、私のようなロック中年の心をも「ズキュン!」と射抜くロックな曲に仕上がったのだ。

 「政治的な歌」として受け止められることを当然意図したものだろうが、そうした枠を軽々と超えて、「生まれたときから不景気で、先の見えない時代を生きる『持たざる若者たち』」の力強いアンセムにもなっている。

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小谷野敦『面白いほど詰め込める勉強法』



 小谷野敦著『面白いほど詰め込める勉強法――究極の文系脳をつくる』(幻冬舎新書)読了。

 3年前に出た本で、Amazonマーケットプレイスで1円(+送料)だったので買ってみたもの。
 渡部昇一のミリオンセラー『知的生活の方法』(1976年刊)を意識して書かれた、小谷野敦流『知的生活の方法』ともいうべき本である。

 “『知的生活の方法』を呉智英は馬鹿にしていたが、それほど悪い本ではないと思う”という意味のことを小谷野は以前の著作(『バカのための読書術』)でも書いていたが、私も同感。じつは私も、少年時代に『知的生活の方法』にけっこう影響を受けた。

■関連エントリ→ 渡部昇一『知的余生の方法』

 本書は、Amazonのカスタマーレビューでおおむね酷評されている。批判の主旨は、「タイトルと中身に乖離がありすぎる。著者の自分語りが多すぎる」というもの。

 小谷野敦が出す新書は、歴史の本であれ読書術の本であれ、随所に自分語りがある。誰かが言っていたが、「私小説ならぬ“私新書”」なのであって、それはこの人の芸風だから、目くじら立てても仕方ない。愛読者はそこまで「込み」で彼の著書を楽しんでいるのだ。

 ただ、本書はほかの新書に比べても、自分語りの混入率が高い。
 たとえば、全五章のうち第一章は「私の知的生活の系譜」で、章題のとおり、小谷野自身の少年時代からの読書遍歴、知的遍歴が綴られている。ほとんど自伝に近い内容で、およそ読者の勉強法の参考になるようなものではない。

 読書遍歴だけならまだしも、「竹下景子さんと『犬笛』の思い出」という項では、ファンだったという竹下景子がヒロインの映画『犬笛』について、6ページも費やして延々と紹介している。いくらなんでも脱線しすぎ。

 第五章「バカのための英語術」も同様で、内容の九割方は“自分はじつは英語が苦手で、これまでこんなにも英語の勉強に苦労してきた”という話。読者の参考になる勉強術は、残りの一割くらいしか書かれていない。

 ただ、あとの三章は悪くない。
 第二章「知を体系化するデータベース作成法」と第三章「ネット時代だからこその検索法」は、国会図書館の上手な利用法などの細かなテクが参考になる。
 第四章「古典をどこまでどう読むか」は、本書でも何度も言及されている呉智英の名著『読書家の新技術』の、小谷野敦版という趣がある。

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『重版出来!』最終回


 
 昨夜、『重版出来!』の最終回を観た。
 テレビドラマを全話リアルタイムで観た(一部「見逃し配信」でカバーしたが、とにかく全10話を放映日のうちに観た)のは、私にとっては『結婚できない男』以来だから、じつに10年ぶりのことだ。



 最後まで、素晴らしいドラマであったと思う。
 原作に忠実ながらも随所に工夫がある脚本といい、俳優陣の熱のこもった演技といい、細部のリアリティへの周到なこだわり(本物の売れっ子マンガ家たちに描き下ろさせたマンガ原稿など)といい、スタッフサイドの熱意が隅々に感じられた。

 視聴率が低いと言われていたが、コミック誌の編集部が舞台であること自体、およそ一般的な題材とは言えないわけだし、そのわりには大健闘だったのではないか。

 そもそも、視聴率1%が約40万人の視聴に相当すると言われているから、7~8%の視聴率というのは300万人程度が観ていることになるわけで、じつは大変な数なのである。

 町山智浩さんがラジオの「たまむすび」で『重版出来!』を絶賛しており、そこまでホメるとは思わなかったのでちょっと驚いた。

 まあ、元編集者であり、『重版出来!』の重要な要素となっていた出版不況の進行を肌で知る町山さんにしてみれば、身につまされることこのうえないドラマだったのであろう。

 その点は私にとっても同じだ。
 雑誌編集の世界をよく知り、マンガ好きな私としては、これほど身につまされるドラマはほかになかった(雑誌編集者を主人公にしたドラマといえば、沢尻エリカ主演の『ファーストクラス』というのがあったが、これは荒唐無稽で観るに堪えなかった)。

■関連エントリ→ 木村俊介『漫画編集者』(『重版出来!』の担当編集者も登場)

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菊フィーチャリング鮎川誠、シーナ&ロケッツ『ROCKN' ROLL MUSE』



 菊フィーチャリング鮎川誠、シーナ&ロケッツの『ROCKN' ROLL MUSE』(SPACE SHOWER MUSIC/3024円)をヘビロ中。

 元サンハウスの「菊」こと柴山俊之が、サンハウス時代からの盟友・鮎川誠とともに作り上げた(プロデューサーも鮎川)、「生誕69(ロック)年記念アルバム」。菊の69歳の誕生日である6月9日――つまり昨日発売されたばかり。

 シーナ&ロケッツのオリジナルメンバーであり、サンハウスのメンバーでもあった奈良敏博、川嶋一秀をリズムセクションに迎えた本作は、「めんたいロック」のレジェンドが21世紀に蘇ったアルバムといってよい。

 菊のソロアルバムではあるが、実質的には「21世紀のサンハウス」であり、サンハウス名義で出してもよかった気がする(昨年亡くなったシーナさんの名を、タイトルに刻みつけたかったのかも)。

 菊と鮎川の共作による新曲を10曲収録。ほかに、サンハウス時代の代表曲「キングスネークブルース」「もしも」「ふっと一息」が、再演されて収められている。新曲は粒ぞろいで、捨て曲なし。



 全体的には、サンハウスが1983年に再結成された際の傑作ライヴ盤『クレイジー・ダイアモンズ』(私も大好きなアルバム)を思わせる仕上がり。つまり、ブルースロックを基本にしながらも、パンクロック的な疾走感が加味された音だ。

 スタジオ一発録りでアナログレコーディングされたそうで、ライヴのような臨場感と熱気に満ちている。
 鮎川のギターも、菊のヴォーカルもカラカラに乾いていて、日本的な湿り気は皆無。梅雨空を吹き飛ばす爽快なロックンロール・アルバムだ。

 音楽ライターの内本順一さんが、以前ブログで次のように書いていた。

(サンハウスには)それまで観た日本のどんなロック・バンドとも異なる“やばさ”があった。
やばさの度合いが違っていた。
ヘンな譬えでなんだが、彼らに影響されて出てきたいくつもの福岡のバンドをチンピラのかっこよさとするなら、サンハウスはヤクザの怖さのようなものがあったのだ。



 言い得て妙である。そして、サンハウスの「怖さ」をもっぱら担っていたのは、鮎川ではなく菊であった。
 この新作でもその「怖さ」「ヤバさ」は健在で、ドスの利いた迫力が全編に満ちている。69歳でこのパワーはすごい。

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薬師寺克行『公明党』



 薬師寺克行著『公明党――創価学会と50年の軌跡』(中公新書/907円)読了。

 公明党の歴史と現在についての概説書である。著者は元『朝日新聞』政治部長で、現在は東洋大学教授。

 従来、公明党についての一般書は、ほぼ100%の否定か、ほぼ100%の肯定のいずれかに限られ、中立的なものは皆無に等しかった。
 本書は、少なくとも大枠においては中立的な内容であり、それなりに意義のある本といえよう。

 多くの資料を駆使し、独自取材も重ねてよくまとまっている本で、公明党入門としては及第点という印象だ。
 ただ、公明党について一通りのことを知る者にとっては、内容はあたりまえのことが大半で、驚きや発見はほとんどない。

 私にとって新鮮だったのは、ヨーロッパ等の連立政権との比較によって、自公連立政権が「世界的にも特異」であることを解説した第10章(「特殊な『選挙協力連立政権』――二◯◯九年~」)のみだ。

 また、本書は大枠こそ中立的だが、ディテールに偏りと悪意が感じられる。使用資料のセレクト、言葉の選び方などの中に、“中立を装った偏向”が潜んでいるのだ。
 たとえば――。

 かつての公明党は福祉や教育などの限られた分野でもっぱら活躍していたが、近年は財政や安全保障など、国家の根幹にかかわる分野でも、連立政権の中で存在感を発揮するようになった。
 そうした変化は、公明党という政党の成熟を示すものだと私は思うが、著者はそう考えないらしい。終章の結論部分には、次のような記述があるのだ。

 公明党は何をめざしているのだろうか。公明党はこれまで「福祉」や「教育」など特定分野で自主性を発揮してきた政党であり、自民党のようにあらゆる分野の政策に対応する「総合デパート」的な政党ではない。そうした政党が自民党と連立政権を作り、国政全般に対応していかなければならなくなった。では、公明党にその用意があるのだろうか。
(中略) 
 公明党が重視する「大衆」は、五◯年の間に大きく姿を変えてしまった。



 私はこの一節に、著者の公明党蔑視ないし軽視を感じる。
 「公明党は福祉や教育だけ頑張っていればよいものを、分不相応に国の根幹部分に手を伸ばしてくるな」という、この国のエリート層のホンネが透けて見える気がするのだ。

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『実録 最底辺の女たち』



 『実録 最底辺の女たち 三才ムック vol.799』(三才ブックス/540円)読了。
 
 定価は540円だが(紙版は980円)、先日Kindle電子書籍の半額セールをやっていたときに、安かったのでなんとなく買っておいたもの。

 「三才ムック」といえば、昔の『探偵の本――知られざる興信所の世界に迫る!』とか好きだったなあ。
 鉄人社の「裏モノ」の類似シリーズだが、三才ムックのほうが味のある本が多い気がする。

 本書は、おっさんライター陣が自らの「出会い系」体験記を綴ったレポート集。
 ライターの名前すら一切記されていない。「名前のない女たち」ならぬ、「名前のないライターたち」の仕事。コンビニの棚によく並んでいるような、読み捨てのワンコインムックのたぐいである。

 とはいえ、どのライター(何人で書いているのかも不明。実は1人だったりして)も文章はわりと面白いし、なかなか読ませる本に仕上がっている。意外な拾いものだった。

 『闇金ウシジマくん』によく出てくるような、ぶっ壊れた感じの女たちが次から次へと登場する。
 昔の『噂の眞相』風に言えば「ヒューマンインタレストあふれる」世界が展開され、読み始めると最後まで読まずにいられない。

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『紙の月』



 『紙の月』がAmazonのプライムビデオに入っていたので、観てみた。



 まあまあ面白かった。
 が、ヒロインの銀行員(宮沢りえ)が大学生と不倫に陥るまでと、そこから横領を始めるまでのプロセスに、ものすごく唐突感があった。
 そこに至るまでの心の葛藤とか、不倫の前提となる夫との確執が、映画ではほとんど描かれていないのだ。

 当方、角田光代の原作は未読だが、おそらく原作ではそのへんが綿密に描き込まれていて、読者が自然にヒロインに感情移入できる(=共感はしなかったとしても、不倫と犯罪に走った心情が理解できる)ようになっているのだろう。

 この映画版は、横領が始まってからのサスペンス描写に的が絞られている。その分、横領に至るプロセスを端折りすぎだと思う。

 とはいえ、宮沢りえは大変な熱演だし、助演陣も総じて頑張っている。

 ベテラン銀行員役・小林聡美、次長役・近藤芳正の演技の評価が高いようだが、私はむしろ、ヒロインと不倫する大学生を演じた若手俳優・池松壮亮の演技に感心した。
 軽薄でちゃらちゃらして、年上の女性に甘える手練手管だけはすごいという、鼻持ちならない若者を見事に演じている。
 「ヒロインはなぜこんな奴のために人生を棒に振るのか」と、観ていて怒りさえ込み上げてくるほどの名演だ。

 なお、エンディングテーマに使われているのは、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名曲「FEMME FATALE(宿命の女)」。「この曲しかないでしょ」という感じのハマり具合である。



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『繕い裁つ人』



 『繕い裁つ人』をDVDで観た。池辺葵の同名マンガを映画化した、2015年作品。

 オーダーメイドで服を作る「南洋裁店」の2代目店主・南市江(中谷美紀)と、彼女の作る服に惚れ込み、ブランド化しようとする百貨店のバイヤー・藤井(三浦貴大)を中心とした物語。



 終盤にさしかかったあたりでようやくストーリーが大きく動き出すのだが、そこまでの展開がなんとも起伏に乏しく、かったるい。
 私が洋裁にまるで興味がないから、よけいにそう感じるのかもしれないが……。

 それに、不自然な点がいっぱいある。たとえば――。

 藤井は市江の出かける先にいちいちついていき、仕事熱心というより、まるでストーカーだ。百貨店のバイヤーならほかにも仕事がたくさんあるだろうに、市江につきっきりなのは不自然。

 南洋裁店の服が街の人々に愛されている……というのはまあいいとしても、そこで服をあつらえた人々がその服を着て集う「夜会」(弦楽四重奏団が入ったりする)が毎年開かれるという設定は、なんだかなぁ~。

 まあ、これはリアルな物語というより、「洋服好きなオトナ女子向けのファンタジー」なのだろう。
 ワタシ的には、終盤で黒木華の可憐なウェディングドレス姿が堪能できたので、よしとしよう。
 
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森正人『戦争と広告』



 森正人著『戦争と広告―― 第二次大戦、日本の戦争広告を読み解く』(角川選書/1836円)読了。書評用読書。

 戦時下の日本を、当時の広告や雑誌記事から読み解いていく本である。
 すでに類書も多い(『戦争と広告』という同タイトルの本も過去にあった)から、類書にない斬新な切り口を出せるかどうかが、著者の腕の見せどころとなる。

 類書の一つ、早川タダノリの『神国日本のトンデモ決戦生活』や『「愛国」の技法』は、戦時下の広告を現在の視点から笑い飛ばすユーモア読み物であり、かなり笑える。それに比べると、本書はガチガチにアカデミックな著作で、笑いの要素は絶無。

 本書の価値・独創性は、読み物としての面白さではなく、別方向にある。

 一つは、「広告」といってもかなり広義の広告を扱っており、戦意高揚のために開かれた展覧会・博覧会の内容までが検証されている点。
 また、第4章「二一世紀における大東亜戦争」では、今世紀に入ってからの日本で開かれた「平和展示(戦争記録展示)」の内容が検証されている。そのような射程の長さが、本書の独創性である。

 ただ、第4章で百田尚樹の『永遠の0』の原作と映画版を比較検証している箇所は、さすがに間口を広げすぎで、蛇足だと思った。

 本書のもう一つの特徴は、著者が歴史学者ではなく、文化地理学を専門とする地理学者(三重大学准教授)である点。
 地理学者として、視覚文化研究の視点から昭和の戦争を論じたからこそ、本書では各種展示会の内容が重きをなしているのだ。

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『幕が上がる』



 『幕が上がる』を、DVDで観た。
 「ももいろクローバーZ」の面々が主要キャストを演じるアイドル映画……ではあるのだが、オーソドックスな青春映画として十分鑑賞に堪える。



 私はももクロについて何も知らない(主演の子以外は誰がももクロなのかわからなかった)ので、「ファンにしかわからないくすぐり」は全部スルーしてしまったのだと思うが、それでも楽しめた。

 高校の弱小演劇部が、かつて「学生演劇の女王」と呼ばれた新任教師との出会いによって、その潜在能力を開花させ、全国大会を目指す物語。原作は劇作家・平田オリザの同名小説だ。

 その教師・吉岡美佐子を演じるのが、黒木華。彼女自身も高校・大学と演劇部で活躍していたそうだし、これ以上ないハマり役である。

 共学校が舞台だし、凡庸な作り手が映画化したなら、間違いなく恋愛要素を上乗せしてきたと思う。しかし、本作は恋愛要素がまったくなく、ストイックなまでに女子高生たちの友情に的を絞っている。そこがよい。
 そのかわり、女子高生同士の擬似恋愛要素(百合要素)も盛り込んで、そこで観客をドキドキさせるのだが……。

 『がんばっていきまっしょい』や『スウィングガールズ』に匹敵する……否、2作を超えたかもしれない「部活映画」の秀作。

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マイケル・ボルダック『行動の科学』



 マイケル・ボルダック著、吉田裕澄・高野内謙伍訳『行動の科学――先送りする自分をすぐやる自分に変える最強メソッド』(フォレスト出版/1620円)読了。

 書名と副題に惹かれて読んだのだが、タイトルとは裏腹にあまり科学的とは言えない内容であった。
 まあ、著者は科学者ではなくコーチング・ビジネスのコンサルタントだから、無理もない。要は、よくある自己啓発書である。

 先延ばし癖克服の科学的研究書としては、当ブログで何度も言及しているピアーズ・スティールの『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』がベストワンで、これを超える本はたぶん今後も出ないだろう。

 とはいえ本書も、自己啓発書と割りきって読む分には悪い本ではない。
 なにしろ、著者は「世界No.1の目標達成コーチ」だそうだから、何かの目標達成に向けて自分を鼓舞するための本としては、よくできている。

 たとえば、適切な目標の定め方の基準として、「50%の確信度を感じるレベルで設定すること」が大切だと説くあたり、なるほどと思った。それより高くても低くてもモチベーションが上がらない、というのだ。

 ただ、「あなたの価値観・考え方を変えろ」という趣旨の言葉がくり返し登場する点には、首をかしげた。
 人間の価値観・考え方は、長い人生を通じて築き上げてきたものなのだから、変えようと思っても一朝一夕に変わるはずがない。価値観を変えるためのメソッドの部分が、本書はあまりにも薄すぎると思う。

■関連エントリ→ イ・ミンギュ『「先延ばし」にしない技術』

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『マリリン 7日間の恋』



 いまさらながら、『マリリン 7日間の恋』を映像配信で観た。2011年のイギリス映画。
 マリリン・モンローが1957年に英国に招かれて撮影した、ローレンス・オリヴィエ監督・主演の映画『王子と踊子』。その舞台裏で生まれた、サード助監督の青年コリン・クラークとの淡いロマンスを描いた実話である。

 とてもよい映画。モンロー役のミシェル・ウィリアムズにも違和感はないし、ヘタに大作にせず、約100分のこじんまりとした映画にしたあたりも好感が持てる。

 何より強烈な印象を残すのは、モンローのメンヘラ女ぶりである。
 睡眠薬の飲み過ぎで起きられずに撮影をすっぽかしたり、撮影中に演技に自信を失ってフリーズしてしまったり、スタッフがみんな自分を嫌っているという被害妄想に陥ったり……。

 この撮影からわずか5年後に、モンローは36歳の若さで謎の死を遂げる。その死をめぐってはケネディとの不倫をふまえた謀殺説があるが、「まあ、いずれにしても長生きできないタイプだったのだろうな」と思う。
 


 上に貼った高木壮太のツイートに私はいたく感銘を受けたのだが(わずか140字の中に一つの世界が構築されている。屈指の名ツイートだと思う)、マリリン・モンローこそ「史上最強のメンヘリエンヌ」だったのだと、この映画を観て思った。
 「狂気がキラキラ輝いてエロスを演出している『メンヘリエンヌ』」だからこそ、男は誰しも彼女にのめり込み、「ほっとけない」と感じて夢中になったのだろう。

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佐藤優・竹内久美子『佐藤優さん、神は本当に存在するのですか? 』



 このところ、「リオ五輪を支える日本の中小企業」という企画で、五輪公式サプライヤーとなった企業の取材をしている。
 どの企業にもドラマがあるし、日本のものづくりの底力を垣間見るようで楽しい。“リアル『下町ロケット』”という趣なのだ。

 昨日は、千葉県流山市の卓球台メーカーを取材。
 行き帰りの電車で、佐藤優・竹内久美子著『佐藤優さん、神は本当に存在するのですか? ――宗教と科学のガチンコ対談』(文藝春秋/1620円)を読了。

 リチャード・ドーキンスの『神は妄想である』を話の入り口に、神学と科学の接点(というか衝突点)を軸に話が展開する対談集である。
 タイトルが示すとおり、竹内久美子はどちらかといえば聞き役に回っており、「近代プロテスタンティズムにおける神概念」について佐藤さんがさまざまな角度から説明するくだりが多い。
 
 「ガチンコ対談」という副題どおり、議論の火花が散る箇所も一部にあるが、全体としてはなごやかな雰囲気の対談だ。

 私のような門外漢から見ると、キリスト教と神のイメージがかなり変わる内容である。たとえば、佐藤さんの次のような発言に驚いた。

 われら神学をやってきた人間からすると、ドーキンスの議論というのは、二十世紀の神学者カール・バルト以前の議論であって、すでに僕らから見ると解決済みとしか思えない。(中略)人間が自分の願望とか願い事でつくり上げてきた神様は、キリスト教が禁止しているところの偶像だということになった。プロテスタント神学のほうではね。



 対談の最後にも、ダメ押しのように次のような発言がある。

 フォイエルバッハが言うように、神学の秘密は人間学なんです。神が人間をつくったんじゃなくて、人間が神をつくった。だから人間の側からしか神について語れない以上、裏返して、人間学を高めて神学にしていくしかない。



 竹内の話の進め方もうまく、読む前に予想したよりもずっと質の高い対談集だった。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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