fox capture plan『WALL』『BRIDGE』など



 最近気に入ってます、「fox capture plan(フォックス・キャプチャー・プラン)」。
 「キツネ捕獲計画」という奇妙な名前をもつ、ピアノ/ウッドベース/ドラムスのトリオだ。

 ビル・エヴァンスの曲でも演りそうな編成だが、実際に演っているのはジャズ・ロック。それも、リターン・トゥ・フォーエヴァーとかの古いタイプのジャズ・ロックではない。ポストロックやクラブサウンドの色合いを取り入れた、21世紀型ジャズ・ロックである。

 アコースティックな楽器編成にもかかわらず(ただし、ピアノは電子ピアノを生ピアノ・モードで弾いている)、サウンドにはオーガニック/アコースティックな印象がまったくない。よい意味で人工的で、クールな音。

 美メロの曲が多いのだが、複雑な曲構成と手数・音数の多いテクニカルな演奏のため、たんなるBGMにはなっていない。
 いや、BGMとして流しても心地よいのだが、つい聞き耳を立ててじっくりリスニングしてしまうのだ。

 私はYouTubeで彼らの「疾走する閃光」という曲を偶然に聴き、久々に鳥肌が立つような感動を味わった。



 まさに「疾走する閃光」というタイトルにふさわしい、疾走感と浮遊感を併せ持ったカッコイイ曲。
 で、この曲が入ったアルバム『WALL』を皮切りに、『BRIDGE』『trinity』『UNDERGROUND』『COVERMIND』といったアルバムに次々と手を伸ばしてみたしだい。

 ただ、5枚つづけてアルバムを聴いたので、さすがにちょっと飽きてきた。
 どのアルバムも洗練されていて、テクニカルでカッコイイ。カッコイイのだけれど、あまりに一本調子で、曲の区別、アルバムの区別がつきにくいようなところがある。
 たとえば、「疾走する閃光」と「衝動の粒子」、「RISING」をつづけざまに聴くと、どれがどの曲かわからなくなってくる。





 今後、fox capture planがより幅広いリスナーに受け入れられるためには、そのへん、一考を要するのではないか。老婆心ながら……。

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ジェームズ・R・フリン『なぜ人類のIQは上がり続けているのか?』



 ジェームズ・R・フリン著、水田賢政訳、斎藤環解説 『なぜ人類のIQは上がり続けているのか?――人種、性別、老化と知能指数』(太田出版/2700円)読了。

 IQ(知能指数)のスコアは、過去100年にわたって上昇をつづけている――この現象は、発見者の名を取って「フリン効果」と呼ばれる。
 本書は、「フリン効果」の発見者自身が、IQが上昇をつづけていることの理由と意味を探ったものである。

 本文は、かなり読みにくい。そもそも一般向け解説書ではなく、学術論文に近い専門書であるからだ。無味乾燥なデータの羅列がつづく部分も多い。
 また、IQ70以下の犯罪者は死刑が免除される、などというアメリカの特殊事情に準じた記述もあり、そのへんは我々日本人にはわかりにくい。

 そんなわけで、「面白く読める」というたぐいの本ではないが、それでも随所に驚きがあり、一読の価値はあった。

 また、精神科医の斎藤環が「はじめに」と「解説」を寄せているのだが、これが優れた文章で、独立した価値がある。本書の的確な要約になっていると同時に、本文にはない独自の視点も加えられた名解説だ。


↑フリン自身が「フリン効果」を解説した「TED」の動画。「字幕」ボタンを押すと日本語字幕が表示される。 

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テイスト『ワイト島のテイスト』



 テイストの『ワイト島のテイスト』(ユニバーサル)を購入。

 テイストは、ロリー・ギャラガーがソロになる前にやっていたロックトリオ。スタジオ盤2枚を出したのみで解散してしまった短命なバンドで、解散後に2枚のライヴ盤が発表された。
 これはそのうちの1つで、1970年の伝説的な「ワイト島フェスティヴァル」(第3回)でのテイストのステージを収録したもの。私は今回初めて聴いた。

 このアルバムはスゴイ! 全編ギターの洪水。しかも、重く分厚いサウンドが怒涛のように迫ってくる。音質もよい。
 ソロになってからのロリー・ギャラガーはもっとブルース色が強いが、本作はあくまで「ブルース・ベースのハードロック」である。
 まるでクリームかジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのよう。じっさい、その2つのロックトリオが彼らのお手本だったのだろう(テイストはクリームの解散コンサートで前座を務めて注目され、「クリームの再来」とも呼ばれた)。

 私はソロになってからのロリー・ギャラガーも好きだけれど、テイストのこのサウンドのほうが好みだ。ロリーのソロはハードなギターの底に漂う「男の哀愁」が魅力なわけだが、本作での彼のギターには哀愁など微塵もなく、ひたすら奔放で荒々しい。そこがよい。


↑このアルバムのオープニング曲である「What's Going On」の映像。

 テイストがもう少し長くつづいていれば、現在のように「知る人ぞ知る」存在に終わらず、クリームの後を継ぐビッグネームになっていたに違いない。

 なお、このワイト島フェスのステージは先ごろDVD化された。そちらも買ってみることにしよう。

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宮下奈都『スコーレ№4』



 今日は、文藝春秋本社で小説家の宮下奈都さんを取材。
 宮下さんは「顔文一致」というか、小説のイメージそのままの清楚で素敵な奥様であった。

 もう一冊、旧作『スコーレ№4』(光文社文庫)を読んで臨む。
 2007年に書かれた代表作の一つで、ヒロインの少女時代から、成人して生涯の伴侶に巡り合うまでが4部作形式で描かれる。「スコーレ」とは学校のこと。中学・高校・大学・就職先という4つの「学校」に出合って、ヒロインが少しずつ成長していくプロセスを丹念に追っていく。

 これも素晴らしい作品だ。4部作を読み進めるうち、ヒロイン・津川麻子が現実の友人(ないしは友人の娘さん)のように思えてきて、彼女の人生を応援したくなってくる。

 少女時代が描かれた「№1」「№2」には恋愛小説としての色合いが濃く、それぞれ清冽で美しい恋愛小説になっている。また、就職後の悪戦苦闘が描かれた「№3」は、何よりもまず「仕事小説」だ。

 よい文章がたくさんある。たとえば、ヒロインの中学時代が描かれた「№1」の、次のような一節。

 もうすぐ一学期が終わるというのに、中学校には慣れることができない。あっちも嘘、こっちにも嘘。全然ほんとうの匂いがしない。息を吸っても吸っても肺の底まで酸素が届かない感じがする。学校にいる間、だから私は息をひそめて不機嫌をなだめている。学校では何かが起きそうなのに、実際には何も起こらない。いいことも、悪いことも、どかどかやってくるくせに、あちこち踏み荒らしてあっという間に通り過ぎていく。後には何も残らない。通り過ぎるまでは、おへそに力を込め、脇をしっかり締める。これで防御の体勢だ。振りかかる火の粉も、うろつく感情の波も、皮膚の内側まで入り込むようなことはない。



 これはまあ、思春期特有の自意識過剰――身もフタもなく言えば「中二病」的心理状態の描写であるわけだが、「中二病」をこんなに繊細な文章で表現できることが素晴らしい。

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宮下奈都『よろこびの歌』『誰かが足りない』



 宮下奈都著『よろこびの歌』(実業之日本社文庫)、『誰かが足りない』(双葉文庫)読了。

 著者インタビューの準備として、宮下さんの旧作を読んでみた。
 ほんとうは、作家にインタビューする場合には全作品を読んで臨みたいところ。なかなか時間的にそうもいかないので、「可能な範囲で旧作も読む」という準備をすることになる。

 『誰かが足りない』は、「本屋大賞」にもノミネートされた作品。同じ日に一つのレストランを訪れた6組の客――それぞれの物語が描かれた短編連作。
 当のレストランの描写がほとんどないという、凝った作り。そのレストランでどんなスタッフによってどんな料理が供されるのかは、読者の想像にまかされているのだ。

 6編中、私がいちばん気に入ったのは、認知症になった老齢の女性の心象風景を描いた「予約2」。次の一節が痛切だ。

 ときおり訪れる正気のたびごとに、私は夫の死を新しく知るのだ。それをいつか安らかに受け入れられるときが来るのだろうか。



 誰かとても大切な人を、私は思い出すことができなくなってしまっている。私には誰かが足りない。



 『よろこびの歌』は、青春音楽小説の傑作。
 新設女子高の1クラスの人間関係が、校内合唱コンクールを機に深まっていくプロセスを、6人の少女を1人ずつ主人公にした短編連作で描いている。

 ある一編に脇役として登場した少女が、次の一編では主人公となるという、ロンド形式。
 各編とも趣向が凝らされ、独立した短編としても楽しめるし、通読するとジグソーパズルが完成して一枚の絵となる感覚を味わえる。

 本書の解説で、作家の大島真寿美が宮下作品を「静物画」に喩えている。たしかに、どの作品も共通して静謐な印象を与える。
 暴力描写や煽情的性描写は一切なく、登場人物が叫んだり罵ったりする場面もなく、丹念な心理描写や風景描写などだけで読者をぐいぐい引っ張っていく。非日常を描くのではなく、日常の豊かな手触りを慈しむように描く、という趣。

 派手さはないものの、とても心地よい小説を書く人だと思う。 

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貞本義行『新世紀エヴァンゲリオン』



 貞本義行によるマンガ版『新世紀エヴァンゲリオン』が、Kindle電子書籍で1巻50円の激安価格で売られていたので、全14巻をまとめ買い。まとめて買っても700円!

 私は元のテレビアニメ版も観ていないし、劇場版の第1作をレンタルDVDで観たことがあるだけ。
 なので、『新世紀エヴァンゲリオン』に関してはほとんど何もわかっていないのだが、このマンガ版は面白くて全巻一気読み。なるほど~、こういう話だったのか(アニメ版とは展開がかなり違うらしいが)。

 『エヴァンゲリオン』については、すでにあらゆる人に語られ尽くされているのだろうし、いまさら私ごときが屋上屋を架してもアレなのでコメントは差し控えるが、思っていたよりもずっと深みのある内容だった。

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『アオイホノオ』



 今日は、都内某所で音楽プロデューサー・評論家の立川直樹さんを取材。
 少年時代に立川さんの書かれたライナーノーツとか音楽評論などを山ほど読んだ身としては、とても楽しい取材。
 立川さんは60代後半だが、いまもよい意味での不良っぽさをたたえた、カッコイイ人であった。


 島本和彦の同名マンガをテレビドラマ化した『アオイホノオ』がAmazonのプライムビデオに入っていたので、観てみた。面白くて、つい全11話を一気に観てしまった。

 島本作品の実写映像化といえば、映画『逆境ナイン』もかなりよかったが、この『アオイホノオ』も素晴らしい。スタッフたちの原作へのリスペクトが感じられる、力の入った映像化だ。

 島本和彦自身が1人のマンガ家志望者であった大阪芸術大学時代をベースにした、自伝的青春コメディ。
 同期に庵野秀明がいたり、のちにマンガ界・アニメ界でひとかどの者となる人材が大芸大に集結していた時代であり、本作でも庵野は主人公・焔燃(ホノオ・モユル/島本の分身)の最大のライバルとして描かれる。

 舞台となる1980年代初頭の、オタク文化黎明期の出来事が随所に盛り込まれている。
 その時代を肌で知る私のような世代は、いちいち懐かしくて、面白くてたまらない。「ドラマで描くオタク文化黎明期」として、映像資料的価値も高いドラマである。

 また、そうした時代性を抜きにしても、いわゆる「ワナビ」の若者たちのイタさと熱さがふんだんに盛り込まれた青春ドラマとして、普遍的な面白さと感動を持つ作品だと思う。
 マンガ家・小説家・ミュージシャンなど、広義の「表現者」を目指した時期のある「ワナビ」や「元ワナビ」なら、焔燃の心の揺れ動きが手に取るようにわかるはずだ。大げさにデフォルメされているとはいえ、ワナビたちは大なり小なりこんなふうに悩み、もがき、のたうち回るものなのだ。

 焔燃役・柳楽優弥の熱演も素晴らしいのだが、『少年ジャンプ』の熱血ハードボイルド編集者・MADホーリィとか、ブッ飛んだ脇キャラたちがもうサイコー。



 このスタッフと出演陣で、焔燃がプロになってからの話(ただし、こちらは「炎尾燃」名義)である名作『燃えよペン』も実写化してほしいなァ。 

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宮下奈都『羊と鋼の森』



 宮下奈都(なつ)著『羊と鋼の森』(文藝春秋/1620円)読了。著者インタビューのため。

 調律師になりたての青年を主人公にした、一種の「ビルドゥングス・ロマン」である。当然「音楽小説」でもあるし、ある種の「青春小説」でもある。

 元々音楽に造詣の深い作家である著者だが、それに加え、調律師の人たちに丹念な取材をして執筆に臨んでいるようだ。
 調律師の目から見た音楽の世界がリアルに描かれ、すこぶる新鮮。こんな形の音楽小説があったのかと、意表をつかれる思いがする(熊谷達也にも『調律師』という小説があるが)。

 何より、静謐な印象の小説である。色恋沙汰も一切ないし、登場人物が声を荒げるような場面もない。新米調律師が、小さな挫折や失敗をくり返しながらも、一人前になっていく成長のプロセスが、慈しむような筆致で描かれていく。

 クラシック音楽の好きな人、とくにピアノが弾ける人ならいっそう深く味わえるだろうが、そうでなくても十分に楽しめる。
 これは狭義には音楽小説だが、プロフェッショナルが仕事に向かう姿勢を描いた仕事小説でもある。読者はそれぞれ自分の仕事に引き寄せて、主人公の成長過程を見ることができるのだ。
 「仕事の中の喜びとは何か?」を、読者に問いかける小説といってもよい。

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三浦瑠麗『日本に絶望している人のための政治入門』


 
 昨日は、取材で京都へ――。

 帰途、少し観光気分も味わいたいと思って、「伏見稲荷大社」に寄ってみた(取材先への途中に最寄り駅があったので)。

 外国人観光客に人気ナンバーワンのスポットなのだそうだ。たしかに、参拝客は外国人のほうが多い感じ。
 私は初めて行った(見ただけ。参拝はなし)。紅葉が美しかったし、まあ、一見の価値はあった。たまたまやっていた「神楽」も最後まで見てしまった。



 帰りの新幹線で、三浦瑠麗(るり)著『日本に絶望している人のための政治入門』(文春新書/842円)を読了。

 話題の美人政治学者(それにしても、この「瑠麗」というきらびやかな名前、美人でなかったら荷が重いよな)が、自身のブログ「山猫日記」をベースにまとめたもの。著者にとって初の新書、初の一般向け単著である。

 なかなか魅力的なタイトルではあるが、内容はとくに入門書という感じではない。ふつうの政治時評集である。
 ただ、著者が「あとがき」に「構造に着目した分析を心がけています」と書いているとおり、構造的な分析が勝った時評なので、その分だけ一般的な時評よりは入門寄りといえるかも。

 「この著者は安倍政権にすり寄っていてケシカラン!」というAmazonのカスタマーレビューが散見する。とくに右翼的でないのに安倍政権に好意的(集団的自衛権行使にも賛成)であるのは、いまの言論界では特異な立ち位置かも。

 著者は、いまの政治学者の中でも言葉のセンスが抜きん出ていると思う。「うまいこと言うもんだなあ」と感心するキラーフレーズが随所にあるのだ。

 たとえば、ロシアのクリミア編入に際しての欧米の対応を批判した、次のようなくだり。

 私が非常に気になるのは、ウクライナ全体の安定と人々の安全が問題の核心であるはずなのに、EU諸国やアメリカが、益がないばかりか非現実的な対応をしていることです。まず、欧米の指導者や識者の頭の中には、民衆革命のファンファーレが高らかに鳴りすぎています。これは、欧米の指導者の自国の歴史の自画像が作り出す、根強い、往々にして害のある思考パターンです。



 この文のキラーフレーズは、「頭の中には、民衆革命のファンファーレが高らかに鳴りすぎています」だ。このフレーズに込められたアイロニーの痛烈なこと。

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下斗米伸夫『プーチンはアジアをめざす』



 下斗米伸夫著『プーチンはアジアをめざす――激変する国際政治』(NHK出版新書/799円)読了。仕事の資料として。

 ロシア政治論を専門とする著者(法政大学教授)が、プーチン大統領を軸にロシアを、またロシアを軸に国政政治の「いま」と「これから」を論じたもの。
 非常によくまとまった、優れた概説書である。ちょうど一年前に出た本だが、いま読んでも十分新鮮な内容だ。

 この著者の本は『日本冷戦史』というのを読んだことがあるが、本書よりもずっと論文臭が強い本だった。それに対して、本書は大変わかりやすく読みやすい。
 巻末に「編集協力 宮島理」とあるので、おそらく、優秀なフリーライターである宮島理(ただし)が著者の話をまとめたものだろう。著者本人が文章を書いていたら、これほどわかりやすくはならなかったはずだ。

 専門家を著者とした一般書で、奥付などに「編集協力 ◯◯◯◯(ライターの名前)」という表記があった場合、たいていはそのライターが名義上の著者の話をまとめた「聞き書き」なのだ。
 もちろん、例外もある。ホントの「編集協力」(資料集めとかデータ取材とか)だけをして、名義上の著者が実際の文章も書いているケースである。

 ま、それはともかく、本書は大変ためになる本であった。
 プーチンが強権的ではあっても優れた政治家であることがよくわかるし、日本人にとってはわかりにくいウクライナ危機の背景がすっきりと理解できる。

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中川学『群馬県ブラジル町に住んでみた』



 中川学著『群馬県ブラジル町に住んでみた――ラテンな友だちづくり奮闘記』(メディアファクトリー/1026円)を読んだ。

 「ブラジル町」とは、町民の1割以上がブラジル人・ペルー人だという、群馬県邑楽郡大泉町のこと。
 一度も海外に行ったことがなく、外国人と接したこともほとんどないマンガ家の著者が、「ブラジル人と交流したい。友だちになりたい」という目的で大泉町に移り住んだ体験を描くコミックエッセイである。

 企画としては非常によいと思う。移民受け入れの是非に揺れる昨今の時宜にかなっており、テーマがアクチュアルだ。
 しかし、コミックエッセイとして面白いかといえば、うーん、微妙。そこそこ楽しめたが、もう一度読み返したいとは思えない。

 何より、中川学は絵がヘタで、マンガとしての躍動感に乏しい。「ヘタウマ」ではなく、明確にヘタ。「これでよくマンガ家としてやっていけてるな」と思ってしまうレベル。

 ただ、構成力はなかなかのものだと思った。ドラマティックなことはほとんど起きないにもかかわらず、構成の妙で、最後まで退屈させずに読ませるのだ。

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『苦役列車』



 映画版『苦役列車』がAmazonプライムビデオに入っていたので、観てみた。
 西村賢太の芥川賞受賞作を、 山下敦弘監督で映画化したもの。

■関連エントリ→ 西村賢太『苦役列車』



 この映画版については、原作者の西村がエッセイなどいろんなところで酷評していた。観てみると、西村が気に入らない理由もよくわかった。

 この映画の半分くらいは原作の忠実な映像化といってよいものだが、残り半分はフツーの青春映画になっている。
 たとえば、前田敦子演ずるマドンナ役(古本屋の店番)は原作にないキャラクターだが、そもそも西村賢太の原作は、マドンナ的存在など入る余地もない、侘びしくもおかしい荒涼たる青春小説であり、そこがよいのだ。

 しかも、脚本のいまおかしんじの持ち味なのか、ところどころで妙にシュールな展開になり、そこが全体から浮いてしまっている。要するに、ディテールはともかく、全体としては原作とは別物なのだ。

 だが、それはそれとして、一編の青春映画として虚心に観れば、西村が言うほどひどい映画ではないと思った。
 北町貫多役の森山未來は、現在の西村賢太とは似ても似つかないが、本作を観ていると、「若いころの賢太はこんな感じだったかも」という気になってくる。体当たりの熱演はなかなかのものだ。

 西村賢太作品ではおなじみの鶯谷の居酒屋「信濃路」が何度か出てきたり、横溝正史の古本がストーリー上重要な役割を果たしたりと、賢太ファンにしかわからないくすぐりも楽しい。

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小柴昌俊『ニュートリノの夢』



 今日は、北里柴三郎のお孫さん・北里一郎さんを取材。白金の北里研究所にて。

 「ひ孫弟子」にあたる大村智さんのノーベル賞受賞により、いままた脚光を浴びている柴三郎の偉大な足跡について、お話をうかがった。一郎さんご自身も、明治製菓(医薬品メーカーでもある)の社長・会長を務めたすごい方なのだ。

 北里研究所に向かう途中の商店街にも、大村さんのノーベル賞受賞を祝すポスターがたくさん貼ってあった。
 柴三郎は、第1回ノーベル生理学・医学賞の候補に挙げられながら、惜しくも受賞を逸した。それから110余年を経て、北里研究所所長などを務めた大村さんが、創立者の雪辱を果たしたことになる。


 行き帰りの電車で、小柴昌俊著『ニュートリノの夢』(岩波ジュニア新書)を読了。仕事の資料として。
 これもノーベル賞関連書籍。2002年のノーベル物理学賞受賞者である小柴氏が、そこに至る軌跡を明かした自伝である。

 ジュニア新書ゆえ、語り口は平明で、ニュートリノ関連の難しい出来事も非常にわかりやすく書かれている。

 印象に残った一節を引く。

 (物理学の)理論屋は一流と二流がはっきり分かれていて、一流の理論屋は自分が研究している理論には適用の限界があることをいつも意識していますが、二流の理論屋はその限界がわからず、自分の理論でなんでも説明できると思い込んでいます。それが、一流と二流のちがいです。



(ノーベル賞受賞決定後の記者会見で)「夢は何か」と聞かれて、「これからの夢は、教え子がノーベル賞をもらうことだ」と答えました。しかし、有力候補だった戸塚洋二が二◯◯八年七月に亡くなってしまい、大変残念に思っています。



 本書の発刊は2010年。それから5年を経て、弟子の一人である梶田隆章さんがノーベル物理学賞を受賞し、小柴氏の夢はかなったのである。

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チーナ『Shupoon!!』



 チーナのファースト・ミニアルバム『Shupoon!!』(2009年)を購入。

 3年前にYouTubeで「蛾と蝶とたこ焼きとたこ」を聴いて一発KOされて以来、欲しかったアルバム。長らく入手困難で、中古でも高値がついていたもの。中古の価格が下がったので、ようやくゲットした。
 ジャケットのイラストがド迫力だ。おそらく、中心メンバーの椎名杏子(ヴォーカル&ピアノで大半の曲を作っている)を描いたものだろう。

■関連エントリ→ チーナ「蛾と蝶とたこ焼きとたこ」



 2012年に出たファースト・フルアルバム『GRANVILLE』のほうを以前聴いたので、順番が逆になってしまったが、この『Shupoon!!』も傑作だ。 
 わずか26分/全7曲のアルバムだが、聴き応えは十分。すべての曲にただならぬ独創性がある。デビュー作にもかかわらず、誰の真似でもない鉄壁の個性が確立されているのだ。

 彼らのMySpaceで聴けるのでぜひ聴いてみてほしいのだが、オープニングの「トントンねぇねぇ」からしてスゴイ。
 歌詞は、「トントントントン」「ねぇねぇねぇねぇ」のくり返しのみ。なのに、椎名杏子の変幻自在のヴォーカルだけで聴かせてしまう。また、ピアノとヴァイオリンとコントラバスが核となった編成なのに、サウンドはヘタなロックバンドよりパワフルで躍動感に満ちている。2分足らずの小曲の中に広がる、壮大な音宇宙。

 リード曲「蛾と蝶とたこ焼きとたこ」以外にも、「わりとみにくいアヒルの子」など、いい曲が多い。また、歌詞も面白い。

 チーナは、もっと売れてよいし、もっと評価されてしかるべき素晴らしいバンドだと思う。

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『illustration』 2015年12月号「特集 窪之内英策」



 付録についてくる窪之内英策イラストの卓上カレンダーが欲しくて、『illustration (イラストレーション)』 の2015年12月号(2000円)を購入。
 
 全13枚のカレンダーもよいし、中身の「特集 窪之内英策」もよい。
 カワイイ女の子のイラストを描かせたら、江口寿史と窪之内英策は双璧だな、と思う。

 特集のキャッチコピーに「女の子の内面までも描き出す」とあるが、ほんとうにそのとおり。とくに「何かを訴えかける目の表情」の繊細な描き方はスゴイ。



 『ツルモク独身寮』など、昔のマンガ作品を読んでいただけでは彼の絵にそこまでの魅力は感じなかったが、イラストの仕事もするようになってから「化けた」というか、一皮むけた感じ。その点も江口寿史と共通だ。

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佐藤優・石川知裕『政治って何だ!?』



 佐藤優・石川知裕著『政治って何だ!?――いまこそ、マックス・ウェーバー「職業としての政治」に学ぶ』 (ワニブックスPLUS新書/972円)読了。仕事の資料として読んだものだが、面白くてためになる本だった。

 小沢一郎の資金管理団体にからむ「陸山会事件」で逮捕・起訴された石川(元衆議院議員)を励ますため、佐藤氏が国会内で石川と開いた勉強会の内容をベースにした本。2人の対談集の形式でまとめられている。

 古典的名著『職業としての政治』の概説書として読めるとともに、同書の内容を現代の日本政治・国際政治にあてはめていく書でもある。

 メモしておきたくなるような指摘、卓見、トピックが随所にある。たとえば――。

 EUの本質というのはドイツの拡張です。ドイツとフランスはもはやケンカしないということで、ドイツは自分の勢力圏を東側に伸ばすと決め、それを世界が承認したということなのです。



 このウェーバーの『職業としての政治』がなぜ政治家必読の書と言われるのでしょうか? それは政治家は皆、権力について学び、権力は必要なときに行使しないとダメだということを学ばないといけないからです。
 権力行使が必要なときなのにそれをしないようだと、国民の信任をたくさん得ているにも拘らず、実質的には少数派である政治家たちにいいように使われてしまう。これでは政治家をやる意味がない。というか、こういう人たちが政治家をやると害悪以外の何ものでもありません。(いずれも佐藤氏の発言)



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『リバース エッジ 大川端探偵社』



 テレビドラマ版の『リバース エッジ 大川端探偵社』がAmazonプライムビデオに入っていたので、少しずつ観ている。

■関連エントリ→ ひじかた憂峰・たなか亜希夫『リバースエッジ 大川端探偵社』

 原作も『漫画ゴラク』で不定期連載中だが、原作のほうはコミックス3巻あたりからストーリーのクオリティがガクッと落ちてしまい、私はもう続巻を買っていない。

 このドラマ版は、原作から12のエピソードを選んで映像化したもの。『モテキ』の大根仁が監督(脚本も兼任)しており、さすがの出来栄えである。映像はスタイリッシュで、細部までていねいに作られている。
 
 原作は毎回20ページほどの短編だから、1話30分のドラマにするためには、少しディテールをふくらませる必要がある。そのふくらませ方がなかなか巧みで、回によっては原作よりも面白い(調子の出ない回もあるが)。
 私のお気に入りエピソード「ある結婚」(第3話)など、原作よりもずっと感動的に仕上がっている。

 キャスティングも凝っている。「アイドル・桃ノ木マリン」(消えたC級アイドルを探す話)の回で、吉田豪が本人役で登場したり……。

 EGO-WRAPPIN'が担当するテーマ曲と音楽もよい。
 大川端探偵社の事務所にEGO-WRAPPIN'が入り込んでテーマ曲「Neon Sign Stomp」を演奏するオープニングも、なかなかのカッコよさ。



 そういえば、EGO-WRAPPIN'のヒット曲「くちばしにチェリー」も、類似作「私立探偵 濱マイク」の主題歌だった。

 ここまで力を入れて作ってくれれば、原作ファンとしても納得だ。

※後注/けっきょく、全話観てしまった。原作をしのぐ傑作になっていたのは、「最後の晩餐」「ある結婚」「アイドル・桃ノ木マリン」「トップランナー」の4話だと思う。打率3割。

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キャプテン&テニール『デジタル・リマスター・ベスト』



 むしょうにキャプテン&テニールの曲が聴きたくなって、『デジタル・リマスター・ベスト』なるベスト盤を入手。

 女性がヴォーカル、男性がキーボードの二人組という点が同じであるため、何かとカーペンターズと比較された、70年代アメリカン・ポップスの人気デュオ(カーペンターズは兄妹だが、こちらは夫婦)。
 だが、いまになって聴き直してみると、カーペンターズよりもずっと黒人音楽、とくにR&Bやゴスペルの影響が顕著であり、全然違う。



 たとえば、上に貼った「ショップ・アラウンド」(ミラクルズのカヴァー)など、ソウルフルな歌いっぷりといい、モータウンぽいコーラスといい、思いっきり黒い。まったく予備知識なしにこの曲を聴いたら、白人デュオの曲だとは思わないだろう。
 アメリカン・ポップスの上澄みをすくったように「真っ白」なカーペンターズ(もちろん、それはそれで素晴らしい)とは、方向性が真逆なのである。

 どちらが上という話ではなく、好みでしかないが、いまの私ならキャプテン&テニールのほうが好きだなァ。

 このベスト盤も、名曲がいっぱい。
 全米№1ヒットの代表曲「愛ある限り(love will keep us together)」は、ニール・セダカの曲を凝ったアレンジでパワーアップした超名曲だし、「雨に想いを(Come In From the Rain)」(メリサ・マンチェスターとキャロル・ベイヤー・セイガーの共作曲)はドラマティックなバラードのお手本のようだ。





 1970年代ポップスの、一つの模範型のようなデュオだったと思う(近年のトニ・テニールは、ジャズ・ヴォーカリストとして活躍しているらしい)。

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中村邦生『はじめての文学講義』



 中村邦生著『はじめての文学講義――読む・書く・味わう』(岩波ジュニア新書/864円)読了。

 英米文学者(大東文化大教授)で小説家でもある著者が、中高一貫校の生徒たちを相手に行った「文学講義」をまとめた本。文学の味わい方から小説の書き方まで、文学をめぐる楽しみの勘所を駆け足で講義するものだ。

 ジュニア新書とはいえ、内容はなかなか高度で、大人の文学好きの鑑賞にも十分堪える。
 むしろ、「こんな話がいまどきの中学生・高校生に理解できたのだろうか?」と心配になるくらい。大学の教養課程の講義であってもおかしくない。著者は聴衆を子ども扱いしていないのだ。
 まあ、難関校(渋谷教育学園渋谷中学・高校)の優秀な生徒たちが相手だから、これでいいのか。

 印象に残った一節を引く。

 心に残る比喩に出会う目的で、小説を読んでいくことだってありえます。興味をひかれる比喩に出会ったらノートに書き写す。一冊が埋まったら、その「引用集」はみなさんにとって、世界でたった一冊しかない珠玉の名文選集になるかもしれません。



 小説を書いていると、必ず何回かは“弱気”になるんです。登場人物に言わせた台詞が、ちゃんと意味が伝わっているかなと不安を覚えて、説明的な一文を加えたり、場合によっては、作品のテーマらしきことを記してしまうことがあります。(中略)ところが、なぜか批評ではそういう弱気になった箇所こそが引用されます。抽象度の上がった、まとめのような表現はよく引用されます。(中略)
 ですから、読んでいて作品が自らを説明しているような、わかりやすいと感じられる表現は要注意です。弱気になっているところかもしれないですから。それよりは、言葉が混沌と渦巻いて、いっきょに意味が浮上しない、なにやら濃密な空気が漂うところが、小説のもっとも味わい深いところなのです。


 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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