池上彰ほか『日本の大課題 子どもの貧困』

日本の大課題子どもの貧困

日本の大課題子どもの貧困
著者:池上彰
価格:885円(税込、送料込)
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 池上彰編著『日本の大課題 子どもの貧困――社会的養護の現場から考える』(ちくま新書/885円)読了。

 仕事上の必要から児童養護施設のことを調べているので、関連書籍の中でいちばん刊行年月が新しい本書を読んでみた。
 本書はタイトルこそ『子どもの貧困』だが、子どもの貧困全般を扱っているわけではなく、児童養護施設を中心とした「社会的養護」の概説書である。

 池上彰・編となっているが、池上は前半の対談に参加し、まえがき・あとがきを寄せている程度。あとは社会的養護の当事者・専門家による本だ。
 
 身もフタもない言い方をすると、「ベストセラー連発の池上彰の本にすれば、売れる」との皮算用から、人寄せパンダとして担ぎ出されたわけだ。

 しかし、中身を読んでみれば、「わかりやすく説明するプロ」である池上の起用は成功していると感じる。
 本書の前半は丸ごと、池上と高橋利一(立川市などで児童養護施設を長年運営してきた人)の対談なのだが、この対談自体、児童養護施設の歴史と現状を的確にまとめた概説になっている。これは池上の手柄だろう。

 アマゾンのカスタマーレビューを見てみたら、この対談について批判しているものがあった。「池上は児童養護施設について何も知らないまま対談に臨んでいて、ケシカラン。ちゃんと準備して仕事しろや」(要旨)と――。

 この批判はちょっと的外れだと思うなァ。
 本書で池上に与えられた役回りは、むしろ素人目線を保ったまま対談に臨み、読者に代わって「基本のき」から教えを乞うことだろう。池上はその役割を十分果たしているし、対談の進め方はむしろすごくうまいと感じた。

 池上彰のネームバリューに寄りかかった企画という側面は否めないにしろ、結果的には児童養護施設に関する優れた概説書になったと思う。
 
 池上は、高橋利一からいい話もたくさん引き出している。たとえば――。

 あるとき、「園長先生、借金あといくら残ってる?」と聞いてくる子がいました。「2億円かな」って答えたら、「今に僕が返すからね」って言ってくれたことがある。「ああ、ありがとう。嬉しいね」って私は答えましたが、子どもたちがそんなことを言ってくれるようになってきたのも、日常の中に何か満たされたものがあるからでしょうね。



 後半は、社会的養護の専門家・当事者による、児童養護施設の現状をめぐる論考2本からなる。これはやや論文臭の強い堅い文章(でも、内容は重要)なので、前半のわかりやすい対談とのバランスがちょうどいい感じだ。

■関連エントリ
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モンキー・ハウス『ヘッドクォーターズ』



 モンキー・ハウスの『ヘッドクォーターズ』(Pヴァイン)を聴いた。

 日本盤監修者・金澤寿和氏(音楽ライター)の、「世界中にスティーリー・ダン・フォロワー数々あれど、その本命が、このモンキー・ハウスだ」「スティーリー・ダン~ドナルド・フェイゲン・マナーのAOR 作品としてはエヂ・モッタ『AOR』と並ぶ近年の最高傑作!」という讃辞に背中を押されて手を伸ばしたもの。

 じつは金澤氏推薦のエヂ・モッタ(ブラジルのアーティスト)の『AOR』も聴いてみたのだが、こちらは私にはピンとこなかった。

 モンキー・ハウスは、「カナダのトロントを拠点にする鍵盤奏者/シンガー:ドン・ブライトハウプトのワンマン・プロジェクト」だそうだ。
 おお、ドン・ブライトハウプトといえば、当ブログでも取り上げた『スティーリー・ダン――Aja 作曲術と作詞法』の著者ではないか。私には専門的すぎてよくわからなかった本だが……。

■関連エントリ→ ドン・ブライトハウプト『スティーリー・ダン』レビュー

 研究書を上梓するほどのマニアが、自らのスティーリー・ダン愛を全開にしてオマージュを捧げたアルバムなのだ。要は「カナダの冨田ラボ」ですね。ワンマン・プロジェクトである点も含めて。

 聴いてみれば、たしかにスティーリー・ダンに瓜二つ。ヴォーカルはクセがなさすぎてドナルド・フェイゲンには似ていないが、その点を除けば、曲作りも音作りも、細部に至るまでスティーリー・ダンそのまんまである。微笑ましいまでにリスペクト丸出し。しかも、どの曲もじつによくできている(15曲も入っているボリュームもうれしい)。


↑アルバムのオープニング曲「チェックポイント・チャーリー」。イントロの「スティーリー・ダン感」たるや……。

 全盛期のスティーリー・ダン(『 Aja』とその前後)の完成度には及ばないものの、近年のドナルド・フェイゲンのソロアルバムと比べても遜色ない仕上がりだ。

 大変気に入った。ほかのアルバムも聴いてみよう。

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グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考』

エッセンシャル思考

エッセンシャル思考
著者:グレッグ・マキューン
価格:1,728円(税込、送料込)
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 グレッグ・マキューン著、高橋璃子訳『エッセンシャル思考――最少の時間で成果を最大にする』(かんき出版/1728円)読了。

 時間管理術の本のようなタイトルだが、実際には違う。また、広い意味で仕事術の本ではあるが、いわゆる「ライフハック」の本ではない。
 押し寄せる仕事の山から、重要で有意義な仕事だけを選び、そこに集中するための心構えが中核に据えられた内容だ。ゆえに原題が「Essentialism」。“仕事の断捨離”の本と言ってもよい。

 瑣末でどうでもよい大半の仕事は上手に断り、ごく少数の重要な仕事に集中せよ。結果的にはそのほうが成果が上がり、あなたの評価も上がる。何より、あなたの人生もそのほうが充実し、幸福感を感じられるようになる……おおむねそのような主張が、さまざまな角度から語られている。

 ビジネスパーソン一般を対象とした本ではあるが、私のようなフリーランサーにはとくに耳の痛い指摘に満ちている。そもそも、フリーは仕事を断ることに本能的恐怖を覚えるものであり(断ったら次がないことが多いし、仕事がないつらさが身にしみているから)、多少スケジュール的に無理でもつい受けてしまうものだからだ。

 本書では全編にわたって、「エッセンシャル思考」と「非エッセンシャル思考」が比較されていく。

 たとえば、エッセンシャル思考の人は「やることを計画的に減らす」のに対し、非エッセンシャル思考の人は「やることをでたらめに増やす」という具合だ。

 随所で指摘される「非エッセンシャル思考」の特徴(ダメさ加減)が、まるで私のことを言われているようで、読んでいてグサグサ刺さる(笑)。
 たとえば、「差し迫ったものからやる」「反射的に『やります』と言う」「期限が迫ると根性でがんばる」という仕事ぶり。その結果、「何もかもが中途半端」「振り回されている」「疲れきっている」が常態になっている……というところなど。

 著者の主張は、どれもご説ごもっとも。ただ、要は理想論であり、よほど恵まれた人でなければ見習えないやり方だと思う。
 私が村上春樹であったなら、押し寄せるオファーの中からいちばん重要な仕事だけを選び、優雅で充実した毎日が送れるだろう。
 しかし、私のようなしがない「ライターさん」の場合、「やりたい仕事だけを受け、あとは断る」なんてことをしたら、早晩(半年も経たないうちに)すべての仕事を失って路頭に迷うだろう。
 会社員もしかり。やりたい仕事だけ選べる会社員なんて、どこにいるというのだ?

 ……と、そのように反発を覚える面もあるが、それはそれとして、うなずける主張も多い。
 たとえば、“生産性を上げるためには、何も予定を入れずにただ「考える時間」を確保することが大切”との主張。

 仕事が忙しくなればなるほど、考える時間を確保することがより必要になる。生活がノイズに満ちてくればくるほど、静かに集中できるスペースがより必要になってくる。(中略) 
 たとえばLinkedIn(リンクトイン)のジェフ・ワイナーCEOは、毎日合計2時間の空白をスケジュールに組み込んでいる。その時間には予定を何も入れない。相次ぐミーティングに振り回され、まわりが見えなくなるのを防ぐためだ。最初はさぼっているような気分になったが、実践してみると生産性が確実にアップした。自分のための時間を確保することで、人生の主導権を取り戻せたと彼は言う。



 目の前の〆切に振り回されてばかりいる、典型的「非エッセンシャル思考」の私は、本書に大いに啓発された。
 自己啓発書的な薄っぺらさよりも、むしろ哲学書を思わせる深みがある好著。

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いしかわじゅん『今夜、珈琲を淹れて漫画を読む』

今夜、珈琲を淹れて漫画を読む

今夜、珈琲を淹れて漫画を読む
著者:いしかわじゅん
価格:2,052円(税込、送料込)
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 いしかわじゅん著『今夜、珈琲を淹れて漫画を読む――「漫画の時間」2時間目』(小学館クリエイティブ/2052円)読了。

 マンガ界屈指のディープな「マンガ読み」として知られるいしかわじゅんによる、マンガ評コラム集。『週刊文春』と『毎日新聞』に連載しているコミック・レビューがおもに収録されている。

 いしかわが95年に上梓した初のマンガ評論集『漫画の時間』は、名著であった。本書の副題も『漫画の時間』に由来する。ただし、「2時間目」とありながら2冊目のマンガ評論集ではなく、4冊目に当たる。まぎらわしい副題もあったものだ。

 いしかわの2冊目のマンガ評論集『漫画ノート』は、当ブログでも以前取り上げた。3冊目の『秘密の本棚――漫画と、漫画の周辺』は未読。

 『漫画ノート』のレビューに、私は「『漫画の時間』より一段……いや、二段くらい落ちる印象を受けた」と書いた。内容があまりに身辺雑記的になりすぎていて、評論色が大幅に後退していたからだ。

 本書は週刊誌と大新聞の連載コラムが中心であるため、コミック・レビューとして簡にして要を得たものが多い。その分、『漫画ノート』よりは面白い。

 ただ、1作について2ページ程度の短いコラムなので、深く掘り下げた内容ではない。『漫画の時間』に収録されたいくつかの文章は、マンガの読み方が変わるくらい目からウロコの内容であったが、本書にそのような衝撃はないのだ。

 とはいえ、マンガ・ガイドとしてはわりと良質。私も、「読んでみたい」と思う作品がいくつか見つかった。

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山口周『外資系コンサルの知的生産術』


 
 山口周著『外資系コンサルの知的生産術――プロだけが知る「99の心得」』(光文社新書/928円)読了。
 コンサルの世界だけで通用するような話も中にはあるものの、全体としては分野を問わない普遍的な内容だ。

 いわゆる「ライフハック」の本ではない。つまり、この本を読んだからといって、日々の知的生産の効率が急に上がるわけではないのだ。本書に書かれている「99の心得」の大半は、もっと深い次元の「心構え」の話である。

 その「心構え」の中に示唆に富むものが多く、仕事に向かう姿勢の見直しを促してくれる。
 どっかで聞いたような凡庸なアドバイスもないではないが、その場合にも著者の語り口のうまさ(例に挙げるエピソードの的確さなど)で読む者を唸らせる。

 とくに、第5章(全5章)の「知的ストックを厚くする」は、読書論として独立した価値をもつ素晴らしい内容だ。

 メモしておきたいような名フレーズも随所にある。たとえば――。

 プロフェッショナルというのは常に100%を目指すものだと考えている人がいますが、この考え方は完全に間違っています。そんなことをしてもプロフェッショナルとしてのキャリアは全うできません。プロフェッショナルというのは80%の力でクライアントを継続的に満足させられる人のことです。常に100%の力を出そうとするのはむしろアマチュアです。(中略)毎日の仕事で常に100%の力を発揮していたらそれこそ体がもちません。
 プロというのは常に、求められている水準をギリギリ最低限の労力でクリアする人たちなのです。(太字強調は原文ママ)



 「知的生産術」本の新たなスタンダードになり得る好著。

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神山典士『ゴーストライター論』



 神山典士(こうやま・のりお)著『ゴーストライター論』(平凡社新書/799円)読了。
 
 佐村河内守のゴーストライター騒動に火をつけたライターでもある著者が、作曲ではなく書籍のゴーストライターについてまとめた本。
 じつは著者自身が書籍のゴーストライター経験も豊富な人であり、佐村河内騒動に際しては知人から、「ゴーストライターがゴーストライティングの批判をしている」と揶揄されたという。

 だが、出版社から依頼を受けて執筆する一般書のゴーストと、関係者も欺いた芸術作品のゴーストは次元の違う話であり、著者が佐村河内を批判する本(『ペテン師と天才 佐村河内事件の全貌』)を書いたことは、矛盾でもなんでもない。

 本書も「佐村河内事件の一連の報道のスピンアウト企画として生まれてきた」(あとがき)ものだが、事件うんぬんを抜きにして、ゴーストライター論として読み応えがある。

 本書に最も近い類書は、当ブログでも取り上げた『ビジネス書の9割はゴーストライター』(吉田典史)であろう。本書にも、同書についての言及がある。
 吉田の本はゴーストライターのマイナス面に強く光が当てられていたのに対し、本書は逆にゴーストライターのプラス面――仕事のやりがい・意義・醍醐味に光が当てられている。

 「ゴーストライターが文章を書いているなんて、読者に対する詐欺行為だ!」と思っている向き、ゴーストライターにマイナスイメージしかない向きには、ぜひ本書を読んでほしい。印象が一変するはずだ。

 それに、ゴーストライターにかぎらず、人物ノンフィクションについての著者の方法論を開陳した「ライター入門」としても読める内容である。

 ゴースト本の名作『成りあがり』(矢沢永吉の話を糸井重里がまとめた)を生んだ編集者にインタビューするなど、取材部分にもかなり厚みがある。「論」というより、ゴーストライターの舞台裏をさまざまな角度から探ったノンフィクションという趣。

 著者は、「ゴーストライター」という呼称そのものがネガティブでよくないとして、「チームライティング」という新しい呼称を提唱している。(名義上の)著者・ライター・編集者の三者が「チーム」となって本を作り上げていくやり方、という意味だ。
 上阪徹は同様の理由から、「ブックライター」(「書籍の聞き書きライター」の意)という呼称を提唱している。私も、「ゴーストライターではなく、『文章化のアウトソーシング』と呼べばいいのだ」と書いたことがある。

 呼び名はどうあれ、今後もゴーストライターの需要は減ることはないだろうから、ライター及びライター志望者なら読んで損はない本だ。

 複数の弁護士に取材したゴースト仕事の著作権についての考察も、興味深い。たとえゴースト仕事であっても、原稿の著作権は第一義的にはライターにあると考えられるという(!)。

 法律的に言えば、ゴーストライティングの現場で発生する著作権は、まず原稿を書いたライターにあり、それを何らかの契約によって著者に移すという流れになる。



 ゴースト本を多く手がけてきた者として、勇気づけられた。「私(名義上の著者)の話を文章にしただけなんだから、ライターに著作権なんて……」と軽んじられた経験も、まあ、皆無ではないからだ。

 もう一つ勇気づけられたのは、著者が一貫して“ゴーストライターは高いスキルを要求される仕事だ”と強調している点。
 たとえば、ゴースト経験も豊富なベテランライター・永江朗の、次のようなコメントが紹介されている。

「ある大学で教えていたときに、『ライターになりたいのでゴーストライターの仕事でも紹介していただけませんか』とやってきた学生がいて、怒ってしまいました。『ゴーストライターでも』とは何か、と。著者から魅力的な言葉を聞き出してそれを読める文章にすることを舐めてはいけない。それには高度なスキルが必要なんだと諭しました」



 このコメントには快哉を叫んだ。「ゴーストライターなんて、どうせろくに仕事のない三流ライターがやってるに違いない。一流なら署名原稿だけで食っていけるはずだから」というネガティブ・イメージがあって、常々反発を覚えていたからだ。 

 まあたしかに、署名原稿だけで食っているライター(そういう人は普通「ライター」ではなく「作家」と呼ばれるが)に比べたら「三流」かもしれないが、ゴーストライターのスキルもそう馬鹿にしたものではないのだ。

■関連エントリ→ ゴーストライターの仕事について

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石坂典子『絶体絶命でも世界一愛される会社に変える!』



 車谷長吉さんの訃報に接する。
 一時期まで全作品を読んでいた作家であるし、雑誌の夫婦特集の取材でご自宅におじゃまし、夫人(詩人の高橋順子さん)とともにインタビューしたこともあるから、早すぎる死に驚いた。

■関連エントリ→ 車谷長吉の作品

 晩年は作品に恵まれなかった(というより、ほとんど書いていなかった?)ようだが、中年になって結婚した氏にとっての「ミューズ」――順子夫人との平穏な生活は幸福だったのではないか。
 また、『赤目四十八瀧心中未遂』などいくつかの作品は、名作としてずっと世に残るだろう。
 ご冥福をお祈りします。


 石坂典子著『絶体絶命でも世界一愛される会社に変える!――2代目女性社長の号泣戦記』(ダイヤモンド社/1512円)読了。仕事の資料として。

 「所沢ダイオキシン騒動」に巻き込まれて地域住民のバッシングを受けた家業の産廃業を、創業者の長女が2代目社長となり、地域に愛される優良企業に生まれ変わらせるまでの軌跡を綴ったもの。

 地道な社員教育によって社風を変える努力、地域貢献のための工夫、ISO認証制度などをフル活用したイメージアップ(スキルアップ、社風改善策でもある)戦略など、著者の奮闘がつぶさに振り返られる。経営者のみならず、組織づくりに携わるあらゆる分野の人々にとって参考になる本だろう。

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浅羽祐樹『韓国化する日本、日本化する韓国』



 浅羽祐樹著『韓国化する日本、日本化する韓国』(講談社/1620円)読了。仕事の資料として。

 比較政治学・国際関係論を専門とする政治学者の著者(新潟県立大学国際地域学部教授)は、ソウル大学大学院で博士号をとり、北韓大学院大学校(韓国)の招聘教授も務める人物。

 本書は、嫌韓でも親韓でもないニュートラルな視点(とはいえ、「嫌韓」側からは親韓に見えるのだろうが)から、日韓関係の現状を掘り下げ、未来を展望した優れた概説書である。
 ライターが著者の話をまとめた(浅野智哉という構成者の名が明記されている)ものなので、論文臭はなく、大学の講義録のようなわかりやすい内容だ。

 竹島問題や従軍慰安婦問題など、日韓をめぐるホットなイシューについて、それぞれ「ああ、そういうことだったのか」と目からウロコが落ちる記述が多数。

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ヘドリック・スミス『誰がアメリカンドリームを奪ったのか?』



 ヘドリック・スミス著、伏見威蕃訳『誰がアメリカンドリームを奪ったのか?』(朝日新聞出版/上下巻・各2160円)読了。書評用読書。

 『ロシア人』『パワーゲーム』などの作品で知られるピュリッツァー賞作家が、綿密な取材に基いて米国社会の暗部をえぐる長編ノンフィクション。

 かつて(1950~70年代あたりまで)のアメリカは世界一豊かで分厚いミドルクラス(中間層)を擁する国であり、そのミドルクラスこそがいわば“アメリカンドリームの分母”であった。

 本書にいう「アメリカンドリーム」とは、飛び抜けた成功を収めて大金持ちになることを指すものではない。ふつうの人が不自由のない暮らしをして自分の家を持つといった、ごくありきたりでささやかな夢の謂なのだ。
 だが、アメリカのミドルクラスは急速にやせ衰え、貧困層に転落し始めているという。上位1%ほどの新・富裕層が過剰に肥え太り、恐るべき富の偏在が進んできたためである。2010年には、上位1%の富裕層が国の経済収益の93%を手に入れたという。

 かくして、アメリカンドリームは大部分の人の手から奪われてしまった。なぜそんなことになってしまったのかを、著者はさまざまな角度から丹念に検証していく。

 米国で資本主義が爛熟を極め、腐り果てていくまでの何十年かのプロセスを、すごい迫力で描き尽くした力作。終盤には、格差是正のための著者の提案も書かれている。

 内容とは関係ないのだが、この本は本文部分の紙質が悪い。藁半紙に近い感じのヘナヘナした紙が使われているのだ(匂いも藁半紙みたい)。上下巻合わせて4000円以上する本なのに、この紙質はちょっとないよなァ、と思った。

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センディル・ムッライナタンほか『いつも「時間がない」あなたに』



 昨日は、愛知県春日井市で企業取材。

 行き帰りの新幹線で、センディル・ムッライナタン、エルダー・シャフィール著、太田直子訳『いつも「時間がない」あなたに――欠乏の行動経済学』(早川書房/2160円)を読了。

 「時間管理術」のビジネス書のようなタイトルだが、そうではない。副題の「欠乏の行動経済学」のほうが、内容を正確に要約している(こちらをメイン・タイトルにしたら本が売れないと判断したのだろう)。

 著者は、ハーバード大の経済学教授(センディル)とプリンストン大学の心理学教授。2人とも、経済学と心理学を融合させた「行動経済学」の研究者で、貧困問題などの解決を目指すNPOの共同創設者でもある。

 本書も、タイトルからは想像もつかないが、じつは貧困問題を考えるための書でもある。というのも、「時間がない」「お金がない」などのさまざまな「欠乏」が、我々にどのような心理的影響を与えるかを研究した書だから。
 時間の欠乏についての章もあるから、タイトルは偽りではないが、じつはお金の欠乏=貧困のほうに重点が置かれている。

 貧困問題を行動経済学の視点から考察した、類のない書である。
 とくに目からウロコが落ちたのは、貧困がさまざまな「処理能力」を大幅に減退させることを論証している点。

 「欠乏」は、人間の処理能力に大きな負荷をかける。
 時間がなくてバタバタしているときは、仕事でミスが生じがちだ。同様に、貧困層はお金の工面のことでつねに頭が一杯になっているから、生活の中で要求されるさまざまな処理能力が大幅に減退してしまっている。

 たとえば、貧困層は医者にもらった薬の飲み忘れが多い。また、子どもに対する気配りに欠ける「悪い親」は貧困層に多く、富裕な農民より貧しい農民のほうが農地の適切な除草を怠りがちだという。
 それは、「貧困層のほうが怠け者で愛情が薄いから」ではない。貧困という欠乏がもたらす処理能力の減退のせいなのだ。

 ほぼあらゆる仕事には作業記憶が必要である。これは、いくつかの情報を使うまで頭のなかで生かしておく能力だ。貧困によって作業記憶に負荷がかけられると、人はあまりうまく仕事ができなくなる。
(中略)
 処理能力に過剰な負荷がかかるということは、新しい情報を処理する能力が下がるということだ。たとえばあなたがつねに心ここにあらずだとして、大学の講義はどれだけ頭に入るだろう? ここで、家賃の工面についてたえず考えてしまう低所得の大学生について考えてみよう。彼女の頭にどれだけ入るだろう? 



 処理能力は人の行動のほぼあらゆる面を支えている。ポーカーで勝つ確率を計算するのにも、人の表情を読み取るにも、自分の感情をコントロールするのにも、衝動を抑えるのにも、本を読むのにも、独創的な発想をするのにも使われる。高度な認知機能のほぼすべてが、処理能力に依存している。しかし処理能力への負荷は見逃されやすい。



 処理能力の減退は、仕事や勉強、人間関係などに広範な悪影響を与える。ゆえに、貧困層は人生において、心理的にも大きな不利にさらされている。それこそが、「貧困が貧困を生む」要因の一つなのだ。
 いわゆる「貧困の連鎖」をこのような視点から解き明かした本は、これまでになかった。

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最相葉月『れるられる』



 昨日は取材で茨城県へ――。取手市と神栖市に赴く。

 行き帰りの電車で、最相葉月著『れるられる』(岩波書店/2052円)を読了。

 「シリーズ ここで生きる」の1巻として書き下ろされたもの。風変わりなタイトルは、「生む/生まれる」など、人生の受動と能動を示している。

 全6章立て。各章のタイトルは、「生む・生まれる」「支える・支えられる」「狂う・狂わされる」「絶つ・絶たれる」「聞く・聞かれる」「愛する・愛される」というもの。

 これだけだと何のことだかわからないが、たとえば「生む・生まれる」は出生前診断の是非についての話であり、「絶つ・絶たれる」は著者の知人であった優秀なポスドクの自殺をめぐる話。つまり、命を絶つ・絶たれるの両面から、科学の研究現場にある構造的矛盾と、高学歴ワーキングプアの問題を探った内容だ。
 
 ノンフィクション作家としての取材の舞台裏を明かした、もしくは取材から派生したエピソードを綴った連作エッセイ集である。
 ただし、筆の赴くままに綴られたお手軽なエッセイではない。各編はそれぞれ丹念に作られたノンフィクション小説のようでもあるし、一つの社会問題について深く思索をめぐらせた「論考」としても読める。重層的で滋味深い一冊だ。

 6編それぞれ読み応えがあるが、私は第1章の「生む・生まれる」に最も心を揺さぶられた。これは、生命科学の分野で取材を重ねてきた最相葉月にしか書き得ない名文だと思う。
 印象に残った一節を引く。

 現代は、病気や障害を突き止める技術が、病気を治す力や障害を生きる環境づくりよりも先走る時代だ。出生前診断を受けず、胎児の状態を知らないままでいることには強い意志を必要とする。診断を受けないと決めた一割弱の妊婦たちは勇気がないわけでも無知でいたいわけでもない。知らないでいるという、もう一つの大きな選択を成し得た人々なのである。
 私は彼らがえらいとか見上げたものだといいたいわけではない。ただ、彼らの選択を尊重したい。だから遺伝カウンセラーは出生前診断のコーディネイターであってはならないと思う。医師とは一線を画した公平な立場にあって、もし妊婦が診断を受けないことを望んだら、その決断を支えるのがカウンセラーの務めだろう。



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佐藤優『人生の極意』



 佐藤優著『人生の極意』(扶桑社新書/821円)読了。

 『SPA!』の長期連載「インテリジェンス人生相談」の、書籍化第4弾。私は『SPA!』誌上では時々読んでいたものの、本の形でまとめて読むのは初めて。

 通読してみると、著者が本気で相談に答えていることがよくわかる。面白おかしい奇をてらった答えは皆無で、相談者の人生に有益なアドバイスをしようと真剣に答えていることが伝わってくるのだ。
 「そんなのはあたりまえのことではないか」と思うかもしれないが、意外にそうでもない。読者(相談のページを読む一般読者)にとって面白ければいいのだ、と割りきって、茶化した答え方をする人生相談はけっこう多いものなのだ。

 著者は、「まえがき」に次のように記している。

 私の場合、メディアバッシング、逮捕、投獄、裁判、失職などのどん底の経験がある。どん底からどうすれば這い上がることができるかについて、それなりの経験もある。私の経験を少しでも読者が抱えている悩みを解決するために用いてほしいと思い、私はこの連載に全力で取り組んでいる。



 ただし、作家としてサービス精神旺盛な著者のことだから、一般読者にとっても有益な情報が随所に盛り込まれている。
 たとえば、毎回1冊ずつ相談者に本が奨められているため、“人生相談の形をとったブックガイド”としても読むことができるのだ。私も、何冊か読みたい本が見つかった。

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『ベイマックス』



 仕事部屋の本の山を整理した。段ボール5箱分の本を、「ブックオフ」の「宅本便」で処分。本棚からはみ出て床にうずたかく積んであった分が、きれいになくなった。
 すべての本が本棚にスッキリ並んでいる爽快感を、何年ぶりかで味わう。

 宅本便は、買い取り価格は恐ろしいほど安いものの(※)、不要な本の処分方法としては最高だ。箱に詰めてネットで買い取りを申し込むだけで佐川急便が無料で(てゆーか、ブックオフ側が着払いで負担して)集荷に来てくれるし、値がつかない本も引き取ってくれるところがよい。

※5箱分売っていくらになったのかを書いておこう。ご参考まで。売った本は計338冊で、そのうち「お値段がつかなかった商品」となったのは154冊。値がついたのは184冊で、買い取り価格はトータルで8825円であった。


 『ベイマックス』を映像配信で観た。
 ディズニー・アニメの前作『アナと雪の女王』は未見だし、興味もないが、こちらは予告編を観ただけで心惹かれるものがあった。

 ハリウッド産CGアニメと、藤子・F・不二雄的「スコシ・フシギ」な世界(=SFのセンス・オブ・ワンダー、「男の子」的イノセンス、柔らかいユーモア、「カワイイ」のミクスチャー)の、理想的融合といえる作品。
 いまは亡き藤子先生に、この作品を観せたかったとしみじみ思った。

 田中圭一が見事な“藤子風ベイマックス”を描いていたが(↓)、たしかに、「藤子・F・不二雄が原作だ」と言われても信じてしまいそうな物語(ホントの原作はアメコミで、この映画版とはかなりテイストが違うらしい)。



 基本は子供向けだから、ストーリーは大人にとっては単純すぎるのだが、それでも大人にも十分愉しめる。とくに日本人にとっては……。

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池内恵『イスラーム国の衝撃』



 昨日は取材で京都へ――。
 新幹線の中で、池内恵(さとし)著『イスラーム国の衝撃』(文春新書/842円)を読了。
 
 前に読んだ『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』(ロレッタ・ナポリオー二著)と同じく、IS(イスラム国)の一般向け概説書である。

 ISについての誤解や先入見が突き崩されていくくだりが随所にあり、蒙を啓かれた。たとえば――。

 日本ではしばしば根拠なく、ジハード主義的な過激思想と運動は、「貧困が原因だ」とする「被害者」説と、その反対に「人殺しをしたい粗暴なドロップアウト組の集まりだ」とする「ならず者」説が発せられる。相容れないはずの両論を混在させた議論も多い。西欧諸国からの参加者のみを取り上げて、「欧米での差別・偏見が原因」と短絡的に結論づけ、「欧米」に責を帰して自足する議論も多い。
 本書で解明してきたグローバル・ジハードという現象の性質を理解すれば、単に「逸脱した特殊な集団」や「犯罪集団」と捉えることは、問題の矮小化であると分かるだろう。



 また、ISの資金源についての考察にも唸った。「世界で最も富裕なテロ組織」と呼ばれるISだが、それはいくつもの誤解に基づく過大評価の面がある、というのだ。

 サウジアラビアが資金源という説は、イスラーム系武装勢力一般に流れる資金と「イスラーム国」の資金を混同しており、シリアやイランやロシアによる意図的なプロパガンダの影響を露骨に受けている。サウジアラビア政府の資金が直接「イスラーム国」に供与されているとは考えにくく、あったとすれば、ジハードを支援する宗教寄進財団を経由した個人の寄付だろう。



 ……というふうに、巷間ささやかれる「資金源」説を一つひとつ否定し、実態を明らかにしていく手際が鮮やかだ。

■関連エントリ→ 池内恵『イスラーム世界の論じ方』レビュー

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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