『GODZILLA ゴジラ』


GODZILLA ゴジラ オリジナル・サウンドトラックGODZILLA ゴジラ オリジナル・サウンドトラック
(2014/07/23)
サントラ

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 立川シネマシティで『GODZILLA ゴジラ』を観た。3D字幕版にて。
 


 ストーリーにご都合主義なところもあるし、日本が舞台になる序盤には不自然な点もある。
 けっして百点満点の出来ではないが、ゴジラと敵の「ムートー」(雌雄一対の怪獣)が大都市を破壊するシークエンスのド迫力で、それらの瑕疵がすべて帳消しになる感じ。私は、料金分は十分満足した。

 これは映画館の大スクリーンで、それも3D(もしくはアイマックス)で観るべき映画だ。最初からDVDで観たら、魅力は半減以下だと思う。

 日本版初代ゴジラへのリスペクトも十分感じられ、パニック映画である以前に怪獣映画として優れている。

 日本の原発が破壊される序盤では「3・11」を思い起こさずにはいられないし、米国本土の高層ビルに怪獣にやられた飛行機が突っ込むシーンでは「9・11」を想起せずにはいられない。当然、作り手たちはその点に十分意識的であるはずだ。
 現代において「突然襲ってくる破滅的な災厄」を描くなら、大震災やテロ攻撃のメタファーを内包しないわけにはいかない、ということか。

 まあ、そんなよけいなことを考えなくても、怪獣映画兼パニック映画として単純に楽しめる映画である。
 大人の観賞にも十分堪える……てゆーか、映画館にはむしろ中高年男性が目立った。

 ムートー(=MUTO/このネーミングって「武藤」に由来?)の造型が怪獣としてはイマイチで、カッコよくない点だけが玉にキズ。

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町山智浩『知ってても偉くないUSA語録』


知ってても偉くないUSA語録知ってても偉くないUSA語録
(2014/04/21)
町山 智浩

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 町山智浩著『知ってても偉くないUSA語録』(文藝春秋/1256円)読了。
 『週刊文春』に連載された、アメリカの時事ネタを綴るコラム「言霊USA」の単行本化第2弾。

 私の感想は第1弾『教科書に載ってないUSA語録』と重なるので、くわしくは第1弾のレビューをどうぞ。

 軽快なコラムを笑って楽しみつつ、アメリカの「いま」を知ることができる本だが、ときおりちょっとシリアス系のネタが挟まれている。それが全体からくっきり浮かび上がるようで、強い印象を残す。
 
 たとえば、パーキンソン病と闘うマイケル・J・フォックスが、「パーキンソン病で引退した元キャスター」を演じるコメディ番組(!)でカムバックしたことを取り上げた一編。
 その番組を通して、過酷な運命をも笑い飛ばすアメリカ的たくましさを、町山は謳い上げる。いかにもな「美談」調ではなく、あたたかい笑いに包んで……。

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岡本浩一『上達の法則』


上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)
(2002/05)
岡本 浩一

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 岡本浩一著『上達の法則――効率のよい努力を科学する』(PHP新書/734円)読了。

 先日『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』(山口真由)を読んだとき、「努力の方法論の解説書には、もっとよいものがあるのではないか?」と考え、探してきたもの。

 社会心理学者の著者が、「認知心理学、学習心理学、記憶心理学などをベースに上達法を科学的に分析した」本。

 中級者が上級者にレベルアップするための方法論にかなりの紙数が割かれており、初心者向けではない。つまり、何かの習い事を始めたばかりの人が「効率のよい上達法」を知りたくて読む本としては、ふさわしくないのだ。

 むしろ、ずっと何かの努力をつづけてきた人が、さらなる進歩のきっかけをつかむために読むべき本といえる。けっこうハイブロウな内容なのである。
 
 著者は将棋や囲碁、茶道、クラシック音楽(の楽器演奏)に造詣が深いらしく、それらの分野の事例がたくさん出てくる。いずれも私には縁遠い分野なので、例としていまいちわかりにくいのだが、それでも面白く読めた。
 自分の専門分野(私の場合は文章を書くということだが)に引き寄せて考えれば、「ああ、◯◯でいえばこういうことだな」と類推できるのだ。

 書名の印象とは裏腹に、今日からすぐに取り入れられるような「効率のよい努力のコツ」は、ほとんど書かれていない。そういうものを求めて読むと、肩透かしを食うだろう。
 しかし、何かの分野で長年努力を重ねてきた人にとっては、さらなる高みを目指すための「気付き」を与えてくれる本だと思う。

 また、さまざまな分野の「達人」たちがどんな努力を重ねているかを紹介したエピソード集としても、楽しく読める。
 たとえば、次のような思わず唸るエピソードが、随所にちりばめられている。

 水泳選手のなかには、ふだんの生活でも椅子に座るよりはベッドや床に寝そべることにしている人がときどきいる。横になっているという姿勢を常態にして、座るための筋肉や立つための筋肉は水泳に役立たないから、つかないようにしているのである。



 相撲のしこを踏むというもっとも基礎的な訓練でも、それをしているときに頭の中でなにを考えなにをイメージしているかによって、豊かな内容にもなれば乏しい内容にもなるという談話を聞いたことがある。同様のことを、バットの素振りについても聞いたことがある。CDウォークマンを聴きながらしこを踏んでいるような人が上位に進めない理由はこんなところにもあるのだ。



 初心者、中級者は、うまくいったときに喜ぶ気持ちが強く、それが成長の原動力となる。けれども、上級者は、失敗したときのくやしさが、うまくいったときの喜びをはるかに上回るのである。
 後に将棋の名人についた谷川浩司さんは、子どもの頃、つねに自分より少し強い兄がライバルだった。その子どもの頃の将棋駒には、谷川少年の歯形がついているそうである。自分の形勢が悪いときに、駒を噛みながらくやしさに耐えていたというのである。



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『日蓮と蒙古大襲来』


日蓮と蒙古大襲来 [DVD]日蓮と蒙古大襲来 [DVD]
(2005/02/25)
長谷川一夫、市川雷蔵 他

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 今日、やっと確定申告を済ませた。
 期限から4ヶ月超の遅れ。取りかかりさえすれば申告書は半日で書けるのだが(税理士に頼まず、自分でやっている)、その半日を捻出するのが大変なのである。


 YouTubeに『日蓮と蒙古大襲来』が丸ごとアップされているのを見つけ、ついつい最後まで観てしまった。
 1958年の大映映画。ウワサには聞いていたが、実際に観たのは初めて。

 

 日蓮が長谷川一夫、北条時宗が市川雷蔵、四条金吾が勝新太郎……などという、豪華キャスティングの大作。

 よくできた映画だとは思うが、日蓮の描き方に強い違和感を覚えた。
 なんというか、日蓮がまるでモーゼみたいなのだ。

 たとえば、佐渡流罪になる途中、海が大荒れになり、日蓮を乗せた小舟が波に呑まれそうになるシーンがある。
 そのとき日蓮が海に向かって題目を唱えると、海中に「南無妙法蓮華経」の文字がキラ~ンと浮かび上がり、たちまち海が鏡のように凪いでしまう。……私はこのシーンで爆笑してしまった。

 実際の日蓮は、こんな神がかった人ではなく、生身の人間として偉大であったのではないか。

 熱心な日蓮宗信者であったというこの映画のプロデューサー・永田雅一(当時の大映社長)は、『十戒』などのハリウッド産聖書スペクタクルの日本版を目指したという。

 なるほど、言われてみれば全編そんな感じ。
 白拍子の女が日蓮に帰依するというシークエンスがあるのだが、これは「マグダラのマリア」を意識したキャラなのだろうな、と思ったり……。

 タイトルのとおり、蒙古襲来がクライマックスになっており、10万の蒙古軍が攻めてくる一大スペクタクルが展開されるのだが、戦闘場面ではとても10万人もいるように見えない。せいぜい200人程度の軍勢にしか思えない。

 蒙古軍が台風にやられて退散する場面も、1950年代当時としてはすごい特撮だったのだろうが、いまどきのド派手なSFX/CGに慣れた目で見ると、どうしようもなくショボい。

 だがそれでも、人間・日蓮のあたたかさと情熱を表現したいくつかのシーンは、いま観ても感動的ではある。

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清水潔『殺人犯はそこにいる』


殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件
(2013/12/18)
清水 潔

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 清水潔著『殺人犯はそこにいる――隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件』(新潮社/1728円)読了。

 犯罪ノンフィクションの金字塔として、すでに世評高い本だが、なるほど大変な力作だと思った。

 栃木県足利市、群馬県太田市という隣接する2市で、4歳から8歳の5人の少女が誘拐または殺害されているという重大事件。その中の一つが、あの「足利事件」である。一連の事件を同一犯による連続事件だと喝破した著者は、「足利事件」冤罪の可能性を報じて菅家さんを釈放へ導くとともに、徹底した取材によって、ついに「真犯人」を炙り出した―!(「BOOK」データベースより)



 足利市で生まれ育った私には忘れがたい事件であり、本書に登場する場所の多くに馴染みがあるため、いっそうのめり込んで読んだ。

 考えられる限りの取材を続ける。取材が足りなければ自分が揺らぐ。知らないことがあるということは怖いのだ。不安が残れば腹を括った報道などできない。



 本書にはそんな一節があるが、たしかに、わずかな手がかりにもくらいつき、真実を追い求めていく執念の取材はすごいの一語。

 全編に込められた熱量もただごとではない。
 とくに、犠牲となった5人の幼女を哀惜する著者の強い思いが伝わってきて、遺族に取材するいくつかの場面などは涙なしに読めない。

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テッサ・モーリス=スズキ『日本を再発明する』


日本を再発明する: 時間、空間、ネーション日本を再発明する: 時間、空間、ネーション
(2014/02/19)
テッサ モーリス=スズキ

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 テッサ・モーリス=スズキ著、伊藤茂訳『日本を再発明する――時間、空間、ネーション』(以文社/3024円)読了。書評用読書。

 オーストラリア国立大学教授にして、作家・森巣博の妻でもある著者が、長年の日本研究をふまえて書いた日本文化論。

 原文のせいなのか、訳のせいなのか、かなり読みにくくて難解。3回くらい読まないと、言わんとすることが理解できない。リライトかけたくなる。

 ただし、読みにくさに目をつぶれば、目からウロコが落ちる卓見もちりばめられている。

 私がいちばん「なるほど」と膝を打ったのは、「ジェンダー」についての章で、『おしん』を例に挙げて論じた部分。

 昭和史が凝縮されたようなストーリーをもつ『おしん』は、にもかかわらず、かつて日本が侵略したアジアの国々でも高い人気を集めた。それはなぜかと著者は問い、次のように答えを出す。

 おしんの目を通してこの戦争を見た視聴者の視野はおおむね銃後の食糧不足や、空襲、最愛の人の死という形での一般市民に降りかかった悲惨に限定される。中国や東南アジアの戦場はほとんどこの番組の視野の外にあり、その複雑な意味と向き合う必要はない。このジェンダー化された過去によって、このドラマは、アジアの隣国との経済的・文化的結びつきが増大するなかで、この地域の国々に魅力的で恐怖心を抱かせない顔を提示したい日本の文化輸出品としての役割を果たしている。



 なるほどなるほど。
 この例が示すように、著者が日本を読み解く切り口は斬新で、海外研究者の日本研究が陥りがちな紋切り型から自由である。

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山口果林『安部公房とわたし』


安部公房とわたし安部公房とわたし
(2013/07/31)
山口 果林

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 山口果林著『安部公房とわたし』(講談社/1620円)読了。

 私は作家・安部公房にも女優・山口果林にも思い入れがないが、それでも本書は面白く読めた。
 18歳のときから安部公房の逝去まで、四半世紀にわたって不倫関係にあった山口が、自らの人生を振り返る形で公房との日々を綴った1冊。

 カバーおよびカラー口絵の写真の、若き日の山口果林がたいへん美しい。
 掲載写真についての説明がないが、おそらくいずれも安部公房が撮ったものなのだろう。中にはベッドに横たわって微笑むヌード写真もあって、ドキリとする。

 ノーベル賞候補とも目された一流作家と、女優の愛人関係――いかにもドラマティックな題材であるし、じっさいドラマティックな部分もあるのだが、むしろ2人の日常のさりげないディテールが印象に残る。
 著者の語り口も、短いシーンを断片的に積み重ねたエッセイのようで、ことさら話を盛り上げようとするあざとさは皆無だ。

 アマゾンのカスタマーレビューを見ると、「言い訳がましい」などという手厳しい評が目立つ。
 「不倫相手のことを、相手が亡くなって20年も経ってから明かした暴露本」という色眼鏡で見れば、そういう感想になるだろう。
 
 しかし私は、「暴露本」的な下品さも、不倫の自己正当化のような姑息さも感じなかった。むしろ、著者はすこぶる正直に、誠実に、安部公房との関係を見つめ直していると感じた。

 次の一節が心に残る。

 安部公房の死の経緯がスポーツ新聞に掲載されたことで、「山本山」のコマーシャルから降板させられたのはショックだった。マネージャーは呼び出され謝罪したという。謝罪すべきことだったのだろうか。私の二十五年間は償うべき人生だったのだろうか。



 山口果林といえば、1980年のATG映画『海潮音』で演じた役柄が印象的だった。
 記憶を失った状態で海辺で発見される謎の女の役で、彼女はファム・ファタールとなって周囲の人間関係を壊してしまうのだった。ハマリ役だったと思う。本書でも、『海潮音』撮影時のことに少し言及している。

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『東京人』「ガロとCOMの時代1964-1971」


東京人 2014年 07月号 [雑誌]東京人 2014年 07月号 [雑誌]
(2014/06/03)


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 『東京人』の2014年7月号を購入。最新号ではなく、先月号である。

 「ガロとCOMの時代1964-1971」という特集に惹かれて図書館で読んだら、なかなか力の入ったもので、「これは手元に置いておきたい」と思って買った(まだ在庫があった)。

 タイトルのとおり、マンガ史に大きな足跡を遺した『ガロ』と『COM』の大特集。90ページに及ぶボリュームで、内容も素晴らしい。夏目房之介さんが特集の監修を務めているためでもあろう。

 つげ義春・真崎守・竹宮惠子・諸星大二郎・林静一ら、『ガロ』と『COM』にかかわりの深いマンガ家らへのインタビューはそれぞれ貴重なものだし、年表などの資料も充実している。

 中でも出色なのが、川本三郎さんによるつげ義春インタビュー。
 川本さんは現在におけるつげ作品の最良の理解者であるだけに、非常に深い内容になっている。このインタビュー自体が、つげ作品の一つであるかのような感興を呼ぶ。

 高木壮太がツイッターで、次のようにつぶやいていた。




 たしかに、つげがなぜいまマンガを描けないかの理由が明かされていて、ある意味衝撃的だ。
 つげファン及び『ガロ』と『COM』に愛着を持つマンガ好きなら、必読の特集。

関連エントリ→ 川本三郎『時には漫画の話を』レビュー

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ヤマザキマリ+とり・みき『プリニウス』


プリニウス (1) (バンチコミックス45プレミアム)プリニウス (1) (バンチコミックス45プレミアム)
(2014/07/09)
ヤマザキマリ、とり・みき 他

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 ヤマザキマリ+とり・みきの『プリニウス』1巻と、吉田秋生『海街diary』6巻を購入。

 『海街diary』6巻の帯には、「実写映画化決定」と大書されている。
 監督は是枝裕和。主人公の四姉妹にはそれぞれ、綾瀬はるか・長澤まさみ・夏帆・広瀬すずというキャスティングだそうだ。
 ワタシ的には中原俊さんに監督してほしかったところだが、是枝さんでも十分納得(及川中でなくてよかった)。
 キャスティングは……三女役の夏帆がイメージ違いすぎ(笑)。ほかは、まあ納得。

 『プリニウス』は、第一線のマンガ家2人による共作というチャレンジングな試み。よくある「原作担当と作画担当」という形ではなく、また一回限りの「企画もの」でもない、本格的な共作である。
 第1巻を読むと大長編になりそうな雰囲気だし、月刊誌(『新潮45』)連載だから、完結まで何年かかるかわからない。無事につづいてほしいものだ。

ヤマザキマリさんがネームと人物画、とり・みきさんが背景・仕上げを担当。毎回、ストーリーについて議論しながらネームを起こし、まずはヤマザキさんが人物を中心に描画。それを受けてとりさんが背景などを描き、往年の特撮映画のように2人の絵を合成して仕上げてゆく――。

 

 ……という形の共作なのだそうだ。
 この贅沢なコラボが、1+1が10にも100にもなるようなケミストリーを生んでいる。すごいクオリティーである。
 『テルマエ・ロマエ』のヤマザキマリが、こんどはコメディではなくガチンコで描く古代ローマ社会。我々にはなじみのない遠い世界が、鮮やかなリアリティで紙上に再現されていく。

  「世界史上もっとも著名な博物学者にして、ローマ艦隊の司令長官。古代ローマ一の知識人にして、風呂好きの愛すべき変人」である主人公プリニウスは、すこぶるキャラが立っている。マンガの主人公たるにふさわしい、描き甲斐のある人物なのだ。
 とはいえ、古代ローマ社会に精通したヤマザキマリでなければ、プリニウスが主人公のマンガなど、そもそも考えもつかなかったのではないか。

 『ヒストリエ』(岩明均)や『チェーザレ 破壊の創造者』(惣領冬実)と並んで、日本のマンガの豊穣さ、表現ジャンルとしての成熟度を思い知らされる作品。

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エリック・シュミットほか『第五の権力』


第五の権力---Googleには見えている未来第五の権力---Googleには見えている未来
(2014/02/21)
エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン 他

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 一昨日は新潟で取材。天気予報では台風直撃の日だったのだが、朝出発するころには台風がもう去っていたので、よかった。


 行き帰りの新幹線で、エリック・シュミット、ジャレッド・コーエン著、櫻井祐子訳『第五の権力――Googleには見えている未来』(ダイヤモンド社/1944円)を読了。

 グーグル会長エリック・シュミットの初の著書として、話題を呼んでいる1冊。
 共著者のコーエンは、グーグルのシンクタンク「Google Ideas」の創設者兼ディレクター。2006年から2010年にかけて、ライス、ヒラリー両国務長官の政策アドバイザーも務めた人だという。

 グーグルの「中の人」が書いた本といえば、ダグラス・C・メリルの『グーグル時代の情報整理術』というのを読んだことがある。これはちょっと期待外れだったが、本書はかなり面白かった。

 「第五の権力」とは、近い将来、インターネットによって世界中の人々がつながることで生まれる「権力」の謂。
 ただ、副題の「Googleには見えている未来」のほうが、内容の的確な要約になっていると思う。

 2025年には、世界人口(80億に達すると予測される)のほとんどがネット環境を手にしてオンラインで結ばれるだろう……と、著者たちは予測する。
 そのことが世界にどのような激変をもたらすのかを、さまざまな角度から探った未来予測の書なのである。

 グーグル会長の著書なのだから、ネットがもたらす未来についての予測が楽観側に大きく振れているのは、まあ当然だろう。だいたい、バラ色の未来を描く楽観が7割、悪夢の未来を描く悲観が3割というところ。

 たとえば、終章には次のような一節がある。

 技術を通じた世界の一体化が実現したとき、どれだけ多くの新しいアイデア、新しい観点、新しい作品が生まれ、そのインパクトはどれほど速やかに感じられるだろうか。
 これからも多くの人が仮想世界に足を踏み入れるが、そのことは彼らにとっても、すでにつながっている私たちにとってもプラスになる。人類の英知と創造性をより多くの人と共有することで、人類全体としての利益は指数関数的に増えていくのだから。
 情報技術は電力のように、どこにいても使えるようになる。
 あってあたりまえのもの、なくてはならない生活の一部になるから、それがなかった頃の生活を子どもに説明するのにさえ苦労するだろう。


 
 もっとも、全体を読めば、楽観にも悲観にも十分な根拠が示されており、荒唐無稽な机上の未来予測とは一線を画する。

 グーグルは2010年に中国市場から撤退して世界をあっと言わせたが、そのことをふまえて読むと、中国の未来についても予測した第3章「国家の未来」はひときわ興味深い。

 あと、いちばん目からウロコが落ちたのは、第5章「テロリズムの未来」。
 これは、本書の中で最も悲観的色彩が濃い章といえる。次の一節のように、ゾッとする記述が山盛りだ。
 

 未来のテロリストは、おそらく「普及型」の無人飛行機と、携帯型IEDを組み合わせたテロ兵器を自作するだろう。



 「IED」とは、「即席爆発装置(Improvised Explosive Device)」のこと。
 たとえば、「バイブレーション機能をオンにした携帯電話に、爆弾の起爆装置をテープづけしてつくった爆弾は、その携帯に電話をかけるだけで、遠隔から爆発させることができ」るそうで、すでにイラクで米軍相手に使用されているという。
 そして、『ターミネーター』のようなロボット兵器が戦う戦争も、本書が描く「未来」の一部なのである。

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『パライーソ/ブラジル×ジャズ×クラシック』


パライーソ ブラジル×ジャズ×クラシックパライーソ ブラジル×ジャズ×クラシック
(2011/08/31)
大高清美/宮本勧嗣/松本正士/ンジャセ・ニャン/ノリコ・ルイス/矢部利彦



 大高清美、宮本勧嗣、松本正士、ンジャセ・ニャン、ノリコ・ルイス、矢部利彦の『パライーソ/ブラジル×ジャズ×クラシック』(オーバーラップ・レコード)を、中古で購入。

 最近気に入っているオルガニスト、大高清美が参加しているということで、予備知識なしにゲットしてみたもの。

 サブタイトルのとおり、クラシックの名曲をブラジリアン・ジャズ風にアレンジしたもの。夏の浜辺で聴くのが似つかわしいリゾート・ミュージック集だ。

 いかにもサンバのリズムに合いそうな豪快・勇壮な曲は、注意深く避けられている。
 むしろ、サティの「ジムノペディ」とかラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」とか、パッヘルベルの「カノン」とかフォーレの「夢のあとに」とか、“切な系”の曲が中心のセレクトになっているのだ(ヴィヴァルディの「春」のような明るい曲も中にはあるが)。

 では、このアルバム自体も“切な系”かというとそんなことはなく、サンバのリズムが基調となったにぎやかで明るいサウンドなのである。
 サンバ・アレンジの「ジムノペディ」とか、ちょっと想像できないかもしれない。しかし、意外にもこれがしっくりと合っている。

 切な系のクラシックに、ブラジリアンの中でも明るい側面を活かしたアレンジを加えることによって、異種交配の妙味が生まれている。明るさと切なさが、絶妙のミクスチャー加減を見せているのである。リゾート・ミュージックではあっても、夕暮れの浜辺にふさわしい感じというか。

 どの曲も、上品で繊細なアレンジが素晴らしい(アレンジは、本作のブロデューサーでもある元倉宏がすべて担当)。
 一歩間違えば毒にも薬にもならないイージーリスニング集になりかねないアルバムだが、演奏の質も高く、フュージョン・ファンの鑑賞に十分堪える仕上がりになっている。
 アマゾンのカスタマーレビューを見たら、小林泉美&Flying Mimi Bandや大野雄二を例に挙げて本作をホメている人がいたが、同感。あのへんのサウンドを彷彿とさせる。

 キーボードは、もちろんすべて大高清美。
 ただし、彼女のジャズ・ロック的側面は本作にはほとんど出ておらず、そこがちょっと残念(わずかに、ドヴォルザークの「新世界より」第4楽章をロックなアレンジで演っているのと、「G線上のアリア」の疾走感に満ちたキーボードが大高らしい)。
 とはいえ、意外な拾い物という感じの好アルバムではある。

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鈴木伸元『性犯罪者の頭の中』


性犯罪者の頭の中 (幻冬舎新書)性犯罪者の頭の中 (幻冬舎新書)
(2014/05/30)
鈴木 伸元

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 鈴木伸元著『性犯罪者の頭の中』(幻冬舎新書/842円)読了。

 目を引く下世話なタイトルは、いかにも幻冬舎新書らしい。
 このタイトルだと、『新潮45』がやるような煽情的犯罪読み物を連想する人が多いだろう。だが、実際にはごく真面目な内容である。

 著者はNHKの報道番組ディレクターで、本書も「性犯罪“犯行サイクル”を断て」とのタイトルで放映された番組をベースにしている。

 書名に相応した内容になっているのは、性犯罪者たちに取材した1章及び2章の前半のみ。
 残りは、性犯罪の統計データを紹介するなど、白書的な内容がメイン。生々しいノンフィクションを期待した読者にとっては、いささか肩透かしだろう。

 再犯防止の取り組みがくわしく紹介されるところなど、内容は興味深いのに、読後の印象が薄い本だ。構成が散漫だし、著者の文章も「これをぜひとも世に訴えたい!」という熱気に乏しい。

 前に読んだ『子どもへの性的虐待』(森田ゆり)は、性犯罪の概説書という意味では本書の類書だが、本書とは対照的に読者を釘付けにする熱気に満ちていた。著者は、森田ゆりの語り口に学ぶべきだったと思う。

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山口真由『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』


天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある
(2014/01/16)
山口 真由

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 先週は、木、金と雑誌の取材で新潟へ――。
 今週の金曜もまた取材で新潟へ行く予定なのだが、天気予報によれば台風直撃の日である。どうなることやら。


 山口真由著『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』(扶桑社/1404円)読了。

 東大法学部3年生時、司法試験に現役合格。4年生時には国家公務員Ⅰ種試験に合格。東大法学部を首席で卒業し、財務官僚を経て弁護士となる。
 ……という華麗な経歴をもち、最近ではテレビ出演も多い美人弁護士が、自らが積み重ねてきた努力の方法論を開陳した本。

 なかなかよくできた自己啓発書である。「ワタシはこんなにも努力してきたんですよ~」という自慢話の羅列になりかねない本だが、そんないやらしさは感じなかった。

 私たちが試験や仕事などのチャレンジをする際に、どのように努力を継続していけばよいか、どうすれば努力の質を高めていけるかのコツが、さまざまな角度から紹介されている。

 全4章立てのうち、3章までは一読の価値がある。
 読者がすぐに生活に取り入れられるノウハウも多いし、「がんばろう!」という気持ちに火をつけてくれる効果もある。
 試験などを控えている人のみならず、あらゆる仕事の質を高めるヒントをちりばめた「仕事術」の本としても読める。

 しかし、最後の4章になると、もうネタ切れしてしまったのか、どうでもいいトリヴィアルなノウハウばかりが目立つ。

 1冊目の著書でこんな感じなのだから、著者が今月刊行した2冊目『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』や、今月末に刊行予定の3冊目『エリートの仕事は「小手先の技術」でできている。』は、さらに水増し度が上がって、二番煎じの薄~い内容になっていることだろう。
 ただ、くり返すが、本書の1~3章の内容は悪くない。

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木村草太『テレビが伝えない憲法の話』


テレビが伝えない憲法の話 (PHP新書)テレビが伝えない憲法の話 (PHP新書)
(2014/04/16)
木村 草太

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 今日は、都内某所で打ち合わせ。
 行き帰りの電車で、木村草太著『テレビが伝えない憲法の話』(PHP新書/821円)を読了。

 著者は憲法学界のホープであり、憲法学の知見を一般人にわかりやすく伝える“インタープリター”として、八面六臂の活躍をつづけている。

 本書は、ややヒネったタイトルがついているものの、木村草太流「日本国憲法入門」として読める内容だ。日本国憲法の全体像が大づかみにできるし、一方では憲法をめぐる最近のトピックへの目配りもきいている。
 たとえば、全6章中の第5章は、丸々、安倍政権の96条改正案(批判の集中砲火を浴びてこれを引っ込め、解釈改憲に至ったわけだが)に対する批判となっている。

 眉根にシワ寄せた憲法論ではなく、軽やかでやわらかい語り口になっている点がよい。笑いを誘う記述すら随所にあって、木村氏は意外にお茶目である。

 憲法訴訟について論じた第3章だけ、やや退屈に感じたが(とはいえ、内容は重要だし、そもそも木村氏の専門は憲法訴訟なのだそうだ)、ほかはどの章も面白く読めた。

 時節柄いちばんホットなテーマである集団的自衛権についても、9条を真正面から論じた第4章で詳述している。
 4月に刊行されたばかりの本だが、集団的自衛権行使容認の解釈改憲問題について論じた章を新たに加えて、緊急増補改訂版を出してもよいかも。

■関連エントリ→ 木村草太『キヨミズ准教授の法学入門』レビュー

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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