影山裕樹『大人が作る秘密基地』


大人が作る秘密基地 屋外、ツリーハウス、リノベーション、シェアオフィスまで大人が作る秘密基地 屋外、ツリーハウス、リノベーション、シェアオフィスまで
(2014/04/23)
影山 裕樹

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 影山裕樹著『大人が作る秘密基地――屋外、ツリーハウス、リノベーション、シェアオフィスまで』(DU BOOKS/1814円)読了。

 前エントリにつづいて、またもやDU BOOKSの本である。この版元が最近出す本に、私好みのものが多いのだな。

 ご多分にもれず、私も子どものころ秘密基地に憧れたものだった。山の中にそれっぽいものを作ったこともある。
 「秘密基地」とは何かというと、家とは別の、仲のよい子どもたちだけでひそかに集える場所の謂である。

 私が子どものころ――つまり1970年代前半くらいまでは、マンガや少年小説などによく秘密基地のたぐいが登場した気がする。

 たとえば、大石真の児童文学『教室二◯五号』(学校の物置小屋の奥に地下室を発見した少年たちが、それを自分たちの「秘密基地」にする話)とか、くだけたところではとりいかずよしのマンガ『トイレット博士』に登場する「メタクソ団」の部室(メタクソ団は校庭にひそかに地下室を作って部室にしている)とか……。

 なぜ昔の少年たちがこぞって「秘密基地」に憧れたかといえば、おそらく日本の貧しい住宅事情の反映であったろう。仲間たちだけで自由に過ごせる場所を持っていなかったからこそ、「秘密基地」を持ちたがったのだ。

 さて、本書はタイトルのとおり、いまの大人たちがさまざまな形で実現した「秘密基地」的空間を探訪し、紹介していくものである。

 個人の家から店舗やシェアオフィスまで、ツリーハウスから手作りキャンピングカー(トラックの荷台に手作りの2階建て住居を載せ、“移動秘密基地”と化したもの)まで、さまざまな「秘密基地」が登場する。

 写真と文章で紹介される「秘密基地」の数々を、見ているだけで楽しい。
 とくに、いくつも登場するツリーハウスの例は、「あー、こういうの欲しい」と本気で思った。

 本書を読んで気づいたが、いわゆる「男の隠れ家」願望と「秘密基地」願望は、似て非なるものだ。
 「隠れ家」が基本的に1人で過ごす場所であるのに対し、「秘密基地」は基本的に仲間と過ごす場所であるから。

 で、私自身がどちらの願望を抱いているかといえば、いまなら「秘密基地」よりも「隠れ家」だな。仲間と遊ぶよりは1人の時間がほしい。……と、そんなことにまで気付かされてしまった(笑)。

 後半の第二章「実践編」には、いまから秘密基地を作ろうとする人のための具体的なアドバイスもなされている。
 遊び心に満ちた愉しい本である。

■関連エントリ→ 北尾トロ『男の隠れ家を持ってみた』レビュー

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松永良平ほか『音楽マンガガイドブック』


音楽マンガガイドブック (音楽マンガを聴き尽くせ)音楽マンガガイドブック (音楽マンガを聴き尽くせ)
(2014/03/14)
松永 良平、 他

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 松永良平監修『音楽マンガガイドブック――音楽マンガを聴き尽くせ』(DU BOOKS/1944円)読了。

 タイトルのとおり、1950~2010年代までの「音楽マンガ」を網羅したガイドブックである。版元のDU BOOKSはディスクユニオンの出版部門だ。

 当然、音楽家やロックバンドなどを描いたマンガの紹介が中心である。
 それ以外に、音楽に強くインスパイアされたマンガ、音楽がストーリーの中で重要な役割を果たすマンガ、さらには『ドラえもん』や『ブラックジャック』などの有名マンガに登場する音楽ネタまでが紹介されている。

 また、細野晴臣(『三丁目の夕日』の西岸良平とは高校の同級生で、自身もマンガ家を目指していた)や坂本慎太郎(元ゆらゆら帝国)など、ミュージシャンにマンガの話を聞くインタビューが合間に登場する。

 いまどき珍しい小さな字で、すごい量の情報がぎっしり詰め込まれている。
 アマゾンのカスタマーレビューで、本書を「それにしても高すぎる。800円ぐらいの本の内容」と腐している人がいるが、そんなことはない。この情報量で2000円を切る価格は、むしろ安すぎるくらいだ。

 未単行本化の短編まで拾い集めているなど、作品のセレクトはかなり網羅的で、たいへんな労作だと思う。

 この手の本を読むと、マニアックな読み手ほど、「あの作品が抜けている」「あの名作を取り上げないとはどういう了見だ!」と、「抜け」ばかりが目につくものだ。しかし、本書に関して私はほとんどそれを感じなかった。むしろ、知らない作品もけっこう多かった。

 私が感じた「抜け」は、「宮谷一彦のジャズ劇画を取り上げるなら、『75セントのブルース』や『魂の歌』、『不死鳥ジョー』(元ボクサーの主人公が「ドック・オブ・ベイ」のカバーで歌手デビューする短編)も取り上げて欲しかったな」とか、「柳沢きみおの『真夜中のジャズマン』を取り上げているが、彼の音楽マンガといったら断然『流行唄(はやりうた)』だろうに」……というくらい。

 まあ、あまりにも総花的で、その分個々の作品の掘り下げが浅いうらみはある。
 あと、ヴィジュアルが単行本の表紙一辺倒というのは、ちょっと芸がないし、寂しい。
 だが、それは「隴を得て蜀を望む」たぐいであって、音楽マンガのガイドブックとしては上出来だと思う。

 資料的価値も高い。
 『FMレコパル』の「ライブコミック」(マンガ家たちにミュージシャン・作曲家の短編伝記マンガを描かせた名物シリーズ)全作品リストとか、オマケ的ページもなかなか凝っているし……。

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佐藤優『サバイバル宗教論』


サバイバル宗教論 (文春新書)サバイバル宗教論 (文春新書)
(2014/02/20)
佐藤 優

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 佐藤優著『サバイバル宗教論』(文春新書/864円)読了。

 著者が臨済宗相国寺で僧侶たちを相手に行った連続講義「危機の時代における宗教」をまとめたもの。

 博学な著者だけに、キリスト教・仏教・イスラム教などのさまざまな宗教について縦横無尽に語られる。
 また、宗教論というより、“宗教をフィルターとした国際政治論”の趣が強い内容であり、むしろ政治の話のほうが刺激的だ。

 ただ、話があちこちに脱線して、まとまりに欠ける。きちんと構成を練った講義というより、思いつくまま話をしている感じだ。
 まあ、脱線部分にも面白い話が多いので、読んでいて退屈はしないけれど……。

 印象に残ったのは、「一神教は不寛容で多神教は寛容」という俗流宗教論を槍玉にあげている箇所。

 もちろん一神教の中にも、不寛容な人もいれば不寛容でない人もいる。しかし、基本的には、一神教というのはむしろ寛容です。なぜかと言えば、一神教の信者は神と自分の関係にしか関心がないからです。ほかの人がどんな宗教を信じているか、信じていないかにはそもそも関心がない。無関心であるがゆえの寛容というわけです。
(中略)
 他方で、多神教は寛容だという説があります。しかし、たとえばスリランカのテロには多くの仏教徒が関与しています。また、タイの紛争も、仏教徒間の紛争で、流血騒ぎも起きています。
 ですから、特定の宗教が寛容であるとか不寛容であるという議論自体が間違っているわけです。ところが、「一神教は不寛容だ」という説は、かなり安易に通用しています。政治エリートでもそんなことを信じている人がたくさんいます。



 私も「一神教は不寛容」とのイメージを鵜呑みにしていたところがあったので、この一節を読んで少し反省。

 あと、政治がらみの話では、“沖縄が日本から独立する可能性は、本土の人間が思っている以上に高い”という話が興味深かった。

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ロバート・ビスワス=ディーナー『「勇気」の科学』


「勇気」の科学 〜一歩踏み出すための集中講義〜「勇気」の科学 〜一歩踏み出すための集中講義〜
(2013/12/21)
ロバート・ビスワス=ディーナー

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 今日は、都内某所で打ち合わせが2件。
 行き帰りの電車で、ロバート・ビスワス=ディーナー著、児島修訳『「勇気」の科学/一歩踏み出すための集中講義』(大和書房/1278円)読了。

 「ポジティブ心理学界のインディ・ジョーンズ」という異名をもつ(心理学研究のためにいろんな秘境に行っているという意味らしい)著者による、勇気についての科学的な解説書である。

 この手の本では、前に読んだ『孤独の科学』『WILLPOWER 意志力の科学』『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』(「先延ばしの科学」ともいうべき内容)が、有益で面白かった。
 その3冊のクオリティに比べると、本書は内容が薄いし、心理学の一般書というより自己啓発書に近い。

 勇気は生まれつきのものではなく「習得できる技能」であり、トレーニングによって強化することができる、と著者は言い、勇気を強めるためのコツを紹介している。

 それらのコツの中には、「なるほど」と納得できるものもある。
 たとえば、勇気を発揮するにはそれを妨げる恐怖心に打ち勝つ必要があるが、そのためには怒りの感情を利用するとよいとあり、深く得心した。

 恐怖が行動を躊躇させる感情であるなら、その恐怖を上回るさらに強い感情的な反応によって、私たちは速やかな行動に導かれるはずです。人間の“感情のパレット”には、恐怖を克服するだけの強さをもつ、唯一の感情があります。それは、怒りです。
(中略)
 強い怒りの感情によって勇気を引き上げることを考えるうえで大切なポイントは、自分が大切にしている価値観を基準にすることです。



 しかし、これ以外のコツは、あたりまえのことばかりという印象を受けた。

 たとえば、経営者や警察官などの行動に勇敢さが見られることが多いのは、彼らが自分に与えられた責任を自覚しているからだ、という主旨のくだりがある。責任感が勇気を後押しするのはあたりまえのことであって、何も心理学者に教えてもらわなくてもわかる。

 あと、“じつは女性のほうが勇気があるのではないか”という話も、興味深く読んだ。
 たとえば、「ホロコーストにおいて自身の危険を顧みずにユダヤ人を救った人に与えられる『諸国民の中の正義の人』称号を持つ人のうち、約六割が女性」なのだという。

 そのように有益な知識も得られるので駄本とまでは言わないが、読み返したいとは思えなかった。

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安部譲二・山田詠美『人生相談劇場』


人生相談劇場人生相談劇場
(2014/01/09)
安部 譲二、山田 詠美 他

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 PC遠隔操作事件、佐藤博史弁護士はなんともお気の毒な事態――。

 私には以前、仕事で裁判の傍聴に通っていた時期があるのだが、佐藤さんはそのころ法廷で好印象を抱いた弁護士の1人であった。熱意あふれる弁護をする人である。

 今回の事態で、佐藤さんを非難するのは筋違いだろう。
 昨日たまたま観ていたテレビのワイドショーでは、「佐藤弁護士は責任逃れのために被告をサイコパス呼ばわりしている」などと言っていた。サイコパス云々は被告が自ら言った言葉で、佐藤さんはそれを紹介しただけなのに……。


 安部譲二・山田詠美著『人生相談劇場』(中央公論新社/1728円)読了。

 月刊『婦人公論』に連載された対談の単行本化。タイトルのとおり、読者からの人生相談に両著者が対談形式で答える体裁をとっている。
 ただし、話しているうちに相談とは関係ない内容になってしまう回が多い(笑)。

 安部譲二は、小説家としては半引退状態らしい。本書でも、「(小説が)書けなくなった」「小説の依頼がない」とくり返し発言している。
 小説家としての力量については措くとしても、人生経験が豊富な人だけに、人生相談への答え方は含蓄があって面白い。

 20数年前、私が生まれて初めて書いた雑誌コラムは、「雑誌の人生相談読み比べ」というテーマであった。さまざまな雑誌に当時連載されていた人生相談を読み比べて、ベスト3を選ぶというネタである。
 そのとき、安部が当時『週刊ポスト』に連載していた「人生問答」を第2位に選んだことを思い出した。

 本書においても、安部、山田ともに、思わずメモしたくなるようないい言葉をたくさんくり出している。
 たとえば、45歳主婦の、勤め先の一回り若い男性との恋を「進むべきか、あきらめるべきか」という相談に対する答えの一節――。

安部 だからね、恋っていうものは「恋」って言うから美しいんで……。女は知らないけれど、男はそれを性欲だと思うと身も蓋もないよな。
山田 私も、発情することが感情と一緒になったときに恋と呼ぶんだと思ってますよ。だから、初恋は一番最初の発情期で、純愛って一番よこしまな発情の形態だと思ってる。



 私生活でも仲のいい友人だという2人は、対談でも終始息が合っている。それでいて、山田が安部を本気で叱りつける一幕もあるなど、内輪の「なあなあ」に終わっていないところもよい。

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イアン・モリス『人類5万年 文明の興亡』


人類5万年 文明の興亡(上): なせ西洋が世界を支配しているのか (単行本)人類5万年 文明の興亡(上): なせ西洋が世界を支配しているのか (単行本)
(2014/03/19)
イアン モリス

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 今週は、水曜に仙台で震災関連取材。
 「3・11」から3年以上が過ぎたので、さすがに震災関連取材もめっきり少なくなった。

 で、昨日の金曜は埼玉県狭山市で企業取材。
 狭山といえば、志村けんの歌で名前だけは昔からなじみ深いが、実際に行ったのは初めてかも。


 新幹線や在来線の中で、イアン・モリス著、北川知子訳『人類5万年 文明の興亡――なぜ西洋が世界を支配しているのか』(筑摩書房/上下巻・各3880円)を読了。書評用読書。

 米スタンフォード大学の歴史学教授である著者が、東西の歴史を比較して、副題(原題でもある)の問い「なぜ西洋が世界を支配しているのか」の答えに迫った歴史書だ。

 ……というと、「ああ、そんなテーマの本は前にもあったな」と思う人も多いだろう。
 本書にも言及があるジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』はまさにそうしたテーマの本であったし、昨年に読んだ『国家はなぜ衰退するのか』も、「国家間の貧富の格差はなぜ生じたか」を追究するなかで、「なぜ西洋が世界を支配しているのか」という問いに答えたものであった。

 では、本書は過去の類書に屋上屋を架しただけの本なのか?
 そうではない。類書の多くが先史時代と近代以降のみを検討の対象とし、「途中の数千年についてはほとんど語ろうとしない」のに対し、考古学と古代史と紀元前1000年紀の地中海史を学んだ著者は、人類5万年の歴史すべてを検討対象に据えている。その点に本書の独創性と価値があるのだ。

 先史を見るだけでも過去数百年を見るだけでも西洋の優位は説明できない。この問いに答えるには、過去の歴史の流れのすべてを理解しなくてはならない。



 人類5万年の歴史をつぶさにたどり、現代文明の西洋優位の謎を解き明かす、壮大な試み。そして著者は、そう遠くない将来に西洋優位は終焉を遂げると予見している。
  『銃・病原菌・鉄』と読み比べてみるのも一興だろう。

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小谷野敦『日本売春史』


日本売春史―遊行女婦からソープランドまで (新潮選書)日本売春史―遊行女婦からソープランドまで (新潮選書)
(2007/09)
小谷野 敦

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 小谷野敦著『日本売春史――遊行女婦からソープランドまで』 (新潮選書/1188円)読了。

 先日読んだ『日本人のための世界史入門』が面白かったので、小谷野の「歴史もの」の旧著に手を伸ばしてみたしだい。
 本書はわりと下世話な興味で読んでみたのだが、予想したよりもずっとアカデミックで真面目な本だった。

 カバーに書かれた惹句をそのまま引用する。

「娼婦の起源は巫女」「遊女は聖なる存在だった」「遊廓は日本が誇る文化だった」など、これまでの売春論は、その是非を問わず、飛躍と偽善にみちた幻想の産物ばかりである。また、現代にも存在する売春から目を背け、過去の売春ばかりを過剰に賛美するのはなぜか? 古代から現代までの史料を丁寧に検証、世の妄説を糾し、日本の性の精神史を俯瞰する力作評論。



 この惹句のとおり、本書のメインテーマは、網野善彦、佐伯順子らによってなされてきた「聖なる遊女」論を論破することにある。
 その本筋部分も面白いのだが、私はむしろ脱線部分――随所にちりばめられた売春史をめぐる広範な雑学――のほうを愉しく読んだ。
 たとえば――。

 森鴎外は、最初の妻を離縁してから十一年間独身だったが、その間に妾を囲っていたし、娼婦はともかく藝妓遊びは一通りしたようだ。ただし夏目漱石は、今のところ、娼婦買いはもちろん、妻以外の女と性関係をもった形跡がなく、それが今日、漱石が国民作家とされる所以でもある。



 ところで、本書で槍玉にあげられている「聖なる娼婦幻想」は、私自身の中にもある。
 それは、本書にも言及のある(※)『罪と罰』のソーニャ(=清らかな心をもつ娼婦)のイメージの影響かもしれないし、昔読みかじった網野善彦の本の影響かもしれない。

※「ドストエフスキーの『罪と罰』の娼婦ソーニャは聖女ふうに描かれているが、これは下層民に同情を寄せる近代ロマン主義や社会主義、さらにディケンズの影響であろう」という言及。

 が、私自身の精神史を振り返ってみると、もっと俗な小説の影響のほうが大きい気がする。それは昭和の大ベストセラー、五木寛之の『青春の門』だ。

 これは「黒歴史」に属するのかもしれないが、私は中学生くらいのころ、『青春の門』を夢中になって読んだことがある。
 で、薄幸なヒロイン・織江が「夜の蝶」に身をやつしつつも主人公・信介を一途に想いつづける様子とか、重要なキャラクターとして登場するインテリ娼婦カオルの存在に、ガキながらも強い印象を受けたのだ。

 本書には言及がないが、『青春の門』が日本のある世代の「聖なる娼婦」幻想に与えた影響は、かなり大きいと思う。
 
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坂口尚『石の花』


石の花(3)内乱編 (講談社漫画文庫)石の花(3)内乱編 (講談社漫画文庫)
(1996/07/12)
坂口 尚

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 仕事上の必要があって、坂口尚の『石の花』全5巻を再読。

 以前に何度も読んでいるのに、読み始めると作品世界にぐいぐい引き込まれ、改めて感動してしまった。やはり名作だと思う。

 旧ユーゴスラビアが第2次大戦中にナチスドイツの侵攻で分割・占領され、1945年に解放されるまでの激動の5年間を描いた大河マンガである。
 対独パルチザンに加わる少年クリロを中心とした群像劇であり、“『戦争と平和』のマンガ版/ユーゴスラビア版”という趣もある。

 5つの民族・4つの言語・3つの宗教・2つの文字を持つ複雑な国であったユーゴ。その入り組んだ現代史が巧みに作品に組み込まれ、知識のない日本人にもすんなり物語の中に入ることができる。また、強制収容所での大量虐殺など、ナチスの蛮行についても理解が深まる。

 妙に観念的になってしまうラストにはちょっと首をかしげるが、作品全体の素晴らしさの前では、それは瑕瑾にすぎない。

 なんといっても、絵がよい。うまいのはもちろんのこと、画面構成や構図などがいちいちバシッとキマっていて、ハイセンスなのだ。
 とくに、全編冒頭のカラーページのなんと見事なこと。1ページ1ページが立派な絵画作品のようだ。

 坂口さんには、某出版社の忘年会で一度だけお目にかかったことがある。背が高くてハンサムなカッコイイ人だった。
 49歳という若さでの早逝が、いまさらながらつくづく惜しまれる。

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大高清美『Third Hand』


Third HandThird Hand
(1998/12/21)
大高清美

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 大高清美の『Third Hand』(コンポジラ)を聴いた。

 KIYO*SENの『Chocolate Booster』を聴いてすっかり気に入ってしまったオルガニスト・大高清美が、1998年に発表したファーストソロアルバム。

 『Chocolate Booster』ほどロック色は濃くない。全体としては「ジャズ・ロック寄りの、普通のフュージョン」という印象。
 それでもやはり「栴檀は双葉より芳し」で、毒にも薬にもならない並のフュージョンとは一線を画すカッコよさだ。演奏は終始テクニカルで、ときにファンキー。
 
 全9曲中8曲までが大高のオリジナル。残り1曲は、『Chocolate Booster』にも参加していたギタリスト・矢堀孝一(FRAGILE)の提供曲。
 矢堀は本作にもギターで参加。ほかに、岡田治郎(ベース)と木村万作(ドラムス)という「プリズム」のリズム隊がバックを固めている。

 アルバム中いちばんKIYO*SENに近いのが、「POTOS」という曲。
 オルガンとギターとドラムスの音が怒涛のように押し寄せる、ド迫力の疾走チューン。KIYO*SENでも演ってほしい。

 楽曲のよさもさることながら、オルガンプレイが豪快・パワフル・男前で、まことに素晴らしい。なんというか、サバサバした感じの小気味よい音なのだ。
 「デビュー作にしてすでに完成型」という趣のアルバム。

 あと4枚出ているソロアルバムを順次聴いていきたいのだが、いくつかは廃盤のようで、中古が高値を呼んでいる。うーむ。

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鈴木邦男・北芝健『右翼の掟 公安警察の真実』


右翼の掟 公安警察の真実―日本のタブー、二大組織の謎を解く右翼の掟 公安警察の真実―日本のタブー、二大組織の謎を解く
(2010/04)
鈴木 邦男、北芝 健 他

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 鈴木邦男・北芝健著『右翼の掟 公安警察の真実――日本のタブー、二大組織の謎を解く』(日本文芸社)読了。

 新右翼の重鎮・鈴木と、公安警察に身を置いたこともあるという作家の北芝健による共著。公安に監視される側と、監視する側だった人物の組み合わせであるわけで、キャスティングが面白い。

 私は、立花隆の『読書脳』で本書が紹介されていたのを読んで興味を抱いたしだい。

 1~2章は鈴木による日本の右翼の解説、3章は北芝による公安警察の解説で、最後の第4章で両者が対談するという構成だ。

 そこそこ面白いけれど、全体に薄味な印象の本。対談ではところどころ人名が伏せ字になっていたりするが、「タブーを暴く」というほどでもない。

 それと、鈴木はともかく、北芝の文章が劣悪。彼が書いた部分は読みにくいったらない。
 たとえば――。

 論を待つまでもなく、どのような組織でも内部が均質で一定しているものなどあり得ない。
 公安警察とて同様。
 異なった見解、意思、人格の混合体である以上、成員みなが満足ではないが強固な意見と上部の強力な要求で行う強引かつ誤謬を発生させるリスクを敢えて厭わぬ捜査方法も存在したことがあったのである。



 「悪文の見本」のように言われる裁判所の判決文でさえ、いまどきこれほどこんがらがった悪文にはお目にかかれない。

■関連エントリ→ 北芝健『「落とし」の技術』レビュー

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『そこのみにて光輝く』



 立川シネマシティにて、『そこのみにて光輝く』を観た。
 佐藤泰志が遺した唯一の長編小説の映画化。



 佐藤作品の映画化は、2010年の『海炭市叙景』につづいて2作目。ブレイクすることのないまま、1990年に自ら命を絶ったマイナー作家が、四半世紀を経たいまになって脚光を浴びているのは皮肉である。

■関連エントリ→ 佐藤泰志『海炭市叙景』レビュー

 昔のATG映画(の青春映画)を彷彿とさせる、重く、暗く、湿った映画。しかし、そこがよい。この暗さこそが日本映画だと思う。

 主要キャストが全員熱演を見せる映画だが、なんといってもヒロインの池脇千鶴が素晴らしい。『罪と罰』のソーニャのような薄幸のヒロインを、圧倒的な生々しさで演じて見事だ。『ジョゼと虎と魚たち』と並んで、彼女の女優としての代表作になるだろう。

 映画自体にも、“もう一つの『ジョゼと虎と魚たち』”という趣がある。どちらも、過酷な環境の中にあるヒロインの元に、“王子様”がやってきて違う世界に連れて行こうとする話なのだ。

 もっとも、『ジョゼ~』にあった軽やかさは本作にはなく、描かれる恋愛も、互いの深い孤独が共鳴し合うようなものなのだけれど……。

 『ジョゼ~』の王子様・妻夫木くんは最後にヒロインの元を去っていったが、本作の綾野剛はヒロインがボロボロになっても寄り添いつづける。その意味では、哀しい結末ながらもハッピーエンドなのかもしれない。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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