中島武『ハングリー』『繁盛道場』


ハングリー―日本を明るくするバカ力ハングリー―日本を明るくするバカ力
(2004/11)
中島 武

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 このところ、取材つづきでバタバタしている。

 昨日は福島県いわき市で、政治評論家の森田実さん、東北大学教授の安田喜憲さん、東日本国際大学前学長の石井英朗さんの鼎談取材。森田さん、石井さんとは初対面。安田さんとは2度目。
 今回は司会進行役の方がほかにいらしたので、その点は気楽だった。

 今日は都内で、午前中に映画監督の園子温さん、午後は際(きわ)コーポレーション社長の中島武さんを取材。
 園監督の取材は、秋公開の新作『希望の国』について。「第一線の映画監督というのは、じつに深いところまで考えて作品を作っているのだなあ」と、改めて感心させられた。

 中島武さんは、「紅虎餃子房」を筆頭に、100業態に及ぶ飲食店を経営するカリスマ社長。テレビ等への登場機会も多いので、ご存じの人も多いはず。
 著作の『ハングリー/日本を明るくするバカ力』(講談社)と『繁盛道場』(日本経済新聞出版社)を読んで臨む。

 『繁盛道場』は飲食店経営者をおもな対象にした本なので、一読者としては『ハングリー』のほうが面白かった。痛快エピソード満載の、中島さんの自伝的著作である。1冊の本としてもたいへんよくできている。

 まったく分野の異なる、しかもそれぞれ強烈な個性をもつお二人への“ダブルヘッダー取材”であったため、アタマの切り替えが大変。取材を終えると脳が満杯になったような気分に……。
 とはいえ、各界一流の人物と仕事でお会いできることがライターの醍醐味の一つであり、充実した日々ではある。
 明日も、取材と打ち合わせが1件ずつ――。

 
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高間大介『人間はどこから来たのか、どこへ行くのか』


人間はどこから来たのか、どこへ行くのか (角川文庫)人間はどこから来たのか、どこへ行くのか (角川文庫)
(2010/06/25)
高間 大介(NHK取材班)

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 昨日から一泊で大阪へ取材に行っていた。
 取材は昨日の午後に1件、今日の午前中に1件。「3日間で駆けずり回って10人を取材」などという強行軍の取材もさんざんやってきた私だから、1日1件の取材はすごくラク。

 行き帰りの新幹線で、高間大介著『人間はどこから来たのか、どこへ行くのか』(角川文庫/620円)を読了。

 2年前に出たとき、タイトル(※)に惹かれて何気なく買った本。読んでみたらすごく面白かった。第一級の科学啓蒙書。もっと話題になってベストセラーになっていても不思議はない本だ。

※カバーに使われているゴーギャンの名画「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」をもじったタイトル

 著者は、NHKで看板番組「NHKスペシャル」などを担当しているプロデューサー。
 本書は、NHKで放映された『サイエンスZERO』――「シリーズ ヒトの謎に迫る」をベースにしたものだ。

 分子人類学、ロボット学、サル学(霊長類研究)、社会心理学など、各分野の第一線の研究者を取材し、その研究内容のおいしいところをギュッと凝縮する形で、「人間とは何か?」という問いに迫った1冊。
 立花隆の初期著作『文明の逆説』に「人間とは何か?」という卓抜な論考が収録されていたが、本書はあれをさらに広げ、情報をアップデートした感じの内容である。

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『西村賢太対話集』


西村賢太対話集西村賢太対話集
(2012/04/19)
西村 賢太

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 『西村賢太対話集』(新潮社/1575円)読了。

 私小説書き・西村賢太の初の対談集である。
 相手となるのは、町田康・島田雅彦と朝吹真理子(これのみ鼎談)・高橋三千綱・坪内祐三(2回登場)・石原慎太郎・朝吹真理子(2回登場)・上原善広・高田文夫。

 最後の高田文夫だけが一見異質だが、西村は少年時代に「ビートたけしのオールナイトニッポン」を愛聴して以来、高田の熱烈なファンなのだという。

 内容は、高田文夫との対談を除けば、創作の舞台裏を明かした文学対談になっている。

 西村賢太は小説でもけっこうサービス精神に富んでいる作家だが、対談でもそのサービス精神がいかんなく発揮されている。相手をヨイショもすれば、読者を楽しませるための軽口も叩く、という具合。
 文壇ゴシップのたぐいも随所に盛り込まれており、下世話な楽しみ方もできる本である。とくに坪内祐三との対談は、小説家や文芸編集者についてのウワサ話が面白い(名前部分が伏字だらけ)。

 朝吹真理子との対談は互いにどうでもいいことばかりしゃべっていて退屈だが、ほかはわりと高水準。とくに、町田康との対談はバツグンの面白さ。町田は西村作品をかなり読み込んでおり、深い次元での理解者という趣。

 「隴を得て蜀を望む」たぐいの難を言うなら、どの対談も話の流れがスムースすぎて、そこがあまり西村賢太らしくない。途中で互いを罵倒し合う口げんかになるような殺気立った対談も、1つくらいあってよかった。

 とはいえ、西村賢太のファンなら間違いなく楽しめる対談集ではある。

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『ヒミズ』


ヒミズ コレクターズ・エディション [DVD]ヒミズ コレクターズ・エディション [DVD]
(2012/07/03)
染谷将太、二階堂ふみ 他

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 園子温監督の『ヒミズ』をDVDで観た。

 古谷実の同名マンガの映画化。園監督としては初の原作つき映画だ。
 原作はダークな青春マンガの傑作だったが、この映画版もじつに青春映画らしい青春映画に仕上がっている。

 園監督には珍しく、エロ要素はほとんどなし(神楽坂恵演ずる、妙に色っぽいホームレスの下着姿がある程度)。意外なほど正攻法の青春映画になっている。

 私は原作も好きだが、本作の原作改変はとてもうまくいっていると思う。ラストに希望をもたせた(原作では主人公は最後に死を選ぶ)のも納得できるし、ちまたで賛否両論を呼んだ、東日本大震災の被災地をあえてロケ地に選んだことについても、私は「賛」だ。3・11後に現代を描く映画を撮るのに、大震災のことを抜きにはできないと考えた園子温の姿勢は、表現者としてまっとうだと思う。

 全編にささくれだった暴力が満ちた映画だが、暴力と背中合わせに豊かな詩情も横溢。詩人として出発した園子温らしい、まるで詩のような青春映画である。

 主演の新人俳優2人がまことに素晴らしい。その存在感で、曲者ぞろいの脇役陣に堂々と拮抗している。
 とくにヒロインの二階堂ふみは、「野生化して肉感的になった宮崎あおい」という趣で、すこぶる魅力的だ。

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『恋の罪』『自殺サークル』


恋の罪 [DVD]恋の罪 [DVD]
(2012/06/02)
水野美紀、冨樫真 他

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 仕事上の必要があって、園子温監督作品で見逃がしていたものをDVDでつづけざまに観ている。
 
 昨日は、『恋の罪』と『自殺サークル』を観た。

 『自殺サークル』は途中までは面白くてじっと見入っていたのだが、中盤にローリー寺西が出てきたところで緊張感がプツンと音立てて途切れ、あとはもうグタグダな感じ(ローリーが悪いわけじゃなくて、彼が演じるキャラクターがダメダメ)。

 前半まで「このあと、自殺サークルの恐るべき謎が解明されていくぞ」とばかり、さんざん思わせぶりしておきながら、けっきょく整合性のある謎解きは一切なされずに終わってしまう。
 てゆーか、監督・脚本の園子温は、センセーショナルな自殺シーン(たくさん出てくる)が撮りたかっただけじゃねーの?

 『恋の罪』は、『愛のむきだし』や『冷たい熱帯魚』に比べて評価が低いようだが、私は面白く観た。
 冒頭に描かれる猟奇殺人の犯人を探すミステリーとして見たらたしかにグダグダだけれど、そもそもこれはべつにミステリーじゃないと思う。

 水野美紀・冨樫真・神楽坂恵の「トリプル主演」を謳った作品だが、冨樫真と神楽坂恵の存在感がすさまじくて、せっかくヌードまで見せた水野はまるで存在感がない。ストーリー上も、水野の出る場面をすべてカットして100分以内にまとめたほうがすっきりとするし。こんな役じゃあ水野美紀がかわいそうである。

 ベースになった「東電OL殺人事件」の園子温なりの解釈としても、興味深い仕上がり。演出もていねいだし、観客の心に強烈なインパクトを残す面白いシーンがたくさんある。

 あちこちに破綻が見える作品だが、園子温作品のミューズ・神楽坂恵(園子温夫人でもある)の爆裂ボディーの魅力で、すべての瑕疵は帳消しになる感じ(笑)。

 ただ、女優としてすごいのは冨樫真のほうだと思った。凛とした知的美人という「昼の顔」と、心が壊れた街娼という「夜の顔」――2つを演じ分けて見事である。 

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比嘉慂『美童物語』


美童物語(2) (モーニングKC)美童物語(2) (モーニングKC)
(2008/08/22)
比嘉 慂

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 比嘉慂(ひが・すすむ)の『美童(みやらび)物語』(講談社モーニングKC)の既刊1~2巻を読んだ。

 この作品のことは、呉智英が『マンガ狂につける薬 二天一流編』でホメていたので知った。
 読んでみたら、想像していた以上に素晴らしいマンガだった。

 比嘉慂は沖縄に生まれ育ち、沖縄に住んで、沖縄のことを描きつづけているマンガ家。この『美童物語』は、戦時下の沖縄を舞台にした短編連作である。

 したがって「反戦マンガ」とも言えるわけだが、たんなる「反戦マンガ」ではない。
 いや、それでは反戦マンガを貶めるような言い方になってしまうが、少なくとも、「戦時下の沖縄を舞台にしたマンガ」と聞いたとき、私たちが脊髄反射的に思い浮かべるような、「よくある反戦マンガ」とはまったく違う。もっと深みがあるのだ。

 戦争が何よりも沖縄の豊かな文化を破壊するものであったことを静かに告発し、沖縄の文化・精神性の豊穣さ・奥深さまでを表現した作品になっている。
 また、戦争うんぬんを抜きにして、失われた古き佳き沖縄文化を愛惜するマンガとしても優れている。そして、人間ドラマとしてもたいへんよくできている。
 
 スクリーントーンを多用せず、細部まで手描きした独特のあたたかい絵柄も味わい深い。
 『コミックモーニング』に不定期連載されているようだが、早く第3巻が読みたい。

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マーラ・ヴィステンドール『女性のいない世界』


女性のいない世界 性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ女性のいない世界 性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ
(2012/06/22)
マーラ・ヴィステンドール

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 マーラ・ヴィステンドール著、大田直子訳『女性のいない世界――性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ』(講談社/2310円)読了。書評用読書。

 なにやらSF小説のようなタイトルだが、そうではない。アジアを中心に広がる「性比(男女比)不均衡」の問題に光を当てたノンフィクションである。

 自然な出生性比というのは、だいたい女子100人に対して男子105人の割合になるのだそうだ。
 なぜ男子のほうが多めかというと、男子には我が身を危険にさらす本能的傾向があり、女子より死ぬ確率が高いため。男子が5%多めに生まれることで、成人男女の均衡がちょうどよくなるのだ。自然というのはうまくできているものである。

 ところが、1980年代あたりから、中国、インドなどのアジア各国を中心に、この均衡が大きく崩れ始めている。女児の出生数が大幅に減っているのだ。
 本書は、この性比不均衡がなぜ起きているのか、そして、今後の世界にどのような悪影響を及ぼすのかを、北京在住の米国人女性ジャーナリストが綿密な調査から探ったもの。

 勘のいい人なら、「ああ、男女産み分け技術が発達したから、男尊女卑傾向が強いアジアでは女児が避けられてしまうんでしょ?」とか、「中国の一人っ子政策の影響でしょ?」などと、答えの予想がつくであろう。
 たしかに、それらも要因の一つではある。が、事態はもっと複雑に入り組んでいるのだ。たとえば、欧米各国の人口抑制政策がアジア諸国にも影を落としていたりとか……。

 “女性の少ない世界ではどんなことが起こるのか?”を多角的に探った最後の第3部には、それこそSFのようなスリルもある。
 著者は、テストステロン濃度の変化などというファクターまで持ちだして、結婚できない男が世界に増えると、犯罪や戦争が増えると予測している(!)。そのくだりを読んで私は思わず笑ってしまったが、考えみれば笑いごとではないのだ。

 読後に世界が少し変わって見えるような、知的興奮に満ちたノンフィクション。

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サイケデリックス『サイケデリックスⅡ』『Stand』


New ClassicsNew Classics
(2008/06/11)
PSYCHEDELIX

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 サイケデリックスの『サイケデリックスⅡ』(1994)と『Stand』(1995)を、中古で購入。

 サイケデリックスは、日本を代表するロック・ギタリストの一人・チャーが、1990年代にジム・コウプリー(ドラムス)らとやっていた男臭いハードロック・バンド。
 同じくチャーのバンドであるピンククラウドと比べれば目立たないが、やっている音楽は遜色ない。本格的なブルース・ベースのハードロックであり、むしろ曲のクオリティーなどはピンクラよりも高いかも。

 私は、ファースト『サイケデリックス』(1992)は愛聴していたものの、『サイケデリックスⅡ』は発表当時レンタルで済ませてしまい、サードアルバムの『Stand』は今回初めて聴いた。

 サイケデリックスのアルバムとしてはほかにライヴ盤、ミニアルパムがある。が、オリジナル・フルアルバムは3枚のみだ。
 その3枚を全部通して聴いて思うのは、じつに日本人離れしたカッコよさをもつバンドだったということ。チャー以外の正式メンバーは外人の腕利きなのだから、当然といえば当然なのだが……。

 いまの時点で虚心坦懐に聴いてみれば、ファーストがいちばんバランスが取れている。
 対して、セカンドはややポップな音に走りすぎで、逆にサードは趣味に走りすぎでポップさに乏しい。つまり、チャー及びメンバーも、バンドをやりながらつねに方向性について揺れ動いていたのだろう。

 とはいえ、発表から20年近くが経過しながら、3枚がそれぞれいま聴いてもカッコイイのはさすが。日本のロックの隠れた名盤である。

 とくに、今回初めて聴いた『Stand』は極上のロックアルバムだ。
 このアルバムの制作途中でベースのジャズ・ロッホリーが脱退し、チャーとジムの2人だけになった(残りの曲ではチャーがベースも担当)ことが、むしろ奏功している。ギターとドラムス中心の、非常にシンプルで装飾を削ぎ落とした音になっているのだ。

 チャーにはもともとブラック・ミュージック志向があるが、この『Stand』ではそれが極まり、ファンキー・ハードロックともいうべき世界が展開されている。曲によっては、リヴィング・カラーなどの黒人ハードロックをも彷彿とさせる音。
 女性モデルがマシンガンや手榴弾で武装してすっくと立っているジャケット写真(広げると全身が見える)も、いい感じだ。


↑ファーストのオープニング・ナンバーとなったポップな名曲「MOVE ON」。


↑ここに紹介したアルバムには入っていないが、サイケデリックス版「SMOKY」(チャー永遠の名曲)。

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西村賢太『随筆集 一日』


随筆集 一日随筆集 一日
(2012/05/30)
西村 賢太

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 今日は、銀座の松竹試写室で、園子温監督の最新作『希望の国』の試写を観た。感想は改めて書くが、なかなかすごい映画であった。

 

 行き帰りの電車で、西村賢太著『随筆集 一日(いちじつ)』(文藝春秋/1523円)を読了。

 2010年に出た『随筆集 一私小説書きの弁』につづく、2冊目のエッセイ集である。

■関連エントリ→ 西村賢太『随筆集 一私小説書きの弁』レビュー

 本書には、芥川賞受賞前後のあわただしい日々を綴った随筆が多く収められている。
 「芥川賞でも獲れれば、現在岡惚れしているあのインテリ女性も、ひょっとしたらなびいてくれるかも、と、暫時夢想」――『一私小説書きの弁』の一編にはそんな一節があったが、本書はその夢がかなってしまったあとの話であるわけだ。

 もっとも、芥川賞作家になったからといって、西村はまったく変わっていない。守りに入っている印象は微塵もなく、相変わらず赤裸々で下品である。
 なにしろ、本書の後半に収められた連作エッセイのタイトルが「色慾譚」(東スポに連載されたもの)で、赤裸々極まる西村流『ヰタ・セクスアリス』なのだから……。

 ただ、『一私小説書きの弁』に比べ、全体に薄味の印象は否めない。芥川賞をとりたくてもとれない悶々、煮えたぎるルサンチマンこそが西村作品の主燃料であったのだから、願いがかなってしまったあとの随筆はどうしても燃料不足になるわけだ。

 とはいえ、下に引用する一節が示すとおり、西村のルサンチマンのもう一つの燃料たる「女旱(ひで)り」は、芥川賞受賞後もまったく解消されていないらしい。

 今年は誰もが知っている新人文学賞を受け、これで少しは状況も変わるかと思いきや、それ以後だけでもすでに三人の女性にフラれているのだから、いよいよもって、私は私の、今のこの境遇が慊(あきたりな)い(「やもめ中年の夢」)



 こちらのルサンチマンがあるかぎり、西村作品は今後も燃料には事欠かないであろう。

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保坂渉・池谷孝司『ルポ 子どもの貧困連鎖』


ルポ 子どもの貧困連鎖 教育現場のSOSを追ってルポ 子どもの貧困連鎖 教育現場のSOSを追って
(2012/05/18)
保坂 渉、池谷 孝司 他

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 保坂渉・池谷孝司著『ルポ 子どもの貧困連鎖――教育現場のSOSを追って』(光文社/1680円)読了。

 共同通信配信で2009~10年に新聞連載されたルポに加筆し、識者へのインタビューをプラスしてまとめたもの。著者2人は共同のベテラン記者だ。

 全4章立てで、各章が高校編、中学校編、小学校編、保育編となっている。
 貧困問題をめぐる多様なケースが取り上げられている。たとえば小学校編では、母子家庭、父子家庭、両親が揃ってはいるが雇用不安定で貧困に陥ったケースが、それぞれ登場するという具合。

 この手のルポを読むと、「苦しんでいる親と子どもが多いのはわかったけど、じゃあどうすればいいの?」と、モヤモヤした読後感を味わうことが少なくない。
 しかし本書の場合、章の最後に置かれた貧困問題のエキスパートへのインタビューで、問題への対策・処方箋が(ある程度)語られている。
 インタビューイとして登場するのは、東大教授の本田由紀、福島大教授の大宮勇雄、それに当ブログでも著作を取り上げた阿部彩、生田武志の計4人。
 
 また、ルポの中には苦しむ子どもを救おうと懸命に努力する教育者(定時制高校の担任教諭、保健室勤務の養護教諭、保育園の園長など)たちの姿が活写されていて、読んでいて救われる思いがする。

 教育現場で広がる「子どもの貧困」の問題を考えるうえで、有益な良書である。

 本書の中で複数の登場人物が、「日本における子どもの貧困問題は見えにくい」という趣旨の発言をしている。
 たしかに、途上国のようにストリート・チルドレンがいるわけではないし、貧困家庭の親や子どももケータイをもっていることが多いし、ユニクロ等のファストファッションが普及しているから、貧しくてもそこそこオシャレな服装ができる。見た目からは貧困の苦しみがわかりにくいのだ。
 そのじつ、日本の「子どもの貧困」は、リーマンショック以後急速に深刻化しているのである。

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『真犯人に告ぐ!』


未解決事件ファイル 真犯人に告ぐ (週刊朝日MOOK)未解決事件ファイル 真犯人に告ぐ (週刊朝日MOOK)
(2010/01/12)
週刊朝日ムック

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 『真犯人に告ぐ!――未解決事件ファイル』(朝日新聞出版・週刊朝日MOOK)読了。
 2年前に刊行されたもので、私はなんの気なしに古本屋で買ったのだが、意外な拾いものだった。
 
 世田谷一家殺害事件、3億円事件、八王子スーパー3人射殺事件、足利幼女連続殺人事件など、犯人が逮捕されず未解決のままになっている重大事件について、追跡取材で真相に迫ったムック。

 この手の企画は別冊宝島や『新潮45』でよくやっているが、本書のほうがぐっと質が高い。総じて綿密な取材をふまえて書かれているし、煽情的な「殺人ポルノ」には堕していない真面目な内容で、「本格ノンフィクション」と呼ぶに値する。
 『週刊朝日』が主導して作ったムックだけに、大新聞社の底カを見せつけた感じだ。

 玉石混交ではあるが、世田谷一家殺害事件、3億円事件、八王子スーパー3人射殺事件、足利幼女連続殺人事件についての章は、それぞれ中身が濃くて素晴らしい。
 とくに3億円事件の章は、長年この事件を取材してきた近藤昭二の手になるもので、もう少しふくらませれば優に1冊の長編ノンフィクションになり得る内容だ。

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デイヴ・ウェックル『マスター・プラン』


マスター・プランマスター・プラン
(2012/01/18)
デイヴ・ウェックル、ピーター・メイヤー 他

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 バカテク・ドラマー、デイヴ・ウェックルの『マスター・プラン』を中古で購入。

 チック・コリア・エレクトリック・バンドでの活躍で注目を浴びていた若き日のウェックルが、満を持して発表した1990年のファースト・ソロ。

 前に買った2003年のライヴ・アルバム『Live: And Very Plugged In』(→レビュー)はジャズ・ロック寄りだったが、このアルバムはまだ「普通のフュージョン」に近い。チック・コリア・エレクトリック・バンドの音楽を、もうちょっとドラム中心にしたような感じ。テクニカルできらびやかな、良質のフュージョン・アルバムである。

 派手めの曲が多いこともあって、「花火大会を見ているようなアルバムだなあ」という印象を受けた。ウェックルのドラムスがドカンドカン、パシンパシンと決めのフレーズを叩きだすたび、でっかい花火が上がるのを見るような爽快な気分になるのだ。

 圧巻は、チック・コリアが曲を書いたタイトル・ナンバー。8分を超えるこの曲では、ゲストのスティーヴ・ガッドとのドラム合戦が展開されている。
 ステレオの左チャンネルがウェックル、右チャンネルはガッドと2つに分けて録音されており、タイプの異なる2人のドラムスを聴き比べることができる。



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王敏『日本と中国』


日本と中国―相互誤解の構造 (中公新書)日本と中国―相互誤解の構造 (中公新書)
(2008/09)
王 敏

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 昨日は市ヶ谷の法政大学国際日本学研究所で、同大教授の王敏(ワン・ミン)さんを取材。

 王教授の著書『日本と中国――相互誤解の構造』(中公新書)、『美しい日本の心』(三和書籍)を読んで臨む。

 2冊のうち、『日本と中国』がとくに面白かった。
 「相互誤解の構造」という副題から、ゴリゴリに政治的な内容を連想されるかもしれないが、そうではない。肩のこらない日中比較文化論であり、日中の文化的差異を示す例として取り上げられる事柄も、文学や言葉から映画、テレビドラマ、アニメ、マンガなど幅広い。

 たとえば、花を一輪挿しで飾る習慣は日本独特のもので、それは日本文化の「侘び・寂び」の精神に由来する、などという指摘は興味深い。

 また、日本人の手紙には必ずといってよいほど季節についての記述があるが、中国人の手紙にはほとんどない、という話も面白い。
 とはいえ、昔の漢詩には季節をめぐる秀逸な表現が山ほどあるわけだから、中国文化が季節感に乏しいというわけではない。そのことは本書でも指摘されている。

 「日中比較文化エッセイ」のたぐいは多いが、その中には、ちょっと中国で暮らしたことがある程度の日本人が書いたものなど、ずいぶんいいかげんなものもあるように思う。
 対照的に、王教授は大学院までを中国で暮らし、その後は日本で30年以上にわたって日本文化を研究してきた方なのだから、教養も経験も段違いなのだ。
 読みごたえある、本格派の日中比較文化論。

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坂口恭平『独立国家のつくりかた』


独立国家のつくりかた (講談社現代新書)独立国家のつくりかた (講談社現代新書)
(2012/05/18)
坂口 恭平

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 坂口恭平著『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書/798円)読了。
 仕事の資料として読んだものだが、たいへん刺激的で面白い本だった。

 タイトルだけ見ると「目が据わった左翼の人かな」という感じだが、そうではない。これは新たな世界観・国家観・経済観・価値観を提示する一種の哲学書、思考実験の書であり、「世界が変わって見える」ような本である。辻信一さんの名著『スロー・イズ・ビューティフル』を読んだときと同質の衝撃を味わった。

 一般の自己啓発書とは似ても似つかない内容だが、語の本来の意味で「自己啓発書」と呼びたい。
 いや、むしろ「自己覚醒書」とでも言うべきか。お金や家、国家などに対する考え方のオルタナティヴを提示し、それまでの思考の枠組みから一歩出ることを教えてくれる本だからである。

 著者は早稲田の建築学科を出た建築家なのだが、「日本の法律でいうところの『建築』は建てたことがない」という。ただし、ホームレスの住まいから着想した「モバイルハウス」ならたくさん作っている。そして、作家・絵描き・音楽家・踊り手・歌い手でもあり、ヨーロッパでは「パフォーマンス芸術家」として認識されているという。

 そして、昨年の東日本大震災後の政府の対応に憤り、そのことがきっかけで「新政府樹立」を宣言。現在はその「国」の「初代内閣総理大臣」を名乗って活動している。
 本書はその顛末と、そこに至る著者の歩みを綴ったもの。
 
 いちばん面白いのは、著者が“注目すべきホームレスの人々との出会い”から、彼らを手本としてお金に依存しない生き方を模索していくプロセス。
 ホームレスを貧困問題の犠牲者ととらえるのではなく、むしろ新しい生き方の体現者として見る視点が斬新だ。

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『長嶋有漫画化計画』


長嶋有漫画化計画長嶋有漫画化計画
(2012/03/17)
うめ;ウラモトユウコ;衿沢世衣子;オカヤイヅミ;カラスヤサトシ;河井克夫;小玉ユキ;島崎譲;島田虎之介;萩尾望都;100%ORANGE;フジモトマサル;陽気婢;吉田戦車;よしもとよしとも



 『長嶋有漫画化計画』(光文社/1680円)を読んだ。

 長嶋有の作家デビュー10周年を記念した、彼の小説を人気マンガ家たちがコミカライズ(マンガ化)する試みをまとめたもの。
 『小説宝石』に連載されたものにくわえ、描き下ろし作品が5作もプラスされている。430ページを超えるポリュームで、参加したマンガ家の顔ぶれも豪華だ(→長嶋有公式サイト内の特設ページ参照)。

 長嶋は『週刊文春』にマンガについてのコラム『マンガホニャララ』を連載(ブルボン小林名義)しているほどディープなマンガ読みだから、いかにも彼らしい試みではある。

■関連エントリ→ ブルボン小林『マンガホニャララ』レビュー

 たんに原作を提供するだけではなく、作品のセレクト、マンガ家の人選・原稿依頼にまで長嶋自身がかかわり、マンガ家と綿密な打ち合わせを重ねたうえで作業が進められたようだ。つまり、長嶋は本書のプロデューサーとしての役割まで果たしたのである。

 私は長嶋有の小説が好きだし、参加しているマンガ家にも好きな人が多い。だから大いに期待して本書を読んだのだが、思ったほど面白くなかった。てゆーか、かなり玉石混交。
 まあ、もともと長嶋作品はあまりマンガ化向きではないのかもしれない。

 作家性の強いマンガ家が多いだけに、原作をそのままなぞったような芸のないマンガ化は少ない。作品によってはかなり大幅にアレンジされている。
 たとえば、長編『パラレル』は、うめ(というマンガ家)によってなんとボーイズラブ風にアレンジされてマンガ化されている(原作にBL臭はなし)。
 で、そうした大胆なアレンジが見事に決まっているものもあれば、「うーん、外したな~」というものもある。

 私がいいなと思ったのは、カラスヤサトシによる『夕子ちゃんの近道』、小玉ユキによる「泣かない女はいない」、ウラモトユウコ(この人は新人だが、新人離れした手慣れたマンガ化ぶり)による「サイドカーに犬」、河井克夫による「タンノイのエジンバラ」。
 とくにカラスヤサトシのものは、原作のエッセンスをきちんと活かしつつ、4コマ風に話を細かく区切り、笑えるオチなどを盛り込むことによって、まぎれもない「カラスヤサトシの世界」になっている。見事なアレンジだと感服した。

 なお、長嶋有は本書の試みと並行して、マンガ作成ソフト「コミPo! (コミポ)」を使ったマンガ『フキンシンちゃん』をウェブ連載していたが、それが先ごろついに単行本化され、マンガ家デビュー(?)も果たしたらしい。
 ううむ、こんなふうに“真剣に遊ぶ”姿勢は、いかにも長嶋有ですなあ。

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浜田麻里『Legenda』


LegendaLegenda
(2012/02/15)
浜田麻里

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 浜田麻里の『Legenda』(徳間ジャパンコミュニケーションズ)を聴いた。
 「日本のメタル・クイーン」の、24枚目のオリジナル・アルバム。

 もともとメタルは苦手なこともあって、これまで浜田麻里の曲を意識的に聴いたことは一度もなかった。流れているのを偶然耳にすることはあっても、聴こうと思って聴いたことがなかったのだ。一時期のポップ路線の印象が強すぎて、「どうせ歌謡曲まがいの通俗メタルだろ」という偏見も、正直あったし。
 しかし、このアルバムはやたらと評判がいいので、なんの気なしに手を伸ばしてみたのである。

 いやー、これはよかった。感動した。自分が浜田麻里のアルバムに感動する日がくるとは思わなかった。
 ラストの一曲だけがスローバラードだが(これはこれですごくよい)、ほかは思いっきりハードでヘヴィー。歌謡曲チックなところなど微塵もない、本気のメタル・アルバムである。

 捨て曲なし。日米の一流ミュージシャンをずらりと揃えて、細部まで作りこまれた音は見事。
 ドラマティックな曲構成も素晴らしい。浜田麻里がハイトーン・シャウトを決めるところなど、まるで歌舞伎役者が見得を切る場面のようで、ゾクゾクする。
 何より、これは陶然となるほど美しい、そしてパワフルなヘビィメタル・アルバムである。ダークな曲調の曲はあっても、その底には力強さがあるのだ。

 私同様、浜田麻里を過去のイメージで食わず嫌いしている人にオススメ。


↑「Crimson」。今年で50歳なのに、見事なロングシャウト。増崎孝司(DIMENSION)のギターもよい。『北斗の拳』の主題歌というわけではないらしい(合ってるけど)。

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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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