勝又進『深海魚』


深海魚深海魚
(2011/10/30)
勝又 進

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 2007年に世を去ったマンガ家・勝又進が遺した短編を編んだ『深海魚』(青林工藝舎/945円)を読んだ。
 
 知る人ぞ知る存在の勝又の短編集がいまごろ出版されるのはなぜかというと、東日本大震災の余波である。というのも、本書に収録された短編のうち2編――表題作「深海魚」と「デビルフィッシュ(蛸)」――は、原発で働く下請け労働者たちを主人公にした作品であるからだ(いずれも1980年代後半に発表されたもの)。

 勝又は東京教育大学(現在の筑波大)の大学院で原子核物理学を専攻した経歴の持ち主であり、原発についての基礎知識を十分にもっていた。そのうえ、実際に原発の取材もしたうえでこの2編を描いたのだという。
 そんな事情から、今年の原発震災で注目が集まり、刊行の運びとなったのである。

 ただし、ほかの収録作は原発とは関係ない。残りは、勝又が得意とした民話風のものと、私小説的な短編がだいたい半分ずつとなっている。

 私は勝又が2005年に刊行した短編集『赤い雪』が大好きで、ゆえに本書も刊行を知ってすぐに買った。

■関連エントリ→ 勝又進『赤い雪』レビュー 
 
 本書に収録された民話風の数編はまさに『赤い雪』の延長線上にあるもので、どれも素晴らしい。

 では、本書の目玉である「原発労働者もの」2編はどうか?
 こちらは『赤い雪』路線とはまったく異なるものの、やはり素晴らしい。「反原発もの」にありがちな左翼臭はなく、勝又らしい詩情とペーソスに満ちた、他に類を見ない原発マンガとなっている。
 原発内での労働の様子も重いリアリティをもって描かれ、原発労働者が置かれた苛酷な環境が読者の胸に迫る。それでいて、紋切り型の告発調には陥っておらず、作品として完成度が高い。

 石巻出身でもあったという勝又進が、東日本大震災を見ずに亡くなったことが残念でならない。いま健在であれば、彼ならではの原発マンガをまた描いたに違いないから……。

 終盤に収録された私小説風の3編――「冬の虫」「冬の海」「春の霊」――は、よけいな説明を一切省いて勝又の心象風景を描いたもので、『赤い雪』のようなエンタテインメント性は皆無。ありていに言って、かなり難解である。私は、巻末の解説を読んでようやく意味がわかった。
 「父親を知らない子供として生まれ、6歳のときに母を亡くした勝又が自身の生い立ちと正面から向き合って描き上げた」作品群なのだという。

 難解ではあるものの、全編に流れるすさまじい寂寥感は、それ自体が読者の胸を打つ。
 たとえば、「冬の海」で私生児を産んで里に帰る主人公の女性には、勝又の亡き母のイメージが投影されている。ラストはセリフなしで冬の海の描写のみがつづき、寒々とした寂寥感が読む者の心を突き刺す。絵もすごい。

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佐野眞一『津波と原発』


津波と原発津波と原発
(2011/06/17)
佐野 眞一

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 佐野眞一著『津波と原発』(講談社/1575円)読了。
 ベテラン・ノンフィクション作家による、東日本大震災の被災地ルポ。

 随所に光る部分はあるものの、一冊の作品としてはやや物足りない仕上がり。
 佐野眞一にしては取材が浅い気がするし、全体に未整理でとっちらかった印象の本なのだ(本書執筆前に佐野は大病をしたそうだから、病み上がりで体力がなかったせいかもしれないが……)。
 「大部のノンフィクションを書くために作った未完成な取材ノートを、そのまま本にしてしまったような感じ」とでも言おうか。

 たとえば、第二部の終わりに、「福島第一原発に近いところで生まれ育った二人の研究者」――開沼博と松本哲男へのインタビューが一問一答形式で掲載されているが、唐突感が否めない。これは、本文の流れの中に組み込んで素材として使うべきではなかったか。

 また、第一部が震災直後の被災地を取材したルポであるのに対し、第二部(の第二章以降)は戦後日本の原子力政策と福島に原発が作られるまでの歩みを追った内容であり、両者が水と油になってしまっている。
 「被災者の苦しみの背後に、戦後日本の闇が鮮やかに浮かび上がる」というふうに、第一部と第二部に連続性が感じられればよいのだが、それが感じられない。第一部と第二部はまるで別作品になっちゃってるのだ。

 佐野の旧作『巨怪伝』(主人公・正力松太郎は「原子力発電の父」)や『東電OL殺人事件』の再利用みたいな部分も目立つし……。 

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広河隆一『福島 原発と人びと』


福島 原発と人びと (岩波新書)福島 原発と人びと (岩波新書)
(2011/08/20)
広河 隆一

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 広河隆一著『福島 原発と人びと』(岩波新書/798円)読了。

 チェルノブイリ原発事故の取材と救援活動を20年以上つづけてきたフォトジャーナリストが、福島第一原発の事故直後からの現地取材をまとめた、迫真のルポルタージュ。

 役場の周辺で、私の測定器は振り切れてしまった。
 私は一九八九年三月以来これまでおよそ五○回にわたってチェルノブイリ周辺の取材を行っているが、この測定器が振り切れるという経験はない。



 ――これは、震災3日目に双葉町に入った際の記述。

 写真も多数収録しており、その分文章量は少なめだが、ちりばめられた現地の人々の言葉が重く、読み流すことを許さない。言葉の一つひとつ、写真一枚一枚が心に引っかかり、じっと見入ってしまうのだ。

 たとえば、避難区域となり、無人と化した浪江町の路上で息絶えた猫をとらえた写真がある。
 その死骸を、元は飼い犬であったろう黒い犬が見つめている。何の言葉も要さずに原発事故の無惨さを伝える、見事な一枚である。

 著者は本書で一貫して市民の側に立ち、その悲しみと怒りの声を丹念に刻みつけていく。
 生活の糧を奪われてしまった、第一次産業従事者たちの慟哭。
 県民の間でさえ原発に対する態度が二分され、コミュニティに深い亀裂が入った現実。
 そして、さまざまな場面で福島県民に向けられる、あからさまな差別……。一つひとつの言葉に血がにじんでいるようだ。

 たとえば、東京で献血しようとしたら、いわき市から来たことを理由に、「遺伝子に傷がついている可能性があるのでお断りします」と拒否されたという男性のエピソード。

 翌日、厚労省に問い合わせると、作業員で一○○ミリシーベルトを超える被曝を受けている人は、輸血できないと指導しているとの答えだった。当然、彼はあてはまらない。日本赤十字にそう言うと、「指導が行き届かず申し訳ありませんでした」との答えだった。
(中略)
 ネットに輸血を拒否されたことを書くと、「死ね」「輸血テロ」「人殺し」とたたかれた。



 よく似た差別の事例は、私も福島取材で何度か耳にした。福島は地震・津波・原発事故の「三重苦」だと言われてきたが、いまや差別も加わって「四重苦」になりつつあるのだ。

 また、全8章のうちの一章を割いて、チェルノブイリの被災者が歩んできた道のりが紹介される。それは、福島の未来の姿かもしれない。

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チャットモンチー『YOU MORE』


【特典QRコードステッカー無し】YOU MOREYOU MORE
(2011/04/06)
チャットモンチー

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 チャットモンチーの『YOU MORE』を聴いた。
 一時期はニューアルバムを予約して買うくらいハマっていたチャットモンチーなのだが、なんとなく飽きがきて、今回はレンタルで済ませてしまった。しかも、発売から8ヶ月もすぎてやっと聴くありさま。

 これは、結果的にトリオ編成としての最後のアルバムになってしまったもの。
 前作にあたる『告白』こそ、チャットモンチーの最高傑作だと私は思っている。『告白』の作り込まれたプロフェッショナルな音とは対照的に、今作は全編インディーズ的で粗削りな音。
 かりに、「メジャー・デビュー前に作り上げた幻のインディーズ音源を、発掘再発!」とかいう触れ込みで聴かされたとしても、すんなり信じられる感じ。

■関連エントリ→ チャットモンチー『告白』レビュー

 もちろん意図的にそうした音作りをしているのだとは思うが、評価の分かれるところだろう。よく言えば「デビュー当時のみずみずしさが戻ってきた」感じだし、悪く言えば「プロからアマチュアに逆戻りしてしまった」感じなのだ。
 私はどちらかといえば、マイナス評価。『告白』の高みから一段も二段も後退してしまった印象を受けてしまった。

 ただ、美点もある。歌詞は相変わらず言語感覚が新鮮で素晴らしいし、橋本絵梨子のヴォーカルはいままででいちばんよく声が出ていると思った。

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ビル・コナーズ『ダブル・アップ』『アセンブラー』


AssemblerAssembler
(1994/07/28)
Bill Connors

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 相変わらずバタバタ忙しい。

 日曜は所用で福岡へ。早朝に出かけて夜に帰ってくる日帰り出張。
 偶然にも福岡ソフトバンク・ホークスが地元で8年ぶりの日本一となった日と重なったが、野球を観に行ったわけではない(笑)。帰りの福岡空港がすごい混雑だったのは、日本シリーズのせいだったのだな。

 昨日は都内某所で打ち合わせが2つ。
 帰りに中野ディスクユニオンに寄ったところ、ちょうど欲しかったビル・コナーズの『ダブル・アップ』と『アセンブラー』が2枚とも300円の特価コーナーにあった。しかも両方とも状態のよい日本盤。これは、私にとってはすごい掘り出し物。当然ゲット。

 さる9月にビル・コナーズのソロ『ステップ・イット』(1984)を買って大変気に入ったのだが、『ダブル・アップ』『アセンブラー』は『ステップ・イット』につづいて出されたアルバム(2枚とも87年発表)。

■関連エントリ→ ビル・コナーズ『ステップ・イット』レビュー

 ビル・コナーズが最もジャズ・ロック/ハイパー・テクニカル・フュージョンに接近した時期の作品であり、スペイシーで透明感あふれるギターが堪能できる。

 2枚とも、『ステップ・イット』と同じくギター/ベース/ドラムスのシンプルなトリオ編成。ベースは同じトム・ケネディだが、ドラムスは『ステップ・イット』のデイヴ・ウェックルからキム・プレインフィールドという人に変わっている。

 超絶テクのぶつかりあいがつづくにもかかわらず、少しも暑苦しくなく、ひんやりと美しいサウンド。そのへんも『ステップ・イット』と同じ。




Double UpDouble Up
(1994/02/07)
Bill Connors

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 『ダブル・アップ』が完全に『ステップ・イット』の延長線上にあるアラン・ホールズワース直系の音であるのに対し、『アセンブラー』はもう少しビル・コナーズらしさが前面に出て、ロック色が強まった感じ。こちらはホールズワースというより渡辺香津美的かな。
 2枚とも、ジャズ・ロック/ハイパー・テクニカル・フュージョンが好きな人にはたまらないアルバムとなっている。

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バングルス『Sweetheart of the Sun』


Sweetheart of the SunSweetheart of the Sun
(2011/09/27)
Bangles

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 9月末に出たバングルスのニューアルバム『Sweetheart of the Sun』を、輸入盤で購入。

 2003年の復活作『ドール・レヴォリューション』から8年ぶりの新作。その間に赤毛のギタリスト、マイケル・スティールが脱退し、3人編成になっている。

 バングルスといえば、言わずと知れた、1980年代を通じて最も成功したガールズ・ロック・バンド。にもかかわらず、この新作は日本盤さえ出ないようだ。ううむ、冷遇ですなあ。
 ま、かりに日本盤が出ていたとしても、私はやはり安い輸入盤を買っただろうけど。

 内容は、期待を裏切らぬ素晴らしさ。
 『ドール・レヴォリューション』がそうであったように、ビートルズ直系のメロディアスで躍動感あふれるポップ・ロック。
 1960年代あたりの、古き佳き時代のロック/ポップスの香りが横溢。曲も粒揃い。甘酸っぱいハーモニーと、意外にハードで骨太な演奏のギャップが、えもいわれぬダイナミズムを形作っている。

 50代になったいまもなおキュートなロック界最高の美熟女、スザンナ・ホフスのヴォーカルは、今作でも快調そのもの。私としては全曲スザンナに歌ってほしかったところだが、前作同様、(中心となって)曲を書いた人がリード・ヴォーカルを取る形式をとっている。

 『ドール・レヴォリューション』と比べれば、この新作のほうがややシンプルで、サイケ期ビートルズ寄り。そのへんは、コ・プロデューサーであるマシュー・スウィート(スザンナと共作アルバムも出している)の影響かな。しっとりと聴かせる曲も多い「大人のロック」になっている。

 かつてバングルスのファンだった40代が聴けば、彼女たちの年齢なりの成長に目を瞠るに違いない力作。


↑スザンナがヴォーカルの「I Will Never Be Through With You」。胸キュンもの(死語)。

■関連エントリ→ バングルス『ドール・レヴォリューション』レビュー

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『小出裕章が答える原発と放射能』


小出裕章が答える原発と放射能小出裕章が答える原発と放射能
(2011/09/02)
小出 裕章

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 近々また福島に震災関連取材に赴く予定があるため、書籍から情報収集を開始。
 まずは、小出裕章著『小出裕章が答える原発と放射能』(河出書房新社/1050円)を読了。

 一般の人々から寄せられた、現在とこれからの日本の「原発と放射能」をめぐる素朴な疑問に、著者が一つひとつ平明に答えた本。一つの質問について平均2ページずつの簡潔な答えが並んでいる。

 福島第一原発の事故が終息とはほど遠い状態のなか、少しでも安全に暮らすためにはどうすればよいか、また、これからの生活についてどのような心構えをもてばよいのかが語られている。

 つまり一種の「実用書」であるわけだが、文章の端々ににじむ著者の深い覚悟と、科学者としての矜持が胸を打つ本だ。
 そしてまた、暗澹たる思いにとらわれる本でもある。たとえば、こんな一節がある。

 これからは、「安全」とか「大丈夫」という言葉は使わないでください。放射能が低ければ大丈夫ということはありません。今後は一人ひとりが放射線量を確認し、この量ならばがまんできるという判断を各自でするしかないのです。



 いちばん印象に残ったのは、福島の汚染された農産物や海産物を、中年以上の世代が積極的に引き受けるべきだと訴えたくだり。

 それらの作物は、出荷制限せずに流通させ、価値のある物として消費者が受け入れないと、福島の一次産業は崩壊してしまいます。
 一方で、子どもたちを守りたいので、子どもたちにそれを食べさせたくありません。
 だから、大人が積極的に食べるべきです。
 歳を取るほど放射線の感受性がどんどん鈍くなります。五○歳代、六○歳代になると、被曝によるがんの発症率はぐんと下がります。また、私も含めてそういう年代の人たちは、原発をここまで増やしてしまったという責任もあるのではないかと思いますから、大人が食べてほしいと思います。



 まったく同感。私はまだ50代には3年あるが、子どもももう2人いてこれ以上増やす予定もないし、福島産の農畜産物、海産物、全部ウェルカムである。

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『「タワレコ女子ジャズ部」のお料理レシピみたいな音楽案内』


「タワレコ女子ジャズ部」のお料理レシピみたいな音楽案内「タワレコ女子ジャズ部」のお料理レシピみたいな音楽案内
(2011/08/25)
タワレコ女子ジャズ部

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 ナベツネに対する“読売新聞社版「本能寺の変」”が話題をまいている。

 一度だけ生ナベツネを見たことがある。私は以前、『読売新聞』に載る巨人軍の記事広告の文章を書いていた時期があるのだが(「なんでも屋」ライターなのです)、その打ち合わせのため読売新聞東京本社に行ったときのことだ。
 1階エレベーターのドアが開いてナベツネが出てきた瞬間、受付嬢までがバネ仕掛けのようにサッと立ち上がってあいさつしたのには驚いた。ほんとうに「ドン」なのだなあ、と思った。



 『「タワレコ女子ジャズ部」のお料理レシピみたいな音楽案内』(駒草出版/1680円)読了。

 「タワーレコード」各部門の女子社員で構成される「女子ジャズ部」(ジャズを中心に、女子向けのオシャレな音楽を愛好・追求する会らしい)が編んだディスクガイドである。

 「女子ジャズ部」といっても、本書で紹介されているCDはジャズにかぎらない。ジャズが中心ではあるものの、ソウルもAORもあればJ-POPもある。ただし、そのセレクトが「女子向けのオシャレな音楽」に絞られているのだ。

 オールカラーでデザインもよく、ジャケットの美しいCDが多く選ばれているため、見ているだけで楽しい。
 途中にホントのお料理レシピが挿入されており、これはいらなかった気がするが(笑)、ディスクガイドとしてはわりと良質である。もちろん、女子にかぎらず男が読んでも。

 この手のディスクガイドは、昔とはまったく違った意味をもっている。というのもいまは、気になったアーティストやアルバムはユーチューブなどを検索し、即座に試聴できるからである。
 本書の場合、さすがにタワレコの社員たちだけあってセレクトのこだわりはかなりのもので、私も知らないアルバム/アーティストがけっこうあった。ゆえに、私にとっては音楽案内として有益。

 何より、ジャズのマニアックな聴き手にありがちな「上から目線」がまったくないところが好ましい。

 一部ジャズ・マニアの、「この音楽がわかるオレはスゴイ。わからないヤツは馬鹿」的な傲慢さが私は大嫌いなのである。
 「アンタの好きなそのジャズがどれほどスゴイ音楽だとしても、スゴイのはミュージシャンであって、ただ聴いてるだけのアンタはちっともスゴくないよ」と言ってやりたくなる。
(まあ、そういう傾向は一部ロック・ファンにも一部クラシック・ファンにもあるけど、ジャズ・マニアにはとくに顕著なんだよね)

 その点、「タワレコ女子ジャズ部」の面々はひたすらミーハー目線でジャズに向かっていて、微笑ましい。巻末の写真つき部員紹介を見るとカワイイ子が多いし(というのはよけいな一言ですね)。

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寺久保エレナ『NORTH BIRD』


NORTH BIRDNORTH BIRD
(2010/06/23)
寺久保エレナ

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 ユーチューブで偶然曲を聴いて気に入った、アルトサックス奏者の寺久保エレナ。そのデビュー・アルバム『NORTH BIRD』(キングレコード)を聴いた。



 1992年生まれで、現在19歳。昨年このアルバムが出たころにはまだ現役女子高生だった(!)。「すわ、天才少女現る!」というわけで、ジャズ界では大きな話題となったのだそうだ。

 『NORTH BIRD』というタイトルは、寺久保エレナが北海道生まれであることと、「モダン・ジャズの父」チャーリー・パーカー(通称「バード」)に大きな影響を受けていることに由来する。すなわち、「北のバード=北海道のチャーリー・パーカー」を意味する大胆不敵なタイトルなのである(彼女自身がつけたわけではないだろうが)。

 彼女のサックスが「北海道のチャーリー・パーカー」と呼ばれるに値するものなのか否かは、私にはわからない。が、当時女子高生だったとは信じがたいほど達者な演奏であるのはたしか。

 ケニー・バロン、クリスチャン・マクブライドらの一流どころをバックに揃えて、じつに楽しそうに吹いている。もっとフュージョン的、スムース・ジャズ的な軽い音を予想したのだが、聴いてみれば思いっきりストレート・アヘッドな本格ジャズ。
 しかも、音が明るく澄んでいるのがいい。ジャズのもつ「闇」の部分というか、ドロドロした陰影が見事に削ぎ落とされているのだ(そこを物足りなく思う人も当然いるだろうが)。

 矢野沙織とか纐纈(こうけつ)歩美とか小林香織とか、若手女性アルトサックス奏者も百花繚乱の昨今だが、私は寺久保エレナがいちばん好きだな。
 今年6月に出たセカンド・アルバム『ニューヨーク・アティチュード』も聴いてみよう。


↑ううむ、父性愛を感じてしまいそうだ。うちのムスメより1つ上なだけだし。

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小田嶋隆『地雷を踏む勇気』


地雷を踏む勇気 ~人生のとるにたらない警句 (生きる技術!叢書)地雷を踏む勇気 ~人生のとるにたらない警句 (生きる技術!叢書)
(2011/11/01)
小田嶋 隆

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 仕事があちこち滞っている。どこから手をつけていいかわからないくらい。気分は多重債務者(じっさい、フリーランサーが請け負った仕事は民法上の「債務」にあたる)。

 経験上、こういうときにいちばんダメな対応はパニックに陥って何も手がつかなくること。落ちついて、粛々と、できることから一つひとつ片付けていくしかない。



 小田嶋隆著『地雷を踏む勇気――人生のとるにたらない勇気』(技術評論社/1554円)読了。「日経ビジネスオンライン」の人気連載「ア・ピース・オブ・警句」の単行本化。

 「なかなか単行本にならないなあ」と待ちくたびれた状態でいたら、なんと今月2冊同月刊行(もう一冊は日経BPから出る『その「正義」が危ない。』)。で、さっそく2冊予約注文したうち、先に届いたのがこちら。

 鋭いけれど軽いお笑いコラムをおもに書いてきた小田嶋隆が、政治・経済・社会を批評する時評家としての資質を開花させたのが、いまはなき『噂の眞相』に長期連載されていた「無資本主義商品論」であった。そして、その資質がさらに本格的に活かされたのが、「ア・ピース・オブ・警句」である。

■関連エントリ→ 小田嶋隆『かくかく市価時価』(「無資本主義商品論」の単行本化)レビュー

 「時評コラム」ではあっても、政治・経済評論家が書くような堅苦しいものではなく、豊かなユーモアと言葉遊びを駆使したオダジマならではの芸が堪能できるもの。

 この『地雷を踏む勇気』には、東日本大震災後に震災関連テーマで書いたものなど、比較的シリアス、比較的直近のコラムがセレクトされている。

 私はすべてサイトで一度読んでいるが、読み返しても十分に面白く、本として手元に置く価値がある。

 本書には16編、つまり16週分のコラムが収められているが、「ア・ピース・オブ・警句」はすでに連載3年を超えているから、少なくともあと7~8冊分くらいは未単行本化のコラムが残っていることになる。
 こういうものこそ、電子書籍で一つにまとめて出してもいいのではないか。出たら私は買う。

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薬師丸ひろ子『歌物語』


歌物語歌物語
(2011/03/02)
薬師丸ひろ子

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 薬師丸ひろ子の2枚組ベストアルバム『歌物語』(EMIミュージックジャパン/3000円)を聴いた。

 我が少年時代のアイドルなので、懐かしいようなこそばゆいような、複雑な思いにとらわれる。ううむ、もう歌手デビュー30周年かぁ……。

 彼女のベストアルバムはこれまで何種類も出ているが、まちがいなく「これが決定版」といえる内容だ。ていねいにリマスタリングがなされていて音質がよいし、選曲もまあ納得できる。

 デビュー曲「セーラー服と機関銃」から、今年発表された久々の新曲「僕の宝物」(映画『わさお』主題歌)までが収録されたオールタイムベストである。

 過去のベスト盤では、権利の関係なのか、「セーラー服と機関銃」が井上鑑のニュー・アレンジで収録されたものが多くて興ざめだったが、本作ではちゃんと星勝アレンジのオリジナル・バージョンである。この、昭和の香り漂うモッサイ感じのアレンジがいいのだ。

 それにしても、いま思えばものすごく豪華な作詞作曲陣である。松本隆、大瀧詠一、松任谷由実(呉田軽穂名義)、南佳孝、大貫妙子、坂本龍一、細野晴臣、吉田美奈子、中島みゆき、来生たかお、上田知華、竹内まりや、井上陽水、筒美京平etc.

 歳月を経たことでファンとしての色眼鏡を外して聴いてみると、シンガー・薬師丸ひろ子の限界もはっきり見えてしまう。どんな曲を歌っても同じような一本調子のヴォーカルで、微妙なニュアンス、陰影に乏しいのだ。
 それに、彼女はロック的なリズム感が致命的に乏しい人で、ちょっとロック色の強い曲になるとまるで魅力がない(阿木耀子・宇崎竜童コンビの「紳士同盟」など)。

 だがそれでも、透き通ったマジメな声質(そう、彼女は声からして優等生的でマジメなのだ)はいまなお魅力的だし、素直に歌い上げるバラード・タイプの曲は素晴らしい。

 私が好きなのは、細野晴臣作曲の「紅い花、青い花」、井上陽水作詞作曲の「ステキな恋の忘れ方」、竹内まりや作詞作曲の「元気を出して」(この曲は竹内の歌で知っている人のほうが多いだろうが、あれは厳密にはセルフカヴァー。初出は薬師丸のファースト・アルバム『古今集』)、大貫妙子作詞、坂本龍一作曲の「DESTINY」あたり。

 欲を言えば、セカンド・アルバム『夢十話』所収の名曲「冷たくされたい」、のちに矢野顕子が『ピアノ・ナイトリィ』で絶品のセルフカヴァーをする「星の王子さま」(大貫妙子作詞、矢野顕子作曲)、シングル「Woman“Wの悲劇”より」のB面曲だった隠れた名曲「冬のバラ」(松本隆作詞、松任谷由実作曲)も入れてほしかった。
 ま、そのへんはファンの数だけ「理想の選曲」があるわけだけれど……。


↑29年前、受験生時代の薬師丸ひろ子。なんというかわいさ。このころの彼女はもう天使ですね。

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和田秀樹『震災トラウマ』


震災トラウマ (ベスト新書)震災トラウマ (ベスト新書)
(2011/06/25)
和田 秀樹

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 和田秀樹著『震災トラウマ』(ベスト新書/820円)読了。

 精神科医の著者が、東日本大震災をふまえ、災害によるトラウマとの向き合い方、PTSD(Posttraumatic stress disorder/心的外傷後ストレス障害)への対処について平明に解説した本。

 巻末に「企画構成/関口かずみ」というクレジットがあるので、このライターが和田の話をまとめた本なのだろう。
 ……にしても、なかなかよくできた内容である。ものすごいペースで著書を出している和田だが、粗製濫造にはならず一定のクオリティを保っている点は好感。100点満点でいうと「80点以上の本は出さないが、60点以下の本も出さない人」という印象があるのだ(ホメているつもりだが、むしろ失礼かなw)。

 東日本大震災、とくに津波のすさまじい映像は、直接の被災者ではない私たちさえ、何日間か何もしたくないほどの憂鬱に陥らせた。ましてや、直接の被災者が受けた精神的ダメージは推して知るべしであろう。

 そのわりにはまだ、「震災トラウマ」によるうつ病の多発はニュースにならない。たぶん、本当の闘いはこれからなのだろう。本書によれば、被災後1ヶ月以降にあらわれる「慢性期」(「いつまで」という終わりはないそうだ)のトラウマのほうが、急性期よりも深刻になりやすいそうだから。

 本書は、そもそもトラウマとは何か、PTSDとは何かという初歩から説き起こし、阪神大震災で被災者のメンタルケアにあたった著者の経験もふまえて、震災トラウマの基本を過不足なく解説した好著。聞きかじりの知識でトラウマについてわかったつもりでいた私のような者には、まことに勉強になる。

 本書によれば、「自然災害によるPTSDの発症率は、被災した人の3~5%程度」なのだという。
 意外に少ない気もするが、東日本大震災ほどの大規模災害になれば被災者の数も甚大であるわけで、そのうちの5%がPTSDになったとしても大変な問題なのである。

 震災トラウマを受けてから、PTSDになるかならないかの分かれ目は何か?
 もちろん一つではないが、本書によれば、孤立感・孤独感が大きな要因だという。つまり、同じトラウマを受けても、周囲に支えてくれる人がいればPTSDになりにくい。逆に、「誰も助けてくれない」「私はひとりぼっちだ」と孤立感・孤独感を感じると、それがトラウマを強め、PTSDになりやすいのだ、と……。
 この話はたいへん示唆的だと思う。

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『大前研一 洞察力の原点』


大前研一 洞察力の原点 プロフェッショナルに贈る言葉大前研一 洞察力の原点 プロフェッショナルに贈る言葉
(2011/02/24)
大前研一

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 大前研一著『大前研一 洞察力の原点――プロフェッショナルに贈る言葉』(日経BP社/1575円)読了。

 タイトルからはわかりにくいが、大前の過去の著作からピックアップした名言集である。

 大前は共著も含めれば100冊を超える著書をものしているし、日本のオピニオン・リーダーの1人なのだから、一冊くらい名言集があってもいい。しかし、本書は名言集としてははなはだ出来が悪い。

 言葉のタイプ別に章分けはされているものの、1ページに平均3~4行程度の「名言」がポツンと置かれているだけの作りは素っ気なくてなんの工夫もない。見た目上もスカスカ。

 言葉のセレクトにも難あり。

 名言集を謳うなら、その名言だけで独立した価値をもつような言葉を選ぶべきだろう。また、前後の文脈がないと意味が取りにくい言葉をあえて選ぶ場合は、脚注などを付して補足説明をすべきだろう。

 本書にはそうした配慮が感じられない。大前の著書をダーッと読み飛ばして、心に残った箇所に傍線を引き、その部分をただ抜き書きしたような印象なのである。

 一例を挙げる。
 あるページには次の言葉がポツンと置かれている。

筆者は六歳から十二歳まで、小学校で一つの観念を叩き込まれた。「日本が生き残るにはどうしたらいいか」である。



 前後の文脈抜きでこの言葉だけを抜き出されても、なんのことやらさっぱりわからないのである。 
 そもそも、これのどこが「名言」? もっと名言集にふさわしい言葉が、大前の著書にはたくさんあると思う。

 ツイッターの「大前研一BOT」を基にした本なのだそうだ。そういう経緯はいかにも「いまどき」で面白いけれど、書籍にする場合には「大前研一BOT」をそのまんま流用してはいけなかったのだ。ツイッターと書籍はまったく別物なのだから。

 ……と、いろいろケチをつけてしまったが、せっかく読んだのだから、本書の中で「なるほど、これは名言だ」と私が思ったものを3つほどピックアップしてみよう(てゆーか、この3つしか心に残らなかった)。

いつの時代も、最大の敵は自分自身です。



人生はスキーと同じで、転びそうになったら転んでしまったほうがいい。それを我慢して転ばないように転ばないように滑っていると、いつまでたってもへっぴり腰でしか滑ることができない。つまり、失敗を恐れて思い切ったことにチャレンジする勇気が持てないのだ。



私は、自分の生き方として何を基準にしているかというと、死ぬときに「これでよかったのだ」と言うための生き方を工夫しているのだ。これが逆にどれだけ人生を単純化してくれているか、毎日悩みもしないで安らかに眠れるか、計り知れない。



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上原ひろみ『ヴォイス』


ヴォイス(初回限定盤)(DVD付)ヴォイス(初回限定盤)(DVD付)
(2011/03/16)
上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト フィーチャリング・ アンソニー・ジャクソン&サイモン・フィリップス

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 遅ればせながら、上原ひろみの『ヴォイス』を聴いた。3月に発売され、多くの目利きが「上原ひろみの最高傑作」と評した話題作である。

 なるほど、たしかにこれは上原ひろみの(現時点での)マスターピースかもしれない。ジャズのことはよくわからない私だが、それでも、このアルバムがある高みに達していることはわかる。

 これまでのアルバム中、いちばんバランスがよいというか、中道を行く感じの音。
 上原ひろみの中にはジャズの枠を超える先鋭性とジャズの正統性の担い手としての部分が同居していて、過去のアルバムではそのいずれかに偏っていた印象がある。
 たとえば、思いっきりロック寄りの音だった『タイム・コントロール』に私は快哉を叫んだものだが、正統派ジャズ・ファンにはあのアルバムは評判が悪かった。逆に、ストレート・アヘッド寄りの『プレイス・トゥ・ビー』などは、私のようなリスナーには退屈だった。

 しかし、今回は彼女のもつ両面がよい形で、バランスを保ったまま発揮されている。私のようなロック寄りのリスナーも、正統的ジャズ・リスナーも納得させる音になっている感じ。高い精神性を孕みながらも、少しも難解ではなく、流麗かつポップで、聴きやすい。

 『タイム・コントロール』のようにあからさまにロック寄りの音ではなく、シンセサイザーの使い方もごく控えめなのに、全編がロック的ダイナミズムに満ちている。
 たとえば、冒頭を飾るタイトル・ナンバーなど、まるでELP(エマーソン、レイク&パーマー)がアコースティック楽器のみを用いてジャズを演っているみたいである。また、基本的にはロック畑の腕利きドラマーであるサイモン・フィリップスがトリオの一員となっていることで、彼の力強いドラムス自体が全編にダイナミズムを与えている。

 私はかつて、上原ひろみのデビュー作『アナザー・マインド』(2003)のレビューで、彼女の速弾きについて次のような苦言を呈した(素人のくせにエラソーだけど)ことがある。

 このアルバムでは数曲ですさまじい速弾きを披露しているのだが、その速弾きにあまり必然性がないというか、「もう少し普通に弾いてもいいのになあ」と思ってしまう。

 怒濤の速弾きは聴いていて小気味よい。でも、その小気味よさは、サーカスの軽業を見たときの感覚に近いもので、「音楽に感動する」のとは似て非なるものだという気がする。



 この『ヴォイス』でも随所にすごい速弾きがあるのだが、デビュー作とは異なり、そのすべてに必然性が感じられる。曲の流れの中に速弾きが見事に調和して、少しも浮いていないのだ。
 デビュー以来の8年間で、上原ひろみはそれくらい大きく成長したのである。素人目にもその成長がはっきりわかるほどに。
 
 前作にあたる昨年の『スタンリー・クラーク・バンド フィーチャリング上原ひろみ』で披露していた大傑作「ラビリンス」を、本作でも再演している(きっと、彼女自身にとってもお気に入りの曲なのだろう)。前作のものより時間もやや長めで、さらに迫力ある演奏になっていて、素晴らしい。

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喜多あおい『プロフェッショナルの情報術』


プロフェッショナルの情報術 なぜ、ネットだけではダメなのか?プロフェッショナルの情報術 なぜ、ネットだけではダメなのか?
(2011/07/30)
喜多あおい

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 喜多あおい著『プロフェッショナルの情報術――なぜ、ネットだけではダメなのか?』(祥伝社/1470円)読了。
 多くのテレビ番組でリサーチャーとして活躍する著者が、自らの仕事をふまえ、情報探索のノウハウを明かした一冊。

 「情報術」本は山ほどあるわけだが、中には、「アンタ、他人にエラソーに情報術を説くほど大した仕事をしてないだろ?」と著者にツッコミたくなるものも少なくない(奥野某の本など)。
 その点、本書の著者は生き馬の目を抜くテレビ業界で情報を売るプロとして長く生きてきたわけだから、情報術を説く資格は十分である。

 読んで思ったのは、「テレビ番組リサーチャーの仕事は、ライターの仕事とじつによく似ている」ということ。
 本書に書かれた、一本の報告(発注者であるプロデューサーやディレクターなどに提出する)を書き上げるまでの手順をそのまま使って、雑誌記事を書くこともできるし、書籍の企画書を書くこともできる。やることは途中までほとんど一緒なのだ。

 ということは、食いつめたライターは、テレビ番組リサーチャーに転職するのも一つの手ではないか。
 調べもののスキルを一通り身につけているライター経験者なら、学校出たての若者よりはずっと早く一人前のリサーチャーになり得ると思うし。
 もっとも、出版業界とテレビ業界はいまや同じくらい泥船状態だと思うので、どちらに転んでも「食えない」かもしれないが……。

 そのように似通った部分があるので、本書はライターの私が読んでもわりと役に立つ内容だった。

 といっても、特別な情報収集法が明かされているわけではない。著者が情報を得るおもなソースにしているのは、書籍・雑誌とネット、それに専門家への直接取材で、この点もライターとまったく同じなのだ。
 それでも、そのようなオーソドックスなソースを用いて「いかに効率的に目指す情報にたどりつくか」のノウハウに、新鮮な点が多い。

 たとえば、ネット検索をする場合、どのような検索語を選ぶかによって結果に大きな違いが生まれるわけだが、著者はその際、「架空の記事を頭の中で二、三行書いてみる」のだという。そうすることによって、どのような「検索語の掛け算」をすれば求める情報が得られるかがわかるのだ、と。
 ううむ、これは目からウロコ。現場にいる人にしか持ち得ない生きた知恵である。

 本書には、そのような“情報探索に関する、生きた現場の知恵”がちりばめられている。
 テレビ業界の舞台裏を明かした読み物としても楽しめるし、著者の明るい人柄(私は会ったことないけど)がにじみ出るような楽しい本に仕上がっている点も好感がもてる。

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『世界が感嘆する日本人』


世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン (宝島社新書)世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン (宝島社新書)
(2011/06/10)
別冊宝島編集部

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 別冊宝島編集部編『世界が感嘆する日本人――海外メディアが報じた大震災後のニッポン』(宝島社新書/700円)読了。

 副題のとおり、各国のメディアによる東日本大震災報道を、国ごとに紹介した本。章立ては以下のとおり。

第一章 アメリカが報じた日本人 
第二章 中国が報じた日本人
第三章 台湾が報じた日本人
第四章 韓国が報じた日本人 
第五章 イギリスが報じた日本人 
第六章 EU諸国が報じた日本人 
第七章 昔の外国人が伝えた日本人



 各国に在住もしくは在住経験のあるライターが、各章を分担して担当している。
 最終章は補足的な章で、昔の外国人がどのように日本人を見ていたのかを紹介して、現在の大震災報道と比較させようとするもの。

 大震災後、暴動・略奪のたぐいがまったく起こらず(泥棒くらいはあったようだが)、秩序を保って粛々と災害に対処した被災地の人々の姿を、多くの海外メディアが驚きをもって伝えた。
 また、自分の権利を声高に主張するのではなく、被災者同士が助け合い、ときには自らを犠牲にしても他者を助ける姿は、海外からも称賛を浴びた。

 私たちも断片的には知っているそうした報道の数々を、本書は国ごとに整理してくれている。また、マスメディアのみならず、現地の人々のブログ等の代表的反応が紹介されているのも興味深い。

 国柄による温度差はあるものの、各国のメディアの反応はおおむね似通っている。政府の無策に驚き、被災者の冷静さややさしさを称賛する、というトーンが共通しているのである。

 本書のような企画を立てた書籍編集者はほかにもたくさんいただろうが、いち早く実現したのは宝島社新書だった。そのことに、宝島社がいまもっている勢いというものも感じる。

 急ピッチで作ったであろう粗さもやや感じられるが、それでも、資料的価値も高いよい本だった。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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