『GSワンダーランド』


GSワンダーランド プレミアム・エディション [DVD]GSワンダーランド プレミアム・エディション [DVD]
(2009/04/24)
栗山千明、石田卓也 他

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 いまごろになって今年の確定申告の準備を終えた。明日の午前中に提出予定。3月半ばが本来の〆切りだから、じつに4ヶ月半も遅れてしまった。自分史上最大の遅れである。

 やり始めれば半日で終わる作業なのだが、目先にもっと切迫した〆切りが山積みになっているので、後回しにできることはどんどん先送りしてしまう。ようやく重い腰を上げたのは、昨年の所得を確定させて市役所に提出する必要が生じたため。切迫しないとやる気になれないのは、ライターの性(さが)ですな。

 あ、それと、私の個人サイトを近く閉鎖の予定である。ケーブルテレビの会社に、電話とプロバイダを一本化するため。そのほうが月に5000円以上費用が安くなるのだ。

 個人サイトはもう数年間放置したまま。にもかかわらず、コンテンツのうち「極私的ライター入門」については、いまだにライター志望者や新人ライターの方から「参考にしています」などというメールをときどきいただく。なので、いずれまた別ブログにアップしていこうと思っているのだが、とりあえず、必要な人はいまのうちに保存されたし。8月末日に消去予定。
 あわせて、旧メルアドも廃止予定。いま活きている人脈についてはすでにGメールに移行しているので、とくにメルアド変更の告知は出さない。



 ケーブルテレビで観た映画で、感想を書いていないものがけっこうある。園子温の大作『愛のむきだし』も最近ようやく観て、面白かったのだが、旬を逃してしまうと「いまさら」感があって、いちいち感想をアップする気になれないのである。

 最近いちばん気に入ったのが、『GSワンダーランド』。これだけは感想をメモしておこう。
 『少年メリケンサック』(これも先日やっと観た)が1980年代初頭のパンク・ムーブメントを背景にしていたのに対し、こちらは1960年代のGS(グループ・サウンズ)ブームを舞台にした青春コメディの佳作。



 個人的には、『少年メリケンサック』よりも『GSワンダーランド』のほうがずっと面白かった。音楽映画としての出来も、『少年メリケンサック』をはるかにしのいでいると思う。

 登場する楽曲のクオリティがハンパない。主人公たち(「ザ・タイツメン」)が歌う曲のみならず、ほかのバンドや歌手が歌う曲まで、すべて本気で作っている。そして、隅から隅まで本気で遊び、真剣にふざけている。その意気やよし。パロディやるなら、ここまで徹底してやらないとね。





 数日前から「時の人」である高岡蒼甫がこの映画で悪役を演じていて、なかなかよい。例の騒動についてはコメントを差し控えるが、俳優としての才能はある人だと思う。

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すぎむらしんいち『ブロードウェイ・オブ・ザ・デッド 女ンビ ―童貞SOS―』


ブロードウェイ・オブ・ザ・デッド 女ンビ ―童貞SOS―(1) (シリウスコミックス)ブロードウェイ・オブ・ザ・デッド 女ンビ ―童貞SOS―(1) (シリウスコミックス)
(2011/07/22)
すぎむら しんいち

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 すぎむらしんいちの新作『ブロードウェイ・オブ・ザ・デッド 女ンビ ―童貞SOS―』の1巻(講談社シリウスコミックス/630円)を購入。

 『ネメシス』という講談社の季刊コミック誌(月刊『シリウス』の別冊)で連載中の新作。最近原作ものがつづいていたすぎむらの、久々のオリジナルである。

 すぎむらのマンガは、原作つきでも十分面白い。『モーニング』で連載中の『老人賭博』も、私はすでに松尾スズキの原作を読んでいるのに、それでも毎回楽しみにしているほどだ。

■関連エントリ→ 松尾スズキ『老人賭博』レビュー

 とはいえ、すぎむらの本領はやはりオリジナル作品にあるのであって、本作は単行本化を楽しみにしていた。

 なんと、ゾンビものである。
 「女(ジョ)ンビ」とは、その名のとおり「女のゾンビ」のこと。日本中の女たちが突如ゾンビ化し、男たちを食い殺していく。だが、童貞ひきこもり・ニートたちは普段女と縁がなかったがゆえに(笑)、食い殺されずに生き残る。
 生き残った童貞ひきこもりのボンクラ3人組と、ゾンビ化しないまま助かった美少女・ハルカちゃんの4人が、イーストウッド似の宅配便ドライバーに救出され、決死の逃亡をはかる……というストーリー。

 すぎむらしんいちのマンガは、一貫して「映画的」と評されてきた。当然、本人も筋金入りの映画マニアである。
 彼の「映画的」作風のピークともいえるのが、『ホテルカルフォリニア』や短編「スノウブラインド」で見せた洗練されたコーエン兄弟テイストであった。

 一方、本作は全編にわたって、意図的にB級映画テイストでつらぬかれている。きわどいエログロ描写、下ネタ全開の下品な笑い、たたみかけるスピーディーな展開……B級ホラー映画のテイストが巧みに取り込まれ、それでいてたんなるパロディには終わっていない。ちゃんと「すぎむらしんいちの世界」になっているのだ。
 なにしろ、本巻後半からの主舞台となるのが、オタクの殿堂「中野ブロードウェイ」なのだから、ジョージ・A・ロメロにだってこの味わいは真似できまい。

 ……と、知ったふうなことを書いているが、じつは私はゾンビ映画というものに微塵も興味がなく、ほとんど観たこともない。なので、本作にちりばめられているであろう過去のゾンビ映画へのオマージュやらパロディやらは、私にはよくわからないのである。
 ゾンビ映画に造詣の深い人なら、本作をもっと楽しめるのだろう。とはいえ、ゾンビ映画に門外漢の私が読んでも十分に面白かった。

 ブックデザインがVHSレンタルビデオの細密なパロディになっているなど、隅から隅まで映画好きらしいこだわりがつらぬかれた作りも楽しい。

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キャプテン・ビヨンド『キャプテン・ビヨンド』


Captain BeyondCaptain Beyond
(1997/08/19)
Captain Beyond

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 キャプテン・ビヨンドのファースト・アルバム『キャプテン・ビヨンド』(1972年)を、輸入盤で購入。新品が送料込み1000円以下の安さ。

 キャプテン・ビヨンドは、ディープ・パープル第1期のヴォーカリスト(つまり初代。イアン・ギランより前)として知られるロッド・エヴァンスが、アイアン・バタフライの残党らと結成したアメリカのハード・ロック・バンド。

 このファーストは、アメリカのバンドとは思えないほどブリティッシュ色濃厚なアルバムである。
 一言で言えば、ディープ・パープルをもっと渋くし、もっと知的にして、プログレのスパイスを全編にふりかけた感じ。変拍子を多用し、曲構成も凝りに凝ったそのサウンドは、スペイシーでスケールが大きい。一曲一曲は独立しているが、全体がメドレー形式でつながっていて、組曲というかトータル・アルバムのような趣がある。しかも、捨て曲ゼロ。いい曲ばかり。

 王道ハード・ロックのようにアドレナリンが湧き出る興奮はあまりないものの、陰影に富むいぶし銀の味わいが素晴らしい。これぞ70年代ロック、これぞ大人のロックである。
 ヴォーカルも各楽器もテクニシャンなのに、いたずらにテクニックをひけらかさず、技巧が隠し味になっている点も好ましい。これ見よがしの長いソロなどなく、それでいて細部には光るプレイがちりばめられているのだ。とくに、ドラムス(ジョニー・ウィンターのバンドにいたボビー・コールドウェル)はすごい。


↑これはアルバムの1~3曲目。気に入ったらアルバムを買おう。

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橘木俊詔『無縁社会の正体』


無縁社会の正体―血縁・地縁・社縁はいかに崩壊したか無縁社会の正体―血縁・地縁・社縁はいかに崩壊したか
(2010/12)
橘木 俊詔

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 昨日は取材で福岡へ――。
 早朝に出て夜に帰る強行軍。てゆーか、最近は国内なら日帰り取材があたりまえになってきた感じである。

 これで今月の取材はすべて終わり。あとは粛々と原稿を書き進めるのみ。



 行き帰りの飛行機で、橘木俊詔(たちばなき・としあき)著『無縁社会の正体』(PHP/1365円)を読了。
 これも仕事の資料として読んだ。同志社大学教授のエコノミストが、日本の「無縁社会」化の現状を概観して論じたものだ。

 「無縁社会」という言葉の発信源となった「NHKスペシャル」をまとめた本も私は読んだが、比べてみれば、概説書としては本書のほうがよくできている。「無縁社会」とはいかなる現象なのかが、「無縁死」(誰にも看取られず亡くなること)、未婚者の増加、家族の絆の希薄化などのテーマ別に、手際よくまとめられているのだ。
 「とりあえず一冊だけ『無縁社会』関連書を読んでおこう」と思っている人には、本書がオススメ。

 ただ、「よくまとまった概説書」以上のものではない。目からウロコが落ちるような分析は一つもなく、私たちが漠然と抱いている「無縁社会」のイメージが追認されていくのみの内容なのだ。
 
 とはいえ、さまざまなデータと図表を駆使して「無縁社会」の現状が数値の上から明らかにされていくので、資料的価値は高い。

 あと、本書はパートごとの出来不出来がかなり激しい。
 歴史に目を向けた記述は、総じてよい。たとえば、町内会の歴史的変遷をたどったり、哲学における「共同体主義」の歴史をたどったりしたくだりは、たいへん勉強になった。
 
 対照的に、最先端の現象を論じた部分に、薄っぺらい論述が目立つ。
 たとえば、「草食系男子」と「肉食系女子」について大真面目に分析しているのだが、これが失笑もの。そもそも、こんなチャラい流行語の中に、分析に値する内実があるとはとても思えないのである。本書全体の中でも、このくだりは浮きまくっている。

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オーランドー・ファイジズ『囁きと密告』


囁きと密告 ─ スターリン時代の家族の歴史(上)囁きと密告 ─ スターリン時代の家族の歴史(上)
(2011/04/26)
オーランドー ファイジズ

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 「今月後半の十数個の〆切り」のうち、ここまでで7つクリア。
 末日までに、残りの〆切りは9つ。がんばれ自分。



 オーランドー・ファイジズ著、染谷徹訳『囁きと密告――スターリン時代の家族の歴史』上・下(白水社/各4830円)読了。

 上下巻合わせて1100ページ以上(!)の大著。読むだけで丸一日びっしりかかったが、それだけの価値は十分にある本だった。

 別途書評を書いたのでここにはくわしく書けないのだが、ロシア史専攻の英国の歴史学者が、スターリン体制下のソ連を、個々の市民とその家族の内面に的を絞って描き出したものである。

 ロシア全土の数百家族に綿密な聞き取り調査を行った「オーラル・ヒストリー」で、とてつもない労力をかけて作られている。大型の研究助成金を元に調査プロジェクトを組み、モスクワなどロシア3都市の「メモリアル協会」の協力も得て、数年がかりで調査が行われているのだ。

 コンドラチェフ(経済学者)などの著名な知識人から無名の庶民まで、抑圧された側からした側まで、ありとあらゆる家族の歴史が、ぎっしり詰め込まれている。そして、個々の家族史が1ピースとなって積み重ねられ、通読すればジグソーパズルのように、往時のソ連社会の全体像が鮮やかに浮かび上がる。

 密告者が社会の隅々にいた恐怖支配の時代にあっても、個々の家族には愛があり絆がある。しかし、多くの場合その愛と絆は、「国家に対する忠誠心が家族愛などの人間的紐帯よりも高い美徳である」と見なされた社会の中で、ずたずたに引き裂かれてしまう。そのさまが哀切だ。

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豊田徹也『珈琲時間』


珈琲時間 (アフタヌーンKC)珈琲時間 (アフタヌーンKC)
(2009/12/22)
豊田 徹也

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 中村とうよう(音楽評論家)氏自殺の報に驚く。飛び降りた立川市の自宅マンションが、我が家から数百メートルの距離だった。こんな近くに住んでたのか。
 私自身は『ミュージック・マガジン』より『ロッキング・オン』派だったので、中村とうように対してはあまり思い入れがない。渋谷陽一との論争(思えば、世にもくだらない論争だったが)も、『ロッキング・オン』誌上でリアルタイムでウォッチしていたものだ。

 それでも、弁当箱よりも分厚い中村氏の大著『大衆音楽の真実』とか、勉強のつもりで昔読んだっけ。ご冥福をお祈りします。



 豊田徹也の『珈琲時間』(アフタヌーンKC/580円)を読む。
 最初の長編『アンダーカレント』の高い完成度で目利きを唸らせた彼の、2冊目の単行本(デビューから8年で2冊。寡作だなあ)。2009年に出ていたのを知らなかった。

■関連エントリ→ 『アンダーカレント』レビュー

 今回は長編ではなく、全17話の連作短編集。タイトルどおり、コーヒーが全話のアクセントになっている。
 ハードボイルド風、SF風、フランス映画風、コメディ・タッチなど、一編ごとに趣向が異なる。

 淡いスケッチという趣の作品が多いので、『アンダーカレント』のようなずしりと重い感動はない。それに、玉石混淆でもある。
 とはいえ、各編とも豊田徹也らしさは全開なので、『アンダーカレント』が気に入った人なら愉しめるはず。『アンダーカレント』に登場したおかしな探偵・山崎も、何話かに登場していい味出してるし……。

 豊田は映画・音楽・本・マンガなどに対してかなりマニアックな知識の持ち主のようで、その知識を用いた「わかる人にはわかる」くすぐりが随所にある。

 たとえば、登場人物が1回ドリップした紙フィルターをもう1度使い、「出がらしのコーヒー」を入れるシーンがある。そのシーンのセリフが、「ポール・ニューマンも深町丈太郎もこうやった」というもの。
 これはなんのことかというと、映画『動く標的』にポール・ニューマンが出がらしのコーヒーを飲むシーンがあり、それをふまえて『事件屋稼業』(関川夏央・谷口ジロー)の主人公・深町丈太郎が「ポール・ニューマンもこうやった」とつぶやきながら出がらしのコーヒーを入れるシーンがあるのだ。
 つまり、その2つを知っている読者でないと、このセリフの意味がわからないのである。

 そういう「くすぐり」を理解できない人には、この作品の面白さは半分しか伝わらない(かくいう私にも、理解できずに素通りしたくすぐりはあるはず)。かなり読者を選ぶマンガなのだ。

 なお、絵柄は『アンダーカレント』よりもすっきりとして、さらにうまくなった感じ。空間造形力に富む描き手だと思う。

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上田現と元ちとせ


ハナダイロハナダイロ
(2006/05/10)
元ちとせ

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 ふと思い立って、元ちとせの曲のうち、上田現が作った曲だけを集めてCDを作ってみた。
 具体的には、次のようなセレクト。

1.約束
2.竜宮の使い
3.ワダツミの木
4.ハイヌミカゼ
5.トライアングル
6.千の夜と千の昼
7.月齢17.4
8.月を盗む
9.羊のドリー
10.恐竜の描き方
11.祈り
12.カッシーニ
13.コリアンドル

 

 このうち、1~12までは上田が元ちとせのために作った曲だが、13のみが違う。これは上田のファースト・ソロアルバムのタイトル曲で、元ちとせが邦楽カバー・アルバム『Orient』でカバーしたもの。

 まとめて聴き直して思ったのは、私は「上田現の曲を歌う元ちとせ」が好きだったのだな、ということ。上田が2008年に47歳の若さで他界して以後の元ちとせは、正直なところ、私にとっては魅力が半減した感がある。

 上田自身のソロアルバムは、わりとエキセントリックかつエッジーで、かなり聴き手を選ぶ音楽である。しかし、上田の曲を元ちとせが歌うとき、両者の個性が奇跡のようにうまく噛み合って化学反応が生じ、極上のポップ・ミュージックとなるのだ。

 上田の作る曲は詞も素晴らしい。サイエンス・ネタを巧みに取り込んで、「理系のロマンティシズム」ともいうべき独自の世界が展開されているのだ。たとえば、「羊のドリー」はクローン羊ドリーを歌ったものだし、「カッシーニ」には「土星に環がある理由」という副題がつけられている。

 ちなみに、上田のファースト・ソロのオープニング曲は「宇宙犬ライカ」であった。これは、ソ連のスプートニク2号に乗せられ、「軌道を周回した初の動物」となったメス犬ライカのことを歌った曲。「理系のロマンティシズム」は、すでにそのころから上田作品の特長だったのである。
 分子生物学者の福岡伸一は元ちとせの大ファンだそうで、著書の中で「カッシーニ」の歌詞を引用している。おそらくは彼も、「上田現の曲を歌う元ちとせ」が好きなのだろう。

 そのほかの曲でも、宇宙的、もしくは神話的なイメージの広がりは、上田現の作品に通底している。それが元ちとせの声質にベスト・マッチだったのだ。

 音楽ライターの内本順一さんが、元ちとせに上田現の思い出を聞いた取材についてブログで書いておられた(→このエントリ)。
 それによれば、「上田さんがちとせさんのために残した曲は、まだほかにもいくつかあるそうで、いずれ何らかの形で発表されるはず」とのこと。それらの曲が世に出る日を、楽しみに待ちたいと思う。

 ちなみに、私が上田現・元ちとせコンビの曲の中でとくに好きなのは、「恐竜の描き方」「羊のドリー」「カッシーニ」「ワダツミの木」「ハイヌミカゼ」「トライアングル」あたり。どれも素晴らしい。


↑『ハナダイロ』所収の「恐竜の描き方」。“もう一つの「ワダツミの木」”ともいうべき名曲。「ケモノにも鳥にもなれなかったあなた/空を見上げ吼えて見せてよ」というリフレインが最高。

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NIKIIE『*(NOTES)』


*(NOTES)【初回盤】*(NOTES)【初回盤】
(2011/07/13)
NIKIIE

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 一昨日まで4日間、取材で長崎へ。長崎市内と佐世保を回る。

 カメラマンが地元九州の方で、取材の合間に車であちこち名所に連れて行ってくださった。「長崎原爆資料館」や平和祈念像なども見て回る。
 原爆資料館は細部まで洗練された作りで、じつに素晴らしい。平和への祈りに満ちた、静謐な空間――。

 有名な「江山楼」で長崎ちゃんぽんを食べたらすごくおいしかったので(とんぽうろう=豚角煮まんじゅうもよかった)、パックになっているお土産用ちゃんぽんも買って帰る。

 ……などと書くと遊んでいたように思われるかもしれないが、夜は夜でホテルでレンタルパソコンを借り、しんしんと仕事をしていたのである(って、誰に言いわけしているやら)。何の邪魔も入らないし、気の散るものも周囲にないので、ホテルだと仕事が進んですごくいい。売れっ子作家がホテルにカンヅメになって執筆する気持ちがよくわかる。

 で、昨日はまた都内で別件の取材。今月後半に抱えた〆切りが大小合わせて十数本。1日1本以上仕上げていかないと間に合わない。



 このところのヘビロ盤は、シンガー・ソングライターNIKIIE(ニキー)のファースト・アルバム『*(NOTES)』(日本コロムビア)。サンプル盤を送っていただいたもの。
 
 これがじつによい。
 一見ふんわりとした印象の声ながら、伸びやかで力強いヴォーカル。フォーク的なバラードからアッパーなロック・チューンまで、さまざまなタイプの曲を書きこなす作曲能力。みずみずしい感性に満ち、哲学的と言ってもよい深みのある歌詞……歌唱力・曲の魅力・歌詞の魅力の三拍子が揃った素晴らしいアルバムに仕上がっている。

 先行シングル「HIDE & SEEK」や「春夏秋冬」を聴いたときの私の印象は「aikoに似ている」というものだったが、アルバムを聴いてみるとaikoよりもロック色が濃く、曲にドラマティックな広がりがある。

 たとえば「NAME」や「Kiss Me」は、70年代アメリカン・ロックを彷彿とさせる、乾いた風が吹き抜けていくような爽快なナンバー。力強いタッチのピアノが、影響を受けたというキャロル・キングを思わせて、耳に心地よい。



 かと思えば、「魔女」という曲はサイケ期のビートルズのようだし、「幻想フォルム」という曲はCoccoと椎名林檎を足して二で割った感じ。どんな曲でも書けてしまうすごい才能なのである。



 発売になったのは一昨日。初回限定盤はビデオクリップ4曲とライヴ映像8曲が入った特典DVDつき。オマケの域を超えた豪華な内容である。それでいて3200円(アマゾンでは新品が2568円になっている)なのだから、これはけっこうお買い得だと思う。

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永田勝太郎『痛み治療の人間学』


痛み治療の人間学 (朝日選書)痛み治療の人間学 (朝日選書)
(2009/04/10)
永田 勝太郎

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 昨日は、心療内科医の永田勝太郎さんを取材。
 『夜と霧』のヴィクトール・E・フランクルの愛弟子であり、日本で初めて「フランクル大賞」を受賞された永田さんに、フランクル夫妻との思い出やご自身の来し方をうかがう。

 取材準備として永田さんの著書『痛み治療の人間学』(朝日選書/1155円)を読んだほか、『夜と霧』と、フランクル夫妻の伝記『人生があなたを待っている』を再読して臨む。

■関連エントリ→ クリングバーグ『人生があなたを待っている』レビュー

 『夜と霧』は高校生くらいに読んだきりで、池田香代子による新訳(2002年)で読むのは初めて。
 再読して思ったのだが、東日本大震災後のいまこそ、この本は日本で広く読まれるべきだ。被災者の中から自殺者も続出する状況があるなか、「生きる意味」を考え直す契機となるだろう。

 『痛み治療の人間学』もたいへん面白かった。
 永田さんご自身の医師としての歩みを振り返るなかで、「痛み」とは何か、医療とは何かを読者に考えさせるスペキュラティヴな内容になっている。

 印象深い患者のことを(プライバシーに配慮しつつ)何人かピックアップして書いておられるのだが、それらがいずれもすごい人間ドラマ。とくに、患者が「生きる意味」に気づくことで一気に治療が進むという「実存的転換」のさまがすこぶるドラマティックである。
 そして、その過程で永田さんが果たす役割は、「医師としてのフランクルはきっとこんなふうに患者に接したのだろうな」と思わせるものだ。
 
 ちなみに、私は今日から4日間、取材で長崎へ――。
 「取材であちこち行けていいなあ」と思われるかもしれないが、べつに観光するわけではないので、どこへ行こうと「長距離移動しただけ」という感じなのである。
 ただ、今回は途中で半日ほど空き時間があるので、ちょっとだけ「観光ぽいこと」もしてみようと思う。 

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『ナニー・マクフィーと空飛ぶ子ブタ』


オリジナル・サウンドトラック『ナニー・マクフィーと空飛ぶ子ブタ』オリジナル・サウンドトラック『ナニー・マクフィーと空飛ぶ子ブタ』
(2011/06/22)
サントラ

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 1ヶ月以上前に試写会で観た『ナニー・マクフィーと空飛ぶ子ブタ』(公開中)の、感想を書き忘れていた。

■映画公式サイト→ http://tobu-kobuta.jp/ 

 2005年の『ナニー・マクフィーと魔法のステッキ』の続編で、クリスティアナ・ブランドの児童文学が原案。ステッキ一振りで魔法を操り、どんな問題児もいい子に変えてしまう不思議なナニー(乳母)の活躍を描くファンタジーである。

 日本でいうと『コメットさん』みたいな感じ(古いなあ。私がリアルタイムで知っているのは大場久美子主演のリメイク版だけど)。てゆーか、『コメットさん』の元ネタである『メリー・ポピンズ』が、この映画の雛形なのだろう。

 今回の舞台は、イギリスの田園地帯。
 夫が戦争に行った留守を守り、ワンパク盛りの3人の子どもを育てながら農場を切り盛りするグリーン夫人。その家に、戦火を逃れて子どもたちのいとこ2人が住むことになった。都会育ちのお金持ちの子と、田舎のど庶民の子。育った環境があまりに違うため、いとこ同士とはいえ、彼らは何かにつけて衝突する。
 そこへ突然現れたナニー・マクフィーが、子どもたちに助け合いと思いやりを芽生えさせる「レッスン」を開始する。

 ……と、いうような話。ナニーを演ずる知性派女優エマ・トンプソンは、正編に引きつづき脚本も担当している。

 まあ、基本的には子ども向けだから、いい年したオッサンの私が観ても、感動まではいかない。しかし、田園風景はうっとりするほど美しいし、5人の子どもたちはみんなカワイイし、観ていて心地よい映画ではあった。お父さん・お母さんが小さい子と一緒に観るには好適だと思う。

 グリーン夫人役の女優、「どっかで見たなあ」と思ったら、あの『ダークナイト』のヒロインであった(マギー・ギレンホールという人)。颯爽とした地方検事補を演じた『ダークナイト』とは打って変わって、こちらでは田舎の農園のおかみさん役なので、わからなかった。

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竹内整一『花びらは散る 花は散らない』


花びらは散る 花は散らない 無常の日本思想 (角川選書)花びらは散る 花は散らない 無常の日本思想 (角川選書)
(2011/03/25)
竹内 整一

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 一昨日から昨日にかけて、宮城県石巻市、気仙沼市で震災関連取材。

 被災者のみなさんが語る、ぎりぎりの生と死のドラマに圧倒される。
 津波を逃れ、木の上に登って一夜をすごしたという男性がいた。ビルの屋上に避難して九死に一生を得、眼前を津波で流されていく車の中から「助けて! 助けて!」と叫ぶ声が聞こえてもどうすることもできなかった、と悲しそうに語る女性がいた。

 取材の合間に、被害の大きかった地域の様子を見て回る。石巻も気仙沼も、震災直後よりはかなり片付けが進んだとのことだが、それでも爆心地のような無惨な場所があちこちにある。
 瓦礫を一時的に山積みにしているところがあるのだが、それがまるで瓦礫で築いた城壁のよう。一度見たら一生忘れられないような光景である。



 竹内整一著『花びらは散る 花は散らない――無常の日本思想』(角川選書/1680円)読了。

 この著者の本は、少し前に本書の前著にあたる『「かなしみ」の哲学』を読んだことがある。
 本書は、著者が東大教授を定年退職するにあたって行った最終講義をベースにしたもの。それだけに論文のような厳密性はないものの、示唆に富む指摘が随所にある。

 とくに面白いのは、昔からの日本語の言い回しから日本思想の特徴を抽出していくところ。
 たとえば――。

 日本語では、「おのずから」と「みずから」とは、ともに「自(ずか)ら」と「自」の字をもって表します。そこには、「みずから」為したことと、「おのずから」成ったこととが別事ではないという理解が働いています。
 われわれはしばしば、「今度結婚することになりました」とか「就職することになりました」という言い方をしますが、そうした表現には、いかに当人「みずから」の意志や努力で決断・実行したことであっても、それはある「おのずから」の働きでそう“成ったのだ”と受けとめるような受けとめ方があることを示しています。



 もう一つ、時節柄強く印象に残ったのは、「悼む」は「痛む」からきている、という話。

 「悼む」という営みは、自分が「痛い」と思うこと、そのことがまずもっての基本です。
(中略)
 (亡き我が子を)「思い出してやりたい」というのは、たんに親自身の「慰藉」にとどまらず、その「思い出し」の中で死者をその人自身として受けとめてやることです。それがいかに「苦痛」であろうと、そうした生者の「いたみ」を通してしか、死者はその存在をこちら側に現すことはできないということです。



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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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