『えがおのつくりかた all about 矢野顕子』

えがおのつくりかた all about 矢野顕子 えがおのつくりかた all about 矢野顕子
(2006/11/25)
オレンジページ

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 『えがおのつくりかた all about 矢野顕子』(オレンジページ/1300円)がアマゾンから届いた。デビュー30周年を記念して発刊されたファン必携のムックである。

 資料性はそこそこあるけれど、批評性は皆無に近い内容。矢野顕子の友人や関係者、ゆかりの人々は山ほど登場して彼女について語っているが、音楽評論家のたぐいが矢野顕子の音楽を批評するようなページはないのである。

 たとえば、「矢野顕子30年史」というコーナーでは過去のアルバムがすべて紹介されているが、レコーディングの舞台裏などのエピソード紹介はあっても、アルバムの音楽性にはほとんど触れられてない。また、ピアニストとしての矢野顕子の魅力を分析するようなページもない。そうした批評性の欠如を物足りなく思うファンも多いだろう(逆に、「そんなもんいらん」と思う人も当然いるわけだが)。

 とはいえ、矢野顕子についてもっと知りたいというファンの欲求には十二分に応える多彩な内容である。たとえば、彼女のプライベートスタジオや自宅のインテリアまで公開し、私生活をかなり明かしている。フェイバリット・アルバムの紹介なども、読んでいて楽しい。かつての『YMOブック/OMIYAGE』の矢野顕子版という感じ。

 女性誌のムックだけあって写真も総じてキレイで、デザインもよい(オールカラーである)。
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※追記(29日)/「坂本龍一と矢野顕子が正式に離婚」という記事が、昨日あたりからスポーツ紙などを騒がせている。

 えっ? もうかなり前に「正式に離婚」してなかったっけ?
 たとえば、別冊宝島885『音楽誌が書かないJポップ批評/YMO&アーリー80's大全』には、矢野顕子について「02年坂本龍一と正式に離婚」と紹介されている。

 そういう情報が誤報だったということ? 別冊宝島(など)は、何をソースに「正式に離婚」と書いたのだろう? 
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「ツマサキ」(チャットモンチー)礼賛

chatmonchy has come chatmonchy has come
チャットモンチー (2005/11/23)
KRE

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 チャットモンチーがこの前テレビの「ミュージック・ステーション」に出ていた。いよいよメジャー・ブレイク(=とくに音楽好きでない人にまで浸透するという意味で)かな。

 こんどの新曲「シャングリラ」も悪くないけど、「ハナノユメ」「恋の煙」の2大名曲には及ばない。

 それと、私がものすごく気に入っているのが、デビュー・ミニ・アルバム『chatmonchy has come』に入っていた「ツマサキ」という曲。これはいい。歌詞も曲も非の打ち所のない名曲である。

 歌詞は、背の高い彼氏とつきあっているチビな女の子の乙女心を表現したもの。少し抜粋してみる。

ヒール高い靴をはいて
あなたの隣 しゃなりしゃなり
ペディキュアの蝶々 見えるかしら

私が見えるもの あなたが見えないもの
私が触りたいもの あなたの喉ぼとけ

今の顔もっとよく見せて
写真に撮るの間に合わないかな
さっきから鳴り止まない気持ち
あなたの頬まで背伸びしたい

がんばってね 私のツマサキ ツマサキ
(作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子)

 ちょっと「ちびせん」入ってる私にはこのいじらしさがたまらないし、「恋する者の至福」が余すところなく表現されているあたりも見事。かわいい曲だが、それでいてギターやドラムスなどの荒々しさは完全に「ギター・ロック」で、そのギャップも魅力だ。
 
 『ハチミツとクローバー』とか、あの手の物語のドラマ化・映画化に際してテーマ曲にしたらよいと思う。

■「YouTube」で観られるビデオクリップとライヴ
「ツマサキ」(ライヴ)
「恋の煙」
「シャングリラ」
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上野圭一『ナチュラルハイ』

ナチュラルハイ―わたしを超えるわたし ナチュラルハイ―わたしを超えるわたし
上野 圭一 (1996/05)
筑摩書房

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 上野圭一著『ナチュラルハイ』(ちくま文庫/680円)読了。

 10年くらい前に買って、ずっと「積ん読」しておいた本である。
 先日高千穂遙さんを取材した際、「スポーツ自転車に乗っていると、いわゆる『ハイ』の状態になることがよくある」という話になった。「ランナーズ・ハイ」などの「ハイ」である。
 「ハイ」とはどういう状態なのか? 改めて考えてみると、私はよく知らない。……というわけで、この本を読んでみようと思ったしだい。

 なぜこれまで「積ん読」しておいたかというと、パラパラ目次をめくったときに「超能力ハイ」とか「チャネリング・ハイ」などという言葉が目について、「なんだ、オカルト本か」と思ってしまったため。だが、実際に読んでみたら最初の印象よりずっとまっとうな本で、すごく面白かった。

 これは、生理学・医学・心理学・宗教学などさまざまな分野の知識を駆使して、「ハイ」とは何かを解き明かした本格的な解説書である。と同時に、日常の中で「ハイ」を体験するための方法をたくさん紹介したガイドブック、実用書でもある。
 ただし、『ナチュラルハイ』という書名が示すように、ドラッグによるハイなど、身体を害するハイについては除外してある。

 目からウロコの記述や、思わずメモしておきたくなる言葉も多い。たとえば――。
 

 あらゆるスポーツには独特のハイという報酬があり、本人は気づいていなくても、それを得るのがスポーツをする隠れた動機になっていることが多いといわれています。
     *  *  *
 あらゆるスポーツの「ファインプレー」の背後には、その選手自身が「自分でも信じられないほどの神業」をやってのける、独特の変成意識状態(引用者注/この状態が「ハイ」)があります。
     *  *  *
 人間が体験するあらゆるハイは、じつはいずれ迎える死のシミュレーション(模擬実験)であることにお気づきだったでしょうか? ハイになることをおそれる人がいます。自我の死を極端におそれ、警戒する人です。(中略)あらゆる宗教儀式、あらゆる通過儀礼は、この世における最後のハイをつつがなく迎えるための予行演習です。
     *  *  *
 どんなにすぐれた知性でも、知性によっては真のリアリティは把握できません。知性が把握するのはリアリティの見取図であって、リアリティそのものではありません。それが把握できるのは直接的・直観的な認識、つまり変成意識による認識、ハイな状態の意識です。ハイな意識状態でほんとうのリアリティを把握しているとき、それは追放された「楽園」に回帰しているときなのです。
     *  *  *
 ハイは快感ですが、快感がすべてハイであるとはかぎりません。(中略)たとえば「優越感」のような、自我が感じる快感はハイとはいえません。それは自他のあいだに強固な境界をつくり、まぼろしの境界の「内部」だけでほくそ笑んでいる、閉鎖的で陰湿な快感です。

 
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藤原新也『黄泉の犬』


黄泉の犬黄泉の犬
(2006/10)
藤原 新也

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 藤原新也著『黄泉の犬』(文藝春秋/1950円)読了。
 まったく新しい角度からオウム真理教と麻原彰晃の「闇」に迫った、話題の最新作である。ずっしりと重い読後感。『東京漂流』と並ぶ代表作になるであろう一冊。

 私は藤原の熱心な読者ではないけれど、前著『渋谷』といいこの本といい、最近の藤原はものすごくボルテージが上がっている気がする。

 本書は、前半が(ほかのマスコミ人が成し得なかった)麻原の実兄へのインタビューを中心としたルポルタージュに近い内容。後半は藤原自身の若き日のインド放浪経験を綴った紀行エッセイに近い内容になっている。一見、木に竹を接いだような構成だが、オウム真理教に対する鋭い考察が全編をつらぬく太い糸になっているため、統一感が損なわれていない。

 私個人の宗教観は藤原のそれとは大きく隔たっているけれど、それでも、違和感も共感もひっくるめて、本書は読む価値があった。

 作家の宮内勝典と藤原新也は“精神的盟友”といってよい存在だが、宮内もまた、インドなどを放浪した経験をふまえてオウム真理教を徹底論破した『善悪の彼岸へ』を上梓している。これもまた名著である。
 この『黄泉の犬』は、オウムを考察するための基本文献の一つとして、『善悪の彼岸へ』と併読されるべきものだと思う。

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『とかげの可愛い嘘』

とかげの可愛い嘘 特別版 [DVD]とかげの可愛い嘘 特別版 [DVD]
(2007/05/04)
チョ・スンウカン・ヘジョン

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 東銀座のシネマート試写室で、『とかげの可愛い嘘』の試写を観た。12月16日公開の韓国映画。

 公式サイト→ http://www.cinemart.co.jp/tokage/

 ファンタジー仕立てのラブストーリーである。主人公の前に現れては消える謎のヒロイン、アリ。小学生時代から現在までの20年間に、わずか数日しかともに過ごさなかった2人の愛を、童話のように描き出している。

 アリは、主人公の前に現れるたび荒唐無稽な嘘をつく。そして、3度の別れのあとの4度目の出会いで、その嘘の意味と彼女が姿を消す悲しい理由が明らかになる。

 終盤で明かされる「アリの秘密」がありきたりだし、ファンタジー映画としてはB級という印象。ただし、アリ役のカン・ヘジョンがカワイイので、多少の瑕疵は大目に見たくなる。これは、彼女のためにある映画だ。

 カン・ヘジョンは、傑作『オールド・ボーイ』でヒロインのミドを演じていた女優である。黒目がちのつぶらな瞳が小動物のよう。手の届かない美女というより、「ガール・ネクスト・ドア」「学校でいちばんカワイイ子」タイプ。
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高千穂遙さんを取材

自転車で痩せた人 自転車で痩せた人
高千穂 遙 (2006/04)
日本放送出版協会

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 今日は、「多摩サイクリングロード」で、SF作家の高千穂遙さんを取材。テーマは、ご趣味であるスポーツ自転車について。
 高千穂さんはスポーツ自転車で毎日走り始めてから体重を24㎏も減らし(!)、体脂肪率もひとケタ台(!)になったという。
 
 氏は、今年『自転車で痩せた人』(生活人新書)と『じてんしゃ日記』(早川書房/一本木蛮との共著。日記マンガ+エッセイ)を2冊連続で刊行され、静かな広がりを見せつつあるスポーツ自転車ブームの一翼を担っておられる。
 その2冊を読み、ご自身からもスポーツ自転車の魅力を熱く語っていただいたので、私もスポーツ自転車が欲しくなった。いや、マジで。もともと私は高校時代には12キロの道のりを自転車通学していたし(田舎なもんで)……。

 いきなりロードバイク(レース仕様の自転車)はナニなので、クロスバイク(街乗りにもスポーツ走行にも使えるハイブリッド・タイプ)というのを買おうかな。

 ところで、取材中にビックリするような偶然が。
 たまたまそこをサイクリングで通りかかったマンガ界の巨匠・大友克洋氏が、「高千穂さーん」と声をかけてこられたのだ。
 うわー! マンガ・ファン、アニメ・ファンにはたまらない2ショット。なんかものすごく得した気分になったですよ。
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『父親たちの星条旗』

父親たちの星条旗 父親たちの星条旗
ジェームズ・ブラッドレー (2006/09/27)
イースト・プレス

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 新宿のミラノ2で『父親たちの星条旗』を観た。
 クリント・イーストウッドが、太平洋戦争の激戦地・硫黄島の闘いを日米両国の視点から描き分ける二部作の前編。タイトルのとおり、こちらは米軍側の視点から描かれている。

 物語の半分ほどを占める戦闘シーンがすさまじい。あの『プライベート・ライアン』を超える圧倒的なリアリティ・臨場感。
 さりとて、(戦闘シーンに観客が感じがちな)カタルシスは微塵もない。むしろ、夢でうなされそうなたぐいの迫力なのだ。途中からは、「戦闘シーンはもういいよ」という気分にさえなる。

 かつての『ハートブレイク・リッジ』などで愛国者ぶりを見せつけたイーストウッドのことだから、もっと「アメリカ万歳」な映画になるかと思いきや、意外にも米軍に対する視点はかなりシニカルであった。

 擂鉢山(硫黄島の最上部に位置する)の頂上に星条旗を立てた兵士たちの生き残り3人を「英雄」に仕立て、戦費稼ぎのため国債の宣伝に利用する軍部の身勝手が暴かれる。
 そして、「英雄」に祭り上げられたことで人生を変えられてしまう3人の若者の姿を通して、イーストウッドは戦争の非情さを克明に描き出す。そこに、「硫黄島の物語に仮託したブッシュ政権批判」を読み取ることもできよう。

 「泣ける」というタイプの映画ではないので、その手の映画を期待した向きは肩すかしを食うだろう。ヘビーで後味の苦い戦争映画である。

 むしろ、後編にあたる『硫黄島からの手紙』(12月9日公開)のほうが泣けそうだ。本編終了後に予告編が流れたのだが、少し前に梯久美子の『散るぞ悲しき』を読んで感動した私は、渡辺謙演ずる栗林忠道(硫黄島総指揮官)の姿を見ただけで涙腺がゆるみそうになった。
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沢田知可子さんを取材

 
究極のベスト! 沢田知可子 究極のベスト! 沢田知可子
沢田知可子 (2005/06/22)
ワーナーミュージック・ジャパン

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 今日は、都内某所でシンガー・ソングライターの沢田知可子さんを取材。笑顔の素敵な女性であった。

 ミリオンセラー「会いたい」で知られる沢田さんだが、ほかにも名曲がたくさんある。
 たとえば、自殺を考えている友に向けて「がんばれ!」とストレートに呼びかける「gift」。自殺する十代があとを絶たないいまこそ、各メディアでヘビロすべき名曲である。

 沢田さんは、デビュー以来20年にわたってバラードを歌いつづけてきたこともあって、「癒し系」にカテゴライズされがちだ。だが、「gift」の歌詞が象徴するように、彼女の歌の世界は「がんばらなくてもいいんだよ。そのままでいいんだよ」と弱さを肯定する「癒し系」とは一線を画している。

 ちなみに、昨年発売された最新ベストアルバム『永遠の詩 one by one』(オーマガトキ/3000円、上の画像は違う)は、素晴らしい仕上がり。ストリングスと生ピアノ中心の、無駄な装飾を一切省いた音作りながら、心にしみわたる。「歌の最高の形式は祈りだ」とはボブ・ディランの言だが、ここにある歌はみな、深い祈りに満ちている。
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またまた結婚式

 土日にかけて、親戚の結婚式に出席するために静岡へ。
 先月結婚したのは私の従姉妹だったが、こんどは妻方の甥っ子。そんなに多いわけでもない親戚の結婚式が2ヶ月連続。物事、つづくときにはつづくものだなあ。

 それにしても、私たちの結婚式のときにはまだ小学生だった甥っ子がもう結婚とは…。あっという間だなあ、と思う。

 披露宴で、1ヶ月ぶりに酒を飲む。こんどはおいしく感じた。それでも、ふだん家では飲まない生活をつづけていく自信はもうついている。本来、酒は「ハレ」の日にだけ飲むものであったのだし……。
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ドーキンス『祖先の物語』

祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 上 祖先の物語 ~ドーキンスの生命史~ 上
リチャード・ドーキンス (2006/08/31)
小学館

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 リチャード・ドーキンス著、垂水雄二訳『祖先の物語/ドーキンスの生命史』(小学館/上下各3200円)読了。

 進化生態学の大御所ドーキンスが、持てる知識を総動員して生命40億年の歴史を遡行した労作。

 ドーキンスは、最初の著作『利己的な遺伝子』で、“生物は遺伝子に利用される乗り物にすぎない”と喝破して世に衝撃を与えた。以来30年を経て刊行された本書も、その延長線上にある。ただし、科学啓蒙書ということもあり、処女作で見せた論争的な記述スタイルはあまり見られない。書名のとおり物語のように楽しめる内容なのだ。

 類書の多くが太古から現代へと時間軸に沿った構成をとるのに対し、本書はヒトから始まりアメーバへと至る倒叙法をとっている。
 そして、生命の起源を辿る長い旅が、巡礼の旅を通して中世社会を活写したチョーサーの『カンタベリー物語』を模して語られていく。進化系統樹を先端から根元へと逆行するなかで、枝分かれ地点にいる生物を“巡礼の旅に加わる新たな道連れ”になぞらえ、その生物の物語が披露されるのだ。

 そうした構成が象徴するように、芸術などにも造詣の深いドーキンスらしいウイットに富んだ語り口が、本書の大きな魅力だ。

 たとえば、「サメとその仲間」の章は、「海の凶暴なる無垢から……」というイエーツの詩の一節から書き起こされている。このように読者の興味をそそる工夫が随所に凝らされており、文章も上品なユーモアに満ちている。そのため、生物学の教科書のように無味乾燥になりかねない題材ながら、退屈せず読み通すことができる。

 しかし、平明に語られる「物語」の内容はすこぶる高度で、現代生物学の最先端の学説やトピックがふんだんに盛り込まれている。たとえば、「収斂進化」などという耳新しい概念についても、自然な形で解説が組み込まれている。上下巻あわせて900ページ近いこの大著によって、現代生物学の全容が概観できるといっても過言ではない。

 なお、ドーキンスは徹底した無神論者として知られるが、皮肉なことに、本書を通読して強く残る感慨は、これほど複雑精妙な生物群を創りあげた自然への深い畏敬の念にほかならない。もっとも、それを「生命の神秘」ととらえるか否かの違いこそあれ、ドーキンスもまた自然を畏敬してやまないのだろう。

 39種の「コンセスター」(進化の合流点に位置する共通の祖先)の細密な再現画など、図版も豊富で、見るだけで楽しい本だ。
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『イカとクジラ』


イカとクジラ コレクターズ・エディション [DVD]イカとクジラ コレクターズ・エディション [DVD]
(2009/12/23)
ローラ・リニー、ジェフ・ダニエルズ 他

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 築地のソニー・ピクチャーズ試写室で『イカとクジラ』を観た。12月公開のアメリカ映画である。

 公式サイト→ http://www.sonypictures.jp/movies/thesquidandthewhale/site/

 ニューヨークを舞台に、夫婦揃って小説家というインテリ層の家族を主人公にした映画。
 ・・・というと、ウディ・アレンを思い出す向きも多いだろう。じっさい、シニカルなユーモアなど、ウディ・アレンの映画を彷彿とさせる部分も多い。
 
 ただ、ウディ・アレンなら父親の視点で話を進めるところを、この映画は二人の息子(上が高校生、下が小学生)の視点から描かれている。そこが大きな相違。

 父親は、昔は売れっ子だったがいまは落ち目の作家。母親は、いままさに売れっ子への道を駆け上りつつある作家。当然、そのギャップは夫婦間の不協和音にもつながり、二人は離婚を選択する。
 その後は、それぞれが週の半分ずつを子どもたちと過ごす生活が始まり、思春期真っ只中の二人の息子は、別れた両親の間で揺れ動くことになる。

 「離婚大国」であるにもかかわらず(いや、「だからこそ」か)、離婚をテーマにしたアメリカ映画の傑作は意外に少ない。わずかに『クレイマー、クレイマー』など数作が思い浮かぶのみ。この作品は、久々に登場した「離婚をめぐる映画」の傑作である。

 両親の間で揺れ動き、傷つき、奇矯な行動に走る二人の少年の姿が哀切だ。ただし、全編にちりばめられた笑いがシリアスさを中和しているため、後味は悪くない。一言で言えば、ウディ・アレンをもっと切なくしたような映画。

 長男のガールフレンド役の女の子が、若き日のケイト・ブッシュを田舎臭くしたような顔で、ケイト・ブッシュ・ファンの私にはツボ。カワイイ。プレスシートには名前さえ書かれていなかったが、ヘイリー・ファイファーという女優だそうだ。覚えておこう。 
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太田哲也さんを取材

リバース―クラッシュ〈2〉魂の戻る場所 リバース―クラッシュ〈2〉魂の戻る場所
太田 哲也 (2006/02)
幻冬舎

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 昨日は、都内某所でレーシング・ドライバー/モーター・ジャーナリストの太田哲也さんをインタビュー。

 「日本一のフェラーリ遣い」と呼ばれながら、1998年、レース中に多重クラッシュに巻き込まれて生死の淵をさまよい、その後、23回に及ぶ手術(!)などのすさまじい闘いの果てに奇跡の復活を遂げた方である。

 太田さんの著書『クラッシュ/絶望を希望に変える瞬間』『リバース/クラッシュ2・魂の戻る場所』(幻冬舎文庫/各571円)、『生き方ナビ』(清流出版/1200円)を読んで取材に臨んだ。

 多重事故による絶望から身を起こし、「生き直す」決意を定めるまでの軌跡を綴った『クラッシュ』はベストセラーになり、ドキュメンタリー映画にもなったから、読んだ人も多いだろう。
 続編『リバース』には、その後太田さんがもう一度フェラーリに乗るまでが描かれており、2册は併読されるべき内容だと思う。

 いずれも私は初読だが、深い感動を覚えた。中高生のいじめ自殺が頻発する昨今だが、何かに悩んでいる中高生にこそこの本を読ませるべきだ。「この世は生きるに値する」というメッセージが、“地獄を見た”経験に裏打ちされた、血の流れるような言葉で綴られているからである。

 『生き方ナビ』は、『クラッシュ』正続編の内容をふまえ、10代の少年少女に贈るメッセージとして書かれたもの。

 カバーには、「苦悩をつきぬけ、その先の歓喜へ!」という言葉が刷り込まれている。これはいうまでもなく、ベートーヴェンが聴覚を失う絶望を乗り越えて創りあげた「第九」の主題をふまえた言葉。

 「希望は、底のふかい海のうえでなければけっしてその翼をひろげない」
 ――19世紀アメリカ・ルネサンスを担ったエマソンの言である。
 絶望を乗り越えた先につかんだ歓喜こそ、「最初から順風満帆」だった人には味わえない、心の底が震えるような深い歓喜なのだろう。 
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石川賢氏逝去

セイントデビル―聖魔伝 (1) セイントデビル―聖魔伝 (1)
辻 真先、石川 賢 他 (1998/07)
コミックス

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 マンガ家の石川賢さんが亡くなられた。死因は急性心不全(狭心症などの前兆が見られない心不全)。まだ58歳の若さだったという。

 ご冥福をお祈りいたします。

 マンガ好きには言うまでもないが、永井豪と並ぶダイナミックプロの看板作家であった。永井にとっては盟友であり、同時によきライバルでもあったろう。
 SFやバイオレンス時代劇で見せたアクション・シーンのダイナミックな演出力は、永井豪を超えていたと思う。

 私が好きだったのは、伝説のマンガ誌『マンガ少年』で創刊号から連載された『聖魔伝』と、短命に終わった雑誌『少年アクション』に連載された『魔獣戦線』。いずれも、“もう一つの『デビルマン』”ともいうべき傑作である。

 とくに『聖魔伝』は、辻真先の原作つきながら、まことに素晴らしいマンガ。数奇な運命によって双子の姉弟として世に生まれ出た悪魔と神――テレサとユングの壮絶な戦いを、息もつかせぬ展開で、しかも耽美的に描いている。悪魔である姉が美しく、神である弟が醜く描かれているあたりも面白い(『セイントデビル』と改題されて文庫になっているようだ)。

 それにしても、売れっ子マンガ家は総じて短命だなあ。やはり、〆切前の徹夜作業などが常態化しているせいだろうか。

 石森章太郎は、多忙を極めた時期に1日2時間しか眠れない生活をつづけたため、その後も生涯、「時間に余裕があっても1日2時間しか眠れない身体」になってしまったと聞く。
 いまどきのマンガ家も、「眠気をぶっ飛ばす神のドリンク」(@『燃えよペン』)エスタロン・モカをがぶ飲みしながら徹夜したり、狭心症発作を止めるのに用いられるニトロ錠剤を眠気覚ましとして使ったり(以前、マンガ家に聞いた業界ウワサ話)……。
 そうなると、その分だけ寿命が短くなるのも無理からぬことか。
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小田嶋隆『テレビ標本箱』

テレビ標本箱 テレビ標本箱
小田嶋 隆 (2006/11)
中央公論新社

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 小田嶋隆著『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ/740円)読了。
 小田嶋氏が『ヨミウリ・ウイークリー』に連載しているテレビ批評コラム「ワイドシャッター」の書籍化である。

 ナンシー関の衣鉢を継ぐ、シニカルな観察眼が光るコラム芸の連打。対象者のウイークポイントを一言で斬る毒に満ちた人物評、笑える「レッテル貼り」芸……短いコラムの中に高度な文章テクが駆使されている。くわえて、良質なテレビ論としても読める。たとえば――。

 自力で新聞を読みこなせない層のためのテレビ版新聞ダイジェストをニュースショーと呼ぶのだとすれば、ワイドショーは、ニュース解説に読後感まで付け加えた一種の完パケ商品だ。「どう考えるか」のみならず「どう感じるか」までをすべて丸投げにした完全なおまかせニュース商品。
 たとえば「アッコにおまかせ!」では、文字通り和田アキ子という一人の代理オヤジに世界の解釈が丸ごと委ねられている。
     *  *  *
 今日も誰かが死ぬ。で、人々は、「喜怒哀楽」という、実生活の上で表現するにはリスクの大きすぎる不確定要素を、安全確実に処理すべく、リモコンのスイッチを入れる。
 結論:テレビは感情のソープランド。
     *  *  *
 堀江容疑者が出所したら、テレビは、ぜひ重用してほしい。彼の毒は、前科を得て本領を発揮するテのものだ。


 なお、小田嶋氏はイラストレーターとしても優れた才能をもつが、各コラムとも、連載時に添えられていた氏の似顔絵イラストがそのまま使われている。これも一見の価値あり。
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藤原新也『渋谷』

渋谷 渋谷
藤原 新也 (2006/06/01)
東京書籍

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 藤原新也著『渋谷』(東京書籍/1500円)読了。

 「藤原節」炸裂の一冊。さらっと読めるが、深く心に残る言葉が随所にちりばめられている。

 藤原が出会った、2人の少女と1人の元少女の物語である。その意味ではノンフィクションに分類すべきなのだろうが、ヘタな純文学よりずっと文学的香気に満ちた作品になっている。
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甲斐徹郎『自分のためのエコロジー』

自分のためのエコロジー 自分のためのエコロジー
甲斐 徹郎 (2006/08)
筑摩書房

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 甲斐徹郎著『自分のためのエコロジー』(ちくまプリマー新書/700円)読了。

 タイトルに惹かれて読んだ。
 眉根にシワ寄せて、苦行のような趣で環境運動に取り組むのはもう古いのであって、「エゴから始まるエコ」であってよいと思う。「地球に優しいから」というより、自分が気持ちよく暮らすために環境保護を心がける――それでよいのだ。「ロハス」ブームというのは、要するにそういうことであった。

 「『気持ちよさ』や『快適さ』を貪欲に追求することを目的として、『エコロジー』をそのための手段として使いこなす活用術を提案したい」と言う本書の著者も、そんな「時代の気分」を共有している。

 ただ、本書はいささか竜頭蛇尾の内容であった。
 というのも、書かれているのは“エアコンに頼らず快適に暮らすための家作りと住まい方の知恵”だけであって、エコロジー全体に目配りするような広がりはないからだ。

 ただし、樹木やすだれなどの力をうまく利用して暑さをしのぐ方法を知るうえでは、大いに参考になった。
 著者は、環境共生型コーポラティブハウスを手がけているコーディネーター/コンサルタント。東京・世田谷区に建てた著者自身の家は、真夏でもエアコンなしですごせるほど涼しいのだという。 

「なんか、あっという間に読めたなあ」と思ったら、それもそのはず、本文正味140ページに満たない。平均的新書に比べ80~100ページほど少ないのである(厚手の紙を使っているから気づきにくいけど)。「ちくまプリマー新書」ってみんなこんなにペラいの? 「もう買うまい」と思った。 
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『赤い鯨と白い蛇』

 東銀座の松竹試写室で、『赤い鯨と白い蛇』の試写を観た。
 テレビドラマ界の重鎮・せんぼんよしこが初めて監督した映画である。11月25日公開。

 公式サイト→ http://www.asproject.jp/

「若者層重視のいまのテレビでは、せんぼんさんのやりたい作品はできない。ならば映画をやりましょう!」――本作の脚本家・冨川元文のそんな言葉が、この作品の出発点だったという。

 なるほどな、と思う。よくも悪くもテレビドラマに近い感触の映画だからだ。「芸術祭参加作品」として放映されるドラマのような映画、あるいは、近藤ようこが描くマンガのような映画なのである。

 ストーリーも映像もこじんまりとまとまった作品で、映画ならではのダイナミズムに乏しい。それは、この作品の瑕疵である。その瑕疵を重大なものととらえるか否かによって、評価の分かれる作品だろう。
 私は、後者の立場。「テレビドラマみたいな映画」ではあるものの、作品としての質は高いと思う。

 舞台は、千葉県館山にある茅葺き屋根の古い民家。
 1ヶ月後には取り壊されることが決まっているその家に、2人の「元住人」が訪ねてくる。1人は戦時中この家に疎開していたという保江(香川京子)で、もう1人は以前この家を間借りして住んでいた美土里(樹木希林)だ。

 「わけあり」らしいこの2人に、ほかの3人――家の現在の持ち主・光子(浅田美代子)とその娘の里香(坂野真理)、保江に付き添ってきた孫娘の明美(宮地真緒)――がからみ、老女から小学生まで、それぞれ世代の異なる5人の女たちがドラマを展開していく。というより、この5人だけしか登場しないシンプルな映画なのだ。

 タイトルの意味がラストになってようやくわかる構成もビシっと決まっているし、含蓄深いセリフも多い。しっとりとした情感に満ちた「女性映画」の佳編である。

 残念なのは、宮地真緒演ずる明美のキャラクターがあまりに類型的で薄っぺらいこと。
 初対面の年長者に向かって(相手は敬語を使っているのに)タメ口をきいたり、「超ウザイ」などという手垢にまみれたギャル語を多用したり、「こんな女いねーよ!」という感じの痛~いキャラなのだ。ほかの4人の登場人物にはリアリティがあるのに、この明美だけがいかにも「作り物」めいている。
 
 思うに、脚本の冨川氏(1949年生まれ)が、「いまどきの『ギャル』とか申す人種は、きっとこのような輩に違いない」と、脳内イメージだけでひねり出したキャラなのだろう。

 でもまあ、宮地真緒がカワイイから許す。映画デビュー作『村の写真集』でもそう感じたけれど、彼女はじつに健康的な色気があってよい。セクシーなのにヘルシー、スレンダーなのに肉感的。

 あと、樹木希林演ずる女詐欺師がじつにいい味を出しており、彼女がふりまく笑いのエネルギーが映画を救っている。このキャラがいなかったら、ずいぶんと辛気くさい映画になったことだろう。
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ブログとの「距離」

 私がブログを始めてから、だいたい3年くらいになるだろうか(開始時期があいまいなのは、途中まではコメント機能等がない「ウェブ日記」だったから。最初は、いまはなき「ライコス・ダイアリー」を利用していた)。

 最近になってようやく、ブログとのつきあいに「適切な距離」が保てるようになった気がする。「適切な距離」とは、ブログにハマりすぎて仕事に支障をきたすことなく、息抜き・備忘録・思考整理ツールとして適度に利用できるようになったということ。

 新しいメディアと上手につきあえるようになるまでには、ある程度の時間と経験が必要なのだな。

 ノンフィクション作家の吉岡忍さんに「メディア・リテラシー」というテーマでお話をうかがったとき、吉岡さんはそのへんのことを次のようなたとえで語っておられた。

「テレビが普及し始めたころ、プロレス中継を観ていてショック死するお年寄りがたくさんいたけど、いまK-1とかの中継を観てショック死する人はいないでしょ。昔亡くなったお年寄りはお気の毒だけど、その人たちはテレビという新しいメディアとの適切な距離感が保てなかったんですね」


 ネット掲示板やブログ、SNSをめぐって、「炎上」やら「ミクシィ中毒」やらが頻発し、果ては殺人事件の引き金になったりする昨今である。だがそれも、人々が新しいメディアとの適切な距離を学ぶまでの過渡的現象なのだろう。
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酒以外の「飲む愉しみ」

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(2003/09/01)
十津川

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 断酒生活が滞りなくつづいている。
 酒の愉しみが減った分、ほかの愉しみを模索中である。といっても、ヘンなことに走っているわけではない(笑)。「ノド寂しい」気分をまぎらすために、酒以外の「飲む愉しみ」を探しているのだ。

 野菜ジュースや豆乳を最近よく飲む。酒よりもヘルシーではあるものの、これはこれで塩分や糖分が気になる。とくに、調整豆乳には砂糖や乳化剤などの夾雑物がかなり入っているから、飲みすぎはよくないだろう。さりとて、成分無調整の豆乳は“豆腐そのまんま”で味気ない。

 ちなみに、いろいろ飲み比べてみてのオススメを一つずつ挙げておこう。

 豆乳の中では、紀文の「成分無調整豆乳」がイチオシ。「成分無調整」系の中ではいちばん豆腐っぽさが希薄で、むしろ牛乳に近い味わい。ほかの豆乳に比べるとドロドロ感もなく(薄いともいえるが)、飲みやすい。牛乳から豆乳への乗り換えを考えている人によいと思う。
 ただ、紀文の調整豆乳(ライトグリーンのパッケージ)がどこでも売っているのに対し、成分無調整豆乳(ベージュのパッケージ)のほうは扱っている店が少ないのが難。我が家の周辺では「西友」でしか売っていない。

 野菜ジュースでは、カゴメの「野菜一日これ一杯」がオススメ。食塩・砂糖無添加だし、21種類もの野菜が入っているし、自然な甘さが舌に心地よい。

 そのほか、お茶やコーヒーにもいろいろ凝っている。
 最近気に入ってよく飲んでいるのが、びわ茶。血糖値を下げたり、血圧を下げたりする効果があるらしいし、ほんのりとした甘味があっておいしい。ティーバッグのものもあるが、茶葉から煮出したものを冷やして飲むのがいちばんおいしい。 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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