「ブログ上の人生相談」という試み


 いつも楽しみに読んでいる{{竹熊健太郎}}氏のブログ「たけくまメモ」で、なんと「人生相談」が始まった。ブログのコメント欄に寄せられる相談に、竹熊氏がエントリを立てて答えるというものである。

 これが、じつに面白い。回答もひねりがきいていてよいのだが、それ以上に、双方向性というブログの特性が発揮された画期的な人生相談になっている点が面白い。

 竹熊氏の回答に対してコメント欄で「相談者が聞いているのはそういうことじゃないでしょう」と反論がなされ、それに対してまた竹熊氏が「私はかくかくしかじかの意図でこう答えました」と再反論をする、などという応酬がさかんに行われているのだ。

 これは、雑誌や新聞の人生相談では(リアルタイムには)あり得ないことで、ブログならではの面白い試みだと思う。

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 じつは、18年前に私が生まれて初めて書いた雑誌コラムは、「雑誌の人生相談読み比べ」というテーマであった。さまざまな雑誌に当時連載されていた人生相談を読み比べて、ベスト3を選ぶというものである。

 ちなみに、そのとき選んだベスト3は以下のとおり。

 1位/輪島の「裸で出直せ!」(『アサヒ芸能』)
 2位/安部譲二の「人生問答」(『週刊ポスト』)
 3位/北方謙三の「試みの地平線」(『ホットドッグプレス』)

 先日北方さんを取材した際、談たまたま「試みの地平線」の話になった。
 北方さんは、「16年間あの連載をやって、『ソープへ行け!』なんて回答したことは数えるほどしかないのに、あの回答ばかり印象に残っているみたいなんだよなあ」と苦笑しておられた。
 そういえば、2ちゃんねる「一般書籍板」の北方スレも、「ソープへ行け!」がスレタイになっている(笑)。

 2位の安部譲二の人生相談は、ていねいな言葉遣いと回答のどぎつさのギャップがたまらなかった。
 たとえば、「若手社員の身勝手ぶりに頭を抱えている」という課長さんの相談に対する回答は、「お手紙拝見いたしました」という感じで始まって、次のような展開になるのであった。
 
[:quote:]
 ヤクザだった私が、その当時、こんな心がけの悪い小僧共を構わずぶっちめてヤキを入れたようなことは、まっとうな貴方には危険でおすすめできないのです。
[/:quote:]
 1位に選んだ輪島の人生相談は、彼がプロレス界に転向した当時のもの。これは、「言うまでもないことしか言わない」ところがスゴかった。

 たとえば、「どうすればいいのでしょう?」と相談を持ちかけているのに、「いいじゃないの、笑ってごまかせば」で終わらせてしまう。「浮気がバレて困っている」という相談には、「バレたらバレたでしかたないんだから、素直にあきらめたほうがオレはいいと思う」とあっさり言ってしまう。
 一般の人生相談に対する巧まざるアンチテーゼともいうべき、なんとも爆裂した内容であった。

 ついでのことに、書籍化されている人生相談の中でオススメを一つ挙げるなら、なんといっても橋本治の『青空人生相談所』(ちくま文庫)。これは、いま読んでも思わず「ううむ」と唸る深い回答が多い。
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 「たけくまメモ」の人生相談に話を戻す。

 コメント欄に、「質問者の問いにかこつけて自分の信念とかテツガクをアツく語ることを人生相談と呼ぶものでしょうか」という疑問の声が寄せられていた。「もちろんそうですよ」と、私なら答えたい。

 メディア上の人生相談は、何よりもまず回答者のキャラと回答の「芸」を愉しむものだと思う。遠い昔に柳沢きみおの『翔んだカップル』で読んだセリフ(笑)をうろ覚えで引けば、「人生相談する人って、ほんとは自分の中でもう答えを出しているんだよな」ということ。

 自分の中の答えと同じ答えを回答者がしてくれれば、そのことに背中を押してもらえる。そういうものなのだろう。
 逆に、「自分の中の答え」とは異なるアドバイスを回答者からされたとしたら、赤の他人のアドバイスに従って人生を方向転換する人がいるとはとても思えないのである。
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永島敏行さんを取材

 今日は、早朝から千葉県成田へ。俳優の永島敏行さんを取材するため。

 永島さんは俳優業のかたわら、「もう一つのライフワーク」として米作りに取り組んでおられる。今日は、成田で永島さんが作っておられる田んぼの稲刈りの様子を取材したのである。

 「JA成田」のイベントも兼ねた稲刈りで、近在の親子連れが「稲刈り体験」のため多数参加。みなでわいわいと稲刈りをする。

 めったにない機会なので、私も鎌を借りて、ちょっとだけ稲刈りを体験。

 永島さんを取材したライターは山ほどいても、永島さんといっしょに稲刈りをしたライターはほとんどいまい。…と、妙に自慢したくなったりして(笑)。

 永島さんは私より年上なのだけれど、いまなお「精悍な好青年」というイメージの方であった。若々しくてさわやか。

 永島さんが主演された『遠雷』(根岸吉太郎監督)は、私の好きな映画の一つ。そして、ささやかな思い出の映画でもある。あの映画のトマトハウスのシーンは、私が通っていた高校のそばで撮影されたもので、当時「おい、近くで映画の撮影をしているらしいぞ」と学校の話題になったのである(あ、その話を永島さんにしそこねた)。

 主人公の農家の青年は、永島さん以外にはあり得ないくらいのハマリ役であった。もっとも、永島さんのご実家は農家ではなく、千葉で旅館を営んでおられるそうだが…。
 
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森岡正博『生命学をひらく』


生命学をひらく 自分と向きあう「いのち」の思想生命学をひらく 自分と向きあう「いのち」の思想
(2005/07/10)
森岡 正博

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 森岡正博著『生命学をひらく/自分と向きあう「いのち」の思想』(トランスビュー/1600円)読了。

 これはいい本だ。
 森岡氏の著作をどれか1冊読んでみようと思う人は、これか、ちくま新書の『生命観を問いなおす』をまず読むといいと思う。2冊とも、森岡生命学の入門書として格好の本である。
 逆に、いきなり大著『無痛文明論』などに手を出すと、いろんな意味でたじたじとなってしまうから、要注意。

 この『生命学をひらく』は、森岡氏初の講演集。「生命学」の提唱者である氏が、過去10年間に行った、生命学をめぐるさまざまな講演をまとめたものだ。

 出版業界では校正で漢字をひらがなに直すことを「ひらく」というが、書名の「ひらく」にも、「平明にする」というニュアンスがあるのだろう。その書名のとおり、すこぶるわかりやすい内容。
 だが、それでいて内容は濃い。森岡生命学のエッセンスがぎゅっとつめこまれている。
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小田嶋隆『イン・ヒズ・オウン・サイト』

イン・ヒズ・オウン・サイト ネット巌窟王の電脳日記ワールドイン・ヒズ・オウン・サイト ネット巌窟王の電脳日記ワールド
(2005/09/15)
小田嶋 隆

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 小田嶋隆著『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社/1680円)読了。

 小田嶋氏のサイト「おだじまん」の日記「偉愚庵亭日乗」と、ブログ「偉愚庵亭撫録」からのベスト・セレクションである。1998年から2005年にかけて書かれた数万行の中から厳選した文章が、400ページ近いボリュームにまとめられている。

 私は、氏のデビュー作『我が心はICにあらず』からその著作をずっと読みつづけてきた。この本に収録された文章も、サイトとブログで一度は読んでいるはずだが、それでもすごく面白い。もしかしたら、氏の著作の中でいちばん面白いかも。

 ここに収録された文章は、どれも原稿料という対価のために書かれたものではなく、小田嶋氏がほんとうに書きたいことだけを、しかも枚数制限などに縛られず自由に書いたもの。だからこそ、氏の才能・個性が、エッジを削られることなく素のまま出ている印象がある。

 難をいえば、収録する文章をもっと絞り込むべきだった気がする。これでも元の文章の10分の1に圧縮したらしいけど、もう一息、300ページくらいまで。
 たとえば、「当サイトが本になります」という告知文までそっくりこの本に入れる必要はなかったはずだ。

 ひととおり読み終えて「偉愚庵亭撫録」の過去ログをざっと見直してみたのだが、ブログにかぎっても、「なんであれを収録しなかったのか?」というエントリがけっこうある。

 「高塚猛タイーホ」や「選良からの手紙」、高田渡死去についてのエントリは、相手もあることだから面白くても捨てざるを得なかったのだろう(ブログ読者以外には意味不明だろうけど)。
 が、そうしたものを除いても、「なんであれを入れずにこれを入れるかね?」と首をかしげるセレクトが多い。

 セレクトを担当したという担当編集者氏は、私とはかなり好みが違うようだ。ま、好きなロック・アーティストのベスト・アルバムと同じで、どんなセレクトであっても不満を感じただろうけど……。 

 また、この本はやはり横書きにすべきだったと思う。元の文章が横書きなのに無造作に縦書きに直しているから、不自然な箇所が散見される。顔文字が横向きになっていたりとか。

 それと、小田嶋氏の手になる味のあるイラストは、もっとたくさん収録してほしかった。

 ……と、細かい難癖をつけたい部分はあるけれど、ファンとして、まずは満足の一冊。売れるとよいと思う。

 以下は、このブログで小田嶋氏の著作を取り上げたエントリ。ご参考まで。

『人はなぜ学歴にこだわるのか。』

『日本問題外論』

『かくかく私価時価』
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立川が「住みよさランキング」4位に

 東洋経済新報社が毎年独自に集計している「住みよさランキング」で、 立川が今年度全国4位、東京で1位にランクされた。
 長年の立川市民である私は、なんとなくうれしかったりして…。

 このランキングは全国の都市を対象に、「安心度」「利便度」「快適度」「富裕度」「住居水準充実度」の5つの観点から16指標を採用し、各指標について偏差値を算出してその平均値を総合点としたものだという。

ちなみに、今年度ベストテンは以下のとおり。

1 栗東 (滋賀)
2 福井 (福井)
3 成田 (千葉)
4 立川 (東京)
5 長浜 (滋賀)
6 刈谷 (愛知)
7 富山 (富山)
8 浦安 (千葉)
8 金沢 (石川)
10 敦賀 (福井)
 
 この手のランキングにはほかに日経の「全国優良都市ランキング」などがあって、それぞれ結果がかなり異なっているのが面白い。

 ただ、この「住みよさランキング」の指標の選び方には、ちょっと首をかしげてしまった。
 たとえば、出生数を「安心度」の指標にしてよいものかどうか、「金融機関数」が利便度の指標になり得るのか、など…。銀行が多くてもべつに「便利」ってわけじゃないだろうし、ガラの悪い街ほどむしろ子だくさんな家が多いのでは?

 私自身の、データによらない実感上の評価を述べるなら、立川は「利便度」では東京都下でダントツ、「快適度」もかなり高水準だと思う。「住居水準充実度」は、都区内よりは家賃も安いし、まあまあといったところか。

 ただ、ギャンブルの街でもあり(競輪場と場外馬券場があり、パチンコ屋も多い)、かなりガラが悪いので「安心度」は低い。ど庶民の街だから「富裕度」も低いと思う。

 しかしまあ、たしかに住みよい街ではある。全国4位も納得。
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北方謙三氏を取材

水滸伝 (18)の画像


 今日は、都内某所で作家の北方謙三氏を取材。
 氏の大作『水滸伝』がさきごろ完結し、10月に最終巻(19巻)が刊行されるのを受けてのインタビューである。

 「コワモテ」のイメージがあったので、ちょっとビビりながら取材場所へ向かった(笑)。

 が、素顔の北方氏は「コワモテ」どころか、取材中も我々に細やかに気を配られる、気さくで温厚な紳士であった。

 取材準備として『水滸伝』の既刊をダーッと読んでいったのだが、これが滅法面白い。
 私は、北方氏の初期のハードボイルドはよく読んだけれど(『檻』が最高)、時代・歴史小説の分野に主軸を移されてからは、正直ちょっと「遠くへ行ってしまった」感を抱いていた。

 が、『水滸伝』の物語の行間にも、やはりハードボイルドのスピリットが脈打っていた。
 
  
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幸村誠『ヴィンランド・サガ』


ヴィンランド・サガ(1) (アフタヌーンKC)ヴィンランド・サガ(1) (アフタヌーンKC)
(2006/08/23)
幸村 誠

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 『ヴィンランド・サガ』の1巻を買ってきた。
 青春SFマンガの大傑作『プラネテス』の幸村誠が、なんと『週刊少年マガジン』で連載中の最新作である。『少年マガジン』なんて長年読んでいないから、この作品のことは知らなかった。

 今回はSFではなく、11世紀の北欧を舞台にヴァイキングの世界を描いた歴史ものである。

 主人公の少年トルフィンのキャラ造型は少年マンガのセオリーにのっとっているが、それ以外はおよそ少年マンガらしからぬ要素に満ちている。絵は緻密でリアルだし、内容は(勇壮ではあるが)陰鬱で血なまぐさいし……。

 『アフタヌーン』に連載されていてもまったく違和感がない作品。『少年マガジン』を読んでいるようなガキンチョに、この作品が理解できるのだろうか? 『アフタヌーン』には同傾向の『ヒストリエ』が連載中だから、あえて『マガジン』に持っていったのかもしれない(※)。

 ガキンチョはともかく、『プラネテス』が好きだった人なら読んで損はない作品。打ち切りの憂き目を見ず、トルフィンが立派な戦士に成長するまでをきちんと描いてくれることを祈りたい。


※後記/『ヴィンランド・サガ』は、12月から連載誌が『少年マガジン』から『アフタヌーン』に変るそうだ。やっぱりなあ。
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「電子書籍」は出版を変えるか?

 今日は、都内でいわゆる電子書籍(パソコンやケータイの画面上で読む本)の販売会社を取材。

 既成の出版界――すなわち「紙の本」の市場はいまや完全に右肩下がりだが、対照的に、電子書籍の市場はここ数年右肩上がりで急成長をつづけている。
 5年後の2010年には、電子書籍市場は1000億円規模となる見込みなのだという。話半分としてもスゴイものである。

 この取材の準備として数点の電子書籍をダウンロードして読んでみたが、「けっこう使えるな」という感触を得た。

 私は2001年に「オンラインコミック」(ウェブ上で読むマンガ)についての記事を書いたことがあって、そのときには「パソコンのモニターでマンガを読むなんて、読みづらくてダメだ」という印象を受けた。だからこそ、この4年間の電子書籍の進化がよくわかる。

 もっとも、それはこちら側の変化(我が家の接続環境が光ファイバーになったこと、パソコンのモニターが以前より大きめになったこと)によるところも大きいのだが、それだけではない。以前に比べて格段に読みやすくなっている。ページをパラパラめくる感じで読めるのだ。

 電子書籍のコンテンツには絶版のマンガや文庫本もあれば、『週刊ポスト』の最新号などもある。

 驚いたのは、宮谷一彦や永島慎二のマンガなど、古書店でも入手困難なマニアックなマンガ作品がけっこう多いこと。印刷費もかからず、在庫を抱える必要もない電子書籍は、紙の本としては刊行が難しいマニアックな作品に生き残る道を与えるのである。

 音楽については、「CDを買うのではなくダウンロードして聴く時代」がすぐそこまで来ている。紙の本は、CDに比べれば消滅までに年月がかかるだろうが、遠くない将来には消えるだろう――今日の取材でそう感じた。
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取材ダブルヘッダー

  →「MAWJ」の活動を紹介した『夢のむこうへ』

 今日は、午前中に映画監督の佐々部清さんを取材。午後は、ボランティア団体「メイク・ア・ウイッシュ・オブ・ジャパン」を取材。またもや「取材ダブルヘッダー」で、濃密な一日であった。

 「メイク・ア・ウイッシュ・オブ・ジャパン(MAWJ)」は、難病の子どもの夢をかなえるボランティア団体。その活動から生まれた感動のエピソードの数々をうかがって、強烈な印象を受けた。
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『チルソクの夏』

チルソクの夏 特別版の画像


 『チルソクの夏』をDVDで観た。佐々部清監督の取材準備その3、である。

 1970年代後半の下関と釜山を舞台にした、オーソドックスな青春ラブストーリー。

 舞台が70年代だからというだけでなく、映画としてのテイストが60~70年代の邦画のようだ。
 たとえば、ヒロインの女子高生・郁子(水谷妃里)は家計を助けるために新聞配達をしているのだが、貧しくともけなげなその姿は、『キューポラのある街』(1962年)の吉永小百合を彷彿とさせる。

 古臭いといえば古臭い映画だが、古風であることはこの作品の欠点ではなく、むしろ美点になっている。こんなに素直な、懐かしさに満ちた青春ラブストーリーを、久しぶりに観た。

 郁子と韓国の高校生・安大豪の恋(下関と釜山の親善事業として開催される「関釜陸上競技大会」で、2人は出会う)は、明らかに『ロミオとジュリエット』を下敷きにしている。ロミオとジュリエットが互いの家のいがみあいによって引き裂かれるのに対し、郁子と安の恋は互いの親の反日・反韓感情が障害となるのだ。

 「チルソク」とは、韓国語で「七夕」のこと。2人の出会いと再会の場となる陸上競技大会は、毎年7月7日に行われるのだ。
 『ロミオとジュリエット』×「織姫と彦星」!  なんと正攻法のラブストーリーであることか。

 ちょっと気恥ずかしくなるほどベタな場面も多い(海に向かって「バカヤロー!」と叫んだりとか)のだが、それでも、さわやかな感動を与えてくれる佳編。言葉で説明すればクサイ場面も、映画を観ている間はクサイとは感じず、むしろストレートな感動に結びつくのだ。“オーソドックスであることの強さ”を痛感させる映画である。

 「恋愛が与え得る最大の幸福は、好きな女の手を初めて握ることである」とはスタンダールの言だが、この映画は、「生まれて初めてのデート」の歓喜とドキドキ感を、鮮やかに追体験させてくれる。

 ヒロイン・郁子とその親友3人(人気絶頂の上野樹里がその1人)が、すこぶるチャーミング。みなスッピンで演じているのだが、日焼けしたその顔や陸上競技のシーンでの肉体の躍動感が、健康的でまぶしい。
 4人が部室で着替えるシーンが3回もあるのは男性観客へのサービスだろうが(笑)、その下着姿は少しもいやらしくない。なんかこう、思わず観ているこっちの顔が赤らんでしまうような感じなのだ。

 「なごり雪」「カルメン'77」「横須賀ストーリー」などといった70年代のヒット曲が、物語の重要なアクセントになる。その点で、これは佐々部監督の最新作『カーテンコール』と陸続きの“昭和歌謡シネマ”といえよう。
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清水市代『天辺』

天辺―将棋・女流トッププロの生き方天辺―将棋・女流トッププロの生き方
(2005/07)
清水 市代

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  清水市代著『天辺(てっぺん)/将棋・女流トッププロの生き方』(毎日コミュニケーションズ/1600円)読了。

 2度にわたって四冠を制したナンバーワン女流棋士(現在は三冠)による、初のエッセイ集である。明日、清水さんを取材するので、その準備として読んだ。

 清水さんを取材するのはこれで3度目。てゆーか、私はファンなので、今回は自ら取材の機会を作ったのである。職権濫用(笑)。

 このエッセイ集には、「勝負師」としての凛とした顔と、女らしいカワイイ面とが両方ともよく出ている。ファンにはたまらない一冊である。

 ドラマの一場面のような印象的なエピソードと、メモしておきたくなるようないい言葉がたくさんちりばめられている。たとえば――。

 「女流棋士になりたい」と初めて打ち明けたとき、清水さんのご両親は揃って反対したという。そのころの父子のやりとり。

 そんなある日、父が唐突にこう切り出した。
「市代は、日本一高い山の名を知っているか?」
「富士山でしょ」
 すぐ答え、不思議そうに父の顔をうかがうと、
「じゃあ、二番目は?」
「えっ?」
 頭のどこかに眠っている地理の知識を総動員して考える間もなく、すぐさま二の矢が飛んできた。
「三番目は?」
 二番目の名さえ思い出せないのに三番目なんて完全白旗である。すると父は、
「市代が進みたいと言っている世界とは、そういう世界なのだよ。二番はない」
 私のこころの底を窺うように父はそう言った。



 また、次のような一節も胸にしみる。

 

 勝敗にこだわり過ぎていた頃は、相手が悪い手を指すと「ありがたい」と喜んでいたのだが、いまは違う。相手がミスをしたときではなく、良い手を指してくれたときにそう感じる。
          *
 自分の許容量に限りがある以上、私はまず悲哀、憎悪といったマイナスの要素を取り払って容量の空きを広げるようにしている。熱いとか痛いなどは自分ではどうにもならない外圧だけれど、悲しいとか憎いといった感情は自分でつくり上げているものであって、自分でコントロールできる。後ろ向きの感情を溜めたくはない。



 明日は、清水さんを取材したあと、東大教授の姜尚中さんを取材。私にとってはなんだか濃密な一日である。
 姜さんは、背がスラッと高くてハンサムでカッコイイ方。女性ファンが多いのも納得だ。

在日在日
(2004/03/24)
姜 尚中

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 しかし、東大教授の著書でカバー写真が著者の顔のアップという例は、ほかにあまりないだろうなあ。 
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『半落ち』

半落ちの画像


 DVDで『半落ち』を観た。佐々部監督取材の準備その2、である。

 前半はまことに快調。警察の「組織の論理」に個人の感情が圧殺されていく描写に迫力がある。
 ただ、それが後半の「泣かせ」の展開と水と油になってしまっている印象。

 原作の小説を私は読んでいないのだが、このストーリーはあまりに龍頭蛇尾ではないか。

 敏腕警部が愛する妻を手にかけたあと、自首するまでの空白の2日間。その2日間の行動を、彼はなぜか明かそうとしない。空白の2日間に彼は何をしたのか? 別の誰かをかばおうとしているのではないか?
 ……という謎が最初に提示されるミステリーなのだが、その謎解きがちょっとね~。「えっ? それだけ?」と言いたくなった。
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『カーテンコール』

カーテンコールメイキング 佐々部清監督と昭和ニッポンキネマの画像


 『カーテンコール』を観た。今秋公開の、佐々部清監督作品。こんど佐々部監督を取材するので、準備として観た。
 佐々部氏は、『半落ち』や『チルソクの夏』、『四日間の奇蹟』などの監督である。

 公式サイト→  http://www.curtaincall-movie.jp/

 この『カーテンコール』は、一言で言ってしまえば“日本版『ニュー・シネマ・パラダイス』”だ。

 昭和30年代後半から40年代の中頃まで、映画館には映画の幕間に形態模写やギターの弾き語りなどをやって観客を楽しませる「幕間芸人」がいたのだそうだ。無名時代のビートたけしが浅草のストリップ劇場の幕間芸人をやっていたことなどは知っていたが、映画館にも幕間芸人がいたとは知らなかった。

 この映画は、山口県下関市の古い映画館を舞台に、かつてそこで活躍した一人の幕間芸人の人生を追う物語。その人生の背後に、映画が庶民の最大の娯楽であった時代の“古き佳き日本”が鮮やかに浮かび上がる。

 ストーリーにも、演出にも、映像にも、とんがったところが微塵もない。きわめて素朴でオーソドックスな映画である。そして、親子の情愛や夫婦愛などの人の絆と人情の機微が、ていねいに描かれていく。「ヒューマン・ストーリー」などと言うより、日本語で「人情映画」と呼びたい作品だ。
 佐々部監督は、山田洋次の立ち位置を継承する人かもしれない。

 幕間芸人・安川修平役の藤井隆も、ヒロインのタウン誌記者を演じる伊藤歩も悪くはないのだが、修平の生き別れた娘を演じた鶴田真由に最も強い印象を受けた。従来のお嬢様的イメージをかなぐり捨てて、人生の辛酸をなめてきた女性を、深い哀愁を漂わせ熱演している。
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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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