私の「独立記念日」


 忙しさにかまけてスルーしてしまったが、7月27日は私にとっての「独立記念日」、つまり、17年前に「フリーになった日」なのだ。
 私は、毎年この日には初心を思い出すことにしている。……とか言って忘れてたわけだけど(笑)、今日初心を思い出したから、よしとしよう。

 私は、上京したときには就職のあてもなく、ライターになれるあてもなかった。「とにかく東京に出なければ始まらない」とただやみくもに出てきたのだった。

 上京直後には、書く仕事とはまったく関係のないバイトをしていた。
 そのころ、柴田恭兵主演のなんとかいうドラマで、カメラマン役の恭兵が、「ちゃんとカメラで食えてんのかよ?」という友人の問いに「食えねえからバイトやってんだよ」と(例のあの口調で)答えるシーンがあった。
 私はそのシーンを見ながら、「せめてそんなふうに言える身分(=「ライターだけじゃ食えねえから、バイトやってんだよ」と言える身分)になりたいなあ」としみじみ思ったものだった。

 それが、私にとっての「初心」の一つ。 
 ライターの仕事だけで妻子を養っているいまの〝身分〟は、当時を思えば夢のようである。

 もう一つ思い出すのは、ようやく原稿料をもらえるようになった駆け出しのころのこと。
 そのころの私は、原稿を使ってもらえること自体がうれしくてたまらず、そのつど編集者にお礼のハガキを出したものだった。「私のような者の原稿を使っていただいて、ありがとうございます」と…。

 いまではさすがに編集者にいちいち礼状までは出さないが、そういう謙虚な気持ちを忘れてはいけないと思う。
 「ちょっと忙しいからといって、いい気になってはいないか?」「原稿を書く仕事が惰性になってはいないか?」と、自分の心を点検しよう。
関連記事

『アインシュタインの恋』



 デニス・オーヴァーバイ著『アインシュタインの恋』上下(青土社/各2400円)読了。若き日のアインシュタインを、その恋愛・結婚を軸に描いたサイエンス・ノンフィクションである。
 アインシュタインは生涯に2度結婚し、そのほかにも多数の女性と不倫関係に陥った。本書は、アインシュタインをめぐる数多い女性たちのうち、最初の妻ミレヴァ・マリッチとの恋愛関係を中心に描いている。ミレヴァとの愛の物語を縦糸に、相対性理論完成までの歩みを横糸に織り上げた、アインシュタインの青年時代の物語。

 著者のデビュー作でもある前作『宇宙はこうして始まりこう終わりを告げる』(白揚社)は、「ハッブルの法則」発見以来の宇宙論研究史を、科学者たちの人間ドラマの中から描き出した傑作であった。前作に感動した私は、大いに期待して本書を読んだ。

 が、結論からいえば、本書はあまり面白くなかった。訳が生硬すぎるし、物理学の理論的側面をあまりに細かく書き込みすぎていて、門外漢の当方には本文の半分くらいがチンプンカンプンなのだ。物理学の素養がある人ならきっと楽しめるのだろうけど…。

 本書の原題は「EINSTEIN IN LOVE」。大ヒットした映画『恋に落ちたシェイクスピア(原題は「シェイクスピア・イン・ラブ」)』を念頭に置いたタイトルであろう。
 どうせなら内容も『恋に落ちたシェイクスピア』のようなエンタテインメントにすればよかったのに、ラブストーリーの部分は三分の一程度で、あとは物理学の専門書を読んでいるような内容。がっかりした。

 ただ、ラブストーリーの部分は面白かった。
 ミレヴァは数学と物理学に優れた才媛で、「相対性理論の産婆役」とも評される女性である。つまり、大学でミレヴァと出会って恋に落ち、彼女と日々刺激的な物理学談義を交わしたことが、相対性理論の基となったということだ。ミレヴァと離婚してのちにノーベル物理学賞を得たとき、アインシュタインは巨額の賞金をすべてミレヴァに贈った。

 もしかしたら「もう一人のキュリー夫人」になっていたかもしれないミレヴァだが、彼女はアインシュタインとの間に生まれた子どもたちを育てるのに忙しく、その才能を埋もれさせていった。

 本書は、一つの愛がしだいに色褪せ、ついには終わるまでのほうに力点が置かれた、苦いラブストーリーである。

 恋が始まったころ、アインシュタインはミレヴァについて次のように言った。
「彼女は人生と科学において、自分のインスピレーションの源であり、道を踏み外さないための保護天使だ」
 だが、離婚寸前の時期には、ミレヴァをこう評するまでに変わってしまう。
「いるだけで他人の人生の喜びを抑えてしまう冷たくユーモアに欠けた人だ」

 「愛ってなんだろう?」と改めて問いたくなってしまう。未婚の人は読まないほうがいい(笑)。
関連記事

ダイソー100円コミックスの掘り出し物


ぼくの動物園日記 1 (ジャンプコミックス)ぼくの動物園日記 1 (ジャンプコミックス)
(1989/04)
飯森 広一

商品詳細を見る


 いまや日本全国に店舗を広げる100円ショップ・チェーン「ダイソー」では、「ダイソーコミック・シリーズ」と銘打って、1冊100円のコミックスを販売している。
 コミックスといっても、最近コンビニでよく見かけるようなザラ紙のものなのだが、それにしても100円は安い。

 ラインナップもけっこう通好みである。

 どうでもいいような作品もあるにはあるが、高橋亮子の『つらいぜ! ボクちゃん』、石川球太の『巨人獣』、飯森広一の『ぼくの動物園日記』、村野守美の『オサムとタエ』など、いまや古書店ですら入手困難と思われる埋もれた傑作がいくつも含まれている。これは買いだ。

 聞くところによるとこのシリーズは、1冊につき20万円とかの破格値で版権を買い取っているからこそ、100円で販売できるのだとか。作者の気持ちを思うとちょっと切ない気もするが、人目に触れず埋もれていくより、たとえ100円でも自分の作品が復刊されるのはうれしいものなのかもしれない。

 私のオススメは、『オサムとタエ』と『ぼくの動物園日記』だ。
 『オサムとタエ』は、自然豊かな田舎町に暮らす少年少女を主人公にした、抒情あふれるノスタルジックなマンガ。
 村野守美の描く女性は素朴かつふくよかで、じつに魅力的である。いまどきのマンガにはけっして出てこないタイプの、古き佳き「日本の女性」像。また、ていねいな自然描写も素晴らしい。

 『ぼくの動物園日記』は、私が小学生のころに『少年ジャンプ』に連載していた作品。のちに東武動物公園の「カバ園長」となった西山登志雄氏が、上野動物園の若手飼育係だった時代の奮闘を描いた、動物マンガの異色作である。
 当時、このマンガに感動して、「将来は動物園の飼育係になりたい」と思った少年がたくさんいたのである(じつは私もその1人)。

 こういう埋もれた傑作を、どんどん復活させて欲しいところだ。

 ただ、このシリーズ、どういうわけだか尻切れトンボのままで発刊しているものが多い。たとえば、『オサムとタエ』シリーズはコミックス数巻分つづいたはずなのに、1巻だけしか出ていない。『ぼくの動物園日記』はたしか全10巻だったはずだが、2巻までしか出ていない。つづきはどうなったんだぁ!?

 それにしても、石川球太にしろ飯森広一にしろ、コミック誌で作品を見かけなくなってから随分経つが、ちゃんと食えているのだろうか?

 東京・板橋区でDVの巻き添えを食って殺された「花彌真澄さん」という中年女性マンガ家を誰も知らなかったように、マンガ界というのは、我々の目に触れるよりもはるかに裾野が広い。

 じっさい、私の知り合いのマンガ家にも、メジャー誌では一度も作品を見たことがないけれど、いつも忙しそうな人がいる。「自称マンガ家」ではない。ちゃんと妻子を養っている人である。

 ダイソーコミック・シリーズに登場するマンガ家たちが、「いまはメジャー誌では描いていないが、それでも仕事はたくさんあるんだよ」という人であることを祈りたい(もっとも、永井豪とか石森章太郎とかの超メジャー作家の作品も含まれているのだが)。

関連記事

Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

里親募集中

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
23位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
18位
アクセスランキングを見る>>