インタビュー術! (講談社現代新書) (2002/10/18) 永江 朗 商品詳細を見る |
職業柄、ライター入門のたぐいをたくさん読んできた。その多くが、取材ないしインタビューの方法論についてある程度の紙数を割いている。たとえば、立花隆の『「知」のソフトウェア』、山根一眞の『情報の仕事術』、本多勝一の『ルポルタージュの方法』などに盛りこまれた取材のノウハウは、どれもそれなりに役に立った。
しかし、取材のみに的を絞った入門書は、ありそうでなかった。宮部修というライターが1997年に『インタビュー取材の実践』(晩聲社)という本を出しているが、それくらいだろうか(※)。
※新聞記者の故・黒田清もその手の本を出していたが、「参考にならなかった」という印象しか残っていない。また、沢木耕太郎さんが『インタビュー』という本を岩波新書から出すと噂されていたのだが、これは企画自体が流れてしまったらしい。
『インタビュー取材の実践』もなかなかよい本ではあったが、それをはるかに凌駕する“インタビュー入門の決定版”が登場した。永江朗(あきら)の新著『インタビュー術!』(講談社現代新書/700円)がそれだ。ベテランにして売れっ子のライターが、豊富な経験をふまえてインタビューのノウハウを伝授してくれる1冊である。
この本の美点の第一は、ヘンな精神論を振りかざすいやらしさがなく、徹底して実用的であるところ。
とにかくアドバイスが細かい。たとえば、取材の際に使う筆記用具について、“ペンよりもシャープペンシルがよい”と永江は言う。なぜなら、小売店を取材するときなどに、万一ペンを落として商品を汚してしまってはいけないからだと…。
また、小説家が短編集を出した際の著者インタビューについて、次のように言う。
まんべんなく聞こうとすると、それぞれの短編についてつまみ食いしただけの、広くて浅いインタビューになりがちだ。そこで、十編のうちの二つか三つに話を絞る。このとき気を使うのは、「それじゃあ、なにかい? この十編のうちおもしろかったのはこの三つだけで、あとはダメってわけかい?」などとインタビュイーに感じさせないこと。
こんなふうに、インタビューのAtoZが微に入り細を穿って語られていく。ここまで実践的なアドバイスは、高い金を払ってライターズ・スクールに行っても聞けないのではないか。
美点の第二は、入門書として良質であるにとどまらず、読み物としても面白いところ。
随所にちりばめられた失敗談や苦労話は、同業者として身につまされるが、同時に笑いも誘う。たとえば――。
会話が途切れて沈黙の時間が流れる。インタビュアーにとってこれほど恐ろしいことはない。
用意していった質問項目が次々とクリアされてしまい、「ああ、もう聞くことがなくなる」とドキドキしていた。
わかるわかる。ライターなら誰もが経験するあの焦燥感。
私はインタビュー中、できるだけよく笑う。たいていの人は、ちょっとした冗談や滑稽なエピソードを話の中に挟む。心から笑える面白いものならいいのだけれど、そうではないことのほうが多い。それでも、声をあげて笑う。幇間的ないやらしさのように聞こえるかもしれないが、これもまた気持ちよく話してもらうための演出だ。
これもあるある。無理に笑いすぎて、インタビューが終わるとドッと疲れたりするのだ。
また、業界裏話のたぐいもふんだんに盛りこまれていて、ライターならずとも面白く読めると思う。逆に言えば、永江はベテラン・ライターとしての技術とサービス精神を駆使して、読み物としても楽しめる書き方をしているのだ。
私がライターになった当時、こんないい入門書があればなあ。あんな失敗、こんな失敗をしないで済んだかもしれない。ま、失敗を通じてしか学べないこともあるから、いいのだけれど…。
ただ、首肯できない記述ももちろんある。「『徹子の部屋』はインタビューのお手本である」って、そうかあ? 私はむしろ、筑紫哲也が『ニュース23』でときどきやる文化人インタビュー(海外の映画監督とか)こそ、インタビューのお手本だと思う。
ついでに言えば、インタビュアーとして最低だと思うのは久米宏(笑)。「こんな大物を番組に呼んでおいて、よくまあくだらないことばかり聞きやがるなあ」と、いつも思う。「能弁であること」と「インタビューがうまいこと」はけっしてイコールではないのだ。
ともあれ、ライターおよびその卵は必読の1冊である。
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