『トリプルX』



 働きづめで頭が疲れているので、頭からっぽにして楽しめる映画を観ようと思った。『バイオハザード』にしようか『トリプルX』にしようか迷ったすえ、公開されたばかりの『トリプルX』を観ることにした。
 …と、このセレクトが大正解。思惑どおり、ド派手なアクションとちりばめられたギャグ、単純明快なストーリーで、料金分はきっちり楽しませてくれる上出来の娯楽作であった。

 これは、一言でいえば007シリーズなどのスパイ・アクションのパロディ。
 007のパロディといえば、古くは『カジノ・ロワイヤル』、近年では『ティーン・エージェント』などがあるし、「おバカ映画」の金字塔『オースティン・パワーズ』シリーズもその1つに数えられるであろう。それらの作品がパロディであることを前面に出しているのに対し、この『トリプルX』は、パロディであると同時に半ば本気で「新しいヒーロー像」を作り出そうとしている印象。その点がほかの007パロディとは一線を画する。

 旧ソ連軍の残党が作ったチェコのテロ組織「アナーキー99」がひそかに計画する、バイオ兵器によるジェノサイド。それを未然に防ぐため、NSA(米国家安全保障局)がシークレット・エージェントをプラハに派遣する。だが、プロのエージェントはことごとくテロ組織に殺される。そこで、「毒蛇を殺すには毒蛇を」と、犯罪を犯したアウトローたちの中から最もタフな者を選び出し、にわか仕立てのエージェントにして送り込むという計画が立てられる。「ミッションが成功すれば罪は帳消しにしてやる」という条件で――。
 こうした「毒蛇には毒蛇を」というパターンの話は、『ニューヨーク1997』『48時間』『ジャッカル』など、すでにたくさんある(かの『スケバン刑事』もそうだ)。が、「毒蛇」をシークレット・エージェントにするスパイ・アクションというのは新機軸だろう。
 
 かくして、スキンヘッド&全身タトゥーのマッチョという、異形のシークレット・エージェントが誕生した。「オレはシークレット・エージェントなんだ」と思いきってヒロインに告白すると、「あなたが? プッ!」と笑われてしまうような…。

 ピアース・ブロスナンのジェームズ・ボンドが初登場した『007/ゴールデンアイ』を観たとき、「007もただのハリウッド・アクションになっちゃったな」とガッカリしたものだが、この『トリプルX』は、むしろハリウッド・アクション路線を徹底することによって新しいスパイ映画を作ろうとした。なにしろ、主人公ザンダー(ヴィン・ディーゼル)がエージェントに選ばれるテストの場面からして、普通のアクション映画のクライマックス並みにド派手なのだ。
 その後も、大雪崩をスケートボードで乗り切ったり(笑)、高速で走る潜水艇に車から乗り移ったり(笑)という、痛快を通り越して爆笑もののアクションが展開される。

 ヒロインのアーシア・アルジェント(『サスペリア』などの監督、ダリオ・アルジェントの娘)も、ストーリーが進むにつれていい女に見えてくる。なんの教訓もない「ためにならない映画」だけれど、娯楽作品としては一級品。頭をからっぽにしたいときにオススメ。
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町山智浩『〈映画の見方〉がわかる本』


映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで (映画秘宝COLLECTION)映画の見方がわかる本―『2001年宇宙の旅』から『未知との遭遇』まで (映画秘宝COLLECTION)
(2002/08)
町山 智浩

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 久々に読みごたえのある映画評論に出合った。町山智浩の『〈映画の見方〉がわかる本』(洋泉社/1600円)。こんなに面白く読めた映画評論の本は、故・瀬戸川猛資の名著『夢想の研究』以来である。

 町山といえば、「別冊宝島」がいちばん面白かった時期に、オタク研究本の嚆矢『おたくの本』や、『裸の自衛隊!』『いまどきの神サマ』などの話題作を次々と生み出した、宝島社(当時はJICC出版局)の元・名物編集者。サブカルチャー・シーンの“伝説の人”である。筋金入りの映画マニアとして知られ、宝島社でも『地獄のハリウッド!』などの〈映画宝島〉シリーズを編集・執筆している。

 宝島社をやめてからはもっぱら映画評論家として活躍。柳下毅一郎とのコンビ「ファビュラス・バーカー・ボーイズ」名義での一連の仕事で知られる。ちなみに、売れっ子放送作家・町山広美の実兄でもある。

 この『〈映画の見方〉がわかる本』は、洋泉社の『映画秘宝』での連載をまとめたもの。タイトル(別冊宝島の『映画の見方が変わる本』のもじりだが)どおり、読者に「映画の正しい見方」を教えてくれる「目からウロコ」の内容となっている。

 というと、「ケッ! 映画に『正しい見方』なんかあってたまるかよ」と反発を感じる向きもあろう。だが、その映画の背景や隠された意図まで知っておかないと、作品の価値を正しく評価できないということは、たしかにあるのだ。
 この本は、1960~70年代の、誰もが知っている名作・大ヒット作ばかりを俎上に載せ、映画そのものだけからはわからない隠された意図や背景を徹底追究した本。「なるほど、あの映画のあの場面にはそんな意味があったのか!」と、最初から最後まで膝打ちまくりである。

 ただし、著者の手前勝手な深読みを読者に押しつけるような本ではない。監督へのインタビュー記事や原作小説などの関連資料をくまなく渉猟し、制作当時の社会背景や映画界の状況などを調べつくしたうえで、作品にこめられた意図をすこぶる論理的に解題していくものなのだ。その手際の鮮やかさは、評論というより知的エンターテインメントといった趣である。

 取り上げられた映画は12本。『2001年宇宙の旅』や『地獄の黙示録』など、その「難解さ」で論議を呼んだ作品があるかと思えば、一方では『ロッキー』や『ダーティハリー』などという単純明快な娯楽映画もある。

 そして、難解な作品については、複雑なパズルを解くように作品の意図を明快に読み解いてみせる。
 たとえば、第1章は丸ごと『2001年宇宙の旅』の解題に割かれているが、30ページに満たないこの章を読むと、スタンリー・キューブリックがあの映画で何を描こうとしたのかが、すっきりとわかってしまう。難解さを高尚さと取り違えて「よくわからないけど、スゴイ映画なんだろうな~」とあいまいに感動するのではなく、キューブリックの意図を理解したうえで感動できるようになるのだ。この第1章はとくに見事な出来なので、とりあえずここだけ立ち読みしてみるとよい。面白いと思えた人には、残る8章もすべて面白く読めるはずだ。

 『ロッキー』などの単純な娯楽作に一重深く立ち入って、“分析のメス”をふるう章も素晴らしい。
 町山は『ロッキー』を、「ブラック・パワーの時代」だった70年代前半の劣勢をはね返すべく、白人が黒人から「アメリカン・ヒーローの座を奪い返す」物語だと喝破する。だからこそ、ロッキーが戦う黒人チャンプ、アポロ・クリードは、ブラック・パワーの頂点に立ったモハメド・アリをモデルにしていたのだ、と…。

 また、この『ロッキー』と76年のアカデミー賞を争った傑作『タクシードライバー』も、じつは『ロッキー』同様の構造をもっているという。というのも、『タクシードライバー』は、シナリオ段階では「孤独で貧しい白人のタクシー運転手が、白人少女を囲う黒人のヒモを倒して英雄になる話」だったからだ。「つまり『タクシードライバー』と『ロッキー』は同じ話のネガとポジなのだ」と、町山は言う。
 『タクシードライバー』は私のフェイバリット・ムービーだけれど、そんな見方は思いつきもしなかった。このように、「目からウロコ」の分析がてんこ盛りの本なのだ。

 「目からウロコ」の記述を、「はじめに」からあと2つ拾ってみよう。

「たとえば『猿の惑星』。ご存知、人間を支配する猿は、猿そのものではありません。有色人種、特に黒人のことです。『人種の立場が逆転した世界』、それが『猿の惑星』のサブテキストです。それがわからないと、首に鎖をつながれたチャールトン・ヘストンの衝撃が理解できません」

「『タクシードライバー』は大統領候補を銃撃した青年の日記を大幅に脚色したものです。それがわからないと、ギャングを退治するヒーローの話にも見えてしまいます」

 日本の映画評論家の多くは、俳優の名前とか監督のフィルモグラフィーなどにはくわしくても、映画の背景を探るという町山のような努力をほとんどしていないように思う。だからこそ、「感性」に頼った感想文ばかりが量産される。情報と論理で映画を解題していく町山のスタンスは、じつに貴重である。それでいて、蓮實重彦のような難解さはなく、文体はポップで読みやすい。
 新世代の“批評エンターテインメント”だ。

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チャー『Sacred Hills』

Sacred Hills~聖なる丘~Sacred Hills~聖なる丘~
(2002/09/25)
Char

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 孤高の天才ギタリスト、チャー。その新作『Sacred Hills ~聖なる丘~』(ユニバーサル/3059円)は、デビュー25年を経て初めてのオール・インスト・アルバムである。私はチャーのヴォーカルもまあ嫌いではないが、やはりギターが聴きたくてアルバムを買っているわけだから、インスト・アルバムは大歓迎だ。

 チャーこそ「日本のジェフ・ベック」だと私は思っているし、チャー本人もつねにベックを意識してこれまでやってきたと思う。たとえば、ピンク・クラウドの前身であるジョニー、ルイス&チャーの名盤『OiRA』(私はこれがいちばん好き)のタイトルは、ジェフ・ベックの名盤『Ola(ベック・オラ)』をもじったものだろうし、そもそもジョニー、ルイス&チャーという名前からして、ベックが以前組んでいた名ロック・トリオ、ベック、ボガート&アピスのもじりなのだ。
 また、サイケデリックスの「アクア・シューズ」やピンクラの「1/2 who are you」など、チャーのバンドがたまにやるインスト・ナンバーには、ジェフ・ベックそっくりのものが少なくなかった。

 だが、最近のチャーのソロ・アルバムは、「歌もの」という感じのゆったりしたレイドバック風作品が多くて、ギター・ヒーローとしての彼を期待する私のようなファンには不満だった。「もっとギターをバリバリ弾きまくらんかい! バラードなんかやってんじゃねえ!」と言いたくなった。

 しかし、今度の新作はよい! 全編ギターの洪水。とくに、ハードなナンバーは『ワイアード』や『ゼア・アンド・バック』のころの(つまり、いちばんよかったころの)ジェフ・ベックを思わせるパーフェクトな出来だ。

 「Heavy Head Wind」「Strange Weather」「Hyper Lane」「Taylor Made Funk」と、ソリッドかつスペイシーなロック・チューンが4曲つづくシークェンスは圧巻。「日本のジェフ・ベック」の本領発揮だ。とりわけ、「Hyper Lane」で見せる華麗な速弾きのカッコよさといったら…!

 欲を言えば、この4曲のようなハード路線で全編押し通して欲しかった。スティーヴィー・ワンダーの「You And I」のカヴァーなど、バラードが何曲かあるのだが、これは(私にとっては)なくてもよかった。少し前、チャーがやったクリームの「クロスロード」のカヴァーがテレビCMで使われていて、そのカッコよさは背筋ゾクゾクものだった。どうせカヴァー曲を入れるなら「クロスロード」を入れればよかったのに…。

 ともあれ、最近のチャーのアルバムの中では出色の出来。ギター・キッズ諸君はお小遣いで買って100回は聴くように!

 P.S.「RIZE」って、チャーの息子とジョニー吉長の息子が組んだバンドなのね。最近知った。時代が一回りしたことを痛感します。
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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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