『KT』


KT 特別版 [DVD]KT 特別版 [DVD]
(2002/11/22)
佐藤浩市、キム・ガプス 他

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 1973年の金大中拉致事件に材をとった話題作『KT』を観てきた。
 期待をはるかに上回る出来。阪本順治監督にとっても、これまでのキャリアで最良の1作といえるのではないか。日本映画にほとんど例がないポリティカル・サスペンスに挑んで、重量級の作品に仕上げた手腕に拍手である。

 私も昨年金大中の伝記マンガの原作を手がけたので、その際に関連資料をかなり読みこんだが、拉致事件の真相については、細かいところはほとんど闇に包まれたままといってよい。この映画は、大胆な推理でその謎の解明に挑み、「歴史の空白」を埋めてみせる。主人公(佐藤浩市)の自衛官が拉致を手助けする、などというあたりは当然フィクションだが、大筋の真相はこの映画通りなのではないか。そう思わせるたしかなリアリティがある。

 細かいことを言えば、筒井道隆演ずる在日青年の家庭を描いた部分だけが妙にウエットで、やや浮いてしまっている。はっきり言えば、この部分はなくてもよい。が、全体の完成度はそうした小さな瑕疵を補って余りある。

 128分の長尺なのに、最初から最後までゆるみなく緊迫感が持続する。緻密に張られた伏線、二転三転する歯切れよい展開、そして胸に迫るいいセリフの数々で、衝撃のラストシーン(隣に座っていたおばちゃんは、最後の銃声に「ビクッ!」と飛びあがった)まで観客を惹きつけて離さない。

 脚本の荒井晴彦にとっても、久々に本領発揮の作品といえそうだ。てゆーか、私のイメージでは荒井はもっぱら“オトナの恋愛映画”の書き手であって、こういうスケールの大きいホンが書けるとは正直思わなかった。いや、お見それしました。

 荒井の脚本は、善と悪との単純な二分法を注意深く避け、どの立場の登場人物にも共感できるように仕上げられている。金大中を拉致し、殺そうとするKCIAの幹部すら魅力的だ。国際政治の暗部に翻弄され、運命を大きく変えられる男たち、そして女……ずしりと重い余韻を残す傑作サスペンスである。

 韓国産のポリティカル・サスペンス&アクション『シュリ』『JSA』は日本でもヒットしたが、この『KT』はその2作に対する我が国からの“アンサー・ムービー”とでもいうべきもの。じっさい、『シュリ』『JSA』に少しも引けを取らない出来だ。
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『HAPPY END PALADE』


HAPPY END PARADE~tribute to はっぴいえんど~HAPPY END PARADE~tribute to はっぴいえんど~
(2002/05/22)
オムニバス、Hiroko & Mother Ship Jam 他

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 自分は生まれる時代を少し間違えたのではないか? そんなふうに思うことがある。
 というのも、音楽にしろマンガにしろ映画にしろ、60年代末から70年代初頭にかけてのものが、自分の感性にいちばんしっくりくるからだ。なにせ、いまどき「いちばん好きなマンガ家は永島慎二」なのだから、我ながら時代からズレまくっている。生まれたのは64年なのに、70年代初頭あたりに青春を過ごしたような錯覚があるのだ。

 そんな私だから、“70年代初頭テイストの権化”ともいうべきはっぴいえんどの音楽は、当然大好きなのである。
 
 J-POPの第一線で活躍するアーティストが結集したはっぴいえんどの2枚組トリビュート・アルバム『HAPPY END PALADE』(スピードスター/3700円)を買ってきた。当然のことながら、はっぴいえんどに影響を受けたアーティストが多く参加しているわけで、つまりは私のお気に入りのアーティストがてんこ盛りなのである。

 原曲に忠実なアレンジの演奏が3分の2、解釈の面白さを狙った大胆なアレンジのものが残り3分の1といったところ。しかし、原曲に忠実なもののほうが総じて出来がよい。それだけ原曲の完成度が高いということであろう。

 はっぴいえんどの曲中、最も切ない「12月の雨の日」をスピッツがカヴァーしているのだが、これなど、ほぼ原曲そのままなのに、草野マサムネの高音ヴォーカルに背筋ゾクゾクもんである。

 また、私がいちばん好きな名曲「夏なんです」は、これも私のお気に入りであるキリンジがカヴァーしている。あ~、いいなあ。10代のころ、お気に入りの夏っぽい曲ばかり集めて“夏用オリジナル・テープ”を作ったものだが(ありがちですね)、この曲は必ず入れていたっけ。

 ほかにも、元サニーデイ・サービス(「はっぴいえんどの再来」と呼ばれていましたね)の曽我部恵一が歌う「空色のくれよん」、マイ・リトル・ラバーが歌う「風をあつめて」など、いいカヴァーがいっぱい。デザイン・ワークもやたらと凝っているし、A4オールカラー・ブックレットもオマケについているし、お買い得感のある上出来のトリビュート盤である。
 
 細野晴臣が選んだという新人・航空電子が「春よ来い」をカヴァーしているのだが、これだけはいただけなかった。筋肉少女帯みたいなアレンジで、原曲のブルースっぽいイメージが台無し。この1曲があるせいで、アルバムの統一感も台無し。細野さん、なんでこんなの選んだの?
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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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