『白線流し』と「ミート・キュート」

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長瀬智也 (2002/04/17)
ポニーキャニオン

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 昔のハリウッドでは、「ミート・キュート」という言葉がよく使われたそうだ。

 「ミート・キュート」――すなわち「キュートな出会い」。ヒーローとヒロインとの出会い方が「キュート」(この場合、「魅力的」というニュアンスか)であることが、映画や脚本のよし悪しを判断するうえで重要視されたのだ。

 私も、つづきもののテレビドラマを観つづけるか否かを、この「ミート・キュート」度で判断する。
 男女の恋愛が主に描かれる作品の場合、主人公とヒロインの出会い方が魅力的なドラマは、まず例外なく傑作である。逆もまた真で、出会い方が陳腐なドラマは観なくてもオーケイ。

 たとえば、北川悦吏子脚本のドラマのうち、『ビューティフルライフ』は傑作で『ラブストーリー』は駄作であると、私は思っている。
 『ビューティフルライフ』では、車椅子のヒロインは赤いスポーツカーを駈って主人公と出会う。すなわち、出会いの段階では、主人公はヒロインが身障者であることに気づかない。そうした出会い方をさせることで、北川悦吏子は「身障者を主人公にした従来のお涙ちょうだいドラマとはちがうのよ」というメッセージを、視聴者に伝えている。これは、なかなかの「ミート・キュート」。

 いっぽう、『ラブストーリー』はどうであったかといえば、編集者が新しく担当を命じられた小説家と恋に落ちるという、なんともありきたりなもの。出会いがキュートじゃない。
 だって、物書きと担当編集者の恋なんて、「手近なところでくっつきました」という感じで、意外性も新鮮味もないではないか。
 案の定、『ラブストーリー』は『ビューティフルライフ』に比べればずっと出来の悪いドラマであった。

 薬師丸ひろ子が主演したドラマ『恋愛中毒』は、売れっ子小説家とその愛読者の恋物語であった。
 これも、ありきたりといえばありきたり。しかしこのドラマは、ヒロインの設定(夫の愛人へのストーカー行為で前科があるバツイチ)と2人の出会い方にひねりをくわえることで、ありきたりでないドラマに仕上がっていた。

 2人の出会いは、ヒロインが働いている弁当屋にその小説家が偶然弁当を買いにくるというもの。原作の山本文緒の小説でもそうなっている。
 山本は、「平凡な女性が、かねてから憧れていた小説家と出会い、恋に落ちる」という“夢物語”にリアリティを与えるべく、出会い方をわざと日常的にしてバランスをとってみせたのだ。周到な計算が素晴らしい。その意味ではこれもまた「ミート・キュート」。

 前置きが長くなった。
 私が、近年のテレビドラマで最高の「ミート・キュート」だと思ったのは、『白線流し』のそれだ。フジテレビが「第2の『北の国から』」にすべく企画したというこの青春ドラマは、なにより、主人公とヒロインの出会い方が素晴らしかった。
 2人は同じ高校の全日制と夜間部に通っており、偶然同じ机を使っている。そして、2人とも天文マニア。主人公が机に落書きしたオリオン座の配列にヒロインが気づき、それが2人を結びつける鍵になるのだ。

 なんというロマンティックな出会い!
 こんなに気の利いた出会い方は、滅多に思いつくものではない。テレビドラマ史上に残る「ミート・キュート」であったと思う。

 『白線流し』の脚本家の1人・信本敬子は、私が高く買っている書き手である。映画『ナースコール』(これもよかった。ちなみに信本敬子は元ナースだとか)の脚本で注目され、大人も楽しめるスタイリッシュなSFアニメ『カウボーイ・ビバップ』のストーリー構成で評価を決定づけた。
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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