最相葉月『青いバラ』

 
青いバラ青いバラ
(2001/04)
最相 葉月

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 最相葉月著『青いバラ』(小学館)読了。

 ベストセラー『絶対音感』で絶賛を浴びた俊英が、バイオテクノロジーの世界に挑んだ意欲作である。

 青いバラ――Blue Roseは、英語で「不可能」を意味する。この世に存在しない青いバラを作ろうと、過去数百年もの間、多くの園芸家や科学者らが挑み、果たせなかったことから生まれたニュアンスである。
 しかし近年、遺伝子操作によって青いバラが生み出される可能性が出てきた。本書は、その夢の花をめぐる物語。「立花隆の再来」とも評される最相葉月らしいテーマだが、たんなる科学ノンフィクションには終わっていない。

 著者はまず、ギリシア・ローマ神話からデヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』に至るまで、青いバラをめぐるイメージの系譜をたどる。そして、バラ作りをめぐる苦闘の歴史をさかのぼり、そのうえで、いままさに青いバラを生み出そうとしているバイオテクノロジーの最新事情を活写するのだ。

 つまり本書は、科学ノンフィクションであると同時にロマンティックな「バラの文化史」でもあり、世界的ヒットが約束された商品として青いバラに取り組む企業群の戦いを描いたビジネス・ノンフィクションでもある。
 さらには、全体の「狂言回し」として章ごとに登場する、日本が世界に誇るバラ育種家・鈴木省三の生涯をたどった、印象深い評伝でもある。重層的な魅力をそなえた作品だ。

 ただ、非の打ちどころのない傑作であった『絶対音感』と比較すると、いささか見劣りすることは否めない。『絶対音感』よりも長い作品だが、読みながらその長さが冗長に思えて仕方なかった。

 たとえば、日本に西洋のバラが定着するまでの経緯にかなりの紙数を割いているが、バラの専門書ではないのだから、ここまで詳述する必然性はないはず。そのくだりは読んでいて苦痛だった。

 逆に、「ミスター・ローズ」と呼ばれた鈴木省三の人物像はすこぶる魅力的で、鈴木が登場してくる場面がいちばんいきいきとしている。無理に「青いバラ」をテーマにせず、鈴木を主人公にしたシンプルな人物ノンフィクションとして執筆したほうが、よほどよい作品になったのではないか。

 もちろん、あの最相葉月が3年を費やした労作なので、標準レベルのノンフィクションよりはずっと出来がよいのだが……。
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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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