諸星大二郎『未来歳時記 バイオの黙示録』 |
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2008-07-23 Wed 11:14
諸星大二郎の新作『未来歳時記 バイオの黙示録』(集英社/840円)を読んだ。 諸星にとっては久々のSF。それも、手塚賞受賞の出世作「生物都市」(1974年)を彷彿とさせる、いかにも諸星らしい連作短編集である。 核戦争後の荒廃した世界を舞台にするのはSFの定番だけれど、この連作は核ならぬ「バイオ戦争」後の世界を舞台にしている。 半世紀前の「バイオ戦争」に際して、無差別に行なわれた遺伝子実験。それが自然界に深刻な影響を与え、あらゆる遺伝子が入り混じってしまった世界――。 動植物にヒトの遺伝子が入り込み、人間の顔をした鳥や雑草(!)が闊歩する。一方では、体内に動植物の遺伝子が入り込んでしまった「バイオ被害者」とその子孫たちが、半人半獣の異形をさらし、「荒れ地」と呼ばれる汚染地域に暮らしている……。そんな悪夢のような世界を舞台にした、奇想あふれる短編集である。 あの「生物都市」は、人々が機械や無機物と溶けて融合し、都市自体が一つの生命体と化してしまう世界を描いていた。それはディストピアではあるが、同時に、人類史上初めて戦争も飢餓も労働もない世界が実現したユートピアでもあった。 同様に、この『バイオ黙示録』で描かれるのも、悪夢の世界であると同時に、極限まで進んだ遺伝子操作によって思いのままの動植物が作れる夢の世界でもある。 ディストピアと背中合わせのユートピア。目くるめくような極彩色の悪夢――諸星大二郎にしか描けない世界が堪能できる傑作だ。 |
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小玉ユキ『Beautiful Sunset』 |
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2008-06-20 Fri 11:09
丸山健二の最新長編『日と月と刀』(文藝春秋)を、上巻の半分くらい読んで挫折。 「室町時代を舞台にした著者初の歴史小説」と聞いて興味を抱き、「久々に丸山作品を読んでみようか」と思ったのだが、やっぱりダメだ。私にとって、丸山はもう遠くへ行ってしまった。『千日の瑠璃』以前のドライな文体が懐かしい。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 小玉ユキの『Beautiful Sunset』(フラワーコミックス)を読んだ。先日読んだ『マンゴーの涙』につづく、初期短編集の第2弾である。 カバー絵が素晴らしい。書店でじっくり手にとって見てほしいのだが、イラスト作品として完成されている。小玉ユキは、「空気感」まで絵の中に表現できる稀有な描き手だと思う。 幻のデビュー作「柘榴(ざくろ)」も含む本書は、『マンゴーの涙』よりもさらに古い最初期の作品を集めている。 だが、意外なことに、『マンゴーの涙』よりもこちらのほうが粒揃いな印象。 表題作の「Beautiful Sunset」は、女子中学生が教師に寄せる淡い思慕を描いた中編。 ありきたりこのうえない題材ではあるが、これがなかなかのものだった。随所に非凡な描写やセリフがあって、誰の真似でもない「小玉ユキらしさ」の片鱗がすでに見えるのだ。 |
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小玉ユキ『マンゴーの涙』 |
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2008-05-04 Sun 05:21
小玉ユキの『マンゴーの涙』(小学館フラワーコミックス)を読む。 小玉ユキのマンガ家デビューは2000年だが、昨年刊行された『光の海』が初のコミックスである。これは、その間の数年間に描きためられた未単行本化の作品を集めた初期短編集の第1弾。 「習作」としか言いようのない作品がほとんどだが、それでも「原石の輝き」は十分感じられる。 たとえば、2002年発表の「ROVER」は、「奔放な同級生に憧れる真面目な女の子」というありがちな「女の友情」ものだが、展開のさせ方が非凡だ。主人公が憧れていた同級生は、数年後、街をさまようヤング・ホームレスになっていた(!)というところから物語が始まるのである。 表題作の「マンゴーの涙」は、ベトナムの少女を主人公にした淡い恋物語。2005年発表だから、『光の海』所収の「人魚シリーズ」の前年に描かれたものということになる。 このころになるとすでに絵柄は完成されているが、ストーリーは「人魚シリーズ」に比べると格段に拙い。かりにこの作品が最初のコミックスになっていたとしたら、小玉ユキというマンガ家の印象はもっともっと薄かったに違いない。 逆にいえば、小玉ユキは「人魚シリーズ」5編を描く過程で急激に成長したのだろう。あたかも、彼女の中で何かが覚醒するように。 あらゆる分野の表現者には、一生に一度だけそういう時期が訪れるのだと思う。樋口一葉が後世に残る名作群を一気に書き上げた「奇跡の14ヶ月」のように、“さなぎが蝶に孵る”時期が……。 |
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中村光『聖☆おにいさん』 |
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2008-05-03 Sat 20:05
吉祥寺拓也さんのオススメを受けて、中村光の『聖(セイント)☆おにいさん』の1巻を買ってきた。 ウィキペディアを見たらこの作品の項目がすでに立てられており(→こちら)、その説明文を読んだだけで「これは絶対面白いに違いない!」とあわてて書店に向かったのである。 なにしろ、「ブッダとイエスが、下界のバカンスを満喫しようと、東京都立川のアパートの一室で暮らす、という設定で描かれる日常コメディ」(ウィキペディア)である。このぶっ飛んだ設定だけで、すでに面白さは約束されたようなものだ。で、読んでみたら期待に違わぬ面白さであった。 この作品でブッダ(釈尊)とイエスがどのように描かれるかというと、たとえば――。 マンガ喫茶で手塚治虫の『ブッダ』を読んで感涙するブッダ、女子高生に「超ジョニー・デップに似てる」と言われてうれしがるイエス、「なんで芸術家の皆さんってたいてい、私の一番太ってた状態を選ぶのかなあ!」と仏像に不満をもらすブッダ、ひそかにミクシィでブログを開いているイエス(マイミクにユダがいる)……。うーむ、シュールでしみじみおかしい。 隅々まで細かいくすぐりが仕掛けられており、ブッダとイエスの生涯についてひととおりの知識がないと意味がわからないギャグが、全体の3分の1くらいある。 とはいえ、コメディだから、さほど高度な素養が必要なわけではない。それこそ手塚の『ブッダ』とか、キリストの生涯を描いた映画の1本でもあらかじめ予習しておけば、十分楽しめる。 ただ、立川市民の一人として言わせてもらえば、立川カラーがほとんど活かされていないのはちょっと残念。単行本カバーに明記されていなければ、誰も立川が舞台だとは気づかないと思う(てゆーか、じつはこの作者は立川のことをよく知らないのではないか? そんな印象を受けた。ま、どーでもいいことだけど)。 P.S. 作者の中村光が別のマンガ誌に連載中の『荒川アンダー ザ ブリッジ』のコミックスも立ち読みしてみた。こちらもなかなか面白い。 『荒川アンダー ザ ブリッジ』1巻のカバーに作者近影が載っていたのだが、わりと美人。「うーむ、美人のくせにこんなマンガを描いておるのか」と思うと、なおさら面白い。 |
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小玉ユキ『坂道のアポロン』 |
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2008-05-02 Fri 13:15
コミックスをあれこれ買ってくる。『カラスヤサトシ』の3巻とか『ディアスポリス』(どんどんつまらなくなってきたが、惰性で読みつづけている)の9巻とか。 いまいちばん気に入っているマンガ家・小玉ユキの初長編『坂道のアポロン』(『月刊フラワーズ』連載中)の1巻が出ていたので、購入。 前作『羽衣ミシン』の帯には吉田秋生が推薦の辞を寄せていたが、この1巻の帯には直木賞作家・三浦しをんの推薦の辞が……。 小玉ユキは吉田秋生の後を継ぐ才能だと私は思うのだが、本作には吉田からの影響がこれまでで最もストレートにあらわれている。吉田の『河よりも長くゆるやかに』や『ラヴァーズ・キス』が好きな人なら、絶対にハマる作品。 1960年代中盤の長崎(=小玉の出身地)を舞台に、横須賀から転校してきた高1の「メガネ男子」を主人公にした、直球ど真ん中の青春マンガである。 音楽が重要な役割を果たす物語なのだが、その音楽がビートルズとかではなくジャズであるあたり、いかにも小玉ユキらしいセンス(ただし、主人公のクラスメートがビートルズの『HELP』のLPを持っている場面が、さりげなく挿入されている)。 いやー、じつによい。小玉ユキは、1980年代少女マンガの最良の部分を受け継いでいると思う。 |
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沙村広明『ブラッドハーレーの馬車』 |
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2008-04-05 Sat 22:09
沙村広明の『ブラッドハーレーの馬車』(太田出版/700円)を読んだ。 『無限の住人』の沙村が、『マンガ・エロティクスF』に連載していた話題作。 舞台は、英国をモデルにしたとおぼしき架空の国。時代は、おそらく20世紀初頭。 国内第4位の資産家で貴族院議員でもあったブラッドハーレー公爵は、「ブラッドハーレー聖公女歌劇団」を経営していた。その劇団では、毎年4人程度が新人女優として舞台に立つ。彼女たちは元孤児。全国の孤児院から選り抜かれた美少女が、ブラッドハーレー家の養女に迎えられ、女優として育てられるのだった。 孤児院の少女たちはみな、ブラッドハーレー家の養女に選ばれ、馬車で迎えにこられることを夢見た。 だが、ブラッドハーレー家にもらわれていく孤児たちは、舞台に立つ新人よりもはるかに多かった。舞台に上れなかった少女たちには、過酷な運命が待ちかまえていたのだった……。 あとがきには次のようにある。
『赤毛のアン』の世界を丸ごと暗転させ、暴力とエロスで塗りつぶしたような危険な作品。 読み手を厳しく選ぶし、「これ、好きだよ」と声高に言いにくいマンガでもある。だが、作画のクオリティーは恐るべき高さだし、ストーリーにも煽情的なだけではない深みがある。全体の主調をなしているのはむしろ哀切さだ。 何がしたかったのかわからなくなった、というあとがきの言葉を真に受けてはならない。絶対にそんなはずはない、考え抜かれた構成をもつ作品なのである。 ストレートな残酷描写は1話と2話のみにとどめ、残りの6話は残酷な運命を暗示するのみ、という構成が心にくい。また、残酷とはいっても、山本英夫の『殺し屋1』などに比べればはるかに抑制が効いた描き方である。 三島由紀夫が深沢七郎の『楢山節考』を評した言葉を借りれば、「不快な傑作」。 澁澤龍彦がいま生きていてこのマンガを読んだとしたら、絶賛したに違いない。そう思わせる凄絶な美しさを、この作品はそなえている。 |
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丸尾末広『パノラマ島綺譚』 |
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2008-03-11 Tue 18:20
丸尾末広著『パノラマ島綺譚』(エンターブレイン/980円)を購入。 江戸川乱歩の代表作を、妖美な絵を描かせたら天下一品の丸尾末広が完全劇画化した話題作である。 マッチングの妙で、イマジネーションに富んだ素晴らしい作品に仕上がっている。なにしろ丸尾自身がもともと乱歩に強い影響を受けている人だから、ノリにノって描いている印象なのだ。 時代背景となる大正末期から昭和初期の雰囲気が濃厚に再現されているし、目玉となる「パノラマ島」の描写も圧巻。何度も読み直して「絵」として愉しめそうだ。 丸尾のクレジットが「脚色・作画」となっているとおり、原作にかなりアレンジが加えられているのだが、そのアレンジもうまくいっている。 丸尾本来のエログロ風味は、完全オリジナルの作品に比べてやや抑え気味。 いや、この作品も十分エロティックかつグロテスクではあるのだが、エログロというよりは耽美的・幻想的、そして思いっきりレトロ。 カラーは巻頭4ページのみだが、全ページをカラーにしたらもっとすごい作品になっただろう。海外向けにオールカラー版を作ってもよいかも。 |
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