鈴木智彦『全員死刑』



 鈴木智彦著『全員死刑――大牟田4人殺害事件「死刑囚」獄中手記』(小学館文庫/540円)を読了。

 2004年に起きた「大牟田4人殺害事件」を、主犯の次男による獄中手記と、それを補完する鈴木の取材原稿を交互に入れる形でまとめた事件ノンフィクション。

 元本はコアマガジンから2010年に出た単行本『我が一家全員死刑』で、昨年、小林勇貴監督による映画化がなされたことから文庫化されたもの。



 私は単行本が出た段階で一度手を伸ばしてみたものの、「なんか読みにくい本だなァ」と思って途中で投げ出した。
 映画版が面白かったので文庫で再挑戦してみたところ、こんどはスラスラ読めた。映画を観て事件の流れが頭に入っていたせいか、あるいは文庫化に際しての加筆修正で構成が大幅に改善されたのか。

 映画を観たあとに読んでみると、あの恐ろしい映画が大枠で事実そのままであったことがわかり、慄然となる。
 もちろん、映画化に際しての潤色はあるが(最初に殺される被害者をユーチューバーという設定にしたり)、「この部分は絶対に後から作ってるでしょ」という場面が意外に事実どおりであったりするのだ。

 暴力団組長を父親とする一家4人(ほかに母・長男・次男)が、全員で知り合いの家族3人を金銭目的で殺し、無関係な友人1人も巻き添えで殺してしまった、凶悪無比な事件。一家4人全員の死刑が、すでに確定している。

 本書の過半を占めるのが、殺害の実行犯となった次男・北村孝紘による獄中手記である。
 その内容は事件に対する一片の反省も見られず、自分に酔った感じの鼻持ちならないもの。ただ、意外にも文章が読ませる。語彙の貧弱さはあるものの、かなり読みやすいのだ。

 実際の孝紘は、映画『全員死刑』に主演した間宮祥太朗のような細身の美青年ではない。元力士でもあるという、見るからに凶悪そうな巨漢である。

 映画版『全員死刑』は、残忍な殺人事件を乾いたユーモアに包んで描き出し、殺人の場面でつい笑ってしまうような不謹慎極まる作品(でも傑作)であった。
 この本を読むと、そうしたテイストはすでに原作にあったものだとわかる。随所にそこはかとない滑稽味が漂っているのだ。

 一家総出で無計画な強盗殺人を遂行する恐るべき家族でありながら、この4人には強い「家族の絆」があり、そのギャップが滑稽さを醸し出す。次に引く一節は、本書の不思議な味わいを象徴している。

 殺害に向けて協力し合う家族の様子は、まるで安物のメロドラマだった。四人が四人とも狭い視野しか持っていない。
 母も父も、「子を持つ親の気持ち」を思いやる心など持っていなかった。が、皮肉にもこの両親に育てられた兄弟は、ひどく親孝行にも見える。これが殺人でなければ、実に心温まる光景だろう。



 「傑作ノンフィクション」とは言えないが、捨てがたい魅力を放つ「奇書」。

石原慎太郎『凶獣』



 石原慎太郎著『凶獣』(幻冬舎/1620円)を読了。

 附属池田小事件の犯人・宅間守の生涯と、事件そのものを題材にしたノンフィクションである。
 とはいえ、一部の章には石原の創作が混ざっており(そのことは章頭に明記)、ノンフィクションとしてなんとも中途半端な出来だ。

 本自体も200ページ程度と薄く、内容も薄く、1時間足らずで読めてしまう。

 宅間守にくり返し接見した臨床心理士・長谷川博一と、国選弁護人として宅間の弁護にあたった戸谷(とだに)茂樹弁護士に、石原がそれぞれインタビューしている。
 だが、各一章を割いて紹介される2つのインタビューの内容は、たんに文字起こしをそのまま掲載しただけというひどい代物で、作品と呼ぶに値しない。

 この本自体も、事件記録などを引き写したような部分が目立ち、独自の鋭い考察があるわけでもない。年老いた石原慎太郎には、もうまともな作品が書けないのかもしれない。

 私は、宅間守と獄中結婚した女性のことが知りたくて、本書を読んだ。
 事件について謝罪も反省も述べないまま死に、人に感謝することすら皆無に近かった宅間が、この女性に対してだけ、死刑執行直前に刑務官を通じて「ありがとう」と伝言したという。

 本書によれば、彼女は死刑廃止運動にかかわるクリスチャンで、宅間の魂を救いたいとの思いから、ある人の養子になってまで(実の両親に取材攻勢などの迷惑をかけないため)獄中結婚をしたという。
 そして、宅間に邪険にされても拘置所に通いつづけ、最後には「凶獣」の心を開かせたのだ。

 そうしたことを知ることができただけでも、本書を読んだ価値はあった。
 また、作品としての質の低さはともかく、長谷川博一と戸谷茂樹弁護士に対するインタビュー自体は、衝撃的な事実を多く含み、読み応えがある。

 ただし、石原はインタビューの中で、女性の獄中結婚について、「あの女性の心情は売名なのですか?」などと失礼なことをくり返し聞いている。これまたひどいものである(長谷川も戸谷も、石原のその問いを言下に否定)。
 文学者なら、利害や自己顕示欲などを超えた宗教的使命感について、少しは想像できないものか。

■関連エントリ→ 長谷川博一『殺人者はいかに誕生したか』

八木澤高明『日本殺人巡礼』



 八木澤高明著『日本殺人巡礼』(亜紀書房/1836円)読了。

 著者は元『FRIDAY』の専属カメラマンで、現在は写真家・ノンフィクション作家。
 前に、この人の『娼婦たちから見た日本』という著書を読んだことがある。これはとてもよい本だった。

 本書は、亜紀書房のウェブマガジン「あき地」に連載された「殺人風土記 」に、加筆・改稿を加えたもの。元のウェブ連載はいまも読むことができる。

 過去の有名殺人事件の現場や犯人の故郷などを著者が旅して、当時を知る人、犯人の幼馴染みなどの話を聞いていく内容だ。
 つまり、犯罪ルポというよりも、“ルポ色も加味された事件紀行”という趣。

 部分的には面白いのだが、“犯人が生まれ育ったこの地域の風土が、犯罪の背景にある”みたいな決めつけが多くて、その点に違和感を感じた。

 たとえば第2章「北関東犯罪黙示録」では、埼玉愛犬家連続殺人事件や本庄保険金殺人事件などを、北関東で起きた事件として一括りにしている。写真週刊誌のカメラマン時代、現場に通った事件のうち、「記憶に残る事件の多くが、どういうわけか北関東に集中していた」のだそうである。

 そして、各章では犯人が生まれ育った地域の歴史が前近代まで遡って辿られ、その部分は歴史随筆のよう。
 犯罪と犯人が生まれ育った風土は、もちろん、まったく無関係ではないだろう。が、著者は両者を恣意的に結びつけすぎだと思う。中沢新一のオカルト本『アースダイバー』のような胡散臭さを感じてしまう。

 そのへんは感心しなかったが、本書にはよい点もある。
 たとえば、古いものでは80年前の事件(「津山三十二人殺し」)もあるなど、昔の事件が多いのに、犯人を知る人を探し当てて取材する著者の根気と勘のよさには感服した。

 また、著者は『娼婦たちから見た日本』においても、娼婦たちを「上から目線」で見ることなく寄り添う描き方をしていたが、そうした姿勢は本書にも通底している。

 私は殺人者を上から断罪するつもりで旅をはじめたわけではなく、もとよりその資格もない。
 なんで彼らが人を殺めたのか、その理由が知りたかった。(「はじめに」)



 それと、第4章「北海道に渡ったネパール人」だけは、他の章とは異質な本格的犯罪ルポになっている。
 日本人と結婚したネパール人男性が妻と幼子を殺した2008年の事件を扱ったもので、衝撃的な内容だ。この犯人のネパール人については、他の章に出てくる永山則夫や小原保などとは違って、一片の同情の余地もない。

 著者はネパール人女性と結婚していた時期があり、ネパールにも長く暮らした人物。被害女性の親友とも個人的に親しいことから、この事件を深く取材したのだという。
 そのような著者にしか書き得ない厚みのあるルポで、本書の中でこの4章のみは独立した価値を持っている。

小野一光『殺人犯との対話』



 昨日は赤坂のTBSで、アナウンサーの佐藤渚さんを取材。「東日本大震災から丸5年」の関連取材である(佐藤さんは仙台出身)。きれいで聡明なお嬢さんで、好印象。


 行き帰りの電車で、小野一光著『殺人犯との対話』(文藝春秋/1566円)を読了。
 
 『週刊文春』に連載された犯罪ノンフィクション・シリーズ。21世紀になってから日本で起きた主だった殺人事件について、著者の取材をまとめたダイジェスト集のような内容だ。取り上げられたのは、下記の10ケース。

CASE 1 北村孝紘 【大牟田連続4人殺人事件】
CASE 2 松永太 【北九州監禁連続殺人事件】
CASE 3 畠山鈴香 【秋田児童連続殺人事件】
CASE 4 鈴木泰徳 【福岡3女性連続強盗殺人事件】
CASE 5 宇野ひとみ【高槻養子縁組保険金殺人事件】
CASE 6 下村早苗 【大阪2児虐待死事件】
CASE 7 山地悠紀夫【大阪姉妹殺人事件】
CASE 8 魏巍 【福岡一家4人殺人事件】
CASE 9 高橋裕子 【中州スナックママ連続保険金殺人事件】
CASE 10 角田美代子【尼崎連続変死事件】



 このうち、殺人犯当人と著者が対話を重ねたのは3つだけ(北村孝紘・松永太・ 魏巍)である。
 ほかは、「面会を申し込んだが、拒否された」などというケースばかり。なので、『殺人犯との対話』というタイトルにはいささか羊頭狗肉の感がある。殺人犯に近い当事者への取材は重ねているので、「タイトル詐欺」とまでは言わないが……。

 以前当ブログで取り上げた長谷川博一の『殺人者はいかに誕生したか――「十大凶悪事件」を獄中対話で読み解く』や、ジャーナリスト・清水潔が自らの事件取材を振り返った『騙されてたまるか』の類書といえる。
 だが本書は、臨床心理士である長谷川に比べると犯人の心理の掘り下げが浅いし、清水潔と比べると“真実に食らいついていく迫力”で劣っている。

 とはいえ、取材は丹念だし、読み応えのある犯罪ノンフィクションには違いない。

 10のケースのうち、松永太、角田美代子、宇野ひとみあたりは明らかにサイコパスで、「どう見ても救いようがない」という印象を受ける。
 しかし、それ以外のケースでは、「この犯人が人生のどこかでもう少し真摯に向き合ってくれる人に出会っていたら、事件は起こらなかったのではないか」と思った。

 「福岡一家4人殺人事件」の犯人・魏巍が獄中から中国の両親に送った手紙には、ただ一文字「悔」の字が大書されていたという。そのような、印象的なエピソードも多い。

■関連エントリ→ トニー・パーカー『殺人者たちの午後』

清水潔『騙されてたまるか』



 「VIEW Suica」カードのICチップがイカれてしまったらしく、改札でタッチしても反応しなくなってしまった。
 で、「ビューカードセンター」というところに電話して、新しいカードを送ってもらうことに。

 駅でいちいち切符を買わなければいけないことが、すっごくメンドくさい。昔はあたりまえにしていたことなのだが……。


 清水潔著『騙されてたまるか――調査報道の裏側』(新潮新書/842円)読了。

 一昨年の力作『殺人犯はここにいる』で読者の度肝を抜いた日本テレビ報道局記者が、これまでかかわった調査報道から生まれたエピソードを綴った本。「記者人生の集大成」(本の惹句)であり、「ベスト・オブ清水潔」ともいうべき一冊だ。

■関連エントリ→ 清水潔『殺人犯はそこにいる』

 『殺人犯はここにいる』で追った「足利事件」(菅家利和さんの冤罪事件)や、著者のもう一つの代表作『桶川ストーカー殺人事件 遺言』の舞台裏についても、それぞれ一章を割いて紹介している。
 ほかにも、故郷のブラジルに逃げた強盗殺人犯を現地まで追いつめていく話など、どの章のエピソードも執念の追跡ぶりがすさまじい。真実を追い求めるためにここまで徹底的に取材するジャーナリストが、ほかにいるだろうか。著者の記者魂やよし。

 エピソード集として読んでもバツグンに面白いし、体験的・実践的ジャーナリズム論としても読みごたえがある。

 最終章の「命さえ奪った発表報道――太平洋戦争」だけはやや異質で、戦時中の「大本営発表」に翻弄された一組の男女(婚約者が特攻隊員となり、結婚を目前にして戦死する)の悲恋を追ったもの。
 これは元々ドキュメンタリー番組のための取材だが、のちにテレビドラマ化・マンガ化もされたという。それもうなずけるドラマティックな話で、涙なしに読めない。


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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。54歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴31年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

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